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孤児で奴隷で女の子  作者: おがわん
第一章 僕の学園生活?
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06.ここまでの武志君の感想

※ルームメイトの武志君視点のお話です。

 僕の名前は小春 武志。一応12才ってことになっている。出生証明書もないために拾われた時からの逆算でしかない。苗字だってテキトウだしね。しょうがないね。


 僕は現在、私設の孤児院と呼ばれるところで生活している。生活というか奉仕活動という方がしっくり来そうではある。

 現代においてこんな施設がある訳ないと思うのは別に構わないが、実際にここにあるのだからしょうがない。僕だってこんなところから出て行きたいと思うが、警察の一部と癒着しているらしく、どこかの派出所に駆け込めば逆に拘束されにいくようなものだというのは過去の先輩の行動で学習済だ。ちなみにその先輩は『別のところに移動した』らしい。冗談半分に『転校したってさ』と言われたときはどうしようと思ったものだ。

 さて、こんな暗い話をしようと思った訳ではない。


 最近になってもっとも気になる話題は、僕と同室の優君の事だ。


 彼は同い年で体格も近いことがあって、よく一緒に行動していた。最初は正直あんまりいいイメージは無かった。なんというかこう、いじめてオーラ? 第一印象は「なんとなくイヤ」ってだけ。でもペアで行動させられることが多くて仕方なくって感じだった。


 あまりしゃべらないのは昔から変わらない、基本的に必要最低限のことしか話さない子だった。最初はえっと、沈黙が重い?っていうのかな。そういう気分だったけど、だんだんとだったけど一緒に色々と仕事をしていくうちに印象が変わってきた。なんというかよく見ているのだ。掃除を始めようと思った時にモップを持ってきてくれたりとか、雑巾を絞ろうとした時にバケツの水を変えていてくれたりとか、そういう気配りをさりげなくしてくれる子だった。それだけだったら、物静かな変わった隣人で終わっただろう。


 例えばだが、お昼を食べるときに優君だけ目の敵のように狙われるようになった。おかげで僕のパンが取られることが無かったのだ。優君のは無くなったけど。それから毎日一緒に行動するようになって、僕へのいじめ被害は格段に減った。逆に優君はよく狙われていた。その分彼の生傷は絶えなかったんだけど。


 僕は最初思った。『このまま優君をイケニエにすれば僕は無事でいられる』って。


 後から考えると最低の行動だと思う。実際そうなんだろう。でもさ、よく考えて欲しい。何も知らない子供が、自分を殴る手が減ると知ったら、その手段に頼るのは当たり前だと思うんだよ。


 でも優君は僕を恨もうとか考えてもいなかった。逆に僕と一緒の時に誰かが絡んで来たりした後で「騒がせてごめんね」と謝ってくれるくらいに。


 そう、優君は優しかった。


 余計な敵を周りに作らないためのものかもしれない。実際そうなんだろう。と思う。確信はないけど。でも、周りの事を気にかけてくれている事実に代わりはない。彼は名前の通りに優しい子だった。もしかしてあまりしゃべらないでいたのも、誰かと仲良くしていると一緒に苛められかねないと考えていたのかもしれない。考え過ぎかもしれないけどね。


 でも僕は彼と一緒にいたいと思うようになった。被害を受けないとかそういう理由じゃない。彼の事が気になって仕方がなかったんだ。

 彼と一緒に食事を取ることが多くなり、彼の被害が少しでも減るように、食事が減ってしまった時は僕の分を一緒に食べたりした。帰り道に少しでも不良に出会わないようにするルートを一緒に探したりもした。たまにコンビニで買い食いなんかしたこともある。こんなことしかできない自分の無力さが悔しかった。いつまでも抜けない棘のように僕の胸にはチクチクとした罪悪感みたいなものが居座り続けている。



 ある日の夜、優君は外に出かけた。どうやら不良グループに呼び出しを受けて仕方なしにということらしい。どうやら彼らの1人の服を汚してしまったから謝りにいくそうだ。

 どう考えてもロクなことにならない上に、どう考えても不良グループの不注意が原因だと思うが、一部でも非があることを認めているので謝るくらいはしておこうってことらしい。

 僕は不安だったけど、一緒についていくことはできなかった。優君が部屋を抜け出したあとを誤魔化すため、というイイワケで付いていくだけの勇気が無かったのだ。僕は弱いから。


 そして2時間くらいして優君が帰ってきた。


 フラフラでボロボロで、疲れ切っていた優君はそのままベッドに倒れ込んだ。

 きっと何か大変なことがあったのだろう。こんな状態の優君は初めて見る。そう思って毛布をかけてあげた。その時にちょっと違和感を感じたんが、気のせいだと思っていた。


 起床の時間の5分前。既に起きていた僕は、未だに目覚めない優君を起こそうと声をかけた。


「優君。もう起きないと蹴られちゃうよ?」

「……ん、う……ん……」


 少しだけ見えていた顔を隠すように毛布を頭から被り直し、まるで猫のようにうずくまる。普段なら直ぐに起きてくる彼だが、昨日の疲労が抜けきっていないのだろう。甘えるような声が普段とのギャップも相まって何かイケナイことを想像させるかのようだ。


 僕は心を鬼にして、毛布をめくりあげ……

 た時に感じたのは「なんかいい匂い」。

 あれ? 優君ってこんないい匂いしたっけ? 甘いというかくすぐったいというか。


「…む、むにゅ……」


 唖然として固まっている僕の腕から寝ぼけ眼で毛布を奪い取り、また丸まってしまった。

 そのあと起こしに来た先輩からの蹴りを受けて目を覚ました彼は、いつもとは違った印象を受けた。なんというか、なんというか、なんというか、なんだろうね? 目が引きつけられる感じ? なんか別人のような。そんなイメージ。


 漠然とした印象が僕を捉えて離さない。でも問い詰めるようなことはできなかった。何かが変わってしまうような気がして。

 とにかく手早く支度を終えて外に出る。ちゃんと間に合わないとそれこそ大問題だ。



 新聞配達は区画が変えられてしまったので今朝はそこで別れることになった。

 分かれた後も、この気持ちはなんだろうとずっと考えてしまった。



----------



 学校も終わって帰ってみても、優君はまだ戻っていなかった。本当なら帰り道で合流しようと思っていたんだけど、今日は風呂掃除の担当だったから早く戻っていた。お風呂は早く終わらせればそのまま入ってても文句を言われにくいからだ。優君、お風呂好きだし。


 張り切って終わらせようとがんばっていたところを優君が合流してきた。どうやら今日は酷い目にあってないみたいだ。どこにも赤く腫れたりしている様子がない。よかった。


 一緒にブラシを振っている。それだけでなんだかドキドキしてきた。昨日からなにか変なのだが、優君の周りはいい匂いがする。何か香水でも付けているかのような…… そんなの付けてたら「どこで盗んできやがった?」と殴られるに違いない。その後で取り上げられるだろうけど。 って優君がそんな事しないのは知ってるし、いったいどういうことなんだろう?


 浩一君も何か落ち着かない感じでチラチラと優君のことを見ている。小声で「俺は変態じゃない俺は変態じゃない俺は変態じゃない」と呟いている気がしたけど、いや君は間違ってないよ? ちゃんと男の子だよ? 優君が昨日からなんか変なだけで。ってこんなこと言うと優君に嫌われちゃうかな? それはヤだな。


 そのまま落ち着かない様子で浩一君は掃除を終わらせて風呂場から出て行った。いつもなら一緒に入っていこう! とか言ってくるのになんだか調子も気分も悪そう。何もないといいんだけど。


 廊下ですれ違ったりでもしたのだろうか。坂東さんが入れ替わるように入ってきた。彼女はこの施設でも珍しい『優しい人』なので人気がある。どうやら可愛い子が大好きな様子で可愛い女の子に目が無いという点を覗けばとてもいい人だ。


 うん。優しい人なんだ。普段はとても。優君にも辛くあたらない貴重な大人なんだけど、今日に限ってはやたら絡んでいる。この感じは新しい女の子が入ってきた時のような、後で聞くと「なんだかとても恥ずかしいことをされて困った」という事になりそうだ。ここは僕が頑張らないと……!


「ば、ばばんどうさん!」

「あら?武志くんどうしたの?」


 優君の体をまさぐり、いやいやタオルで拭きながら、拭けないところは脱がしにかかりながらとても上機嫌に坂東さんが答えた。声が明らかにおかしいんだが、それに構っている場合じゃぁ無さそう。優君が顔を真っ赤にしてとっても大ピンチだしっ!


「ほ、他の子にも声をかけてこないとっ! あとで女子にも声かけとかないと、お、怒られちゃいますし!」


「そうねぇ……でもほら、今なら優君を堪能できちゃうでしょ~? なんだかスベスベよねぇ……それにしても優ちゃんてこんないい匂いだったかしら? なんだかとってもペロベロしたくなるわぁ……」


「ひぃ!? や、やめてよ坂東さん!」


 優君の悲鳴にも似た叫びが風呂中に響く。なんだか声を聞いているだけでとても恥ずかしい気持ちになってくるのはなんでだろう?

 ……いやいや! そんなこと考えてる場合じゃない!


「こんな騒いじゃうと、後から怒られちゃいますからっ! 坂東さんだって出入り禁止喰らっちゃいますから! あの時だって随分大変だったんでしょ!?」


 あんまり女の子を可愛がるので坂東さんは出入り禁止処分を下されそうになったことがある。なので今は男子担当なのだが、こんな暴走をするような人でもなかったはずなのに。


「……そ、それもそうね。ちょっと次に問題起こすと色々面倒が。あぁでも優ちゃんが可愛いのがいけないのよ? 間違いなく優ちゃんの可愛さがいけないんだわ。これは是非とも解明しないといけないわ。だってこんなに可愛いんですもの!」


 となにやら上の空になってぼんやりしていた坂東さんの隙をついて、優君の手をひっぱりつつ風呂場から逃げ出した。


「あぁんまって優ちゃん! お姉さんもっと優しくするからぁ~!」


 そして坂東さんは一か月の出入り禁止になった。皆から坂東さんの病気が再発した理由を聞かれたが、なんと説明していいのか解らないのでそのまま『解らないよ』と答えるしかなかった。



----------



「ご免ね武志君。なんだか面倒に巻き込んじゃって。お風呂入りたかったでしょ?」


 いつもに比べて随分と口数が増えたなぁと思いながら、優君にタオルを渡す。風呂場から逃げ出す時に、必要な気がしてとりあえず持ってきておいた。


「いいさ、坂東さんがああなっちゃうとどうしようもないからね。それに優君だって困ってたでしょ?」


 僕だって優君が困るのは嬉しくないしね。なんて言いながら僕らは部屋で身体を拭いていた。

 いつも髪を降ろして目線が出ないようにしている優君だけど、髪が濡れているせいもあって今日はクリッとした目がよく見える。いつもは気にしていなかったけど優君の目ってなんだかキラキラ輝いて綺麗な青なんだなぁ。


「……僕、なんだか日本人っぽくないでしょ? 普通の目の色がよかったなぁ……」


 周りと違うっていうのはそれだけでいじめの材料になる。優君は小さくて、髪の色も薄いし目の色も青くて日本人離れしている。普段なら気にしないんだけど、こんな状況だと妙に可愛く見えて仕方がない。水も滴る可愛い子だよ優君。


「なに言ってるんだよ恥ずかしいなぁ……」


 自分の容姿が褒められることなんてなかったんだろうか。普段からは想像もできないほど狼狽して顔が真っ赤だ。それが妙に可愛らしく見えてしまう。でも早く乾かさないと風邪を引いちゃうからね。

 腕を動かすたびに、飛び跳ねる水の滴がキラキラと輝いて彼の可愛さを引き立てる。まるでこの粗末な部屋に落ちてきた輝く宝石のような。そんな印象すら抱かせる彼に僕の目線は釘づけになりそうだ。見ていることに気が付いて更に顔を赤く染め上げる。そんな様子すら可愛く見えちゃうんだからもしかすると僕はもう病気なのかもしれない。後でお薬をもらいに行こう。


 頭を乾かし、服を着替えるといつもの優君に戻っていた。優君はベッドの反対側でカーテンを閉めて着替えていたのは僕がじろじろと見すぎたせいだと思う。うん。どうかしてたんだゴメン。



 夕食の時に異変が起こった。優君がいじめられなかったのだ。


 坂東さんの出入り禁止が発表され、同じくボランティアの近藤さんが先ほどの暴走を謝っていた。その様子を見ていた女子から慰められていたりした。更に何人かの女子が一緒に食べようと優君を誘っていた。心細いのか優君が袖を引っ張るので僕も一緒に夕食を取ることになった。ハッキリ言って女子から相手にされていないのだが、あれだけの女子バリアがあるといじめようと近づいてくる奴は誰もいなかった。


 なにやらベタベタと体中をまさぐられそうになっていたりと大変そうではあったけど、女子の優君に対する評価がかなり変わった。『坂東さんが我を忘れる程』というのが気になったのだろう。だがその場で着替えをさせようとしたところで引き留められた。当たり前だがここは食堂であってどこかの洋服屋やコスプレ屋じゃない。



 夕食を終えたあと、女子の部屋にお持ち帰りされそうになったところをなんどか強引に引っ張って戻ってこれたのは奇跡だと思う。女子も本気ではなかったんだろうが、明日以降も無事に済むかは自信が無い。


 無事部屋に戻ってこれた時、二人して床に座り込んでため息をついてしまった。全く同時にだ。つい笑い合ってしまった。


「今日はホントごめん。なんか色々変なことがあったせいかな」


「本当だよ。どうしたの? 何かあったとは思ってたけど、もしかして昨日の呼び出しの時に何かあったんじゃない?」


 間違いなく何かあったんだろう。でも優君の口から説明されることはなかった。


「……僕自身も何が起こっているのかよくわからないんだ。でも、まぁ次からなんとかできるようにするよ」


 そう言ってニッコリと微笑んだ。輝くような笑顔が眩しくて。

 釣られて僕も笑っていたが、頬の熱さだけは隠せなかった。



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