世界改変者と世界創造者
この物語は「世界は俺たちを嫌う」シリーズの出発点とも呼べるものです。とある存在が一つの過ちを犯し、その非を認めないがために、シリーズが、物語が始まったとも言えるお話です。下記に紹介している作品はすべて単品で楽しめるはずです。
<関連作品紹介-「世界は俺たちを嫌う」シリーズ>
●世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う (完結済)
この小説のURL : http://ncode.syosetu.com/n2520do/
・断絶(完結済)
この小説のURL : https://ncode.syosetu.com/n8896ev/
・本作品「ごちゃごちゃ」より、「不知 前編」「不知 後編」
「世界改変者と世界創造者」
●世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う(完結済)
この小説のURL : https://ncode.syosetu.com/n8000ei/
●世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う(完結済)
この小説のURL : https://ncode.syosetu.com/n8888ev/
世界創造者。私は憧れを通して、初めて世界創造者に出会った。彼は私に「きみのような人物を待っていた」と歓迎をしてくれた。これまで存在していた中で、どの言葉よりも嬉しかった。もうここで存在がなくなってしまっても、心残りはない……いや、流石にまだまだやり残したことはある。ただ、とにかく私が愛してやまない世界創造者と出会え、下男として彼と共に過ごせることが喜ばしいのだ。
元々、私は世界創造者になりたかった。だが、紙に文字を書いたり、端末機で文字を入力したりして、主人公がどのような思いをしているか。いかにして、登場人物を動かそうか。そんな時代遅れとも呼べるような作品を作りたいのではない。それは、十万年前までに実在した低度文明の娯楽だ。この時代では世界そのものを創る。そして、その世界を一般に公開するのだ。自分で登場人物のストーリーは考えなくていい。矛盾が生じないようなルールや設定だけを創っていけば、あとは勝手にキャラクターたちが動いてくれるだけなのだ。私は以前、世界創造者の作品である『No.A-23007』を見て感激したことがある。その記憶は未だに新しいと思える。そこから一大ファンとなり、是非ともこのような世界を創ってみたいと考えていた。
あるとき、私の大ファンである世界創造者が下男を欲していたらしい。そこで、私はどうにかこうにか接触に成功したのである。間近であのすばらしい世界を創り上げた存在を見ることができるなんて。こうして、他愛もない会話をするだなんて。彼はただ単にすばらしい世界創造者ではなかった。なんとも慈悲深い存在であるのだ。これまでにおいて、贅沢ができなかった私に本物の肉や魚、野菜を分け与えてくれたのだ。自然食物の存在が危機に陥っているこの世の中。そうなったきっかけは高度文明が成長しきった八万年前だそうだ。私のような贅沢ができない貧民層は人工に作られた不味い保存食を口にするしかない。彼のような富裕層はかろうじて現存している、研究機関でどうにか作られている養殖ではあるが、天然に近い食べ物を食べていた。その隔てられていた壁すらも、彼は無視して私に施してくれる。彼が創造する世界に出てくる神様のような存在だ、と信じていた。
そう、神様のような存在だからと、私が望んでいた作品創りもきっと「大いに期待をしている」と仰ってくれるだろう。いや、思いたかったのかもしれない。現実では「きみに世界は創れない」と吐き捨てられたのだ。そう言われたとき、何も考えられなかった。世界創造者は続け様に「作品創造の素養がない」とはっきり言われてしまう。なぜなのか。こうして、膨大なルールや設定を時間の合間を縫って考えていたのに。私自身が否定されている気がした。とても悔しい。私だって、創れるはず。世界を、私だけの物語を!
それだからこそ、私は世界創造者がいない隙を見計らい、『No.A-23007』という世界を手に取った。ああ、美しき世界よ。私が大好きな作品よ。十万年前に流行した作品をモチーフにしたものがあの頃大流行した。大昔のデータアーカイヴを拾っては、そう言った作品を見るためだけに文字に触れる者もいるぐらいだった。流行とは繰り返すもの。それはずっと言われ続けられている。そのため、私はもう一度そのようなストーリーを創るため、世の中へと広めるため実行しようではないか。『No.A-23007』は私の手により、大幅に改良される。変更をするから、変に矛盾点が起きないように主役は私だ。私を神様と人々に思わせよう。最初から存在していた神様はもちろん、消した。善神である私と信者たちでこの世界の救世主として担うのだ。人間の勇者? 要らない。私だけが崇められていればいい。ああ、そうか。人間には魔術とやらが使えるんだな。よし、使えなくしてやろう。してはだめだ。そうなってしまえば、私は人間の優位に立てない。そう、私は『No.A-23007』改め、『No.A-23007+α』……いや、今からこの世界は『No.a-1995-23』だ。私は『No.a-1995-23』という世界の神様になった。この世界に生きる駒どもよ、私の意思に従え! 私が思い描く未来のために、新たな世界へと切り拓いていくのだ!
などと、悦に浸っていたのも束の間だった。改良した世界が世界創造者に見つかってしまったのだ。彼は多くの世界をこの世に生み出している。だから、一つぐらいはバレやしないと思っていたのが仇となった。貧民層であった下男がこういうことをしてしまえば、どうなるかはわかっていた。また元の生活に逆戻り。もうあんな生活はしたくなかった。何万年前とデータアーカイヴを漁る日々。人工食物で飢えをしのぐだけの泥や埃にまみれた地下生活。耐えられない!
それならば、と私に残された選択肢は『No.a-1995-23』の世界へと逃げるしかなかった。一部の者たちはこうして現実から逃げていたのだから。まさに現実逃避だと話を聞いて、笑っていたが……私も彼らと同等だったのかもしれない。確かにその世界へと行くことは誰でも可能だ。ただし、そこから現実世界に戻ることは不可能。一生をそこで過ごさなくてはならない。それでも構うものか、と私は『No.a-1995-23』へと逃避するのだった。流石の世界創造者でも二度と現実には戻れないこの場所まで追いかけてこようとは思わないだろう。諦めるだろう。
そのようなことを思っていたのは私の頭の中だけだった。世界創造者は本作品のルールや設定のバックアップを取っていたらしい。元に戻そうとして、私が改良した部分はぐちゃぐちゃになってしまったようだ。だが、『この世界そのものの存在』とやらはこちらの手中にある。結局は矛盾点が存在するだけの世界になるだけだ。それでもいい。おかしいところがあるならば、その記憶や過去を変えたり、消し去れるような道具を創ってやろう。その矛盾点に気付く者はいるかもしれない。見張るために、未来を視るための道具を創ってやろう。これらさえあれば、私はこの世界でも上手くやっていける。しかし、まだまだ問題は山積みだ。世界の矛盾点に気付くものをどうにかするための道具を創ったとしても、つぎはぎだらけのこの世界は私にとって好ましいものではない。おまけにバックアップから生まれた世界そのものとやらが現れる始末。まさに、この者こそ世界における悪と見なさなければ! 更に厄介なこととして、世界創造者は悪魔に私が創ったはずの道具を持たせているではないか! どういうことだ! バックアップから創られたものだから、性能はこちらより劣るものの、干渉できないのが痛い。彼らの未来の言行を見ることができないではないか。どうすれば、いいのだろうか。
考えに考え、答えを導き出した結論は一つだった。この世界を、『No.a-1995-23』を、『No.A-23007』をリセットさせること。そうするならば、『過去の歯車』と『未来のコンパス』が必要不可欠だろう。これらしか使えないのもこれまた痛手。ああ、そうか。文明だ! 現実では高度文明が存在したからこそ、現実とは違う作品の世界へと行くことができた。それならば、高度文明を人間どもに築き上げさせて、この世界がリセットできる装置を造らせないと。生憎、『この世界そのものの存在』とやらは使い物にならない。あまりに改良し過ぎた。いや、これを利用しても世界創造者が真似てくるだけだから要らない。捨てよう。真似されるくらいならば、捨てなければ。そして、あの二つの道具は人間どもに預けさせてみることにしよう。私はあの悪魔に見つからないようにして、リセット装置ができる文明まで築き上げさせてみる!
私は今に、この世界の神様となるのだ!
とある存在に虚をつかれてしまった。私はしがない世界創造者である。ただ単に世界作品数の多いだけの話。それでも、私が創り上げた世界にはどれも愛着を持っている。それだからこそ、下男として雇った彼に一つの世界をめちゃくちゃにされてしまった。確かに、彼には想像力がある。世界を創るだけの技量や発想力も兼ね備えている。いつかは一つの世界ぐらいは創らせてあげようと思っていた矢先にだ。あのとき、貶したのは彼が創ろうとする世界の時代背景が遅過ぎたから。ルールや設定を見せてもらった限りはいい線をいっている。だが、その世界観は多くの目に留まるかと思えば、そうはならない。時代遅れなのだから。だからこそ、以前に展示していたはずの世界を家に置いていたのに。戻しておいたのに。それすらもわかってもらえない。
それでも、諦めきれなかったのか。どの世界よりも私が愛着を持っている『No.A-23007』をよりによって削除するどころか、取り返しのつかない改悪をする始末。この世界にどれだけの時間を浪費し、人々に見向いてもらえるかの試行錯誤を繰り返して生まれた私の奇跡的な代表作なのに。絶対に許してはならない。
私はあらかじめしておいたバックアップを基に世界そのものである、人ではない存在。何物でもない存在、名なしを創った。いつの間にか創られていた道具も似せて創った。それを名なしに持たせた。
まだ別の世界だったならば、よかったのかもしれない? こんな改悪をしなければ、よかったのかもしれない? それは私の心に訊いてみなければわからないが、どの道許す気にはなれなかった。だから、名なしに命じた。彼を、この世界を改変してしまった者、世界改変者を『No.A-23007』から消し去れ、と。本来ならば、私が実際に『No.A-23007』へと降り立って、彼を粛正すればいいのかもしれない。だとしても、終わったら終わったで、私は現実世界に戻れなくなってしまう。そのリスクを背負ってまで追う気にはなれない。だが、作品を改悪した罪は償ってもらうつもりだ。
名なしよ、世界改変者をこの世界の存在から消し去ってしまえ!




