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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
終章 青薔薇編
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必勝祈願

 準備期間の一週間なんて瞬く間に過ぎてしまうらしい……


「我が弟子よ……お前は強くなった……もう、引き留めはせぬ。どこへでも旅立つが良い」


 決闘前日、最終日の修行を終えて、私はセラフィに師匠っぽい心境でそう告げる。

 気分は高揚して、心地良い。やり切った感すらあった……


「お前は何を言っているんだ……っていうか、いいかげんコレを外してくれないか?」


 一進一退の攻防で着けたり外したりしてたはずだが……まだ縄に不満らしい。


「もはやそれはお前の一部。その拘束具は、お前が真の力を解放したとき、いずれ外れたり外れなかったり、したりしなかったりするかもしれん……」

「お前は大丈夫か!?」


 実を言うと、最後の修行で張り切ってしまったせいなのか、新グレイプニルが強固になってしまった……

 とんでもなく頑強になってしまった……


 非常に言いづらいが……もう、私では外せないかも?


「ええと、ある意味、完成してしまったと言いますか……」

「おい、まさか……」

「切れないものを切れって言われましても……がっちりハマっちゃった。てへ」


 テヘペロで誤魔化してみる……

 だが効果はなく、驚愕し怒りに震える天使。


「なんだと!?」

「でも、おかしいな……いつもだったら、外せるのに……もしかして、アイリーンの料理で太ったとか?」

「うぐっ……!! 仕方ないだろう? 我ら天使は、まだこちらに慣れていないのだ!」


 やっぱりか……


「仕方ない。オイルマッサージだな……」

「は!?」

「滑りを良くして、外すんだ。血行が改善されて、汗や老廃物とか出て、少し痩せる可能性もある」

「本当か!?」


 希望に目が輝く天使長……解放されるより、むしろ痩せるという方に反応したのか?



 ともかく私とアイリーンは施術の準備を進める……

 天使の外套を脱がせる。マットを敷いて、その上に寝かせ、状態を見る。

 私たちで買ってきた白の衣服に縄が食い込んで、やはり外せそうにない。


「状況は深刻ですね……」

「うむ。困った……先に服を切るしかないか?」


 アイリーンと観察し、方針を決めようとするが……

 不安に怯える天使は、意外にもそれについては異を唱えた。


「ええ!? やだ。この服、結構気に入ってるんだ!」

「この期に及んで、可愛い反応をするな!」


 気に入ってくれたのは嬉しいけど……天使は可愛いと言われて、なんかモジモジしてる。


「だから可愛い反応するなと……いや、確かに切る方が大変か……薄着だし、なんとかなるかな……ではこのまま始めよう」


 考えを改め、桶に油を用意してアイリーンと共にそれを手で掬う。

 二人で迫ると、天使はあからさまに怯えて。


「え? なんで二人で?」

「新グレイプニルを甘く見るな! 鬱血すると大変なことになるぞ!」


 問答無用だ。しばらく耐えてもらうしかない。


「ええっ!?」


 脅すようになってしまって、さらに怯えてしまったが……

 ちょっと太ったせいで、ガッチリハマってしまったのだ!

 だから容赦はできん!!


「アイリーン、すぐに施術を始めよう……」

「はい。先生……」


 真剣な私に、アイリーンが乗ってくれる。

 これでも真面目だ。冒険者などは、ダンジョンなどでその場に医者がいるとは限らないのだから。

 むしろ居ない場合がほとんどだ。

 だから代役として、魔導士などがそれに当たることも多い。


 私たち二人の掌から油が垂れて、天使の白い肌を濡らす……


「やめりょオオオオ!!」


 耐え切れなくなった天使の絶叫が森にこだました……




 一方で私たちは真剣だ。自分たちにかからないようにしながら、継続して手を動かす。


「ムッチムチだな……」

「これは重症ですね……」


 状況を観察しながら、アイリーンと共に調理用の植物性油を塗り込む。

 肉と縄の間に滑り込ませるように丹念に……天使の服はすでに油まみれだ……

 服の部分はまだ良い、服のおかげで少し緩和されているから。問題は素肌に縄が食い込んでる部分だ。

 そこを重点的に攻める! アイリーンと共に。


「あぐっ……!? うう、酷い……」

「天使長、変な声出すな……卑猥なのはアウトです」

「あんっ……誰のせいで!!」


 ……



 そんな調子で、アイリーンと二人でひたすら長時間揉みほぐした。

 ……ふう、いい汗かいた。


 手が油でベットベトだが……おかげでどうにか縄を外すことができた。小一時間使って……結構、苦労した。

 天使長は全身油塗れでベットベトなのでそれに比べれば、私の方は軽微な被害だ。

 手の油を雑巾で拭き取る。


 天使長は裸で寝たままの姿で、膝を抱えてシクシク泣いている……

 よほど恥ずかしかったのか、赤面し羞恥に悶えて、荒い呼吸を整えていた……

 縄が食い込んだ跡が痛々しい……見る人によっては、むしろ、美しい?


「うう……弄ばれた……」


 あまりのショックで動こうとしない天使長。それをアイリーンがタオルで拭いてあげている。

 ショックすぎたのか、アイリーンに愚痴を溢して慰めてもらってました。


「私だって頑張って天界騎士長にまで昇ったんだ……それが今や……」


 ほう、それは初耳だな。天界騎士長か……

 やっぱり天界といえど、こちら側の影響を受けるのだな……

 死者が天界へ向かう以上、文化が似てくるのは必然か……


「くっ……殺せ……!!」


 思い返したのか、天使長は羞恥に悶えて、自暴自棄になってしまっている……


 天使の油をある程度拭き取ったところで……アイリーンがこちらに向き直る。

 油塗れになったタオルを替えながら……


「先生……最善を尽くしましたが……」

「ああ、無念だ……ご臨終です」


 アイリーンの言う、その意を汲み取って、非常に残念だと思う。


「生きてますよ!? 変なこと言うな!!」


 それを勘違いした裸の天使が喚いている。


「いや、新グレイプニルが油まみれでご臨終だ……悔しいです!」


 非常に残念なことにグレイプニルが油まみれになってしまった……

 油まみれの衣服と共に、脇に打ち捨てられている。

 この服もまだ着られるんだろうか……

 

「私の心配しろよ!?」


 油まみれの天使がキレていました……


 失敗は成功の母! 次こそは!!


 しかし、実際どうしたものか……グレイプニルを絞ってみるが……

 桶に油が垂れる。ある程度は落とせたけど、まだ滑りは残ってしまっている。

 薄手の服の方はともかく、縄の方は完全に油を吸収してしまっている感じだ。


「これじゃ返せないな……とはいえ、修行の結晶だし捨てるのも気が引ける……」


 せっかく染みついた天使長の汗と涙と体臭が、油で上書きされてしまった……

 コーティング? と言うより混ざり合って……なんとも言えない物体ができた……

 ある意味、マニアックな……


「……売れるかも?」


 一応、頑強ではあるはずだし……何気なくそんなことを思ったら。


「お前、まさか……」


 驚愕に顔を青ざめさせる天使長。

 あまりに驚いて、起き上がっている。


「……名前は『天使の血と汗と涙の結晶。オイルブレンド』とか?」

「お前、最低だな!?」


 真っ赤な顔で猛反対されて、アイリーンからも「さすがにそれは可哀想です」と止められたので売るのはやめました。


「確かに、ちょっと修道院再建のことがあって暴走気味だったかも……守銭奴みたいになってしまった。反省だ」


 そこは素直に反省する。先日、実家に帰った時も同じようなことで失敗したから……

 アウラとグレイスは後で合流するって言ってたけど、まだ距離的に無理だろう。

 かなり奥地の聖地まで行ったから……私がここにいるのはアイリーンの転移のおかげだ。


「ん? 修道院……? ハッ……!? そうだ。修道院の御神体にすれば良い!! ガチ天使の曰く付きの物。上手く利用すれば参拝客でウハウハ……」


 名案を思いついてしまった私だった……守銭奴? ナニソレ? 知らないですね。


「今すぐ燃やしてやる!!」


 激怒した天使に執拗に追いかけられて……

 しばらく油塗れの縄を持って、森の中を逃げ回る羽目になった……

 油塗れの裸の天使に追いかけられるという謎の恐怖体験を味わう……ある意味、貴重か!?


 明日が決戦なので、アイリーンが仲裁してくれて、とりあえず保留ということで互いに身を引くことで落ち着いた。

 決戦前に無駄な体力を消費してしまった気がする……疲れた。

 そのせいですっかり日が傾き、もう夕刻だ。


「新しい縄を買ってこないとな……これは一応、保管しておいて。天使の血と汗と涙の結晶、オイルブレンド……いい名前だけど長すぎるかな? 略してエンジェリック、オイルブレンドにする?」

「……なぜ私はこんな場所について来てしまったのか」


 無駄に疲れたのは彼女も同じだったらしく、天使がこれまでになく凹んでいる。


「元気だしなよ。これも貴重な体験だよ?」

「全部お前のせいなんだが!?」


 適当に慰めてあげたら、火に油を注いでしまった……油まみれだけに。


 ちなみにネーミングについては、あまり賛同は得られなかった。

 焼け落ちた家の残骸の中を探すと、焼け残ったケースが転がってたのでそれに入れて、埋めておく。

 目印をつけて。名前も書いとこ……エンジェリック、オイルブレンド……と。


 天使が微妙な表情で見てる……私が居ない間に掘り起こしちゃダメだよ、と念押ししておく。

 悔しそうにしながらも、渋々、了承してくれた。


 基本的に天使が約束を破ることはないらしい。私が攫ったような、不測の事態でもない限り。

 天界の内情でもあるため彼女は詳しく話さないが、やはりイメージ的にも天使としての誓約があるのだと思う。



 今の私たちはテント暮らしだから、その点も早めに解決したいが……決戦を控えて、忙しすぎる。

 早めに家を直したいとはずっと思ってるが、まとまった時間ができなくていつも後回しだ。

 決闘が終わったら、時間できるだろうか……?

 本当にやるべきことはたくさんあって、追いつかない。


 ああ……本当にもう明日なんだな……


 忘れてたら、死んでしまう! 左胸にある契約魔法の赤薔薇は健在だ。

 アイリーンの転移があるからギリギリでも大丈夫だが……ちょっと遅れるくらいでも多分、大丈夫のはず。完全にすっぽかさなければ……できる限り万全で迎えたい。


 走り回ったせいでかなり落ちてはいたが、残ったセラフィの油をしっかり拭き取って、近くの川辺で水浴びをしてもらう。

 近くの街のお風呂に連れて行くわけにもいかない。なにより天使だから街に入れない……

 先日買った水桶の風呂でも良いが、まず先にちゃんと油を落とす必要がある。


「洗ってあげようか?」と提案したら、「もういいわ!!」ってキレられた。


 ハードなマッサージだったから仕方ないな!


 私とアイリーンはその間に食事とか準備する。その間に戻ったセラフィは風呂にも入った。

 油が落ちてスッキリした様子で、セラフィは落ち着いていた。身体にタオルを巻いた姿だ。


 みんなでちょっと早めの晩御飯を食べる。早めなのは、明日に備えて早く休むためだ。

 食べ終わって片付けをすると、日が落ちていた。

 それからいよいよ明日の話に入る……


「一週間、厳しい修行だった……」

「修行というより、ほぼ遊んでた気がしなくもないですが……」


 アイリーンに指摘されて……一週間を振り返ってみる。

 振り返ると、急に心配になってきた……なぜか楽しかった記憶しかない。


「私より、セラフィが頑張ってた気がする……おかしい、どこで間違えた?」

「最初からだよ!?」


 天使長は元気だな!


「リフレッシュにはなった。それに楽しい方が身につく場合も無きにしも非ず…… ここのところ色々ありすぎたから、その反動が出ちゃった点は否定できないけど」

「そうですね。がむしゃらに頑張るのも時には大事ですが、その分、疲労は蓄積しますから……十分に休むことも必要です。長期的な視点に立つなら、なおのこと」

「うん……」


 励ましてくれるアイリーン……ただ、明らかに気を使われているのだが。

 彼女の言う、長期的な視点に立ってるかどうかは微妙だったが、概ねその通りではある。


 特に何か身についたわけじゃないけど……まぁ、そうは言っても一週間だし、できることは限られる。だから現状維持も大事だ。

 それで納得することにする……不安は隠せないが……


「明日、決闘だけど……セラフィはどうする? 多分、ママのところなら大丈夫だけど……ここで待つのもアリ」

「そうですね……いえ、やはりここで待ちます……あの方のところは少し……」


 セラフィは怯えたというほどではないが、躊躇した。


「わかる。ママのセンスは独特だから……汚染されかねない」

「ソニア、さすがに失礼では……」


 アイリーンに嗜められるが、そう思うのだから仕方ない。

 いや、感謝はしてる。してるけど……

 残された天使たちは大丈夫なのだろうか? 少し、心配になってきた……


「アイリーンは転移があるから、来てもらわないと困る……」

「もちろんです」


 良かった。やはりアイリーンが居ないと心配になってしまう。


「セラフィは一人になるけど、ゴーレムも居るし、ここは安全のはず……保存食は置いてあるから。狩や魚を捕まえてもいいし……後は山菜でも探してもらって……まだ難しいかな?」

「いや、大丈夫だ。ある程度はアイリーンに教わっている」

「じゃあ、そういうことで……」


 他に伝え忘れはあるだろうか……


「前に言ったと思うけど、勝った方が全獲りだから……負けたら天使たちを返さなくてはならない。その場合、おそらく私も投獄は免れない。天使と共に処刑も十分にあるかもしれない……」

「ソニア、それは私が許しませんので……」

「アイリーン……」


 そうだった。宿命を侮ってはいけない……その場合、私が見た未来に逆戻りしそうな気がする……

 アイリーンは私を助けるために、前と同様に散華ちゃんと交渉して身代わりになるのが予見できる。

 そうなってしまっては、これまでの苦労が水泡に帰してしまう……


「ええと、そうだね。負けられない戦いだ!」


 一対一で、もうチートは無い。でもだからこそ、他を気にしなくて済む。

 散華ちゃんのあの技は脅威だが、今度こそ出させないように邪魔をすることができる。

 先の天使救出では、いろいろと気を使うことが多すぎた。もちろんそれは、向こうも同じだが……


 教授は覚悟の差だと言った。

 逆に言えば、実力にそれほど違いはないとの、彼の見立てだ。

 もちろん私が良いように受け取りすぎで、希望的観測な点は否定できないが……


 散華ちゃんは魔法も凄いが、より武術の方が突出している。

 私は真逆で魔法特化型だが、アイリーンから習った剣技がある……

 結果がどうなるかは蓋を開けて見なくてはわからない……


 アイリーンたちを心配させないように、そうした良い部分を話す。


「ちゃんと考えてるソニアは偉いです」


 アイリーンに褒められた! これで勝てる!!


「どうして、そこまで……彼女と何か因縁があるのか?」


 そういえばセラフィには、話してなかったか……


「理由はたくさんある。私の贖罪はもちろん。散華ちゃんは幼馴染だし……ほっとけない。私が王にしてしまったのもある……宿命だったとも言える……」


 ポツポツとこれまで起きたことの要点を話す。未来のことなど話せないことは避けて……


「一番の原因は、私がこれまで何度も彼女から逃げてしまったから……ちゃんと向き合わなかったからだと思う」


 こうして振り返ると、これまで長い間、私は迷路、迷宮の中にいたと痛感する……

 直近の未来から帰還した私でも、未来はやはり不鮮明だ…… 霧の中をもがいて進む、五里霧中。

 もしかしたら、私にも慢心や驕慢(きょうまん)があったのかもしれない。いや、あったのだろう……

 そこは素直に反省する。


 それでも少しずつだが、霧が晴れてきたと思う。

 まだまだ道は困難で果てしないけれど、それでも踏み出す一歩が見えてきた。


 これも天使へ懺悔したおかげだろうか……


「たとえ困難でも、運勢が悪くても、一歩踏み出すことを諦めない。希望を持つことすら諦めてしまったら、本当に足が止まってしまうから…………これは私の自戒」


 ここ半年くらいは、私のこれまでの人生でも特に激動だったと思う。それだけに身に染みる。

 そしてそれは私の決意表明だった。



 私の真面目な話に、天使長も態度を改めるようにして……


「なるほど……ソニア、貴女は強い。もちろん散華女王も。どちらが勝っても、我ら天使は粛々と結果を受け入れます」


 彼女は天使長として、あえて(かしこま)って言った。その姿は神々しく、正しく上級天使だ。


「おお! 言ったな!? 今の言葉忘れんぞ! つまり、私が勝ったら私のもの!! やる気出てきた!」

「そういう意味では……いえ、その場合は従いましょう。ご武運を祈ります」

「ありがとう……」


 私の決意に、天使長が譲歩してくれた。水を差さないように、結果を受け入れる覚悟を決めてくれた。

 これで心置きなく決戦に向かえる……


「あ、忘れてた……はい天使長。感謝のプレゼント……」

「ん? なんだ……気味が悪い……」


 天使長が水浴びをしている間に急ぎで、アイリーンに転移してもらって買ってきた。


 彼女は渡された紙袋を開けて、見る……



 紙袋ごと思いっきりそれを地面に叩きつけていた!


「酷い……せっかくのプレゼントを……」


 私は悲しんで訴える……


「どっちが酷いんだ!?」


 破れた紙袋からこぼれ出たのは、もちろん新品の縄だ。


「やっぱり天使長のアイデンティティー的なものがなくなるしな……無いと寂しさすら感じる」

「勝手に私のアイデンティティーを縄にするな!」


 互いに牽制しながら、再び対峙する。


「失敗は成功の母なんだ!」

「お前の実験に、私を巻き込むな!」

「天使長には頑張ってもらわないといけない。じゃないとママに返せない。それは非常に困る!」

「知るか! 私には関係ない!!」


 このままでは平行線だ。明日のためにも、この件は早めに決着をつけたい。

 なんとか情に訴える方法は……と絞り出す。


「明日は大事な決戦なんだ!! 必勝祈願なんだ!! 天使のご利益をください!!」

「その言い方、狡いぞ!」


 私のその言葉に、天使の本能を刺激されたのだろうか……

 明日の決戦のこともあって、渋々だったが譲歩してくれた。

 私たちが手伝って、再び新たな縄を彼女に装着させた。


 身体に巻いたタオルが縄に締め付けられて歪む……

 油塗れだった彼女の服は、洗って適当な近くの木の枝に干してある。なので、そこは仕方ない。

 故意ではなく、不慮の事故だ。たぶん……


「うう……なぜか馴染んできてる気がする……」


 やはりこうでなくては……縛られた彼女の姿に、今や安堵感すら感じる。


「ありがたや……」


 再び緊縛された天使に、アイリーンと共に必勝祈願をした!

 これで勝てる!!



 星が降りそうな山奥の澄んだ夜空。星明かりと焚き火に照らされて……

 それはとても神聖な光景でした。


 天使には白を基調とした神聖な聖衣が似合います。実際はバスタオルを身体に巻いてるだけだけど……

 それに食い込む荒縄が悲哀を誘います。まるで聖女の受難のように……

 私たちは縛られ、火傷跡の残る傷ついた片翼の天使に祈りを捧げました。


 それは伝説の一ページでした。

 決戦を乗り越えることができたなら、必ずやこの光景の聖像を作ると決めました。

 そして後世にまで伝えるため、修道院再建の暁には、そこへ納めようと思います。

 絶対に反対されるので、口に出しては言えませんが……


 静謐な森の中、天使長の「やめろぉおお!! この姿に祈るなァアア!!」という絶叫が響き渡ってました……



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