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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第三章 魔窟編(上)
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凶刃

 アルフヘイム王国軍は女王陛下を旗頭に一路アストリア王国を目指して街道を南下していた。

 その中には捕虜となったアウラとグレイスの姿もある。


 二人は手枷を嵌められ肩身の狭い思いをしながら、同乗したアルヴィトに監視されていた。

 余計な(いさか)いを防ぐために、馬車の中へ隠すようにしての軟禁状態だ。


 それは復興中のリーヴの街を過ぎた辺りだった。


「もうすぐですね……」

「そうだな……」


 グレイスが心配するように漏らした言葉をアウラが拾う。

 アルヴィトもその事には気付いていたが、特に触れることはしなかった。


 国境の曖昧な地域の森の中、その村はまるで隠れ里のようにある。

 ラクリマの村。近隣の村からはそう呼ばれていた。

 街道からは外れているので、そこを通ることは無いはずだった。


 二人はカーテンを少しだけずらし、馬車から窓の外を見る。

 そこから見えることはないが、方角的に修道院があるはずだった。それは彼女達が世話をする孤児院でもある。

 今頃は約定どおりならエルフ兵が護っているはずだ。


 二人は思い遣るように窓からその景色を覗いた。

 丁度その時、それはまるで計ったように……

 その村の辺りから黒煙があがっていた。


「なッ!?」


 二人は驚き慌てて、外へ飛び出す。

 手枷が邪魔となり、転がり落ちるように馬車から飛び降りる。

 アルヴィトもそれに驚き、続いて外に出た。


「おい、待て!」


 逃亡を疑い、弓を放って二人を止めようとしたエルフ兵を、アルヴィトが手で静止する。

 そこで周囲のエルフ兵もさすがにその異変に気付いた。


 それはすぐに上へと伝えられ、数人の兵士と共にミスト将軍、エリス、アリシアがアルヴィトの許へ来る。

 他は女王の護衛として動けない。


「まるで狙ったように……これはさすがに無視するわけには行かないわね……」

「でも罠じゃないかしら……?」


 状況を述べたエリスへ、アリシアは懸念を示した。


「おそらく……そうなのでしょう。だからこそ憂いは断っておくべきでしょう。ミストは陛下に連絡を。私達が調べてきます」

「了解しました」


 それを受けてアルヴィトはミスト将軍へ指示を出す。

 ミスト将軍はすぐに戻って行った。


 仮に敵だったとして、無視して進んだとしてもいずれ奇襲を受けるだろうことが予測される。

 それに後方を気にしながらの進軍は危険極まりない。


「ともかく、調べに行きましょう」


 そうアルヴィトが決めたところで。


「待ってくれ! 私達も連れていってくれ!」


 アウラからの頼みだった。グレイスも気持ちは同じだ。

 アルヴィトは一瞬、考えこむと。


「いいでしょう。ついて来なさい。ただし、手枷はまだ外しませんがいいですか?」

「わかった……」


 二人は真剣な表情でそれに従った。


 兵の一隊が囲むようにしてアルヴィト、アリシア、エリス、アウラ、グレイスはその村へと進む。

 近づくにつれて誰もがヒリヒリとした嫌な空気を感じとっていた。

 エルフ兵たちから冷や汗が落ちる。


 そうして近づいた村はやはり炎上していた。

 それは修道院も例外ではない。


 呆然と立ち尽くすアウラとグレイスを尻目に、アルヴィトは状況の確認を行っていた。

 この村へは約定通り、アルヴィトがエルフ兵を護衛として送ったはずだからだ。


 村の建物が焼け落ちる中、警戒しながら慎重に村へと入る。

 皆が息を呑むように異変はすでに見えていた。

 無残に殺されていたエルフ兵、そして村の住人達と思しき人々、その中には子供の姿もある。

 それらは皆、斬られた傷跡があった。


「どうして……こんな……」

「私達は……」


 アウラとグレイスの動揺が酷い。小さな村だ。皆知り合いだったのだろう。

 特にグレイスはその場に膝をついて崩れ落ちた。


「警戒!」


 その気配に、いち早く気づいたアリシアによって周囲のエルフ兵は盾を構えた。


 外周を囲むように修道女の一団が現れる。

 その中から一人が、前に進み出ると言い放った。


「アウラぁ、グレイス! クッ、ハハッ、いい恰好じゃないか! 無様に負けて捕虜となるとは……これで六剣聖とは恥ずかしいな!」


 そう言って笑う女は異様な空気を発していた。

 その他者を嘲笑(あざわら)う様はとても修道女とは思えない。粘着質を思わせる声質もあり、何か別の奇妙なものだった。


 その姿は猫背、落ち窪んだ目つきは非常に悪く、両手にそれぞれ長剣を構えている。

 そしてその剣は二つとも鮮血に染まっていた……


「ヴィアベル……!?」


 アウラとグレイスの二人は最悪だと思った……

 こいつは六剣聖の中でも破門すれすれの行為で謹慎処分とされていたはずだ。

 今のように村を丸ごと焼くというような事を平然とやってのける女だ。

 現教主アストライアでさえ手を焼いているという噂だったが……


「おや、よく見ればそれは緑と紫じゃないか? 二つも手に入るとは幸先(さいさき)がいいな!」


 目敏くアリシアとエリスが持つ魔導書を見つけて喜んでいるヴィアベルだったが、そこへアウラが問いを投げる。


「子供達はどうした……?」

「ああ? 子供? そうだな……生かしてあるさ……人質にするためにな」


 その言葉を聞いてグレイスは藁にも縋るような……ことはなかった。

 ……唇から血がにじむほど歯嚙みする。


「嘘ですね……殺しましたね」

「フッ……どうしてそう思う?」


 ヴィアベルはそれでも弄ぶようにとぼける。


「貴女は自分の力を過信しています。人質など取るはずがない」

「ククッ……わかってるじゃないか……ただ過信ではないがな!」


 グレイスは怒りに震える拳をグッと握って堪える。それは忘れていたものを思い出すように……


「気を付けてください。あれは六剣聖の一人ヴィアベル。あの猫背、あれは()()()です。あれで間合いを狂わせるのです」


 グレイスの助言にアルヴィト、エリス、アリシアが頷く。


「ハハッ、その様子じゃお前達も裏切ったらしいな! これで気兼ねなく全滅させられる!」

「貴女が気兼ねなどするものですか……はじめから殺す気でしたでしょう?」

「ハッ!……その通りだ。敗北者は死ね!」


 その言葉と共に一斉に周囲を囲む修道女達が躍りかかった!


 修道女たちは相当な手練れだった。

 エルフ兵達は次第に追い込まれていく……

 それをカバーするためにアリシアとエリスは奔走させられていた。

 エルフ兵達が足を引っ張ってしまっている形だ。


「ほう。中にはそれなりのもいるか……」


 そう言うヴィアベルに相対しているのはアルヴィトだ。

 だが、こちらもエルフ兵をかばうために余力を割いてしまっていた。

 対してヴィアベルの方は仲間の修道女が倒れようが気にもしない。

 さらにはヴィアベルの上半身のみをゆらゆらと揺らしながら放つその斬撃は異様かつ、奇っ怪だった。


「面妖な……」


 その術中にはまってしまうようにして、さしものアルヴィトも攻めあぐねていた。長杖(ロングスタッフ)を振るってどうにか凌ぐ。

 それは次第に均衡を崩してゆく……


 劣勢を見てアルヴィトは一つの決断を下した。


「エリス、アリシア! 少し任せます」

「はい。先生!」


 二人にも余裕は無いが、奮起するように気合を入れる。

 それに応えるように緑の書と紫の書は輝き出した。


「それをよこせぇええ!!」


 アルヴィトと入れ替わるように対峙することになったエリスとアリシアは、ヴィアベルの奇妙な攻撃を二人の連携で凌ぐ。

 しかし、さすがに周囲を気にしている余裕は無い。

 次々と倒れていくエルフ兵に次第に焦りを募らせていた。



 アウラとグレイスは自責の念に駆られていた。


「私達は何もできなかった。今もできない……」


 敵を前にしながら見ていることしかできない。悔しさに膝をつく。

 そこへアルヴィトは(くずお)れた二人に近づきながら叱咤する。


「立ちなさい。そして悪を断罪しなさい」


 アルヴィトがその手を二人の枷にかざすと魔力を込める。それが鍵だったように枷は外れ落ちた。


「それが貴女達の教義なのでしょう?」


 そう言ってアルヴィトは二人に武器を差し出す。一般兵用の小剣(ショートソード)だ。倒れた者から拝借したものだ。

 アウラとグレイスは見上げる様にしてアルヴィトを見る。


「言われずとも……」

「認めなくてはならないな……正しかったのはアイリーンの方だったと」


 それを二人は頷きながら受け取った。


 立ち上がった二人の気迫に、周囲の修道女達は怯む。

 あるいはそれは罪悪感の表れだったのだろうか。


「行きます……」


 アウラとグレイスは静かに構えを取り、参戦した。



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