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青の魔女  作者: ズウィンズウィン
第三章 魔窟編(上)
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流浪

 試験が終わり、王城へ戻ると教授にお礼を言って別れる。


 そのまま私は聖堂へ向かった。

 ツヴェルフさんも先の約束を守るためか、ついて来てくれる。

 護衛もついてくるため馬車だ。いろいろ走らせて申し訳ないと思う。


 聖堂へ来たのは、私からアイリスに事情を話さなくてはならないと思ったのだ。

 おそらくそれが、けじめというものだろう。


 私から事情を話すと意外にも淡泊とも思える答えが返って来た。


「分かってる。ソニアはお姉ちゃんがいないと駄目だから……」


 なんだか妙な信頼のされ方をしている気がするのだが……

 そんなに私は駄目人間なのか!?

 もっと激昂されてもおかしくないという覚悟で来たのでやや拍子抜けだったものの……ちょっと悲しくなった。


 当たっているけれども……


「ともかく今は待って欲しい。必ず助けるから」

「うん。わかってる」


 私には気丈に応えたアイリス。

 そんなアイリスの頭をツヴェルフさんが優しく撫でている。


 俯きながら何かに耐えるようにしていたアイリスだったが……

 ツヴェルフさんに振り返るとガバッと抱き着くようにしてアイリスは泣きだしてしまった。

 彼女の両瞼から涙が流れ落ちる。


 やはり我慢していたらしい……

 ツヴェルフさんはそれをそっと抱きしめるのだった……


 そしてなぜかもらい泣きをしている護衛の兵士さん達……

 私だけ泣いていなかった……ちょっと遅れをとった気分で気まずい……


 というか貴方たちが師匠を捕まえたんですよ!


 私は微妙な気分にさせられるのだった……


 アイリスが落ち着くのを待って私は話かける。


 「アイリス……しばらく家に来ないか?」

 「でも……お花の世話とかあるし……」


 彼女は私の提案を躊躇う。ここを離れたくないのだろう。涙ぐむその姿に、私も逡巡しかけるがどうにか堪える。


 「いや、ごめん、言い方が悪かった。家に来てくれ。花の世話は便宜を図る」


 私は真剣に訴える。考えてみれば、アイリスが狙われないとは限らないのだ。

 特に師匠への脅迫材料にするならうってつけだった。


 「わかった……」


 私の真剣な訴えに気を回してくれたのだろう……

 一応の了承をもらい、アイリスには必要最低限のものを持って来てもらう。


 その間に私は小さいゴーレムさんを作る。

 準備を終えて戻って来たアイリスはそれに興味をもったのか、すっかり泣き止んで笑顔になっていた。


 ゴーレムさんを手に取り、小さい! 可愛い! と言ってとても喜んでいる。

 教授に言われた通りこれからはできるだけ常時顕現させておくことにしよう。

 車内は暇なのでツヴェルフさんにお願いして翻訳を頼むことにした。


 そうして私達は馬車に乗った。

 今、ゴーレムさんはツヴェルフさんの肩に載っている。


「ソニア、大好き! 愛してる!!」


 ペットに言葉を教えるようなものだと思い。そんなことを教え込んでみる。


 内緒話をするような格好でゴーレムさんはツヴェルフさんへ囁く……

 もっとも私が動かしているのだが……まだ自動制御には至っていないためだ。

 なんとなくそれっぽい動きも教えている事になるはずだと思う。

 それをツヴェルフさんが翻訳してくれる。


「馬鹿にしてるのか? それともお前が馬鹿なのか?……だそうです」


 ぐッ……まさかの辛辣(しんらつ)

 その愛らしさとは裏腹に毒舌だった……

 さすが、私の魔力から生まれただけある……クールだ。


 これにはアイリスも引いてしまったかと危惧したが……

 「可愛い!」と言ってとても喜んでいました。

 ゴーレムさんは二人には優しかった……というより私にだけ厳しい。なぜだ?


 そんなことを二三度繰り返していると家へと到着する。

 すでに私のメンタルはボロボロだ……

 書店の前に馬車が止まる。私は馬車を降りると兵士さん達へ言った。


「ええと、護衛の皆さんはここまでで良いです。ありがとうございました」


 私がお辞儀しながらそう言うと、護衛隊の隊長に反対された。


「困ります。国王陛下直々に我等に命が下っています。例え宰相閣下の命でもそちらが優先されます」

「むう。そうか……しかし泊る場所が無いのだが……」


 ただでさえ、今は三魔族に加えフレイアまで居る。加えてアイリスまで呼んだ。もう二、三人くらいならどうにかなるかもしれないが……。護衛の兵士の数は八人ほど居た。


 アラネアに無理して頼めば、なんとかなるだろうが……彼女にはすでに戦闘服の補修のお願いをしてある。この前、無理をさせて倒れてしまったのは記憶に新しい。できれば頼みたくなかった。


「そういうことでしたか……お気遣いいただきありがとうございます。ですが我等は交代で護衛に当たらせていただきますのでご心配は無用です」


 つまりはここに泊ることはないと……なら大丈夫か。


「了解しました。ツヴェルフさんはどうする?」

「ソニアとアイリスの護衛をします。翻訳の約束もはたします」

「わかった。お願いします」


 ツヴェルフさんは近衛騎士団副団長なのだが、散華ちゃん達には藤乃がついているから大丈夫なのだろう。と納得しておく。


 護衛隊隊長は隊を二つに分けた。一方は男性ばかり、もう一方は女性ばかりだ。女性の方は副隊長が指揮するらしい。私達が女性ばかりだからとの配慮だろう……


「では我等は先に休ませてもらう。後を頼む」

「はーい、了解でーす」


 隊長に副隊長の女性は力が抜けるような返事をして送り出していた。慣れたもので隊長達は何事もなかったように馬車に乗って去った。


「本当に寝ない気ですか?」


 扉をくぐり中へと案内しながら一応、副隊長に尋ねてみる。


「寝ますよ。お肌の大敵と言いますしね。それに集中も切れちゃいますからね。……一人づつ交代で仮眠させたいと思うんですけど、どこか借りられます?」


 副隊長はその緩い感じとは裏腹に優秀なようだ。一人くらいなら何とかなるだろう。


「わかりました。用意させます」 


 そう言うと副隊長はありがとうございまーす、とやはり気の抜けるような返事をするのだった。

 そんな様子ながら仕事はきっちり行う。副隊長は外に二人を残して見張りをさせる。

 家の中では副隊長自身が護衛を行い。もう一人は仮眠を取った。


 そんな状況の中、私はゴーレムさんとツヴェルフさんを相手に対話を続けた。

 私のメンタルが危険域に達しそうではあったが、せっかくツヴェルフさんが泊りで相手をしてくれるのだから我慢する。

 アイリスはアラネアのベッドにいたく執心し、先にお休みだ。


「そう言えばツヴェルフさんって普段どこに住んでるの? やっぱり教授のところ?」


 ツヴェルフさんが泊るのは久しぶりだなと思い、なんとなく気になったので聞いてみた。

 ツヴェルフさんは考える様に首を捻ると言った。


「そのひぐらし?」

「……そうですか……へえ、ってどういう事!?」


 今明かされる衝撃の事実か!? 驚きすぎて目を丸くしてしまう。


「住所不定? 泊れる所に泊る。教授室、修道院、サンゲの家……とか?」


 住所不定って……てっきり教授のところだとばかり思ってたよ!


「ごめん、知らなかったよ……家で良ければいつでも使って!」

「ソニア、ありがとう」


 いやまあ、それだけあれば困ってはいないのだろうが……心配ではあった。

 それに私達がいろいろと連れ回してるせいで、必要ないと思ってしまったのかも知れぬ……

 これからは気をつけよう……


 朝になると隊長達が来て、副隊長達は交代して帰って行った。



 そんな調子で二、三日経った。しかし、これといって襲われる事もなかった。


「商売の邪魔ニャ!」


 ただクロがキレていた。

 物々しい兵士が書店の前で見張りをしていては確かにその通りだ。

 しかも不審人物でないかを一々チェックしているのだ……客が来るはずもない。


 結局、私の護衛なのだから、私が出て行くしかなかった。

 ツヴェルフさんはついて来てくれた。ゴーレムさんも私が居なくては動けないので同じだ。


「なぜだ……なぜこうなった……」


 追い出される形で家を出た私は、馬車に揺られながらそんなことを口にしてみる。

 修道院は今、誰もいない。

 私は王城へ行くしかなかった……元はと言えば散華ちゃんが護衛をつけたせいでもある。

 因果応報……良い言葉だ。



「ということで泊めてください」

「……それは構わないが」

 

 王城、謁見の間で散華ちゃんは後ろの護衛隊を見る。

 どちらも微妙な表情をしていた。


 それはそうだろう。護衛の為に送り出したのが、戻って来たのだから……



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