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第七話

 昼休みになると、さっきまで寝ていた勇太が充電MAXといった感じで元気よく「隼人、昼飯食べようぜ!」と誘ってきた。

 今日は弁当持って来てるし、学食にわざわざ行く必要もないから勇太と教室で食べるか、と思っていた時だった。

 何やら廊下が騒がしく、クラスのやつらも廊下側にある窓やら扉から廊下を見ながら騒いでいた。


 「どうしたんだ?」


 勇太も気付いたらしく、勇太は足早に一人で廊下の様子を見にいった。

 俺も気にはなったので見に行こうかなと思ったら勇太が走って戻ってきて俺の肩を掴んだ。


 「いきなりなんだよ?」


 「ミカンと転校生がこっちに向かってきている!」


 「それだけか? そんなに騒ぐようなことじゃないだろ?」


 「おそらく狙いはお前だ!」


 切迫感溢れるように勇太は顔を近づけて、俺の両肩に乗せた手に力を込めてきた。

 しかし、俺には何をそんなに騒いでるのかいまいちわからない。


 「だったらなんなんだよ?」


 「俺とお前は今から一緒に飯を食べる。 そこに女子が二人やってくるんだぞ!」


 心なしか「一緒に」と「女子」という単語だけ妙に力強く聞こえた。

 しかし、お前が一緒に飯を食う約束したのは女子じゃなく俺なんだがと思いながらも勇太の顔を見たら言えなかった。

 

 「そうだな。 なんでちょっと泣いてるんだよ?」


 「俺はお前の親友だったことを誇りに思う! しかし、良いか? よく聞けよ?」

 

 勇太は涙を拭うと俺に向かって何やら真剣な眼差しを向けてきた。

 謎の気迫に俺は、思わず後ずさりしてしまいそうになる。


 「な、なんだよ?」


 「世の中には二兎追うもの一兎を得ずという言葉がある。 つまり、一人一殺の心構えで共に楽しいランチタイムにしようじゃないか!」


 そう言うと勇太は右手をあげて力強く拳を握りしめていた。

 やはりこいつはアホだなと思いながら、俺が今朝散々浴びた冷たい視線攻撃を勇太に送っといた。


 「…… まぁ頑張ってくれ。 俺は普通に昼飯食べようと思ってるだけだから」

 

 

 俺と勇太が教卓の辺りでそんなやりとりをしていると、美香と優美が教室に入ってきた。

 クラス中の男子達が二人に視線を向けているのが俺ですらわかった。  

 いや、男子だけじゃなく女子ですらけっこう注目しているようだった。

 

 しかし、そんなことを気にせずに優美が俺を見つけるなり手を振りながら近づいてきた。

 周りの視線がなんだかこわい…… 


 「隼人さん! 一緒にお弁当食べましょ」


 笑顔で飛びついて来た優美を華麗にかわした。

 こんな状況でくっつかれたら危険過ぎる。


 「二人ともわざわざそのために来たのか?」


 「うちは、優美が隼人のとこに連れて行けってうるさいから……」


 少し後ろからやってきた美香はなんだか妙にそわそわしていた。

 まぁ、この注目なら仕方ないかもしれない。

 ちなみに美香が俺の教室にわざわざ弁当持って昼休みに来ることなど、高校に入ってからはほとんどなかった。


 「じゃあ、美香さんは教室に戻って良いですよ」


 「言われなくても帰るわよ!」


 せっかく来たのに帰るのかよ、と思いながら引き止めようか迷っていたら俺の後ろから勇太が出てきて美香に声をかけた。


 「喧嘩しないで、ミカンも一緒に食べようぜ!」


 「勇太! あんたはどっかのアホと違って良い奴だ!」


 相変わらずこの二人はけっこう仲が良い。

 しかし、美香がチラっと俺を睨むように見た気がしたが、気のせいかな?

 帰るように言ったのは優美で、俺じゃないんだが……

 とりあえず俺は自分の席に戻ろうとすると優美だけがすぐ後ろをついてきた。 

 

 美香と勇太は何やら教卓の辺りでひそひそと話して力強く握手していた。

 二人は何かの協定を結んだ政治家のようだ。 


 謎の密談が終わって美香と勇太も席に着く。

 こうして凄い注目を集めながら窓際の一番後ろという教室の端っこで、俺達四人は昼飯を食うことになった。


 「この子は優美。 んで、こっちは勇太。 勇太は中学から隼人とも仲良くてクラスでもムードメーカーだったのよ。 中学の頃はサッカーもしていてスポーツマンだったのよ」


 何やらいつもの美香らしくない。

 というよりは、まるでお見合いの仲人のような切り口だ。

 優美に向かって勇太を猛プッシュしている。


 「どうも! 勇太です! 仲良くしてください!」


 勇太は優美を前にしてやや緊張している様子だ。

 優美はあまり気にしてないようだが……


 「こちらこそよろしくお願いします。 勇太さんは美香さんと仲がよろしいのですか?」


 「はい! ミカンとは中学の時から割と気が合うので仲良くしてます!」


 「男友達の少ないうちでも仲良くなれるぐらい勇太はおもしろいんよ!」


 何やら美香がまた勇太をプッシュしている。

 なんだろう……? 勇太が、美香に頼んだのかな? 

 それで握手していたのか。

 それならこの猛プッシュも納得だな。

 一人で納得した後、俺はとりあえず弁当のフタを開けて本来の目的、ご飯を食べるを遂行することにした。


 「二人はとてもお似合いみたいですものね」


 優美が微笑みながら口にしたその一言で、美香と勇太はやってしまったと言った感じだった。

 二人の作戦に気付いていたかのような見事なまでの一言だ。

 むしろこの一言を言うためにさっきの質問をしたのではないだろうか?

 優美はけっこうそういう戦略的な話術を使うのが得意なのは俺も経験済みだ。

 

 しかし、仲が良いとはいえ美香が勇太にあっさりと協力したのは意外だな。

 握手していたからには、何かお互いの利益になるような理由があったのだろうか?

 勇太が優美とくっついたら生まれる美香にとっての利益……?

 いまいちピンと来ないな。

 きっと飯一回奢るとかなんかそんなんだろう。


 「あれ? 優美ちゃんと隼人の弁当のおかず全く同じじゃない?」


 普段はアホなくせに勇太を甘くみていた。

 こいつになら気付かれないだろうと思っていたのだが……

 美香は知らんぷりして、優美は何やら俺の様子を伺っているようだ。


 「ほんとうだ。 すごい偶然だな」


 いける! 大丈夫だ! 勇太になら偶然で通しきれるはず!


 「ひどいです! 朝から二人で作ったお弁当なのに!」


 「優美は、起きるなりシャワー浴びてただろ!」


 ………


 俺の一言で、教室中の時が止まった気がした。



 くっそー!

 優美のいきなりの発言にうっかり意義有りをしてしまった。

 まずい…… なんとかしないと…… 

 優美と出会ったのは高二になった始業式の日。

 つまり、今はこのクラスになって初日の昼休み。

 その和やかな空気が、完全に固まっている。

 


 「隼人! ちょっと顔面殴って良いか?」

 「隼人! ちょっと腕折って良いか?」

 「隼人! ちょっと爆発してくれないか?」  

 

 まだ名前も覚えていないような男子が近づいてきた。

 ヤバイ…… そう、思いながらも座ったままどうして良いかを考えていた。


 「お前ら! やめろ! これにはきっと事情があるんだ!」


 机をバンっと叩いた勇太が、俺を守るように男子生徒と俺の間に立ちふさがった。

 なんて良い奴なんだ…… 

 俺はこんな良い奴に優美のことを聞かれても隠したりアホ扱いしていたなんて……

 謝ろう…… こいつにはちゃんと謝ろう。


 「勇太、おまえ……」


 「良いんだ、隼人」


 「でも、お前泣いてるじゃねぇか……」


 「俺は、隼人が美少女と一緒に住んでいようが怒ったり悲しんだりはしない。 何か理由があったんだろ? ただ…… それをお前が俺に隠していたことに対して俺は……」


 「すまなかった」


 俺は、深く頭を下げた。


 「悪いと思っているのか? 許してほしいか?」

 

 「あぁ…… 俺は本当に悪いと思っている」


 「そうか。 じゃあ、今日から俺もお前の家に住む!」 


 「……」

 


 「返事はどうした!? 返事をしろ!」


 「お断りします」


 俺はさっきより深く頭を下げた。


 「く、くそったれー!!」


 勇太は叫びつつ走りながら教室を飛び出していった。



 やはり、俺の友達はアホでした。  

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