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6-01 孵化

 ***


 この出会いは、少年にとって意図しないものだった。


 半ば意地のような心持ちで一人町を歩いていると、町全体が慌ただしくなっていた。すれ違う人みなが、その顔を恐怖に歪めながら、少年の進行方向とは逆方向に走り出していた。

 少年がその異変の理由を理解した時は、すべてが遅かった。往来のど真ん中で、二人の人物が諍いを起こしている姿を目撃して、ようやく身を隠したのだ。咄嗟に身を隠したことで、件の相手に少年の存在が気付かれなかったのは、不幸中の幸いだろう。


 建物の陰から息を潜めながら見ると、一人の大柄な人物が気弱そうな女性の首に手を伸ばそうとしているところだった。男は狂気の笑みを浮かべ、女は涙を浮かべている。


 男の行動を見れば、即座に分かった。暴れている男は、悪魔人だ。


 まさか、このような状況の中で、悪魔人を目にするなんて少年は思わなかった。

 いつまでも子供扱いされるのが悔しくて、一人でも出来る、と意気込んで駆け出した果ての邂逅だった。


 現在、少年の周りには誰もいない。いつも困った時に駆け付けてくれる英雄は、声を張り上げたとて、すぐさまには来ないだろう。


 金色の髪をした少年は、特徴的な紅い双眸で、事件の行方を眺めていた。


 逃げるなら今の内だ。


 戦う術のない少年は、そう結論付けた。自分のような小さな子供が飛び出したところで、この事態は収束されない。

 大の大人でさえも逃げ出したのに、逃げようとする少年のことを誰が攻めるだろうか。


 正確な状況を伝えるために、少年はもう一度戦場を見る。少年は紅色の瞳を大きく見開かせた。


 瞼を固く閉ざす女の涙は、恐怖によって止まる由はない。更に一筋頬を伝っていく。


 その一筋の涙を見て、少年は自分の考えに鞭を入れる。


 少年が――、シンク・エルピスが憧れる青年は、今の状況を見過ごさない。絶対に。あの青年は、どこまでも英雄として生きていく。


 ならば、ここで見過ごすわけにはいかない。


 シンクはぎゅっと拳を握り締めると、覚悟を決めて一歩踏み出した。


「これ以上、手を出してみろ! 俺が許さねぇぞ!」

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