表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第四章 赤薔薇編(上)
138/186

スナイパー

 突然だが私は今、暗殺者に狙われている。


 暗殺者騒動はこの前、終わったはずだというのにだ……


 ヒュンッ……


「ひえっ……!?」


 一本の矢が背後の壁へと突き立った!

 私の顔の真横を通り抜けて……

 自慢の銀髪が数本ハラリと落ちていく。

 一瞬にして顔から血の気が引き、冷や汗が流れていた。


 何かを考えるより先に、しゃがみ込んで身を隠す。

 テーブルを盾にして身を伏せながら、慎重に射線を追って狙撃手の位置を特定する。

 図らずも、これまで幾度も死戦を潜った修練の賜物だ。

 部屋の中から窓外を窺うと、そこで目が合った……


 樹上にて矢を構えるのは、風を纏う美しき狙撃手(スナイパー)


「今のは警告よ。ソニア……。次は外さない」


 しっかり見覚えのあるその姿は、短めの金髪を風に靡かせたエルフ美少女。


「なんで!? どうしてアリシア先輩が!?」


 暗殺者の正体はアリシア先輩だった……


「己の罪を噛み締めて死になさい……」


 罪って何……!?


 次の矢が放たれるのを見る前に、私は伏せた!


「あばばばば……!?」


 一瞬の差で頭のあった位置を抜けて突き立つ矢に、思わず変な声が出てしまう。


 危なかった……本当に死んでたよ!?


 数刻前から私は暗殺者に狙われている。

 正体は美少女エルフの暗殺者だ!


 混乱する頭を整理するために、脳裏で今の状況を説明する。


 どうしてこうなった!?


 うむ。私は国外追放を理由に、アストリアから逃げた。

 いろいろなものを置き去りにして。

 その結果、様々なものを捨てたみたいな感じになってしまった点は否めない。


 でも、おかしいな? ツヴェルフさんがけっこう何回も行き来しているんだが……

 いや、今は何よりもまず話を聞いてもらわなくては!


「待ってください! 何かの誤解です!」


 隠れたテーブルから少しだけ顔を上げて様子を窺うと、美少女エルフは怪しい笑みを放っていた。


 当然のように次に来るのは矢の連射だ。

 すぐさま床に伏せて躱す。


 タン、タン、タンッとリズム良く矢が、盾にしたテーブルに突き立っていた。


「ソニア殺す……」


 何度も呪文のようにそう唱える声が聞こえてくる。

 私の懸命な訴えも、聞こえていないようだ……


 恐る恐るそっと覗くと、アリシア先輩は瞳を妖しくギラつかせながら宣言した。


「ソニアを殺して私も死ぬ!」


 お、おう……完全に病んでしまっている!?

 

 風に乗って聞こえてきたその言葉に、私は恐怖する。


「あわわ……エリス、何とかしてくれっ!」

「何で私が……自業自得でしょ……」


 ちなみにエリスはその木の下で、背を預けながら見守っていた。

 止める気はないようです。


 薄情者め! ……私に風穴が開いたらどうするんだ!?


「ううっ……このままではアイリーンが帰ってきてしまう! もつれた糸がさらにこんがらがってしまう……」


 アイリーンは近くの川に水汲みに行っただけだ。じきに帰って来てしまうだろう。


「さすがに……それはまずいわね」


 アイリーンの怖さは身に染みているのか、エリスが渋々といった様子で折れてくれた。

 だがその私の嘆きに、逆に激しく感情を昂らせたのはアリシア先輩だった。


「アイリーン……。この前まで師匠って呼んでたのに……」


 アリシア先輩がそんなことを呟いていた。

 その感情の昂りに呼応するように周囲の魔素が荒れ狂う。

 強い風を纏い、家の周りの森まで騒めかせている。


 なんだか良くないものに触れてしまった!?


 さすがにエリスもこれは止めようとして「もう、気が済んだでしょう?」、「やめなさい」とか静止の声が聞こえてくる。

 それに同調してどうにか説得を試みようとしたところ……

 樹上の美少女エルフは微笑んで言った。


「うふ。心臓(ハート)を射抜いて愛を証明するの」


 いや、それ物理的にやったら死ぬやつだから! 完全に正気を失っている!?


 狂気を帯びて、どこか恍惚とした響きを乗せたその言葉に、私は戦慄を覚えざるを得ない。

 頼みのエリスもその狂気に気圧されたのか、固まってしまっていた。


 役立たずがっ! いや、ともかく止めねば!


「駄目です!」

「私を捨てたわね!」

「誤解です! 話し合いましょう」


 何となくそんな気はしていたが、私に捨てられたと思い込んだ様子だ。

 誤解を解くべく飛来する矢から逃げ回り、どうにか部屋を抜け出して庭へと回る。

 両手を上げて降参を示しながら姿を晒すと、アリシア先輩のいる樹へと近づく。


 じりじりと近寄り、無抵抗を示す。

 アリシア先輩は樹上からは降りてくれたが、その弓は私を狙ったままだ。


 うむ。あれが放たれたら死ぬな!


 慎重に警戒しながら、刺激しないように距離を詰めていく……


「まずは話し合いを……」


 そう言って、一歩を踏み出した。

 一本の矢が私の髪を掠めて、木造の外壁に突き立っていた……


 ひいぃっ……! と出そうになる悲鳴をどうにか押し殺す。


 うむ。身体に違和感はない。怪我もない。


 生きてたよ!!


 思わず閉じていた目を開くと、今にも泣き出しそうなアリシア先輩がはっきりと映る。

 私は少し悲しくなりながらも、じっと彼女の瞳を見つめて訴える。


「……わかった」


 しばらくお互い動けずにそうしていると、どうにかアリシア先輩はその弓を下ろしてくれた。

 心臓がバクンバクンと跳ねていた……


 だが、それはまだ第一段階。愛を込めて丁寧に弁明する。

 アストリアを追放となり、この地で生活するための様々な準備に忙殺されて後回しになっていたことを。


 ツヴェルフさんが時折訪ねて来ていたので、任せてしまって自分からは連絡を取らなかった。

 いや、ツヴェルフさんは関係ないか……私がちゃんと連絡を取らなかったのが原因だ。

 あの散華ちゃんとの別れが尾を引いて、しばらくは連絡する気になれなかったこともある。

 痛みの思い出とともに、心を込めて私は伝える。


「大丈夫です。世の中にはキープという、先人が考えた素晴らしいシステムがあるのです」


 ひどく苦しい言い訳だが、ともかく捨てたわけではないことを伝える。

 アリシア先輩の目を見つめながら、にじり寄る。


「ソニア……」

「それに『過去の女』ってミステリアスで素敵な響きですよね……」


 そうしてすぐ近くまで来ると、私たちは互いに見つめ合う。

 我ながら言ってることは無茶苦茶だと思うが、良いことを言ってる風な雰囲気で誤魔化す。


 このまま押し切ればいける! と私は確信した時。


「ソニア……下衆か!?」


 もう一歩というところで、邪魔が入った。それまで静観していたエリスだ!


 的確なことを言うんじゃない! アリシア先輩の目が、激しく動揺しているじゃないか!?


「失礼な! 私は真摯な想いを伝えただけです!」

「アリシアも丸め込まれてんじゃないわよ! チョロすぎるだろ!?」


 そのエリスの言葉で、ハッとしたように我に返るアリシア先輩。


「やっぱりソニアを殺して私も死ぬ!」


 私を突き放すようにして距離を取ったアリシア先輩。

 見惚れるほど流麗な動きで、再び弓矢を構えている。


 チッ、エリスめ余計なことをっ!



 私は今、暗殺者に狙われている。

 美しきエルフの狙撃手(スナイパー)だ。

 ……振り出しに戻ってしまった感がある。いや、さらに窮地になったかも。


「ソニア……許さないわ」


 フルフルと小刻みに震える彼女。はっきり怒っているのがわかる。

 ここまで対面しては逃げ場などない。

 まるで断崖の淵に立たされたかのような気分に陥りながらも、必死の説得に一縷の望みをかけるしか無かった。


「ま、待って! 話せばわかる!」

「死になさい……」


 まずいと思い、私が咄嗟に跳び退こうとしたところ……

 矢が放たれていた。


 あ、これ本当に死んだかも……


 まるでスローモーションのように私へと向かう矢。

 覚悟を決めてかかる私だった……


 だが、それは不意に真横から伸びた手によって掴み取られていた!


 飛んできた矢を掴みましたよ!?


 驚愕と共に呆然と見つめる。

 ここでこんな芸当ができるのは、私はただ一人しか知らない。

 吸血鬼の力を纏い、闇の魔素がこもったその右手には矢がしっかりと握られている。

 そこには私を守るように修道女姿の美しい女性が立っていた。


 アイリーン! 素敵っ!!


 ……とは思ったが、事態はどうやらさらに悪化してしまったようにも見える。


「あわわ……」


 私の目の前で対峙する二人は互いに視線を交わす。


「これは一体、どういう事ですか……?」


 アイリーンは静かに怒っていた。問いただすその声は冷たく響く。

 うむ。無理もない。家の外壁に何本もの矢が突き刺さっているのを見れば当然だ。


「アリシア、説明をなさい……」

「アイリーン。邪魔をするならあなたから……」


 一触即発。そんな言葉が脳裏を過ぎる。

 二人は対峙する。私のために……


「待って二人とも……。私のために争わないで!」


 私は二人の間に入って止めようとする。

 まさかこの言葉を、私が言う日が来ようとは……感無量である!


「っていうかアンタのせいよね……」

「うぐっ、エリス……見てないで止めてくれ」

「いやよ、私がどれだけ、いままで引き留めてあげたと思ってるの?」


 しかと見れば、エリスも怒っていたらしい。

 ここまで私が無事だったのは、どうやらエリスのおかげだったようだ。


「うう……すいません。ありがとうございます」

「……仕方ないわね。ちゃんと話し合いなさいよ」


 師匠に集中している所を、エリスに後ろから羽交い絞めにされてアリシア先輩はおとなしくなった。


 九死に一生を得て、どうにか安堵する。

 倒れたアリシア先輩をエリスと一緒に運びながら、アイリーンへと簡単に事情を説明するのだった。



「ここは……」


 寝台へと運んだアリシア先輩が、しばらくして目を覚ました。

 隣で私は椅子に座ると、話しかける。


「私たちの家です。大丈夫ですか?」

「私たち……」


 そこに喰いついてくる!?


 だが、それ以上は何も言われなかった。

 ヒヤヒヤしながら、少しは冷静になった様子のアリシア先輩と私はちゃんと話をする。

 それでもまだアリシア先輩は私に捨てられたと思い込んでいた……


 たしかにいろいろあって後回しになってしまっていた点はある……

 私たちは旅をして様々な場所を巡り、ここに住処を決めてからまだそれほど経っていない。

 思えば確かにどこか避けていた面は否めない。弁明しながら謝罪もする。


 ストーカー化したアリシア先輩はいろいろとヤバいことがわかった。

 気配を読むのが上手いので暗殺者顔負けだ。元、密偵でもある。その道に近いものがあるのかもしれない。

 これからは気を付けよう……


 そんな私の思いとは裏腹に、アリシア先輩は掛け布団をギュッと握り込んで何かを口走っていた。


「許さない……許さない……許さない……。私を捨てるなんて許さない……」


 それを何度も念仏のように唱えている……怖い!?

 私の言葉は全然、聞いてなかった!!


 こうなったら最後の手段だ。

 先人の知恵に倣うのだ。困った時はプレゼント……


 あの戦いで知恵の泉と「繋がった」私にはわかる。それが可能であることを知っている。

 失った左目を通して魔法の構成が見える。


 私の左手が青の輝きに包まれる。

 そして光が散った。


 眩しさにさすがにアリシア先輩も一瞬、反応を示す。

 その隙を私は逃さずに告げていた。


「先輩。遅くなりましたけど……約束の青薔薇です」


 手には魔法で編んだ一本の青薔薇。

 それは作り立てで、まだ青い魔素の輝きを放っている。

 この魔法は消えることがない創造魔法。

 先の戦いで得た代償であり、恩恵だった。


 その青薔薇を見て、アリシア先輩の瞳に輝きが戻る。


「ソニア……覚えて……」


 見つめ合い、近づき、それを手渡す。

 しっかりとその手を握って。


「ごめんなさい……」


 涙を流しながら謝る彼女に私は微笑んで赦す。


「アリシア先輩は直情的でちょっとおバカなところもあるだけです」

「もう! もう一度狙われたいのかしら?」

「すいません。もう勘弁してください……」


 それは本気でやめてほしい。


 だがその姿に、自然とお互いに笑みが溢れる。

 良かった。どうやら落ち着いてくれたようだ。


「あと、先輩はやめること!」


 アリシア先輩はそう言って、私の後ろで様子を見守っていたアイリーンの方をじっと見ていた。

 その視線に火花が散っているのを幻視する。明らかにアイリーンを意識している。

 牽制なのか、自慢げに青薔薇を見せつけるようにしていた。


 それを受けて、アイリーンの方は……


「ソニア……私にもプレゼントしてくれますよね?」


 受け流すように微笑んでいるが、目の奥が笑っていないのがわかる。


「……はい」


 二人の様子を窺いながら私はどうにか声に出すのだった。

 牽制し合う二人に、冷や汗を流しながら……


 いつの間にか私の背後へと近づいたダークエルフはその美しい唇を私の耳元へ寄せると、囁いて行く。


「ソニアはいつか背中から刺されるんじゃないかしら……」


 エリス! 洒落にならないことを言うな! さっきまで、そうなりかけてたよ!!


 それは嫉妬だったのかもしれない……



「うむ。愛されすぎて怖い……」


 そんなことを思わず口走ると、三人からの冷たい視線が突き刺さる。


「はわわ……」


 過去はどうやら私を捉えて離さないらしい。

 穏やかな余生というのは幻想でした。


 ちなみに散乱した室内と壁やテーブルに突き立った矢を見て、アイリーンに叱られたのは言うまでもない。


 その後、なぜか私一人で片付けをさせられるのでした。

 三人が牽制し合って動かなかったからである。

 私を囲んで警戒し合ったように監視されながら……せっせと片付けをする。


「これが針の(むしろ)……ハーレムって怖いんだな……」


 ちょっと考えを改めようかしら? とそんなことを実感する私だった……



できれば三、四日ペースで書けていけたらと思います。(週二更新くらいで)

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ