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二十二話

 午後の授業は、窓から外を眺めている間に終了。

 放課後になると、勇太と白石さんと一緒に部室へいく。

 この珍しい組み合わせだが、同じクラスということで、そこそこ話題もある。

 勇太は、すぐ誰とでも仲良く話せるが、白石さんは少しぎこちない様子。

 昼休みの一件もあり、俺とは距離が縮まったが、まだ他のみんなと話すのは緊張しているようだ。

 今日から細かい作業の打ち合わせをして、本格的に活動開始だ。

 心配しなくても、一緒に作業をしているうちに仲良くなるだろう。

 この前の帰り道では、美香が白石さんに話かけたりしていたし、勇太も大丈夫そう。

 優美に関しては…… とりあえず保留ということにしておこう。

 

 部室に着くと白石さんが鍵を開けて中に入る。

 ちなみに、白石さんが学校を休んだりした時のために、スペアーは優美が持っている。

 美香と優美は芸術科で、普通科と違う時間割で動くこともあるし、俺と同じ家に住んでいるから休んだりする時もすぐにわかるので優美が持つことになった。


 部室に入ると勇太は、鞄を置いて漫画を読みはじめた。

 俺と白石さんは、向かいあった席に座り、雑談を開始。

 内容は、漫画制作についてのまじめな話だ。

 5分程して、美香と優美が部室に来て、全員集合。

 勇太が読んでいた漫画を俺が取り上げて、会議開始。


 「さっそくですが、細かい役割分担を決めたいと思います」


 部長ということで、会議の進行は白石さんが行う。

 ちなみに、会議内容の書記は美香が行うことになった。


 「ストーリーは基本的に水町くんに任せて、何か意見があれば、全員で話合うということで大丈夫ですか?」


 これには、全員が首を縦に振ってくれた。

 OK、問題なし、賛成などの返事が部室を飛び交う。

 漫画制作において、重要なストーリーを俺が担当する。

 正直、プレッシャーはある。

 よく考えてみたらこんな責任重大な役割を任されるのは人生初だ。


 「水町くん、何か一言ありますか?」


 「え、あ、全力で頑張ります!」


 突然話を振られて思わず立ち上がり、少し上擦った声だが、自然と出た一言。

 数秒して、パチパチと拍手する音が聞こえた。

 なんだか少し恥ずかしいが、悪くない気分だ。


 その後は、絵に関する役割を決めた。

 主体となるのは、優美で美香と白石さんがアシスタントみたいな感じだ。

 何度も漫画を描いている優美が主体になることには、全員が納得していた。

 ちなみに勇太は、みんなのアシスタント担当という役割だ。

 雑用係みたいな感じだが、けっこう気が利くので向いている気がする。


 役割分担を終えてさっそく作業に取り掛かる。

 俺が事前に作って来たプロットに全員が目を通し、まずはキャラをイメージしてイラストにする。

 

 内容が逆ハーレムなので、タイプがバラバラのイケメンが3人と普通の男子が1人登場する。

 俺は、登場人物の4人全員がイケメンでも良いと思っていたのだが、女子全員の意見によりあえて普通の男子をメインにすることになった。

 イケメン相手に葛藤する普通の男子は人気のようだ。

 他の3人もなかなか個性的で、かわいい系、俺様系、さわやか系という定番だが、人気のあるタイプにした。 

 定番タイプの3人のイケメンだが、かわいい系なのに動物が苦手や、俺様系なのに家事が得意、さわやか系でスポーツは得意だが、水泳だけは苦手などの特徴をつけて、ストーリーに折り込んでいく。

 そして、ヒロインは普通の女の子。

 普通の女の子が普通の男の子を最終的に選ぶ話だが、それをどこまで焦らしながら、おもしろく、尚且つ感動的に仕上げるかが俺の仕事だ。


 優美と美香と白石さんは、お互いの意見を出し合いながら、俺の意見も重視してくれてキャラをイラスト化してくれた。


 キャラの見た目は、俺のイメージ以上の仕上がりだ。

 自分の妄想でしかなかったキャラが、こうやって目に見える形になるのは、なんとも言えない気分だ。


 俺には絵の才能はない。

 だから、今までは自分の妄想を文字で表現することしかできなかった。

 それが今はこうやって形になり、その姿をみんなで共有している。

 感動しないわけがない。

 

 「やっぱり、イメージが形になるのは良いものだな」


 「そうですね。 自分たちが生み出したキャラには愛着が湧きますね」


 俺が漏らした声に、優美が答える。


 「うちは、この子が一番お気に入りかな!」


 「ヒロインの子も普通な感じですが、かわいく仕上がりましたね」


 「このイケメン俺に似てるな!」


 それに続いてみんなもそれぞれに声を上げた。

 作業も一段落して、気付いたら夕方だ。

 こういう時は、時間が経つのが早く感じる。


 みんなが、キャラを仕上げてる間に俺の原稿も少し進んだが、続きはまた明日だ。

 お疲れ様と言いながらみんなにお茶を配る勇太。

 こいつのこういうところに惹かれる女子もいると噂で聞いたことがある。

 普段はふざけてばかりだが、優しいのだ。


 部室の掃除だけ、簡単にして今日の部活は終了となった。


 作業はまだまだ序盤。

 しかし、序盤が一番大事だ。

 ゆっくりとみんなで話し合いながら進めていくことに、声には出さないがおそらくみんなが納得している。


 帰り道に、みんなでドーナツ屋に寄ることにした。

 俺の横には勇太。

 目の前には、美少女が3人。

 少し前までは、美香と2人で帰っていた帰り道も賑やかになったものである。

 最近は、退屈だと考えたり妄想する時間が減ってきている気がする。

 

 

 「勇太、それちょっとちょうだいよ!」


 「交換なら良いぞ、みかんが食べてるやつもうまそうだ」


 「これは、うちのやからあげへんよ!」


 「美香さんは、いじきたないですね」


 「自分で3つも注文してる優美に言われたくない!」


 「優美ちゃんになら俺のあげてもいいよ!」


 「勇太の裏切りもの!」


 相変わらずの3人である。

 それに比べて白石さんはおとなしいな。

 

 と思って白石さんのほうを見たら、星の形をしたドーナツを食べることなく、ドーナツに両手を向けて何やらぶつぶつ言っていた。


 こっちはこっちで相変わらずである。


 これだけ、騒がしかったらそりゃ退屈もしないか。

 

 俺はチョコレート味のドーナツを食べながら少し感慨にふけっていた。

  

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