メイドバトル
合宿三日目。
朝から何故かアリシア先輩が優しい気がする。
師匠は朝早くから礼拝に行った。午後には戻ってくるそうだ。
散華ちゃんは中庭で剣の稽古だ。先輩が相手をしている。
私は師匠とツヴェルフさんの部屋に来ている。師匠がいないのは好機だった。
ツヴェルフさんはエロ下着をプレゼントすると普通に着てくれた。
そういえば彼女は感情が希薄なのだった。そのせいだろうか?
「これでいいのですか?」
「良いのです!」
彼女もまた美しかった。
純真無垢な彼女はまるで天使!
それを着せ替え人形の様に楽しむ私。いたいけな少女を騙している気分です。
背徳感と罪悪感が半端ではない。見てるこっちが恥ずかしいよ!
ですが心を鬼にして耐えます。これもまた彼女の魅力を引き出すため。
それでも私がまじまじと見つめていると……
「恥ずかしいです」
そう言って頬赤らめ視線を逸らすのだった。
可愛いです!!
†
それから午後になると、ある問題が起きた。部屋で本を読んでいた散華ちゃんに報告する。
「メイドバトルが勃発してしまったのです」
「なんだそれは?」
「女の矜持をかけた戦いなのです。彼女たちにも譲れない一線があったのです」
「意味が解らん」
同行してもらったアリシア先輩が補足説明をする。
「クロとツヴェルフが喧嘩? みたいになったのよ」
「つまりそれがメイドバトルとやらの事か?」
「そうなのです」
「何か凄くどうでもいい気がするのは気のせいか?」
散華ちゃんは事の重大さが全くわかっていない様だった。
感情をあまり表に出さないツヴェルフさんが喧嘩ですよ?
「報告、連絡、相談……確か我々のパーティーの問題点と、どなたかおっしゃいましたよね?」
「ぐっ。ここでそれを持ち出すか」
「大丈夫です。既に対策を考えてあります。二人が争っているなら三人目を巻き込めばいいじゃない作戦。これ即ち、かの天下三分の計」
私は既にアリシア先輩と対策を考えていたのだ。
「……被害が広がるだけにしか聞こえんのだが。しかも嫌な予感しかしない」
「先輩お願いします」
「はい。ここに」
アリシア先輩から差し出されたのはメイド服。クロから借りてきたものだ。
「というわけで着替えてください」
「何で私が!?」
散華ちゃんは拒否しようとして一歩下がる。しかし、追い詰めるように私は前に出た。
逃がしませんよ!
「私が見たい……いえ、報告、連絡、相談、先ずはリーダーが手本を見せるべきです」
「……今、私が見たいって言ったな?」
「言い間違いは誰にでもあります。……ああ忘れていました」
私はさりげなくソレを取り出す。
エロ下着だ!
この好機を逃してはならない!天がそう告げているのだ!
それに散華ちゃんは初日に私を罠に嵌めました。
慈悲は無いのです!
「なんだこれは? まさか着けろと?」
「はい」
「これは関係ないだろう! なんだこのデザインは! 見てるだけで恥ずかしいわ!」
散華ちゃんはそう言ってそれを叩き落としました。
私はため息をつきます。
「やれやれです。何も分かっていない。では説明しましょう。天下三分の計の肝は戦力の均衡にあります。貴女はあの二人にメイド力で劣っているのです。つまりは戦力の底上げが必要なのです。」
「メイド力ってなんだ……それがこれと何の関係が?」
「着てみればわかります! いえ、着てみなければわかりません!」
「結局、分かってないじゃないか!?」
ふっ、正論で逃れようなど私には通用しません!
「往生際が悪いですよ。先輩やってしまってください。」
「ごめんね散華ちゃん。」
「こ、こら、服をぬがすな! や、やめっ!?」
散華ちゃんは可愛い悲鳴をあげた。
ゴクリです。
そして先輩に強制的にエロ下着に着替えさせられた散華ちゃんは……
そうだ! これだ! これなのだ!
エロ下着がそのままエロい!
確かに美しい。綺麗だ。彼の天上の美姫たちにも劣らぬ美しさ! いやそれ以上!
だが!
だがしかし!
「敢えて言おう! エロいと!」
散華ちゃんは顔を真っ赤にしてうつむいています。豊満な胸でエロ下着がはち切れんばかりです。
ん? はち切れんばかり?
私が散華ちゃんのサイズを間違うはずがない!
散華ちゃん以上に散華ちゃんを知っているのが私です。
伊達に幼馴染みをしているわけではないのです!
ならば考えられることは一つ。
「また大きくなりましたね……」
私がそう言うと、ビクッと散華ちゃんの肩が震えました。
散華ちゃんは恥ずかしそうに胸を隠します。
「うう……仕方ないだろ……」
「ついに巨乳から爆乳の域に達してしまったか。これがランクアップ! お祝いをせねば!」
「要らんわ!」
要らないそうです。
散華ちゃんは奪い取るようにしてメイド服を着てしまいました。
こ、これは!?
ロングの黒髪は青のリボンで縛ってポニーテールに。
メイド服はサイズが小さかったのかパツパツだ。
胸元が大きく空いているのはボタンが嵌らなかったせいだ。
「エロすぎる……流石、散華ちゃん」
「うう……なぜこんな辱めを……」
「じゃあ行きましょうか。目的は仲裁でしょ?」
アリシア先輩が当初の目的を言ってくれました。
「あっ。どうでもいいので忘れてた……」
私がそう言うとエロメイドに睨まれた。ありがとうございます!
そして私達はリビングへと向かった。
「おい、既にもう一人いるじゃないか!」
「うむ。意外なことに師匠は乗り気であった。しかも一番似合っている。さすが師匠」
そのメイドは清楚かつ優雅でさらに気品があった。
その所作、雰囲気、容姿すべて美しい。
これぞメイド!
いや、こう呼ぶべきだろうメイド長と!
まったく……エロメイドとは大違いだ! 見習って欲しいものです。
クロとツヴェルフさんも唖然としている。
「メイドバトル終結ね」
「うむ。師匠の一人勝ちか……」
既に天下は統一されていたのです。
「ソニア。貴様……謀ったな!」
まったく、エロメイドは私を喜ばせるのが上手である!
そんな中、メイド長が言った。
「皆さん集まったようですね。あら? 二人も早く着替えてきなさい。今日はメイドの修行ですよ。」
「えっ?」
「何ですと?」
私とアリシア先輩は困惑を隠せなかった。
「……フフフ、そうでなくてはな」
私の隣でエロメイドが暗い笑いを発していました。
まさか師匠にそんなスキルがあったとは……迂闊だった。
それから皆でメイド修行をして過ごした。
私は「ふむ。エルフメイドもありだな」と独り言ちるのだった。
夜になった。
メイド修行恐るべし。
もう身体が動かない。闇の王にも休息が必要なのだ。
ベッドへ倒れ込むとそのまま朝だった。
†
合宿四日目朝。
その日は雨だった。
私はベッドで「おおおおおお」と呻く。
体中が筋肉痛だ。メイド修行のせいだ。
筋肉痛を魔法で治してしまうと元通りにはなるが強くはなれないと言われている。だから魔法は控える。
アリシア先輩と散華ちゃんも筋肉痛だった。おそらく普段とは異なる筋肉を使ったからなのだろう。メイド力が無かったせいでもある。
なのでこの日は皆が本を読んで過ごした。
†
合宿五日目。
何とか筋肉痛も治まった。
皆で冒険者ギルドへ行く。
一週間休みでも働いている人は働いている。休日をずらしたりして対応しているのだ。
それは冒険者ギルドでも同じだった。私達は明日一日ダンジョンで戦闘訓練を行う予定だ。
ギルドへ着くと、何やら騒がしい。一人の冒険者の男が、若い職員に絡んでいるようだ。
「おい、兄ちゃん暁の団が帰ってこないって聞いたんだが? どういう事だ?」
「あの、ですね……それはここでは申し上げにくいと言いますか……。できれば中に部屋を取りますので……ちなみに暁の団とはどういった御関係で?」
「ああ、元団員だよ」
「そうですか……分かりました。ではこちらへ」
冒険者の男が奥の部屋へ入っていく。私はその背中を見て気づいた。
「あれは……グランさん?」
「ええ!? あれがそうなの? ちょっと怖そうだったわよ?」
私の言葉にアリシア先輩が驚いていた。
「何かあったようだな」
「そのようです」
散華ちゃんとツヴェルフさんは冷静だった。
「グランさんというのは?」
そういえば師匠には話してなかった。私は簡潔に説明する。
「前に私を助けてくれた冒険者さんです」
「そうですか。ならば今度はこちらが助けなくてはいけなくなるかも知れませんね」
助け合いというのは一方的に助けてもらうことではない。助け合う事だ。
師匠はそれをよくわかっている。
私は状況次第では師匠の言う通りになるかもしれないなと思うのだった。




