1.Birth.[誕生]
今までは途中でやめたりしてましたが、今回はできる限り最後までやりたいと思っております!最初の相関図と最後の相関図がちょっと変わってくると思います。
ーAliuesー
1.Birth[誕生]
"この世に神はいない"
聞けば誰もがうなずく話だ。そう、神なんていない。だがそれは"元から"の話だ。だからこそ彼は言い放った。
「神がいないなら、誰かが神になればいい。そのために俺たちがいる」
そして、彼らはその日、人々の神となった。四十五秒。それが彼の現れてから神となるまでの時間だった。とあるショッピングモールにあるエスカレーターが三方に流れるホールの大型の時計はそう訴えかけた。
そのホールには来客者たちが集められ、身を深く沈めていた。周囲には混沌が浮かんでいる。その周りには武装した黒いガスマスクの集団がドーナツ状に辺りを占領していた。
「今、言ったとおりだ。国に身代金を請求しようとしたが、おまえたちは国に見捨てられた。まあ、予想通りだったがな。ってことで、おまえから殺させてもらうぜ」
一人のガスマスクの男に銃口を指されたその女はぐっと目を瞑った。
銃声は無情なままに轟いた。しかし、誰も気づかなかった。銃声が二発響いていたことには。
撃った男も銃を向けられた女も武装集団すらも耳が反応したのは、弾丸が女の腹ではなく、床に突き刺さっていることに気づいてからだった。しかも、それは二つだった。その瞬間、上から何かが降ってくる。落ちてくると言ったほうが正確かもしれない。いや、そんなことよりこれは人だ。この状況は降ってくるとか落ちてくるとかではない。
舞い降りる。
これが正解と言ったところだ。やっと情景描写がつかめたその女は命を救われたことにも気づかず、ただ唖然とする。それは、尻を垂直に落として腰を抜かせた男も同じだった。
舞い降りた黒いフードを被ったコートの男は女の目の前で立て膝をつく。そして、身体を起き上がらせながら口を開いた。
「こんな公共の場所で集団率いて銃弾をぶっ放すとはさすがなもんだなあ。でも、言っとくけどその銃弾、誰にも当てさせやしねえぜ」
声の主は思わず床に手をついた男に向かって睨んだ。そして、彼は密かに腰のベルトの脇に手を当てる。
(もう少し待っててくれ。おまえの出番はすぐにくる。)
ホールの大型時計の細い針は『十二時』を指した。
零秒。
彼は右腕の袖に手を忍びこませると、すぐに手を下ろした。何かのボタンを押したようだ。
ドーナツ状の武装隊員たちは状況を把握した瞬間、マシンガンでフード男目掛けて一斉に射撃を開始した。
すると、すばやく腰を低く下げ、どこからともなく向かってくる銃弾を避けた。両腰のベルトから機関銃を取り出し、低い姿勢を保ちながら二刀流で、前方、後方、さらには左右に向け何数もの弾を撃ち出し始めた。次々と倒れゆく黒い影。
五秒。
上からも降り注いでいることに気づいた。どうやら二階にもいるらしい。
「こりゃ、大勢に歓迎されちまったなぁ」
一時的に柱の裏へと身を隠す。柱の影から出ようとすると、目の前でナイフを刺そうとするさっきの男が目に入る。
「これで終わり…!」
首を振って刃を退け、大きく開脚した股に滑りこんだ。
「何…!?」
間を抜け、後ろから背中に向けて銃を奮う。
「隙をついてもそんなもんか」
十五秒。
後方で声がした。
「そんないつまでも、ヒーロー気取って生き延びられると思ってんじゃねぇよ!」
ガスマスクを外し、放り投げながら言う。金髪の荒いショートヘアだ。腰からナイフを抜き、走り出す。
「やめろ、駆け寄ってからの交戦は無理だ。銃に切り替えろ、レイラン・アスカルト中尉」
(おそらく、さっきの行動からしてナイフは持っていないはず。これならひと突きでノックアウトってもんだ。)
レイランと叫ばれた男は被りっぱなしの仲間の注意を聞きいれず、ただただ自分の読みを突き通すだけであった。レイランはこちらを気づかずに複数の隊員と競り合っている彼の後方から駆け寄り、床を蹴り上げた。
「残念だったな、敵はこっちだよ!」
レイランはナイフを逆手持ちに振りかざした。刃は一切速度を抑えることなく彼の肩へと向かった。しかしその瞬間、聞こえるはずのない物質同士がぶつかるような音が金髪男の耳を揺らした。金属音だ。同時に音源の先に鋭いもう一つの刃が見えた。
「……てっ…鉄刀だと…!?まさか、さっき手を腰に置いてたのって…」
そう、彼は金属の長剣を手にしていたのだ。いや、違う。彼は最初から用意していたのだ。
「読みが甘いなあ、パツキンボーイ君!」
その敗因を理解した途端、もう一度金属音がなった。彼と衝突の反動で立ちすくんだレイランの横脇の床に何かの刃先が回転をかけながら突き刺さったのだ。
「…?」
レイランは口が塞がったまま、音のする方に目をやった。そして、自分の手元に視線を戻す。逆に掴んだままのナイフの刃は異常な変化を遂げていた。三分の二。いや、五分の四も縮んでいる。
三十秒。
「てめぇ、よくも……」
男の威圧に唇の端を頬に寄せる。
左腰に手を当てながら足を静かに立てる。もう一度床を強く踏みつけた。取り出した二本目のナイフの先は自然と彼の方を向いていた。
「クソがァァァァ!」
彼は長剣を横に振りかぶった。そして、刃は厚い風を切り裂いた。そのとがっ側面が偶然にもナイフに当たり、レイランはホールの奥の廊下脇まで飛ばされてゆく。男は崩壊した壁越しに血まみれだった。意識を失いつつも、かすかに息を残していた。しかし、動くことなどできはしない。
(やっとこれでおまえも初陣ってところだな。いや、一年ぶり…かもな。)
彼は心で語りかけた。身体を飛ばした先に向けられたままの剣に向かって。
三十五秒。
金髪男との交戦で手も足も出なかった隊員たちの姿が目に留まる。
(おっと、まだ仕事が残っているようだ。さっさと終わらせちまおうぜ。)
彼は手の空いていた左手に機関銃を加えた。その行動にのこりの八人は一気に襲いかかる。しかし、叶うわけがない。横にフリップを掛けながら陣の中心に飛び込む。そして、数えきれないほどの弾丸をコンパスで円を描くように撃ち放ち、たった一本の長剣で、複数もの腹を切り刻む。
(お疲れ様。)
心でつぶやきながら剣をさやに戻す。その時には、赤色の液体を着た襲撃者たちが彼の足下の周りで倒れこんでいた。そして、男はフードを取りながら呟いた。銀髪を後ろで縛っている若い男の像が女の目を差す。
「俺の名はAliues。この世の腐った常識を覆す神だ」
(アリュエス…。それがこの人の名前…。)
目の前で命を救われた女は文字を脳裏に焼きつけた。もうきっと忘れることはないだろう。そう思った瞬間だった。 紙のようなものが落ちてきた。半分に折られたメモ用紙だ。拾い上げ、不思議そうに紙を開く。
[この言葉をあんたに捧ぐ。『俺は【Aliues】であると共に【シン】だ。』それと、あんたの名前を教えて欲しい。]
答えがはっきりしない文字だ。理解はできなかったが、自然に口がつむいだ。
「私は杏里・エイル・クレイマン」
二つの名前を持つ男はそれを耳に抑えると、最後は口で伝えた。
「覚えておくよ。あんたが俺を信じるまで」
(信じるまで?私はもうすでに感銘をうけているほどというのに…。一体、どういうことなの?シン。)
アンリは頭の中を整理することはできなかった。これほどまでに『神』だと敬ったとしても、彼の言っていることは何を表しているのかわからない。ましてや、なぜこの場所に駆けつけることができたのかということも。それに、彼は被害者以外の他人からすれば、彼はただの人殺しだ。『神』を『死神』と言うヤツも出てくるだろう。でも、私はそうは思わない。思いたくもない。命を救った恩人を『神』として見ることに他ないのだから。
アンリは自分にそう訴えた。しかし、アンリは一切、思いもしなかった。彼の言ったことが、自分の行き先を伝えるものになろうとは。