表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/27

第三話

 「なんだ…… これは?」


 「それ! 限定なんですよ! すごいでしょ?」


 優美の部屋の荷物を整理していて、気付いた。

 部屋を埋めつくす量の段ボールたちに入っている物のほとんどが、アニメのDVDやフィギュアやポスター、漫画や同人誌などのいわゆるオタグッズばかりだということに……

 漫画家を目指しているのだから多少はその可能性も考慮していたが、まさかここまでとは……

 優美はその美しい見た目からは想像できないレベルのガチオタのようだ。


 「隼人さんは、こういう趣味を持つ女の子気持ち悪いと思いますか……?」


 フィギュアを持ったまま固まってしまってた俺を見て、優美が心配そうな顔をしながらそう聞いてきた。


 「アニメとか漫画は、俺も好きだよ。 ただ…… ちょっと予想外でびっくりしただけ」


 心配そうな顔をしている優美を見て、俺は笑顔で素直な意見を述べてみた。

 すると、優美は安心した様子で胸に手をあてていた。


 「良かった。 私、こういうの誰かに見せるの初めてだったから……」


 「え……? なんで、俺には見せてくれたの?」


 「私も隼人さんの秘密を知っているから…… かな?」


 優美は、少し恥ずかしかったのか手をもじもじさせていた。


 しかし、なんだろう……

 勝手に俺のノートパソコン調べたり、美香から守ろうとしてくれたかと思ったら突然俺を裏切ったり、素直にお礼を言ったり、秘密を教えてくれたり……


 「優美とこれから同じ家で暮らしていくからには、優美がどんな女の子なのか俺はちゃんと知りたい」

 

 妄想や想像ばかりで、あまり自分の素直な気持ちを言ったりすることが少ない俺だが、この気持ちは抑えることのできない代物らしく、気付いたら口にしてしまっていた。

 

 俺と優美の視線が絡み合い、恥ずかしくて目を逸らしたいのに逸らせないという硬直状態になり、体感的にはすごく長く感じた時間だったがようやく優美の唇が動いた。


 「私も隼人さんのこともっとちゃんと知りたいです!」


 優美は今まで見た中で、一番かわいい顔をしていた。

 この状況でそのセリフは、反則だ。

 再び俺と優美の視線が絡み合い、何を言っていいかすらわからなくなった。

 思考回路が全く働かなくなってしまったのはこれが初めてかもしれない……

 

 「その…… えーと…… 優美は、雪が溶けたらどうなると思う?」


 何か言わなければと思い、ふいに聞いたこの質問は俺が十年前に母親に聞かれた最後の質問だった。


 「私は… 春になると思います…」


 優美が少し躊躇いながらも答えたそれは、俺が十年前に答えたのと全く同じ解答だった。

 さっきまで緊張していて引きつっていた俺の頬が途端にゆるくなった。

 なぜなら、学校の友達にこの質問をしたら全員が「水になる」と答えたからまさか同じ答えを言うとは思わなかったのだ。

 

 「俺も十年前に母親に聞かれて、そう答えたんだ。 なんだか、嬉しいよ。 他に同じ答え言ったやつ今までいなかったから……」


 「私たち、似てるのかもしれませんね」


 優美は優しく微笑んでくれた。

 

 その後、俺と優美は優美の部屋の整理をしながら「英雄に必要な要素とは何か?」について一時間ほど意見をぶつけ合った。

 優美いわく、他の全てを犠牲にしてでも一つの物事を達成する人が英雄らしいが、俺はそうは思わなかった。

 俺の思う英雄は、仲間たちを守りながらでも最後に一つの物事を達成する人だからだ。

 しかし、優美は「そんな覚悟ではダメです! 仲間の犠牲を乗り越えてでも成し遂げることを優先するべきです!」と熱弁しだしたのだ。

 

 俺と優美は似ているけど、どこか違うということがわかった。

 それは当たり前のことだが、俺はなんだか嬉しかった。


 「じゃあ、俺風呂入ってくるわ」


 「はい。 いろいろありがとうございました」


 

 ペコリとお辞儀する優美に見送られて、俺は優美の部屋から一階の風呂場に向かう。

 今日は、いろいろあって疲れたからお気に入りの入浴剤を入れてリラックスしよう。

 

 「ふぅー…… やはり、一日の終わりは風呂に限るな」


 温かいお湯が身も心も温めてくれる。

 俺は目を閉じて浴槽に浸かりながら、今日という一日を振り返っていた。

 

 「そういえば、結局優美はなんで俺の家に一緒に住むんだろ?」


 そんな疑問を呟いた時だった。


 突然、風呂場のドアが勢いよく開いた。


 「その質問には俺が答えよう!」


 俺の親父が仁王立ちで、腕を組みながら風呂場に乱入してきた。


 「親父!? 帰ってたのか!? てか、なんで息子が入浴中の風呂場に入ってくるんだよ!?」


 「あぁ、帰るなりシャワーの音が聞こえたから優美ちゃんが入ってるかもと覗きに来たら、お前だった……」


 「あんた、何やってんだよ! もし、本当に優美が入ってたら大問題だったぞ!」


 「息子よ、お前には昔教えてやったはずだ! やらずに後悔するより、やって後悔しろ!ってな」


 親父は、俺を指さしながらかっこいいポーズでそう吐き捨てた。

 しかし、俺は騙されない!


 「かっこよくないからな! セリフはちょっとかっこいいが、あんたがやろうとしたことはかっこよくないからな!」


 「そんな話より、本題に入ろう」


 「お、おう」


 「あの子はな…… 俺の友達の娘だ」


 「おう」


 「以上だ」


 「oh……」


 もう、この親父はダメだ……

 俺はそう思って諦めた。


 「それで、どうだ? 仲良くなれそうか?」


 「まだわかんねぇよ……」


 俺は親父に背中を向けて、呟くようにそう答えた。

 

 「全く、お前は相変わらずケツの青いままだな」


 親父の視線が俺のケツに向けられているのに気付いて、慌てながら反射的に手で隠した。


 「息子相手にセクハラはやめろ!」


 「はやく、一皮むけろよ」


 「あんた、どこ見て話しかけてるんだよ!」


 俺は慌てて前を隠した。


 「無論、息子だ!」


 「もういい! さっさと出ていってくれ!」


 「何かあれば力を貸してやれよ」


 親父は最後にちょっとだけまともなことを言って、風呂場から出て行った。

 

 

 親父が出て行って数分後、頭を洗っていたらまた扉の開く音が聞こえた。


 「なんだ? 親父、まだ何か用なのか?」


 俺は、シャワーで頭を流して振り返る。


 「え……」


 そこには仁王立ちの親父ではなく、透き通るような白い肌をした女の子が産まれたままの姿で前屈みになりながら必死に手で大事な所を隠していた。

 そう、二度目の乱入者は優美だった。

 

 「あの…… え…… ごめんなさい!」

 

 優美は慌てて、謝りながら出て行ってドアを勢いよく閉めた。

 

 「なんで、入ってきたの!?」


 「さっき、脱衣所からおじさんが出てきて…… まさか、まだ隼人さんが入っているとは思わなくて…… とりあえず、ごめんなさい!」


 そう言うと優美は脱衣所から走って出て行ったようで、ドタバタした足音が風呂場の中まで響いてきた。

 

 たしかに、脱衣所から風呂上がりの親父が出てきたのを見たら、そりゃ俺が入っているとは思わないだろう。

 高二男子が親と風呂に入ってるとは思わないのは当然だ。

 

 一瞬見えた優美の姿が俺の脳内に焼き付いている。

 俺はいろんな意味でのぼせてしまいそうなので、すぐに風呂場を出て部屋に戻ることにした。


 部屋に戻ってベットに寝転びながら優美に謝るべきなんだろうけど、どんな顔をして謝ればいいかもわからず、幾度となく優美のあの姿を思い出してしまい、ダメだ! 思い出すんじゃない! と頭を振ったりを繰り返す。


 すると、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえたので、俺はおそるおそるドアを開けると優美が下を見ながら顔を少し赤くしながら、手をへそのあたりでもじもじさせていた。


 「入ってもいいですか……?」


 「ど、どうぞ」

 

 今、優美と部屋で二人きりになって俺の理性は大丈夫なんだろうか……?

 そんなことを思いながらも、断る理由も思いつかないし、なにより優美に謝らなきゃという思いから俺は、優美を部屋にあげた。


 「……」


 「……」


 沈黙だ。

 これはまずい。

 とりあえず、謝ろう……


 「優美…… さっきは、ごめん。 驚かせちゃったよね……?」


 「だ、大丈夫です…… ただ、男の人の裸見たの初めてで……」


 「……」


 「……」


 なんてことだ……

 憧れていたラッキースケベというやつは、実際に自分に起きたらこんなに気まずいことになるなんて……

 心臓の鼓動が早くなりなんだか、息苦しい。

 沈黙に押し潰されそうだ……

 

 「隼人さんの、背中……」


 「え? 背中…… 火傷の跡のこと?」


 俺は、通っていた幼稚園で起きた火事に巻き込まれた時に逃げ遅れて、背中に大きな傷跡が今でも残っている。

 当時の事はあまり覚えていないが火事による死者はなく、ケガをしたのも俺と坊主頭の男の子だけだったということだけは覚えている。

 

 「一瞬ですが、見えたので…… 気になって……」


 「当時の事はあんまり覚えてないんだけど、幼稚園の時に火事に巻き込まれたんだ。 変なもん見せちゃってごめんな。 こんなでかい火傷の傷跡とかちょっと気持ち悪いよな」

 

 俺は、話題が変わって少しホッとしていたのもあり、少し微笑んだ。


 「いえ…… 気持ち悪いなんて思わないです!」


 優美は、ようやく俺のほうを向いて力強くそう言ってくれた。

 途端に、目があって俺は動揺しながらも優美の言ってくれた優しい言葉が嬉しかった。

 

 「そ、そうか。 それなら、良かった」


 「私の体は見ましたか……?」


 「い、いや、一瞬だったし…… うん。 見えたけどその……」


 「どうでしたか……?」


 「え? え? と…… とても綺麗でした……」


 突然の質問に俺は動揺しながら素直な感想を述べてしまった。

 やってしまった……

 優美は顔を赤くして黙ってしまった。

 どうしよう……

 何か、何か言わなきゃ……

 

 俺は、考えても何を言っていいかわからず、優美が何か言ってくれるのをただ待つことしかできなかった。

 

 優美は、いつもより小さな声で少しふるえていたが再び口を開いた。


 「私、母親がイギリス人でハーフなんですけど…… 身長はそんなに高くないのに胸が同い年の子より少し大きくて…… 髪も銀色だし…… 肌も白くてなんか病人みたいだし…… その……」


 ハーフだったのか。

 たしかに、胸は大きかったけど……

 俺は、再び風呂場で見た優美の姿を脳内再生してしまった。

 慌てて頭を振って、忘れるように自分に言い聞かせた。

 しかし、俺から見たら銀色の髪とかも似合っていると思うが、もしかしたら周りの人と違うというのはコンプレックスなのかな……?

 そういえば、美香も昔はみんなより色素の薄い茶色の髪がコンプレックスで帽子ばっかりかぶってたな……


 「優美の髪も胸も肌も俺は好きだよ!」


 気付いた時には叫ぶようにすごいセリフを宣ってしまった。

 心臓の鼓動が部屋中に響いてないか心配になる程、大きくなってくる。

 汗も風呂上がりだからでは、言い訳できないぐらいかいていて恥ずかしい。

 

 

 優美は、ドタバタ走って自分の部屋に逃げ帰ってしまった。

 一瞬見えた優美の表情は少し涙目になっていた気がする……

 


 やばい……

 完全に嫌われた……

 そう思いながら、俺はベットに倒れ込んだ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ