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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第三章 魔窟編(下)
124/186

魔導連弩

 今は廃墟となった古い王城の瓦礫の中。

 自動人形(オートマタ)達は集い、情報の確認を行っていた。


「ノインが裏切りました」

「うん? ノインって死んでたはずじゃね? 四十年前だっけ?」

「おかしいです。その辺りの記憶が改竄(かいざん)されているようです」

「四十年ほど前、化物が来ました。私達は敗れて修復のために眠りにつきました。この認識で合ってるでしょうか?」

「さあ? 少なくとも私達に繋がれた管理システムがそう思ってるってことだろう?」

「ですね……。そして今度はツヴェルフを伴って大勢がやってきました」

「マジか!? あの寝坊助が来てるだと? いや、起きてることが驚きなんだが……」

「どうやら、そのツヴェルフの案内でここまでたどり着いた模様です」

「それでノインと合流したってことか……」

「ええ。ですが、今度は化物たちは居ないようです」

「それなら勝算はあるか……」

「ともあれ、歓迎してあげなくてはなりません。それが管理システムの意向ですから」

「管理システムも千年前の戦いで暴走したままなんだろ?」

「あら? 不満ですか? ならばあなたも裏切りますか?」

「裏切らねえよ。一応は命の恩人? だしな」

「おや、殊勝な心掛けですね……。ですが我々はこの誰も居ない街で、何を守っているのでしょう?」

「ふん、さあな……。ただ、人には手を出してはいけないものってのがあるんじゃねぇの?」

「昔と同じことを繰り返さないためにですか……」


 そこで人形達は沈黙に包まれる。

 この廃墟の街はその戦争の結果だ。


「ならば戦う意味もあるのかもしれませんね……」

「どうだかな。ともかく明日当たり攻めてくるだろ?」

「ですね……。あれほどの軍がここまで辿り着いたことには驚きですが、いえ、あれほどの軍だからでしょうか。ですがそれ故に読みやすい」

「いずれにしろ、与えられた使命を全うするだけさ」


 自動人形たちは頷くと準備に取り掛かる。

 罠の確認。武器の準備。配置の確認と済ませていく。


「人が来るなんて久方ぶりだからな。せいぜい歓迎してやろう」


 守護兵たちは準備を終えると静かにその時を待つのだった……。



 †



 王城の崩れかけた城壁、その正門を前方に見据えた石造りの大通り。


 ガガガッ! ガガガガッ!!


 轟音が轟くたびに石畳に穿たれる幾つもの穴。地面に突き刺ささった幾つもの槍状の弾丸が、魔素の尾を引いて光を帯びて輝いている。

 城壁の上から放たれたそれは古代の連弩(バリスタ)だった。それは魔導大国らしく改良されており一撃が異常に重い。周囲の石壁を容易に削っていくそれは、人に当たれば致命傷は免れない。


 私達は城門へたどり着く前に狙い撃たれ、完全に足止めされてしまっていた。頑強な盾兵さえも一撃で葬られかねない威力に、たまらず距離を取る。

 瓦礫の陰に潜んで凌いでいるものの、一歩も動けないでいた。それが大軍ならば尚更だった。


「くっ……。古代兵器か! 厄介なものを持ち出してくれる!」


 散華ちゃんの呻きにノインが助言する。


「あれは魔導連弩ですね。瓦解しても元は王城ですから、ああした古代兵器や罠が守りを固めています。とはいえ、魔女との戦いによって皆壊れかけですが……」

「待っていればそのうち壊れると? ソニア。お前の魔法は届くか?」

「無理でしょう。城壁の上からの攻撃ですし、明らかに向こうの方が射程距離が長いです」

「だろうな……。よもや、ダンジョン内で攻城戦をさせられる破目になるとはな……。こちらの士気の方が先に尽きそうだ」


 散華ちゃんの言った通り、兵士同士の諍いが徐々に増えつつある。ダンジョン最深部という空間による疲れ、あるいは恐怖もあり、皆が殺気立っている。これ以上、張りつめた緊張状態がいつまで持つか……。

 さらには対する敵が自動人形では、敵の士気の低下など見込めない。どうやら持久戦は不利のようだった。


 といはいえ、強引に突破しようと全軍で進撃すれば、格好の餌食となるのは明白だった。さらにはノインの言うとおり、そこに罠でもあれば最悪の結果は免れない。

 散華ちゃんは決断を余儀なくされていた。


「父様、この場を任せてもよろしいでしょうか? 迂回して少数で突破いたします」

「わかった。後で合流しよう」

「お願いいたします」


 その場を指揮に優れた双樹氏に任せて、私達で突破を図ることとなった。

 次に散華ちゃんはブリュンヒルデの許へ向かう。


「ブリュンヒルデ、エリス、アリシアには父様の援護をお願いしたい」

「了解した」


 その三人のエルフにはアルフヘイム軍を率いてもらわねばならない。諍いの絶えない今、アルフヘイム軍とアストリア軍の間にも壁ができてしまっている。外す事はできそうになかった。

 また、私の部隊もアウラとグレイスに任せて、こちらも双樹氏の指揮下に入ってもらう。


 そうして迂回路を進むのは、散華ちゃん、蓮華姉さん、ツヴェルフさん、案内人のノイン、私の五人となった。

 少ない? いや、敵も十人だし、おそらく半数は正門前に釘付けになっているはずだ。ならば五対五で丁度良い。それにこれは奇襲なので隠密行動が重要だ。


 打ち合わせの中、私はノインに気になっていたことを聞いてみる。


「ノイン……管理システムを壊せば守護兵たちも止まるかな?」

「そうですね。ですがあまりお勧めはできません。都市機能全般を司る管理システムですので……」

「どうなる?」

「まず、真っ暗になります。魔石灯が消えますから。また結界は壊れてますが、魔物を足止めできる罠はありますのでそれも使えなくなります。ですから魔物たちの流入も起こって来るでしょう」

「むう、そうか……」


 灯りは持参の魔石灯や魔法でどうにかなるとしても、魔物がこの廃墟の街に潜まれると厄介極まりないだろう。ましてや今の緊張状態ならなおさらだ。

 どうやらそう単純な話でもなかったらしい。


「となればやはり先ずは突破が先決か……」


 私達は瓦礫の陰に隠れるようにして迂回路を進む。

 それに呼応して双樹氏が盾兵を囮に突出すると見せかけて、攻撃を引き付けてくれた。


「さすがですね。おかげでかなり距離を稼げました」


 ノインもそれには感心したらしい。それを聞いて散華ちゃんも誇らしげだ。

 そうして私達は王城の側面へと回り込み、城壁の真下へと辿り着いていた。かつての威容も今は朽ち果てて、その城壁には罅や大穴が至る所に開いている。

 おかげで正門からでなくても入ることは可能のようだった。


「だが、そう簡単には進ませてはもらえないか……」


 散華ちゃんのその呟きに、前方へ目を向ける。

 そこには三人の守護兵がすでに待ち構えていた。


 ガガガガッ!


 こちらを発見するや否や、敵の魔導連弩が問答無用で火を噴いた!


 私達は咄嗟に城壁の陰へと、倒れるように身体を隠して回避する。

 背中越しに城壁が削られていくのが振動で伝わってくる。


「冷や汗ものだな……。ソニア、魔法で援護してくれ。私と姉様で突破する!」

「了解です!」


 私は城壁を基に即席のゴーレムさんを作って、二人を守る壁にする。

 散華ちゃんと蓮華姉さんはその陰に隠れながら前進した。

 パワー負けしているのか、ゴーレムさんは次第に削られていく。


「ぬう……。やはりまだ青の書のようにはいかないか……」


 私は外典を携えながら歯嚙みする。

 かなり馴染んだとはいえ、以前のような力は出せていない。


 だが二人はそれでも十分と、その剣技で矢を受け流して進んで行った。

 そうなると厄介な術者から先に叩くのが常套手段だ。

 案の定、こちらへと矛先が転換された。


「くっ……」


 わかってはいても、先を進む二人を守る状況下では自身の身は無防備にならざるを得ない。


 ガガガガッ!


 散開した敵から、轟音を上げて連弩の攻撃が私に届く!


 そこに割って入るようにして壁になってくれたのは、大盾を構えたツヴェルフさんだ。


「大丈夫です。ソニアは私が守ります」

「ツヴェルフさん……」


 惚れて良いですか……。

 だが、あの破壊力だ。連射を浴びて大盾を構えるツヴェルフさんの両腕が軋んで悲鳴を上げている。


「まったく……無茶をしますね」


 それを見かねてノインが身体でツヴェルフさんを支えた。

 彼女はあの大怪我だ……。応急処置しただけの腕では支えられないとの判断だ。

 私の背中を冷や汗が伝うのがわかる。


 そうして耐え忍ぶ苦しい時は長くは続かなかった。

 散華ちゃんと蓮華姉さんが敵のもとへと到達して、守護兵三人の首を討ち取っていた。


 ふう、と息を吐く。

 見ればツヴェルフさんの構えていた大盾はすっかり変形してしまっていた。良く持ったものだと思う。それを作った鍛冶屋のドヴァンさんの腕が良いからだろう。


「ツヴェルフさん、ノイン、大丈夫?」

「はい、どうにか……」

「正直、危なかったですね……」


 そう答えながらもノインとツヴェルフさんは悲し気な表情を隠せない。


「殺しちゃったの?」


 二人の姿に居たたまれず、聞いてみた私に散華ちゃんは唸るように応じた。


「いや、どうだろうな。なんか首だけで動いてるんだが……」


 うおっ! ほんとだ……。

 見ればその守護兵たちは首だけ動いて、何やら喚いている。

 失礼かもしれんが、ちょっと気持ち悪い……。


「デュラハンも真っ青だな……」


 とはいえ、首だけでは何もできない。さすがにその状態では身体の方は動かないらしい。

 それを知って微妙な表情をしながら、ツヴェルフさんとノインが説得にあたるのだった。


「てめぇ、ノインどういうつもりだ!?」

「アインス、その状態で凄まれても……。立場わかってます?」

「ふざけるな! 覚えてろよ! このままでは済まさんぞ!」

「あらあら、直して欲しくはないようですね? ではずっとそのままで居てください」


 ずっと首だけのままとか……どんな拷問だ……。ノインって結構怖いかもしれん。

 ツヴェルフさんも隣で聞いて慄いている。


「ごめんなさい……直してください」


 アインスと呼ばれた首もそれは嫌だったらしく、素直に謝っていた。

 性格はまるで違うようだが、やはり姉妹らしく顔の造形的なものがツヴェルフさんに似ている。

 なのでその姿にこちらも複雑な気分になる。


「反省してくださいね。しばらくそのままおとなしくしていてくれれば、直すように計らってあげます」

「くっ……。わかった」


 立場をわからせたノインによってその場は一応の収拾がついた。



「自動人形って死なないのだろうか? 前、ツヴェルフさんは識界には来れたような……」


 自問のような疑問だったが、それを散華ちゃんが聞いていた。同じことを思っていたのかもしれない。


「わからん。私達だってそれはわからないだろう?」

「確かに……」


 魔女は死ぬと魔法になる。そう言われてはいるが……。

 ベラドンナは死んだ。だが彼女は霊となって、この世に留まり再会した。それは黒の魔女の影響のせいらしい。そしてその黒の魔女は、あれで生きているのか、死んだ状態なのか……。

 そういえば、あの勇者も一度死んでたよな……。あっちもなぜか生き返ってたみたいだ。


 うむ。これは考えてもわからない問題だな!

 極論、死んでみなくてはわからないということだ。もちろんそんなことは冗談ではないが。


「そう。私は美少女ハーレムでキャッキャウフフして過ごすんだ!」

「ソニア……。なぜいきなりお前の願望を聞かねばならんのだ……」


 つい口にしてしまって、散華ちゃんが呆れていました。ノインとツヴェルフさんは不思議そうにしている。蓮華姉さんはいつも通りだ。


「さて、ここから正門へ向かって父様たちの援護をするぞ!」


 切り替えるようにして声を出した散華ちゃんの号令で、私達は正門前へと向かう。

 道中の罠はノインの的確な指示で回避できた。


 その後、私達は正門前を解放した。双樹氏の指揮による正門前の軍と、脇道から現れた私達との挟撃によって、残った敵はなすすべなく討ち取られたのだった。

 合流を果たした私達は守護兵たちの遺体? を回収。

 その身体と首を別々の柩に納めておく。これでもう邪魔されることはないだろう。アストリアに帰った後で教授に見てもらい、今後どうするかはそれからの判断という話になった。


 王城を解放した私達は、全軍を正門を守る部隊と王城内を探索する部隊とに分けた。

 引き続き双樹氏に正門前を守ってもらい、私達は王城内を探索する。


 ノインの案内によって朽ちた王城内を慎重に進んだ私達は、ある扉の前へと集まっていた。

 その扉の先、王城から地下へと伸びる通路。

 この先に転移門、そして都市管理システムの中枢があるはずだ。


「さあ、いよいよご対面というわけだ」


 その通路を進むと内装はすっかりと様変わりしていた。

 王城らしい朽ちていながらもどこか華美な内装はなりを潜め、研究室のような機械類とエネルギー供給のための導線や配管が這う異質な空間へと変わっている。

 そうして進む先、見えたのは鎖でがっちりと封印された大扉。


「おお! これが転移門ッ!」


 ついはしゃいで声に出してしまう。その雰囲気たるや、まさしく異形の……。


「いえ、違います。それはこの中です」


 ノインに冷静に間違いを指摘されました。

 紛らわしいな! ダミーかっ!


 というわけでもなく管理システムや、転移門、さらにはそれらを動かすための動力炉を守るための金庫の扉のようなものらしい。


「でも入れるの? 厳重に封印されてるけど?」


 そのアリシア先輩の疑問も当然だ。扉を封印する大鎖は太く、これを断ち切るには相当な時間が必要と思われる。

 しかもどういうわけかここだけは錆たり朽ちたりもしていない。


「かつての魔導大国グラズヘイムの秘儀中の秘儀ですから。その鍵も失われて久しいのです」


 ノインがどこか誇らしげに説明をしてくれる。


「でもお婆ちゃん達は中を見たんだよね?」

「ええ。あれは不思議でした。教授と呼ばれていた方、あの方が普通に鍵を開けたようにしか見えませんでした」

「そっか……。でも教授の技ではどうしようもない気がする……」


 本当に鍵でも持っていたのかも知れん。

 そう思っているとツヴェルフさんが何かを鞄から取り出していた。


「ソニア……。鍵、預かってました」

「ツヴェルフさん……。いや、ありがとう」


 本当に鍵、持ってました。

 一般的な鍵の形状とはかなり異なるそれは魔導具だろう。

 どうやら扉のどこかにはめ込むようだ。それを探していると……。


 突如、王宮内、いや、その廃墟の街全域に警報のようなサイレンが鳴り響いた。


「何だッ!」


 皆がそろったように一様に驚きの声を上げる中。

 それに続いたのは機械音のような合成音声だった……。


 ────警告、警告。

 敵性存在による守護兵の破壊を確認。並びに最終防衛ラインへの侵入を検知。

 これより敵性存在排除のため、【神の門(カ・ディンギル)】の起動を開始いたします。



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