03.とにかく能力決定だ。
※初日のみ3話の連続投稿しています(3/3)。4話以降は一日一話(午前11時)の予約投稿の予定です。
ズキズキ痛む体はとにかく気にしないことにする。慣れてるっちゃ慣れてるのでまぁそこらへんはほっておいて、とにかくステータスとやらを決めてしまおう。
ぶっちゃけこれ以上痛くしてほしくないんだけど、どうせ痛い思いをするくらいなら自分で考えて覚悟決めてからにしたい。いやほんとは痛いのはやめてほしいんだけど。
「とりあえず体力は5まで上げといた。やっぱ反動で大きいわね~これ以上上げたいけど、もしかすると無理かもね」
「へ? ボーナスポイント割り振ればいいんじゃなんですか?」
随分マヌケ面で聞いてしまった気がする。ゲームっぽさ全開すぎてゲーム的にホイホイ決められるんじゃないかと思ってしまったんだけど、そんな都合よくいかないらしい。
「いじれる数値はSTR、CON、DEX、INT、POWくらいね。APPとLUKはボーナスポイントが他の10倍必要なんだけどね。まぁ女の子だしこんだけあったらちょっとは見た目良くした方が得とね。私的に。んじゃぁちょこちょこっと。せっかくだしガッツリいっときましょう。ほれ16! う~ん今から楽しみね!」
……会話についてくので精いっぱいなんですが。どうしたらいいんでしょうかこれ?
「しっかし、こんだけポイントあると贅沢できちゃうわよね~、普通こんなことできないし。貴方これからの人生得するわよ? それにしてもこんだけボーナス余ってるってのが信じらんないわね。もしかすると性別決定時のボーナスでも入ったかしら? この年齢になるまで未決定だとそこそこ有利に働くのかもしれないわね。まぁそれまでの人生がかな~り不利だったように思えるのは気のせいじゃないかもしれないけど」
マゾプレイに対するボーナスでしょうかね? そこらへん考えててもどうしようもありませんが。
「……って貴重なポイントでAPP取得させられました!? なんですかそれ!? 訳に立ちませんよそんなの!」
顔面蒼白である。何が悲しゅうてAPPなんぞ取る必要があるのか。他の数値の10倍かかるってことは、仮に1ポイントで10必要だとしたら、むちゃくちゃ無駄遣いじゃないですか。他にいくらでもいいスキルあるんじゃなかろうか?
「何言ってるのよ。貴方いままでAPP6だったのよ? たった6。『視界に入るだけでいじめられる』ってレベルよ? そんなの連れて歩ける訳ないじゃないの。それにたった100ポイントなんだしケチケチすんじゃないわよ」
「すいません全部で252ですよね? つまり半分近くですよね? そんだけあればいいスキル取り放題ですよね?」
僕は涙目でそういった。
「あ、スキル結構揃ってるのね。凄いわね~、え~っと、『苦痛耐性 Lv1』と『環境適応 Lv1』 『魔術の才覚』に『サバイバル Lv2』とか他にも色々…… ってなんだ経験積んでる分が今になって反映された感じね。やっぱ設定完了してないとスキル習得が難しいのは本当なのね」
うわこっちのいう事聞いてねェ。
もう何がなにやら。とにかくその『揃ってるスキル』とやらを見せてもらおう。
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ユウ・ユキヅキ 性別:女 レベル:1 年齢:12
HP: 27/46 MP:112/112
STR: 4 CON: 5 DEX: 8
INT: 9 POW: 8 APP:16 LUK:15
称号 :[捨てられたモノ][学生][学生アルバイト][自動修復サンドバッグ][おやつ係(笑)][自己犠牲(笑)][次元踏破者][異邦人][被従魔契約(主人:フィリーオ・フォン・エストン)]
スキル:[異界語(日本語)][苦痛耐性 Lv1][精神耐性 Lv1][環境適応 Lv1][サバイバル Lv2][裁縫 Lv1][清掃 Lv1][洗濯 Lv1][算術 Lv1][効率向上 Lv1][共通語][魔術の才覚]
ボーナスポイント :150
▼取得可能スキル一覧
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……あえて言おう。まんまゲームじゃん!
と叫びたくなるんですが、本気でどうなんだろうね。うん。
色々投げ出したくなる気がするけど、地味に狂った行動に出ないのは[精神耐性]もしくは[環境適応]のせいかもしれない、とか考え始めてるあたりマジで対応してるんだなこれ。どこまで本当なんだか…… いや目の前のコレとさっきの体に走った激痛が現実だと伝えてくるんだからしょうがない。HPが結構減ってるのが気になるけど、あのときの傷が主な原因なんだろう。そういえば今は顔とかに痣とかが目が腫れてる感じがしないんだけどどういうことだろう? ステータスをいじったと言ってたからもしかするとその影響だろうか? いやちょっと触ると解るけど確かに痛みはある。なんか外見だけ妙に取り繕われている気がしてすごい変な気分だ。
「こんだけボーナスあんだから自分でステータスくらい開けるようにしといた方がいいわね。対戦相手の情報も獲得できるし便利っしょ」
[▼取得可能スキル]とやらを押し込むと、リストが更新された。
書かれてるはずなのにどうして変わるんだ? というのはもうどうしようもないから無視。そこらへんで驚いていられる段階はとっくに過ぎた。
「へ~、ボーナスが50を超えるとこんなに色々選べるのね~。んじゃとりあえず[ステータス閲覧]取るわよ。5ポイントだしいいでしょっと」
となことを仰ってステータスを操作された。 ……こういうのって当人の許可なしにいじれていいのか!?
「……はいおっけー。あぁちなみに普通はこんなふうに他人のステータスとか勝手にできないわよ? 私は貴方の『主人』だから例外ってわけ」
ペット扱いってことだろうか? なんか微妙に不条理を感じる……
「さって、じゃぁあと何を取ろうかしら? これだけあると好き放題できそうよね~♪」
そういうとブツブツと呟きながら何やらいじり始めようとしていた。
「いやいやいやいや! ちょっと待ってください! これって結構重要なんじゃないですか!?」
「そうだけど、ほら、私の役に立たないと意味ないし、一緒に考えてあげるってんだから感謝してくれてもいいのよ?」
「その、いかにも『うわぁ、このバカに任せてもろくな事にならないだろうなぁ』みたいな顔されて言われても何の説得力にもならないんですけどっ!」
そんなセリフを聞いたせいか、『ちっ余計なことに気が付きやがって』てな感じの顔をしている。ペットに反論されりゃぁそりゃイヤだろうけどさ。こういう人だと「説明してくださいよ!」って訴えるのは逆効果かもしれない。
「……すいません。ご存じだと思いますけど、僕は何も知らないんです。どういう風に役にたてるかも解らない。『こういうことをしてほしい』ということと『こういうスキルが役に立つ』ってことを教えてもらえませんか?」
下から見上げるように。懇願するように。
えぇい、媚びて何が悪い! これで無事平穏過ごせるならいいじゃないか。まぁ人によっては殴られるから乱用はできないけど、この人は多分大丈夫。
うん、表情から苛立ちが収まってきた。なんどかなりそうだ。
「……ちっ、しょうがないわね。といってもスキルの説明については、ステータスでスキルの名前を触れば簡単な解説が表示されるはずよ。えっと、[ステータス]って言いながら『自分の状態を調べたい』って考えて。それで大丈夫なはずだから」
どうやらあの紙は使わなくても調べられるようになったらしい。言われたように考えてみると、目の前に先ほどの紙に出ていた表みたいなものが浮かび上がった。半透明のそれは、どうやら彼女からは確認できないようだ。
ステータスに追加されていたスキルは[ステータス参照]。魔法でも同じことができるようだが、スキルとして持っている方が便利らしい。なんとMPの消費も無いみたいだ。
「そうねぇ…… 取得してほしいのは補助系か探索系なんだけど、補助系といったらそのものズバり[支援魔術]か[強化魔術]あたりが有力かしらね。[支援魔術]は探知や鑑定ができたり簡単な回復もできるみたいよ。[強化魔術]はより戦闘に特化した感じで1つ使えるだけでもかなり変わるから便利だってウワサ」
魔術というのはMPを消費することで使うことのできるスキルらしい。呪文詠唱とかやっちゃうんだろうか?
「自分でやらなくても[召喚魔術]でそういうのが得意な使い魔を呼び出すって手もあるけど、これはある程度鍛えないと最初は足手まといって話らしいわね。キミのレベルアップにあんまり時間を使えないからちょっとお奨めしたくないのは間違いないかな。
召喚程万能じゃないけど[使役魔術]でその場にいるモンスターとかを使役することも一応できるわ。インスタントな戦力増強にピッタリだから案外使い勝手がいいらしいけど、これは使い手の技量で支配できるモンスターが決まるからちょっと難しいわね」
使い魔ってのはいいな。なんか自分もいまんところそのカテゴリらしいのが微妙に気になるけど。なにより自分が直接戦闘しないで済むのはありがたい。
「まぁ、キミを前線で盾替わりに使うってのは無理そうよね。HP無いし。やっぱ支援系で決まりかしらね。そうするとやっぱり支援よりの斥候形でいくべきかしらね。ある程度の回復能力も欲しいし。やっぱ150ポイントもあると色々できそうでいいわよね~」
色々と妄想が捗っているようで、とにかくこのポイントを使って何かを取得しないとまずいだろう。
スキル取得は5~10ポイント必要みたいだ。取得しているスキルのレベルアップも可能らしいけど1回5ポイントはかかるっぽい。どうやらボーナスポイントを使用しなくともスキルが獲得できることがあるらしい。僕の[苦痛耐性]とかがそれだ。スキルの習得条件を満たすことで手に入れることができるらしいけど、自分から進んで手に入れたいというものでもない気がする。
中には『レアスキル』と呼ばれるものがあって、それを取得しようとするとかなりのポイントが必要になる。[効率向上]は50ポイントも必要だったみたい。どうやって手に入れてたんだろう。
[ステータス]の下の方に[▼ジャーナル]という項目があった。どうやらスキルやボーナスの取得履歴みたいなものらしい。紙の方には出ないみたいで、これは専用スキルの恩恵なのかな?
え~っと、[初期設定をせず10年過ごす:100ポイント獲得][自力でレアスキルを取得:30ポイント取得][自力でスキルを5個手に入れる:15ポイント取得][次元踏破ボーナス:100ポイント獲得]とある。
つまりほとんどはよくわからないボーナスで、自力で手に入れたというのは12ポイントらしい。年齢=ポイントってことは1才年を取ると自動的に1ポイント手に入れてた計算になる。たぶんこれのことかもしれない。
「聞いたことないけど、これ真似できるならやりたかったわね~。普通はレベルアップと誕生日のボーナス1点くらいでしか手に入らないもんだし、うちみたいなところならやってやれなくもない方法だしね。……貴族とか無駄にポイントが多いのってそういう理由なのかしら? あいつらだけいい思いできてたのはそういうカラクリがあったからなのね。あ、でも[次元踏破ボーナス]っていいわね。これどうにかできないかしら?」
こちらの世界ではスキルの有無がそのまま格差につながるのかもしれない。いやいよいよもって面倒なことに巻き込まれたもんだ。
とにかく、彼女の機嫌を損ねないように支援や斥候寄りのスキルを取得したほうがいいのかも。だがこれだけのポイント、レアスキルの取得に利用しない方がもったいない。レベルアップするってのがどういうことか気になるけど、ゲーム的常識で考えるにモンスター退治とかクエスト達成のことだろう。ならばレベル1の今の僕ならある程度の穴埋めも難しくないはず。だったらレベルアップする前にレアスキルを取得してより有利になるものを選ぶべき。
「意外に考えてるのね。確かに当たり前の選択よりもレアを選んでおく方が便利で自然ね。 ……そしたらこのへんかしら? レベルアップの恩恵がいい感じに、ってあれ? ねぇ? ユウ? あなた、体がブれてるけど、どうしたの?」
ぶれてるって何もしてませんがな。ってあれ? 掌が透けて床が見える……?
「ちょ! 召喚したら帰れないんじゃないの!? あ、もしかして時間設定してないから最低限ってこと!? ちょっと待ってよ! あれもう無いんだから! 勝手に居なくなったら困るでしょ! ちょっとホント勘弁してよ!!」
段々と周囲が暗く染まる。来たとき同様に唐突に意識は途切れ、自分の意識も真っ暗な暗闇に落ちて行った。
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気が付くと、僕が逃げ込んだ廃ビルのあの階段下でした。
いつの間にか倒れ込んでいたらしい。うん。もしかすると緊張から気絶してたのかもしれない。
意識が無くなってからどれくらいたっていたんだろうか? と思ったが時計等持っていないのですぐにはわからなかった。
とにかく用心しながら施設に戻る。廃ビル内にあの声は響いておらず、周辺にも誰も見張っていない様子からして、いつの間にかいなくなっていたんだろう。
とにかく急いで逃げだしたかったけど、ばらまいた鞄の中身を探してからにしました。ラッキーだったのは10分もかからずに大体は拾い集められたことでしょうか。多少は土に汚れているけどこんなものは叩けばいいだけ。1冊だけノートが踏み破られていたけどこればっかりはどうしようもない。
帰り際にコンビニの時計を見ると、どうやら2時間近く過ぎていたっぽい。
当然門限を過ぎているので裏口からコッソリと自分の部屋に帰ることにしました。
見回りの人に遭遇することなくどうにか戻りついた部屋で、僕はため息をつくと学ランのままベッドに倒れ込むように寝っころがることにしました。もう今日は何もしたくない。
しつこい呼び出しに仕方なしに応じてみたら案の定何かの言いがかり。僕としてはもうあのグループと関わり合いたくないという以上の感想はないのだけど、彼らからするといいカモなんだろうなと思っている。孤児だからって何でもしていいと思うんじゃね~でずこんちくしょう。
既に消灯時間は過ぎています。誰かがこっそりと携帯ゲームで遊んでいるくらいだけど、ばれない様にうまくやり過ごして欲しいもんです。僕も1つ買ったことがあるけど、即日ばれました。中古のリニューアル時の型落ちのを安っすく買うことができてラッキーと思っていた矢先の話だったのに。 次の日、中古屋に同じものが並んでいました。僕には買い戻す気力は無かったよ。
もういいや。とっと寝よう。ベッドの中でくらいならいい夢を見てもいいよね?
そう思って眠りについたのだが、その日は夢も見ないくらいにぐっすり寝込んだらしい。よっぽど疲れていたのかもしれない。
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「……きろ! 朝だぞ! いつまで寝てんだよ、仕事行くぞ!」
「うぐぁ!」
腹にかかる衝撃で目が覚めた。
今日は目が覚めなかったらしい、いつもならちゃんと起きてて蹴られないようにしてるはずなんだけど。
「……大丈夫?」
班長が出て行った後で、上のベッドの武志君が声を掛けてきた。彼は数少ない友人と呼べる一人だ。
「うん、ちょっと失敗しちゃった。大丈夫。もう起きれるよ」
「そう、それならいいけどさ。もうお腹大丈夫?」
ストンピングと言ってるけどヤクザキックって方がすっきりしそうな蹴りだったからね。でも今日はちょっと軽かった方かもしれない。
これ以上待たせるのもまずい、とっとと支度して仕事に行こう。
そう思ってトイレに行った。
……。
あっ。
あのっ、気絶してたときのあれはっ……
夢じゃ、無かった。