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二十三話

 桜は咲く時よりも、散る時のほうが美しい。

 決して、生より死のほうが美しいとかいう意味ではない。

 ただ、単純に桜の花びらが舞い散る様に、心惹かれるのだ。

 

 優美と出会い、部活に入ったりといろいろあった4月が過ぎ去り、5月の中頃。

 

 みんなで作業を始めてから一ヶ月が過ぎたが、漫画制作は概ね順調。

 このペースだとコンテスト締め切りの8月末までには間に合いそうだ。


 しかし、俺には現在別の悩み事がある。


 明日は、美香の誕生日。

 そして、日曜日で学校は休みなのだ。

 もちろん祝うつもりだが、何をしたらいいのだろうか?

 やっぱり、プレゼントは必要だよな。

 部活が終わってからだとプレゼント買いに行くのは夜になるな。

 

 英語の授業中、教科書を読み上げる先生の声が呪文に聞こえてくる。

 呪文のせいで、眠らされた俺が目を覚ますと授業は終わっていた。


 「隼人、最近授業中よく寝てるよな」


 「睡眠学習というやつだ」


 「水町くん。 もしかして、夜中まで小説のストーリーを考えて寝てないのですか?」


 「いや、最近はそんなこともないよ」


 放課後、勇太と白石さんと3人で部室に行くことが、もはや当たり前というか習慣になっていた。

 歩きながら両手を頭の後ろに組み、てきとうに話かけてきた勇太と比べて、俺のことを心配してくれる白石さんは良い人だ。


 「寝不足の理由が小説でないなら…… はっ……! もしかして、他のゲームに浮気ですか!? 他のゲームで別の嫁ができたとか!?」

 

 「なぜ、そうなるんだ!? そんなわけないだろ!」


 「そ、そうですよね。 水町くんは、浮気なんてしませんよね」


 普段の白石さんは優しいが、こういう一面があるのはやはりどこかおかしい気がする。


 「なんだ? 隼人と香織ちゃんって付き合ってるのか?」


 「いや、違う! あれだ! 同じゲームをたまたましていて、別のゲームに浮気してないって意味だ! なっ、白石さん!」


 「え? あ、はい。 そうでしたね。 そうです、そうです」


 「なんだ、そういうことか」


 「それより、勇太。 いつの間に白石さんのこと香織ちゃんって呼ぶようになったんだ?」


 「俺は、出会ってすぐ神咲さんのことも優美ちゃんって呼んでたし、白石さんのことも香織ちゃんって呼んでも不思議じゃないだろ?」


 「そう言われてみれば、たしかに」


 「みかんだって、もう香織って呼び捨てにしてるじゃないか。 優美ちゃんも香織さんって呼んでるし。 隼人だけだぞ、一ヶ月も同じ部活にいて呼び方変わってないの」


 「あぁ、言われてみたらたしかに」


 「みかんと優美ちゃんのことは呼び捨てなのに、なんでだ?」


 「いや、なんか美香は幼なじみで家も隣だし、優美は一緒に住んでるし」


 「同じ部活仲間なんだし名前で呼んでもいいんじゃないか?」


 「なんか白石さんは白石さんって感じだろ?」


 「そうか? まぁ、呼び方なんか本人の自由だしなんでもいいか」


 隣に歩いていた白石さんが石像みたいになっていた。

 何か気に触ることを言ったのだろうか?

 もしかして、名前で呼んで欲しかったとか?

 いや、白石さんも俺のこと水町くんって呼んでるからそれはないか。


 「おーい。 白石さん、大丈夫か?」


 石像白石さんの目の前で手を上下にぶんぶんして呼びかけた。

 

 「あっ、大丈夫です。 ちょっと、敵の攻撃魔法が強力で状態異常になってしまいましたが、解除に成功しました」


 何やら、また白石さんの言動がおかしかったが気にしない。

 きっと石像になった後遺症だろう。

 そう自分に言い聞かせながら、不思議そうに見ている勇太の肩をポンっと叩いて再び部室に向かって歩き出す。


 部室に着いたら、今日は先に美香と優美が来ていた。

 この一ヶ月の間にも、何度かこういうことがあったが優美はいつもスペアーキーを持ち歩いてるみたいで、先に鍵を開けて部室に入っていた。


 「あれ? もう作業始めてるのか?」


 「今日は、芸術科は午前中のみだったので」


 「うちは、みんなが来るまで漫画読んでよって言ったんだけど、優美がやり始めたから」


 「美香さんは、漫画読んでてくれて良かったんですよ?」


 「うちは、あんたに任せっきりになるのが嫌だっただけ!」


 この2人の仲は相変わらずよくわからない。

 クラスでも一緒に行動してるみたいだし、悪くはないとは思うのだが、仲良しとは言いにくい気がする。

 親友というより、ライバルと言った感じだ。

 噂によると、授業中も何かと張り合っているらしい。


 部活中は、漫画の絵に関してお互い意見し合いながら、作業をしている。

 しかし、喧嘩になることはなく、むしろ作品はどんどん良くなっている。

 相手の意見を素直に聞いて、お互いを高めあっているのだろう。

 一応、お互いの能力は認めあっているようだ。

 

 「隼人さん、どうしたんですか?」


 「いや、なんでもないよ。 ただ、仲良さそうだなって思って」


 「はぁ? 気持ち悪い顔して、気持ち悪いこと言わんといてよ」


 2人が協力しながら作業をしている様子を眺めていたら思わず、ニヤついてしまっていた。 それにしても、気持ち悪いを連呼されると多少傷つくな。

 

 「水町くん! 私達も、2人に負けないように頑張りましょう!」


 「あぁ、そうだな! やるか!」


 白石さんは、たまに言動がおかしくなるが、普段は優しくて頼りになる良い部長だ。

 少し傷ついたが、すぐに白石さんに励まされてやる気が出た。

 我ながら単純である。


 「あっ、そうだ。 美香、明日予定あるか?」


 「明日どころか、今日の夜ご飯の予定すら決まってないかな」


 「おばさん出かけてるのか?」


 「親戚の用事でちょっとね。 うちは、行かなかったけど夫婦揃って明後日まで帰ってこないみたい」


 「じゃあ、明後日まで家事とか大変だな」


 「明後日までだから、隼人ほどじゃないけど」


 「俺は、もう慣れてるから。 良かったら、明日家に飯作りに行っても良いか?」


 「え、いきなりなんで? 親がいなくても、ちゃんと自分でご飯作って食べれるわよ」


 「いや、そうじゃなくて明日は誕生日だろ? せっかくだし何かしてやりたいんだよ」


 「いいよ、そんなん…… だって、親おらんねんで?」


 「ん? だから、飯を作りに行くんじゃないか」


 「そういうことなら、私も行きますわ」


 「なんで、あんたが来るのよ?」


 「優美は、飯作れないだろ?」


 「作れないわけではないですよ。 それに、誕生日なら祝うのは友達として当たり前のことです」


 「そ、そういうことなら、私も行って良いですか?」


 「じゃあ、俺も! 明日はみんなで、誕生日パーティーだな!」


 「そんないきなり!? は、隼人!」


 「ん? いいんじゃないか? 大勢のほうが楽しいだろ。 飯は任せろ!」


 「じゃあ、決まりですね」



 何をしてやれば、いいか考えていた美香の誕生日は部員全員でパーティーをすることになった。

 やっぱり仲間というのは良いものだ。

 美香はなんだか、少し困っているようにも見えたが、なかなか本音を言わない性格だ。

 せっかくの誕生日なんだから、みんなに祝われるほうが嬉しいに違いない。

 しかし、友達なら祝うのは当たり前か。

 優美が美香にそんなこと言うなんて、やっぱり内心では仲良しなんだな。

 美香が優美を睨みつけ、優美がどや顔をしているが、これがこいつらなりのコミュニケーションなんだろう。

 

 夕方まで、部活をして帰り道。

 

 俺達は、全員でスーパーに行くことにした。

 明日のパーティーの買い出しだ。


 「パーティーならやっぱり鍋かな?」


 「うちは、キムチ鍋が良い!」


 「私は、水炊きが良いです」

 

 「水炊きよりキムチ!」


 「私は、水炊きが良いんです!」


 スーパーに着くなりいつものやつが始まった。

 美香と優美はスープ売り場の前で立ちとまって何やら水炊きとキムチ鍋の良いところ合戦をしているので、俺と白石さんと勇太で先に食材を選ぶことにした。


 「隼人、あの2人はほっといて良いのか?」


 「良いんじゃないか? いつものことだし」


 「水町くん、豚肉派? 牛肉派?」


 「鍋なら、豚肉使うことのほうが多いかな。 白石さんは?」


 「じゃあ、豚肉にしましょう。 私は、どっちも好きなので」


 肉を選んだ後は、野菜コーナーで白菜や椎茸など、鍋の定番な食材を選び終えた。

 3人でスーパーを一周してスープ討論をしている2人のとこに戻る。


 「そもそも、水炊きというのはですねーーー」


 「その程度で! キムチ鍋なんてねーーー」



 何やらよくわからなかったが、どうやら水炊きとキムチ鍋の歴史についての話になっているみたいだ。


 「まぁまぁ、優美ちゃん。 明日は美香ちゃんの誕生日なんだから、美香ちゃんに譲ってあげたらどうかな?」


 「仕方ないですね。 言っておきますが、最後にうどんは入れてもらいますからね」


 「言われなくても、うちだって鍋の最後はうどん派よ!」


 なんで、同じうどんを入れるっていう意見でも喧嘩口調なのだろうか?

 ちなみに、うどんはすでにカゴの中に入っている。

 一周する間に、すでに入れておいたのだ。

 キムチ鍋のスープをカゴに入れて、買い物は終了。

  

 美香の家に買った材料だけ運んで解散となった。


 パーティーは、明日の昼13時集合。


 白石さんが午後からにしましょうと言って決まった時間だ。

 午前からと言わなかったのは、プレゼントを買う時間を考慮したのだろう。


 家に帰り、オムライスを作って優美と食べる。

 親父は、今日も仕事でいなかった。


 「明日の午前中、ひまですか?」


 「どこか行きたいのか?」


 「はい。 一応、誕生日なんでプレゼントを買いに…… 隼人さんは、もう準備してるんですか?」


 「俺もまだ決めてないから一緒に買いに行こうぜ」


 「そうですか。 美香さんって何を貰ったら喜ぶと思いますか?」


 「なんだ? やっぱり美香のこと大切に思ってるんだな」


 「い、いや、そういうわけではありませんよ!」


 「右頬にケチャップついてるぞ」


 「え、あ、ちょっと手が滑ってしまって。 顔洗ってきます」

 

 優美は慌てて洗面所に行ってしまった。


 「ティッシュで拭けば良いのに……」


 優美は、戻ってくると何事もなかったかのような表情で椅子に座った。


 「とりあえず、明日は午前中に起きてくださいね」


 「心配しなくても、ちゃんと起きて一緒に行くよ。 もしかして、友達にプレゼント買うの始めてなのか?」


 「そ、そうですが、悪いですか?」


 「いや、むしろ良いことなんじゃないか?」


 「今日は疲れたので、もうお風呂に入って寝ます! おやすみなさい!」


 食べ終わって、すぐ風呂入って寝るなんて、初デートの前日以来だな。


 「あぁ、おやすみ」  

    

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