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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第三章 魔窟編(上)
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怒られる私……

 散華は開いた扉の隙間からその一連の光景をそっと見ていた。散華もまたソニアを心配してのことだ。

 居づらくなった散華は、それから逃げるように自室へ戻っていた……


 翌日。自室で落ち込んでいる散華に双樹から声がかかった。

 双樹はアルフヘイム軍の将軍として帰国していた。またアストリアの案内役としてでもある。



「すまなかった。お前には重責を押し付けてしまった。だが、散華、お前はよくやっている」

「父様……」


 心配させてしまったと思いながらも、私は久しぶりに会った父様に抱き着いた。

 想いが溢れるように強く抱き着く。


 ソニアは私の言う事を聞かない。それでいて問題ばかり起こる……

 アイリーンを逃がしたことについては非常時対応として目を瞑ろう。仕方なかった面もある。だが多くの犠牲者が出た。きっとその責任追及は厳しいものとなるだろう。


 国政を行うにあたって重臣の数は増えている。一枚岩とはいかず、現体制への不満もでてくるかもしれない。場合によってはソニアを宰相として守り切れるかどうか……


 経験の浅い私にはアルフヘイム女王のような貫禄も実績もない。

 本当に重責に圧し潰されそうだった……


 それらの責任とは別に昨日見てしまった光景が目に浮かぶ。

 幼馴染みだ。ソニアの事情もわかるし知っていた。


「なぜ私に相談しない……」


 実際、泣きたいのはこちらの方だった。


「散華。わたくしも居ます。貴女は大丈夫です」


 姉様は諭すように背後から私を抱きしめてくれた。

 姉様はいつも私の傍にいてくれる。本当に助けられている。


「姉様……ありがとうございます」


 そっと流れた涙をぬぐう。

 私は薄氷の上を歩いているような気分が、幾分か和らぐのを感じていた。


 父様は私を見て言った。


「一度家へ帰ろう。お前達もその方がいいだろう」

「はい……わかりました」


 こうして私達は一度家へと戻ることになった。



 家へと戻った私達は母様への挨拶もそこそこにお爺様に呼ばれていた。

 いつものように別邸の居間でお爺様は待っていた。


「大方の事情はこちらの耳にも入っておる」

「そうですか……それで話とは?」

「断罪の剣と華咲の因縁についてどこまで聞いた?」

「このアストリアが発祥の地としか……」


 私がそう言うと、お爺様は思い出すように語り始めた。


「うむ。かつての華咲には影があった。その者達は華咲の技の中でもひたすらに暗殺の技を磨く事を宿命づけられていた」

「まさか……」

「今ではまるで別のものとなってしまったが、その基本体系は同じ……」


 その話に姉様は納得したように頷く。思い当たる節があったのだろう。


「そういうことでしたか……私がアイリーンをライバル視したのもそこに華咲の教えを見たからでしょう」

「うむ。だがその始祖達はやり過ぎた……次第に華咲と対立するようになり、結果別の道を歩むこととなった」

「それが『断罪の剣』の起こり……」

「そう。アストリアに残った華咲は冒険者ギルドの礎となり、それに対抗するように去った華咲は暗殺者ギルドを作った。これは華咲の因縁かもしれぬ。だがそれに縛られることはない」


 そこで私も姉様も驚いていた。冒険者ギルドの件は聞いていない。


「待ってください! 冒険者ギルドというのは!?」

「ああ、そこまでは聞いていなかったか……なに、難しいことではない。当時の強者が必然的に集まっただけのこと。無論、華咲単体で冒険者ギルドができたわけではないが、その一端は担っていたのじゃ」

「なるほどそういう理由ですか……」


 お爺様の説明に私は頷く。しかし話にはまだ続きがあった。


「ただ、暗殺者ギルド、断罪の剣には華咲の血とも呼べる何かが別れた」

「まさか……神の血脈だと!?」


 またも私は驚き、姉様も眉根を寄せていた。


「うむ。今もそれが残っているかどうかはわからぬ。だが気をつけよ。【剣神アストライア】……断罪の剣の教主は代々そう名乗ると聞く……」

「そう、名乗ったとは聞いておりませんでしたが……」

「ならば奥の手を隠していたのかもしれぬ。注意することだ」

「はい。お爺様」


 情報は力だとは知っている。知らせてくれたことに感謝はあるが、それは同時に心労が増えたとも言えた。

 そうした私を見て、お爺様は微笑んでいた。


「フッ……少し脅し過ぎたようじゃの……なに、それほど心配するな。いざとなれば儂がどうにかしよう」


 私はここだ! と思った。それは千載一遇のチャンス。


「であればお爺様……。私達はしばらくダンジョンへ向かいます。後をお願い致します」


 お爺様は驚きながらも、孫に頼られるのは嬉しいらしい。


「むう。そうきたか……。言ってしまった手前仕方ない。任せるがいい」


 お爺様はそうしたことが嫌で隠居したのは聞いている。しかし、他に適任者が居なかった。

 父様に任せることも考えたが、だが父様の所属はアルフヘイムだ。女王陛下を守らねばならない。


「ありがとうございます!」


 それから私は日頃の疲れを癒すように休むことができたのだった。



 †



「てめえ、ソニア! ふざけんなよ! マネキン代わりの次は文鎮代わりか!? アァ!? しかも形を維持できなくなるとか!! いい加減にしろ!」


「……と言っています」


 私に当たりがきつかったのはマネキン代わりにしたせいだったのか……

 アラネアは喜んでくれたのにゴーレムさんは不満だったらしい。


 私は自宅へ帰る前にゴーレムさんを再生したのだが、たいそうお冠でした。

 やはり私の精神的な落ち込みが魔力に影響していたらしく、ゴーレムさんの再生程度は大丈夫だった。


 ツヴェルフさんに通訳をお願いして一応謝るつもりだったが……

 これはこれでいい気がしていた。


 何故なら実際に言っているのはツヴェルフさんなのだから!

 申し訳なさそうに詰って来るツヴェルフさんが可愛いのだ!

 そこに気付いてしまった私だった……



 ツヴェルフさんに詰られることでちょっと気持ちよくなりながら、私達は馬車で家へと帰った。

 玄関を潜って店へと入ると、そこにはなぜかアイリスが座っていた。


「ソニア遅い! 何度もフレイアが呼びに行ったのに!」


 開口一番、ここでも怒られる私……


「ごめん。ちょっと凹んでて……。それよりどうしてアイリスが?」

「私は店番。クロ、リリス、アラネアの調子が悪いから」

「なにっ!?」


 私は驚き、慌てる。

 なにが、どうなって? と尋ねようとしたところを、機先を制するようにアイリスは言った。


「今は中で休んでる。すぐに行って!」

「わかった!」


 悪い予感の方が当たってしまったらしい。私は急き立てられるように家の奥と向かう。それにツヴェルフさんが続いた。


「あなたはこっち」


 ただゴーレムさんはアイリスに取られていた。

 それを手に取ったアイリスはとても嬉しそうだった。


 居間へ入るとそこではリリスがソファで寝ていたが、すぐに私に気付いて声をかけてきた。


「あら? ご主人様……。お帰りなさい」

「ニャー」


 リリスはだるそうにソファから起き上がる。

 今まで寝ていたらしく近くでエルフメイドのフレイアが看病していた。

 そんなリリスの上には黒猫が乗っている。


「そのままでいいよ。調子はどう?」

「良くないですわ。でも、これってご主人様のせいですよね?」


 私の問いにリリスの目が妖しく光る。続いて黒猫がニャーと鳴いた。なぜかその黒猫に親近感を感じる。


「うぐっ……。ごめんなさい。その黒猫もしかしてクロ?」

「もしかしなくてもそうですわ」


 リリスも体調が悪いせいか当たりがきつくなっている。

 黒猫はなんだかニャーニャー言っていた。


「ここがババアのつくった魔女の結界の中じゃなきゃ危なかったニャ! 死ぬかと思ったニャ!」


「……だそうですわ」


 ニャーニャー語をリリスが訳してくれる。


 こっちもかよ!


 そう思いながらも、私は謝罪と共に簡潔に事情を話す。


「ごめん。青の書を取られた……」


 それを聞いてリリスはため息をついた。


「そんなことだろうと思いましたわ」


 一応、リリス、クロは無事だ。残るもう一人の姿がそこには無いので聞いてみる。


「ところでアラネアは?」

「あの子も寝ていますわ。戦闘服にかかりっきりでしたから……疲労もあって……。あとでちゃんと労ってあげてくださいね」

「わかった。皆もありがとう」

「これでもわたくしも怒っていますのよ? あまり不甲斐ない姿を見せないでくださいね。ご主人様……」


 やっぱり怒られる私だった……


「うん。皆も本当にごめんなさい」


 私はもう一度、きちんと謝る。

 リリスは頷くとそれで留飲を下げたらしかった。フレイアはあわあわしていた。


 もう事情はわかった。使い魔契約のせいで、彼女たちまで私の不調の影響が及んでいたのだ。


 そこで黒猫状態のクロがリリスからすとんと飛び降りる。そして歩き出すと家の奥へ向かう。

 一度振り返ってニャーと鳴いた。


「ババアから託されたものがある。ついて来いと言っていますわ」

「わかった」


 今頃になって、お婆ちゃんから? と疑問に思いながらも私はついて行く。

 だが、向かった先はお婆ちゃんの部屋ではなかった。お婆ちゃんの部屋なら私もよく入っているので何かあれば気づかないはずはない。


 ついて行った先は元は父親の研究室……。今はクロが物置として使っていることしか知らない。

 私が決して近寄れなかった場所だ。


 小さい私が、廊下から見た父親の背中がフラッシュバックする……

 うっと眩暈(めまい)に似た感覚を覚えるが、耐える。これ以上の失態は犯せない。


 黒猫はどこかから鍵を取り出すと、口に咥えて私に指し示す。

 フレイアに肩を借りて怠そうにしながら遅れてきたリリスが言う。


「地下室の鍵だそうですわ」


 地下室なんてあったのか!? と驚きながらも私はその鍵穴を探す。

 クロの案内で椅子の下に隠れるように鍵穴があるのを見つける。

 開けると階段があった。降りて行くと、そこはどうやら小さな書庫だった……


「これは……!?」


 そこにはいわゆる『禁書』と呼ばれる魔導書がずらりと並んでいた……



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