君のついた最低な嘘【完】
暇つぶしに読んで頂ければと思います。
「ゆみちゃん、エロいことしようか。」
ニッコリと笑う目の前のイケメン、幼なじみである三浦大地は私、指原由美の玄関口でこう言った。
「断る。」
だか、彼の甘いマスクに魅惑されてはいけない。彼につかまると痛い目にあうことを私は知っていた。
あいつは幼なじみの私が断言できるほど、甘々イケメンである。顔が整っていて、口から出るのは胸焼けしそうなくらいの甘い言葉。どこからそんな言葉を覚えたんだろうと不思議になることも度々あった。そのせいか、中学のころから周りにハーレムを作り、大学2年まで順風満帆に生活をおくっていた。しかし、大学2年になった途端に彼は病気のため私に知らせずどこかへと消えていったのだ。
それから、約1年。私は大学4年になっていた。
「ん?なんか、怒ってる?」
「助けてもらいながらいきなり消えたと思ったら、これ?ふざけないでよ。」
彼はかっこよかったため周りには女関係の問題が溢れていた。それを片づけていたのは紛れもなく私。要は、雑用係みたいなものだった。しかもそのせいで、恨まれ妬まれてさんざんひどい目にあったものだ。
「…ごめん。実はと言うと今日は謝りにきたんだよ。」
いきなり真面目な表情になったあいつにちょっと拍子を抜かした。1年も会わないだけで彼は、こんなにも変わってしまったのだろうか。
「実はさ、余命1週間なんだ。」
「…え?」
「だから、最後にゆみと…って思ってここに来たんだけど。」
「え、ちょっと待ってよ。余命ってほんとに?」
私はうかがうように彼を見たが彼の表情はうつむいててみえない。
……こんなの初めてだから、どう対応したらいいのだろう?
最悪な人だけど、困ったら助けてくれたこともあったし、一応幼なじみだし……。
「…………その、エロいことはできないけど、あんたに付き合ってあげてもいいけど」
「ほんと!?」
「エロは無しだからね!」
すると大地はウンウンと目を輝かせ激しくうなずいた。
こいつ、ほんとに余命一週間?と疑ってもいいぐらいの笑顔でだ。
……それから毎日、私は大地に連れさられた。
一日目は、水族館。二日目は遊園地。そして三日目はお部屋デートらしく、私の家に来ている。
「…身体、とか大丈夫なの」
「心配してくれるの?」
「あ、あんたが余命一週間とか言うから!」
「うん、そだね。」
すると彼は見ていた写真を視線から外しベットにもたれた。
腕を目に当てて口角は上がっている。
「ゆみちゃんが心配してくれるとか、明日雪が降るかも。」
「ふ・り・ま・せ・ん!」
私は見ていた雑誌で大地の頭を叩いた。
…本当にこいつ、死んでしまうのだろうか。
余命宣告されても生きるひとは宣告以上生きている人もいる。それに比べて宣告された日よりも前に死んでしまう人いるのだ。
私はふと思った。彼はどっち側の人だろうか、と。
「さ、俺帰るわ。明日どこ行くか決めて連絡するよ」
「うん、分かった。」
付き合う、と言ったのは私だ。彼が満足するまでとことん付き合おうと決めた。
「じゃあね、また明日」
「おう!」
◇◆◇◆
そしてその夜、来てほしくない電話が来てしまった。
『……三浦大地さんの関係者でしょうか?こちら、◯◯病院ですが…』
その電話を聞いた瞬間、簡単に準備して病院に走った。
「……っあの!三浦大地の関係者ですが!」
「わかりました、ご案内します。」
そして、私は看護師さんの後ろについていく。ゆっくり歩く看護師さんにはやく、はやく、と焦る気持ちを必死に抑えていた。
「…あれ、ゆみちゃん?」
大地の声がして振り返るとそこには普通に立っている大地がいた。しまいには笑顔でヒラヒラと手を振っている。
「あ、れ?」
看護師さんは大地に「お大事に」と伝え去っていく。
「心配して来てくれたの?俺ならほら……この通り」
そう言って彼は両手を上げ無事なことをアピールした。
「…死んでないの?…幻?」
「あはは、そんなわけ無いじゃん」
「いや、だって、電話が…」
「あれ、もしかしてちゃんと聞いてない?俺、軽い事故にあったんだよ。車と腕が当たってさー。あれは痛かったね」
電話?そういえば焦りすぎてちゃんと聞いていなかった。
………う、うわぁぁ。やってしまった…!!
私は恥ずかしさに、頭を抱えた。それを見て彼は笑う。
「外、出ようか。」
◇◆◇◆
「病院、急いで来てくれたんだ。ありがとう。」
2人は病院から少し歩いたところにある公園にきていた。
「ほんとに死んだかと思った。」
「俺が死んだら悲しい?」
大地が死んだら?
ここ最近ずっと考えてきた疑問だった。もちろん、死んでいい気持ちにはならない。どうでもいいけど、幼稚園の頃から一緒なんだ。死んでは欲しくない、んだと思う。
「ごめん、余命一週間っていうやつ嘘なんだ。」
「………え?」
「ほんと、ごめん。」
「どういう意味?」
「言葉のとおりだよ。」
私は思わず歩みを止めた。
余命宣告があるから私に頼んできたんじゃないの?
突然のことに頭がまわらない。
「ずっと私に嘘ついてたの?」
もしかして嘘をついて、心配する私のことを影で笑っていたのだろうか?
「…そうなるね」
ーーーーパシンッ!
…気づけば周りのことも考えずに平手を打っていた。夜だったため幸い人はいなかったが、音がやけに響いた。
「………っ最低!」
大地は私に叩かれた頬を軽く抑え固まっている。彼は今、どんな表情をしているのだろうか?ーいや、そんなの関係ない。
私は一刻も早くここから去りたくて来た道を戻ろうとした。
「待って!」
「何よ!今度は何して私のことを笑うの!?もう、うんざりよ!あんたの頼みなんて聞かなければ良かった!」
自分の苛立ちをそのまま彼にそのままぶつけて、手を振り離そうとするものの力の差でなかなか離れてくれない。
「………っ離してよ!」
「嫌だ!でもこんな事しないとお前は俺を見てくれないだろう!?」
初めて聞く彼の怒鳴り声にびっくりする。普段、いつも笑っている姿からは想像もできなかった。
「………何、言ってるの…?」
わからない、一体彼は何をしたかったのか。
「…ずっと、好きだった。出会ってからずっと」
…出会ってからずっと?私のことを??
「あ、ありえないよ!だって…」
「それはお前の勝手な考えだろ」
だって、あいつの周りには常に女の子がいて……
私はそれを見るのが嫌でいつも避けていた。面白なくて、なんだか悔しくて……。
ーあぁ、どうして今なんだろう。どうして今気づいてしまったんだろう。
「好きだ、ずっと。会えない日はずっと忘れることはなかった。」
「……馬鹿よ、大馬鹿者よ…。」
涙が溢れて、しゃがみこんだ。
「うん、俺の事許さなくてもいいよ。でもその代わり」
私は、あいつのことが好きだ。
ーずっと傍にいてよ。