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4-08 纏わりつく性根

 ***


「ここが私達の密会場所、そして避難場所です」


 オッドに案内された場所は、薄暗い小屋の中だった。先ほどリッカ達が雨宿りに使った軒下よりかは雨を防ぐことが出来るが、やはり時折ポタポタと雫が滴り落ちている。


 雨雲のせいで光も遮られているため、中の全貌を捉えることに時間がかかりそうだった。シンクはリッカの服の裾を掴んでいた。このことをシンクに指摘したら、「べ、べ、別にビビってねーし!」と言いそうだが、今わざわざ口にする必要はない。


「町の探索から帰って来ました。皆、無事ですか?」

「ああ、我々は何事もない。オッド、隣にいる方々は?」


 オッドの声に、しわがれた声が答える。中にいる人達は、この薄暗い小屋に目が慣れていてリッカ達のことを正確に認識出来ているのだろう。


「こちらは、旅人のリッカさんとシンクくんです。雨を凌ぐためにダイバースへ訪れてくださったそうです」

「ど、どうも。リッカ・ヴェントです」

「シンク・エルピスだ」

「儂はコルス。何もない町ですまんのぅ」


 コルスと名乗った老人がリッカ達の近くまで歩いて来たことで、コルスの姿かたちを視認することが出来た。コルスは声の印象通り、体全体がしわがれていて、無造作に髭を伸ばしている。しっかりと栄養を取ることが出来ていないのか、コルスと同年代の人物に比べても、体の線は細い。そして、何より印象付けるのは、オッドと同じ――否、それ以上に深く闇に沈んでしまったような死んだ目だった。


 ダイバースの長であるコルス、そして町の若者であるオッドでさえも、希望を抱いていない死んだ目をしているのならば、恐らく奥にいる人物達も同じだろう。


「して、オッドや。町の様子はどうじゃった? 大きな雷が鳴っていたようだが……」


 形だけの挨拶を済ませたコルスは、リッカ達に興味をなくしたように、オッドへと報告を求めた。オッドは小さく頷くと、


「雷によってかは分かりませんが、ペシャルや悪人達に利用されていた建物が破壊されておりました」

「……そうか」


 コルスの反応は薄かった。淡々と話す口ぶりに、町の一部が破壊されたことへの感慨はほとんどないと言っても等しい。


「それで、今もう一人の旅人であるクルムさんという人に様子を見に行って頂いております」

「本当に雷によって建物が瓦解したのか、あの建物を根城にしていたペシャルがまだ生きているのか、もしくは新しい勢力がまたダイバースに来たかどうかということじゃな」

「はい」

「まぁ、どちらに転ぼうとも、儂らに出来ることは限られておる。事の成り行きを見守ろうではないか」

「分かりました」


 オッドとコルスのやり取りに、リッカは違和感を抱いた。


 今、町は問題に面している最中だというのに、二人は静観を貫くようだ。自分が暮らしている町だというのに、自ら動いて守ろうという意志が一切感じられない。

 ダイバースにも、そこで生きる自分達の身にも、まるで興味がないようだ。


「あの、お言葉ですが、自分達でも少しは動こうとか、ダイバースの問題が解決されればいいという思いはないのでしょうか?」


 気付けばリッカは頭に抱いていた疑問を口に出していた。


 そのリッカの言葉に、コルスは嘲笑するようにゆっくりと首を振った。


「私達の姿を目にして……、この体で何が出来るというのじゃ?」


 薄闇に目が慣れて奥にいる人達の姿を見ると、やはりオッドやコルスと同様に痩せ細った体に、生気の失われた瞳を持っていた。


 その姿に、リッカは二の句を継げなかった。


 ダイバースはスーデル街道の離れにある町で、世界政府からの関心もなく、悪人に利用されてしまう町だ。彼らには縋るような希望がない。ずっとずっと助けを求めても、悉く裏切られてしまい、信じることが出来なくなってしまったのだ。


「……で、ですが――」

「――このジメジメした空気も、そろそろ終わるから少しだけ我慢しろよ」


 リッカの言葉を遮ったのは、隣にいるシンクだった。シンクは雨で濡れた髪を、乾いた布でガシガシと拭いている。


「どんな雨でも絶対止む。どんな絶望的な状況だって、クルムなら絶対なんとかしてくれる。だから、いつまでも暗い顔してんなよ!」


 シンクは頭を拭きながら、当然のことを言うように言葉を紡いだ。


 幼いシンクの言葉が、どれほどダイバースの人々に刺さったのか分からない。子供の戯言だと思って、真に受け止められていないかもしれない。


 けれど――、


「シンクの言う通り、クルムが戻って来たら少しは状況が変わりますよ。人を助けることが大好きな人ですから」


 リッカもシンクに乗っかって、そう言った。


 しかし、誰もシンクとリッカに言葉を返すことはなかった。


 雨の音だけが聞こえる空間の中、リッカはクルムがいるであろう方角に目を向けた。

 自信に満ちて言ったものの、リッカの胸中はどこか今の天気のように不安が過っていた。けれど、気のせいだと言い聞かせるようにリッカは首を横に振る。


 きっとクルムなら大丈夫だ。クルムには町や人が抱える問題を解決出来る力を持っているのだから。

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