G~ゴ●ブリじゃないよ!~
※以前に投稿した事のある作品です。
――この世には人知れず、闇夜に紛れて存在する者がいる。
なんてカッコつけたことを言いますが、言うほどカッコいい作品ではありません。
むしろ下品です。過激的な発言あります。唐突さがあります。
もう、こんな時間だ。
俺の仕事の邪魔をするな。
ヘタレ野郎の出番なんざあるわけねぇよ、引っ込んでろ。
俺は仕事を早く終わらせたいんだよ。
「マジで、俺帰りたいんだけど!?」
ここは場末スナック。店内を見渡せば――えっ? 客がいないって? いるだろ。よく見ろ。俺がいるだろ、俺が。カウンターの席に。
「無料同然で酒を飲ませているじゃない。もう少し待ちなさいよ」
そう言うのはこの店のママだ。見た目は若作りをしているように見えても、よく見てみろよ。ちゃんと目元にカラスの足があるぜ。誰もが若い、だなんて言うが、俺は騙されねぇよ。
えっ? 帰りたければ、さっさと帰れだと? おいおい、せっかく短編小説でまだ少ししか出ていないというのに、もう終わりとは。全くもって、何の話だか分からなくなっちゃうじゃないか!
そう焦るなよ。焦っているのは俺の方だって言うのに。
「早く帰って、見たい深夜番組があるんだよ」
「知らないよ、そんなの。何のための契約をしたと思っているのよ」
ママは俺に一枚の書類を見せてきた。そこに書かれているのは無期限で退治をします、という文章を基に俺が契約した物だった。これを見せられたならば、俺はもうどうしようもない。黙って、ママの言うことを聞くしかない。
「分かったよ、分かった。やりゃ――いいんだろうけどよ、奴らはいつになったら現れるのかね? 待ちくたびれちまうよ」
「そんなの、真夜中に決まっているじゃない。それ以外の時間帯とかある訳無いでしょ。出る時あるかもしれないけどさ」
かあ、長い。これで酒が何杯目だって言うんだ。戦闘中に小便に行きたいってなったらどうしようもねぇというのに。なんて言えば、ママは我慢すればいいだけの話だっていうけど――無茶じゃね? 誰しも生理現象は来るんだからよ。いや、そう言う意味じゃなくて。
「ああ、もうっ。我慢ならねぇ!」
早く、俺は仕事を終わらせたい。その思いでカウンターから立ち上がる。それにママは怪訝そうな顔を見せてきた。そんな顔しないでよ。
「どこに行くのよ」
「決まっているだろ? トイレ行って、探してくる」
見たい深夜番組があるから仕方ないんだよ。許せ。
◆
俺は繁華街は好きじゃない。目がちかちかするからだ。残像が目に浮かぶからだ。でも、そこを徘徊――巡回する。奴らは案外こう言う場所を好むからな。
「いらっしゃいませー! 可愛い子が揃っていますよー!」
「そこのお兄さん、どうですか? 今、会員になれば十パーセントオフになりますよ」
誘いは来る、来る。お水系のお誘い。悪くはないが、俺はそんな化粧を盛りに盛って素顔とのギャップの激しい女は苦手だ。むしろ、ナチュラルメイクが嗜好。
というか、化粧の厚い女って――いや、言うのは止めておこう。怒られるのは嫌いだ。
誘いに乗ったリーマンのおっさんが風俗店へと入って行く。見た目からして、世帯を持っているようなお父さんであるが――嫁さんにばれたあかつきにゃ、大惨事だろうよ。ていうか、あそこ――ぼったくりなのに。
「お兄さん、いい子いますけど?」
奴らを探す俺の前に色のついたサングラスに小太りのパンチの利いた兄ちゃんが俺に話しかけてきた。手には看板すらない。と言うことは裏の店ってか?
「いい子なら、写真見せてよ。あっ、フォトショの奴じゃなくて、ガチの写真ね。じゃなきゃ、俺は認めないから」
えっ? 何? そっちじゃなくて、奴らを探しに行けって? んな、いないもんをどう探しに行けって言うんだよ。火の無い所に煙は立たんぜ。
「あー、悪いね。向こうの方に写真があるから選んでよ」
「マジか。でも今日の俺の所持金、あんまりないけどな」
マジで金が無いことは一番悩むなぁ。したいんだよね。ここ最近、扱ってあげていなかったからなぁ。あーあ、モテない男は辛いぜ。セフレが欲しい!
「お兄さん、カードは無いの? ウチ、カード払いもオッケーよ」
「カード、カードねぇ……」
しまった。前にキャバクラや風俗店に行き過ぎて、ママに没収されてしまったことを思い出してしまったぜ。故に、俺はカードすらない貧乏人だってことだ。つまり、これは『諦めて』退治をしに行けという誰かさんたちのお告げなのかもしれん。
しゃーない。
「悪いね、また今度にするわ」
俺は諦めることにしたのだが――小太りの兄ちゃんは許してくれなかった。体をがっちりと掴んで、是が非でも店へと連れて行かせようとする。
「お、お金無いなら――無人契約機で借りてこればいいじゃない!」
「な、何を!?」
冗談じゃない。借金をするなんて。いや、それ以前に兄ちゃんよ、放すかもうちょい別の所を掴んでくれよ。俺にはそんな趣味ねーから!
「ほら、ほらぁ! あそこ、ご無沙汰なんでしょ? やるべきだよ!」
うわぁ、引くわ。俺、引くわ。マジで引くから。
ていうか、このデブ力強い! ヤベぇ!
「は、放してくれ……!」
「ね、えヤロッやろうよ、やろやろやろやろやろやろ。
――ヤロウヨ」
兄ちゃんの目がおかしかった。何がおかしいってあれだよ、あれ。たまに猫やら犬の面白昼寝シーンの撮影がテレビでやっているだろ? あれで白目剥いて寝ている時の奴を投稿した映像があるだろ? あれっぽい。メッチャ白目遣い過ぎて超怖ぇよ。
――って、これよく見りゃ、あいつが 『憑いている』 じゃねぇか!
背後にはブリーフ一丁で色白の男がにやにやと俺のことを笑っていやがる。
「ネェ、ヤロウヨ」
端から見ると、強引勧誘から逃げようとしているカモにしか見えんだろう。パンピーには奴は見えやしない。この場では俺にしか見えないのだ。だからこそ、俺は――。
「やりてーなら、一人でしこしこオナってろ!!」
小太り兄ちゃんではなく、背後にいると●お君みたいな野郎――即ち、悪霊を殴る。悪霊退散! これが俺の力だ! 俺の使命だ!
悪霊は俺に殴られたならば、即効成仏してしまう。そんな体質を俺は持っている。ただの生まれつき、ただの天性的才能。――どう? 凄くね? 俺、最強じゃね? 武器も要らない、道具要らずのこの体で俺は悪霊を殴って日々倒しまくっているんだ! 一体八百円でな! 時給とかじゃなく。
そんで、正確には悪霊に触れたら成仏なんだけどね。憑かれた人では無く、悪霊本体なんだよね。
えっ? じゃあ、殴るんじゃなくて触れたらいいじゃんかって? 解っていないなぁ。これだからお子様は。そこはね、ほら――カッコつけたいじゃん? 誰もがそう、思うじゃん?
「ぐわぁあああああ!!」
と●お君は光の粒子となって、消え去ってしまった。成仏したということだ。
そして、兄ちゃんは我に戻ったようにして俺を変な目で見てきた。いや、何でそっちがそんな目で見てくるのよ。
「…………」
明らかに俺のことを怪しい人認定した様子で兄ちゃんはそそくさとネオンの町中へと消えて行ってしまった。その場には一枚のお札が落ちていた。これは悪霊を退治した際にその証拠としての物であり、俺はそれを拾う。そして、それをママに渡すのだ。さすれば何の未練があって、この世に留まっているのかが分かるらしい。
「よく、そんな訳の解らないことを書いてあるの読めるよな」
俺はスナックに戻ってママにそう言った。ママはお札を吟味しながら「元霊媒師だからね」と言う。
「んで、それは何の悪霊なんだよ」
「あれだね、初めて彼女が出来た男が女とセックスをする際に服を脱いだらブリーフで、でも、女はトランクス派の男が好きだと言われてフられた挙句に自殺した奴だね。憑依した人間には他人に対するセックスの誘いをさせるらしいよ」
「長ぇよ。嫌な悪霊だわ。つーか、何でそこで店の兄ちゃんに憑いていたんだ?」
「どうもあれだね、その別れた彼女の今の彼氏だからみたい」
「なるほどね」
胡散臭いが、それは事実なのだ。ママは元霊媒師であり、どんな悪霊であったかを知ることが出来る。
なんやかんやあって、霊媒師を辞めて今はこんな店を構えているんだ。客がいない、という訳じゃない。俺がいるからという訳じゃない。このスナックは普通に人間が来ていい所じゃないから。
店のドアが開き、ベルが鳴った。店内へと入って来たのは一体の幽霊。悪霊じゃねーぞ。
「あら、いらっしゃい」
ママはカウンターをすり抜けて入店してきた客の案内をする。
「ほら、あんたも手伝いなさい」
「あいよ」
そう言う俺も彼らと同様に悪霊じゃないが、俺たちは生きた人間じゃない。
成仏が出来ない幽霊であり、こうしてこの世に留まるしかないのだから。