しょうねんのさんとしょうじょのよんと、それからだれか
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† さつじんき の どくはく そのに†
なんだか最近の世界は輝いて見える。それもこれもあいつのおかげだ。
あいつがいると生活に張り合いが出る。人を殺す時も、あいつの顔を思い浮かべながら殺すとよりいっそう爽快感がある。きっともう、俺の生活にあいつの存在は欠かせないんだろう。
ここまで入れ込んじまったら、あとはもうやる事は一つ。あいつをこの手で殺す事だけだ。
はじめて逢った時からそう決めていた。殺したくてたまらなかった。あいつと逢ったのは運命だ。もしかすると、あいつは俺に殺されるために生まれてきた、あるいは俺はあいつを殺すために生まれてきたのかもしれない。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああもう限界だ、殺したい。どうでもいい奴らを殺す事にももう飽きた。早くあいつの命をこの手で奪いたい。もう待ちきれない。
「だず、だずげっ」
黙ってろ豚。俺が本当に殺したいのはお前じゃないんだ。お前はいわばあいつの代用品……いや、お前ごときじゃ代用品にすりゃなれねぇな。お前は……そう、サンドバッグだよ。あいつを殺せなくてイラついてる俺のためのサンドバッグ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。サンドバッグが喋んじゃねぇよ。悲鳴でも上げてろってんだ。
そうそう、いい声で鳴くじゃねぇか。でもよ、やっぱちっと物足りねぇ。お前が泣こうが喚こうが痙攣しようが血を撒き散らそうがぽっくり逝こうがどうでもいいや。俺に必要なのは、俺が欲しいのは、あいつであってお前じゃねぇんだよ。というわけで死ね。もうお前に用はねぇから。
――――あーあ、早くあいつを殺してぇなぁ。
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――二〇一三年 六月十五日――
(俺は……何してんだ……?)
気づいたら身体が勝手に動いた。長年のひきこもり生活が祟ってすっかりなまった身体だとは思えないほど素早く動けた。まるで自分のものじゃないみたいだ、そんな他人事のようにすら考えていた。
慧はゆっくりと包丁の柄を握る。刃は血で赤く汚れていた。口から吐き出される息は荒い。興奮状態にあるのか、それとも別の理由からか、視界はぼんやりと霞んでいた。
包丁を握ったまま、慧は咲楽を見た。咲楽は怯えたような目をして自分を見つめている。彼女には、彼女にだけは、そんな目で自分の事を見ないでほしかった。
誰も彼もが自分にそんな眼差しを向けていた。それでも咲楽だけは普通に笑いかけてくれた。自分が何を言っても、彼女のその笑顔は揺らがなかった。それなのに。
「なんで……なんで、こんな事をしたんですか……!?」
瞳に恐怖の色を宿し、咲楽は震えながら問いかけてくる。彼女の身体は血で赤く染まっていた。
二人の視線が交差する。咲楽は泣いて、慧は笑った。
「……の……事が……好き、だから……?」
言ってから初めて気がついた。自分はこの少女の事が好きだったのだ、と――――
†
「えへへ。デートですね、佐久良君」
「ッ!? ちょっ……」
正面ではにかむ咲楽の顔を直視できない。慧は瞬間的に顔を赤くし、何も言えずに俯いた。
「じょ、冗談ですよ。今日は付き合ってくれてありがとうございました」
そんな慧の様子につられたのか、咲楽も赤い顔をして言葉を重ねる。ついノリで言ったはいいものの、彼女も恥ずかしくなったのだろう。しかし本人達がどれだけ言い訳しても、彼らの今日という一日は傍から見れば間違いなくデートだったのだが。
「そ、そんな……えっと、俺だって楽しかったし……」
顔を上げつつ目はそらし、慧はぼそぼそと返事をする。その言葉に嘘はなかった。それを聞き、咲楽の顔が嬉しそうにほころぶ。うっかりその笑顔を視界にいれてしまい、さらに心拍数が上がってしまった。それをごまかすため、慧は明後日のほうを向いて火照った頬を風で冷やす。しかし、六月の風はそれほど冷たくはなかった。
今日、慧は咲楽と一緒に、大型ショッピングセンターに併設されている映画館に来ていた。彼女が前から観たがっていた映画を観るためだ。
二人が行った映画館には、いわゆるカップルデーというものが存在する。特定の曜日に男女二人で映画館に足を運ぶと、チケット代が半額になるのだ。中学生の小遣いでは、わざわざ映画を観るために映画館に行くのもためらわれる。だが、割引を利用すれば半分の費用で目的が達成されるのだ。この日を利用しない手はなかった。
咲楽が気楽に誘えるような男子は慧しかいない。そこで、咲楽がおずおずと慧に映画鑑賞の誘いを持ちかけたのがつい先週の事だ。慧としても断る理由はなかった。外に出るのは面倒だし、映画自体にも大した興味は持っていなかったが、その程度では咲楽の誘いを断る理由にはならないのだ。むしろこちらから同行を願い出たいくらいだった。
結局、予想していたより映画は楽しめた。いや、咲楽と一緒にいるから楽しいのだ。今までの自分は一体何をつまらないと思っていたのかわからなくなるぐらい、咲楽のいる世界は輝いていた。もしかすると自分の世界に足りなかったのは、彼女の存在だったのかもしれない。咲楽と出会う前の世界には、当然彼女の姿はない。だから世界がとてもつまらなく見えたのではないだろうか。
宇宙人だらけの世界で唯一、咲楽は自分と同じ人間に見えた。彼女といると退屈しなかった。彼女と別れる時間になると、フィクションの世界に溺れていたころ以上の虚無感や喪失感に襲われた。どうやら自分の知らないうちに、信田咲楽という少女は自分の中でかなり大きな存在になっていたらしい。
「そ、それならよかったんですけど」
咲楽は照れながら視線をそらす。二人の間に何とも言えない沈黙が下りた。しかし居心地が悪いわけではなく、むしろ心地いい類のものだ。
それでも無言の空間が続くのはどうかと思い、慧は周囲を見渡す。映画を見終えた二人はフードコートに立ち寄って遅い昼食を摂っていた。土曜日だというのに、周囲に客の姿はほとんどない。それもこれも、例の連続通り魔殺人事件のせいだ。
警察は一向に犯人のしっぽを掴めていないという。最近は容疑者像が固まりつつあるらしいが、犯人に繋がる決定的な手掛かりにはなっていないそうだ。
しかしそんな事件の事など自分達には関係ない。慧はコーヒーを一口飲み、ちらりと咲楽を見る。咲楽はフードコート内に備えつけられていたモニターを見ていた。放送されているのはワイドショーだ。連続通り魔殺人事件の特集が組まれているらしい。犯人は警察や報道機関をおちょくるように犯行を重ねている、とコメンテーターが憤慨した様子で語っていた。
その途端、速報が流れてきた。どうやら、昨夜殺されたという少女の遺体が発見されたようだ。殺された少女は市内在住の中学生で、全身をめった刺しにされていたらしい。
殺された少女の通う中学校は、咲楽の通っている中学校だった。まさか被害者と知り合いだったのかと咲楽の反応を窺うが、咲楽は少し顔をしかめているだけだ。取り乱しているわけでもないし、直接的な知り合いだというわけではなさそうだ。同じ学校の生徒が被害にあった事に対して何か思うところがあるのだろう。
こういう時にどう言葉を駆けていいかわからず、慧は結局何も言えないまままたコーヒーを口に運んだ。
――二〇一三年 六月十五日――
友人その一の死体が発見されたらしい。そう告げるニュースはなんだかそれは遠い世界のどこかの話のようで、現実感がまったくなかった。
もとからそこまで親しかったわけではない。宿題のノートを写させなかったのが気に食わなかったのか、無視するだけではなくて軽いいじめのようなものも始まっていた。彼女が死んだと報告されたところで、心はぴくりとも動かない。
卑劣な連続殺人事件の被害者。そういう風に彼女の名前が何か痛ましいもののように、可哀相なもののように、哀れな犠牲者として語られている事について首をかしげはするが、感慨などは特になかった。ああ、これで学校に行きやすくなったなと、平和な学校生活が戻ってくる喜びを噛み締めるだけだ。
咲楽にとって彼女の死とそれを告げるニュースは、懸念が一つ減った程度の認識を与えるものにすぎなかった。あえて慧には語らなかったが、友人その一の存在はそこそこストレスだったのだ。
下駄箱に届く悪意の手紙も、机に刻まれた罵詈雑言も、ごみ箱に捨てられた体操着も、切り刻まれたノートも、トイレの個室に追いやられて被せられた水の冷たさも、慧の顔を見るだけで忘れられた。慧と喋ると癒された。だから咲楽は、慧に学校での事をあまり喋らなかったのだ。
いじめの事など慧には知られたくなかった。知られたら最後、佐久良慧という何も知らずに咲楽に付き合ってくれる少年はいなくなってしまう。慧にいじめの事を話すなど、まるで同情を誘っているようで嫌だった。
『――しかし犯行の手口の相違から、模倣犯による可能性が――』
アナウンサーの声を聞き流し、咲楽は慧を促して立ち上がる。咲楽が飲んでいたオレンジジュースも、慧が飲んでいたアイスコーヒーも、すでにグラスの中にはない。
えへ、と頬を緩ませながら咲楽は慧を盗み見る。人間離れした、生気を感じさせない整い過ぎた彼の美貌は、見ていてまったく飽きなかった。咲楽の視線に気づいたのか、慧の白い頬にほんのりと赤みがさす。咲楽も赤くなって目をそらした。
なんだかよくわからないが、いじめっ子は姿を消した。これで自分の平穏な生活をかき乱す存在はストーカーだけだ。
四月の終わりぐらいから、奇妙な視線を感じるようになった。最初は自意識過剰だと笑っていたが、ねぶるような視線は日に日に強くなっていく。こちらをじっとうかがう、どこかで見た事のあるような男の存在に気づいてからは、ストーカーは実在したのだと咲楽は身体を震わせた。
しかし実害がない以上、誰かに助けを請う事はできない。彼がストーカーだという明確な証拠もないし、親や警察にも相談できなかった。唯一悩みを打ち明けられたのは慧だけだ。学校で行われるいじめとは違い、ストーカーの視線は慧と一緒にいる時でも向けられてくる。咲楽が言わなくても、彼なら遅かれ早かれ気づいただろう。
ストーカーの顔には覚えがあった。かつてコンビニでぶつかった、脂ぎった顔の大学生風の男だ。やはりあの時感じた不快感は勘違いではなかったらしい。
咲楽がストーカーの被害を受けていると知り、慧はよく自分と行動を共にしてくれるようになった。そのおかげか、今までも直接的な被害は受けていない。それどころかストーカーを見かける回数も減り、慧と一緒にいられる時間が増えただけだった。不謹慎かもしれないが、それをきっかけに仲を深める事ができたので、結果的によかったのかもしれない。
今の咲楽は間違いなく幸せだった。この時間は誰にも邪魔させはしない。だから、そう、あれはきっと気のせいなのだ――――先ほどからこちらを見つめている、気味の悪い男など。
†
なんだよ、あの男。
なんで俺の天使の隣にいるんだよ。
ずっと前から目障りだった。俺の天使の周りをうろちょろしやがって。
そこは俺の場所だ。俺だけの場所だ。お前にその場所はふさわしくない。
もう我慢の限界だ。今までは大目に見てやったが、もう許せねぇ。お前なんて生きてる価値もねぇんだよ、クソガキが。
天使も天使だ。なんであんな男を侍らせてる? なんであんなに楽しそうに笑ってる?
その笑顔は俺だけのものなのに。その笑顔を俺に向けた事はないのに。どうしてあいつに。どうしてあいつが。
許せない。許せない。許せない。
許せない。許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が尾れが俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が於レガ俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が雄れ画俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺ガ俺が俺が俺がオレが俺がオレが俺ガ俺ヶ俺ガ俺ガ俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺ガ俺が俺が俺がオレが俺がオレが俺ガ俺ヶ俺ガ俺ガ折れがオレが織れが俺がおれがオレガ俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺ガ俺が俺が俺がオレが俺がオレが俺ガ俺ヶ小れが俺ガ俺ガ折れがオレが織れが俺がおれがオレガ俺が俺我おれが俺画おれガオレが俺が俺蛾織れが俺が男レが居れが俺ガガ蛾ガガヶ我ガが牙ガが画香ががが雅がガ賀ガが駕ががガガ蛾ガガヶ我ガが牙ガが画香ががが雅がガ賀餓が臥がが香ガ峨ガガがガガ河ガガ瓦芽俄ガガガががが雅がガ賀ガが駕ががガガ蛾ガガヶ我ガが牙ガが画香ががが雅がガ賀餓が臥がが香ガ峨ガガがガガ河ガガ瓦芽俄ガガガがああああ会在あああああぁぁあああァァァあああ会在唖逢ああ合或吾あああああ錏錏痾蛙遭ァ嗟錏痾蛙遭嗟有合或吾会在唖逢あああ唖逢あアアああ娃婀堊有ァァァ合或吾会在唖逢娃婀堊痾蛙遭あああ唖逢あアアああ娃婀堊有ァァァ合或吾会在唖逢娃婀堊痾蛙遭嗟錏遭嗟有合或ああ婀堊痾蛙遭嗟ああアあ吾会在唖逢娃婀堊あああああああ嗟錏痾蛙遭嗟有合或ああ婀堊痾蛙遭嗟あああ吾会在唖逢娃婀堊ああ痾蛙あああああ有合或吾会在あああああああ唖逢娃婀堊あ会在唖逢あああ合或吾あアアアあああ唖逢あアアああ娃婀堊有ァァァ合或吾会在唖逢娃婀堊痾蛙遭嗟錏痾蛙遭嗟有合或ああ婀堊痾蛙遭嗟あああ吾会在唖逢娃婀堊ああああああああああああッ!
こ
ろ
し
て
や
る