人の仔、猫の仔、聖夜の仔
どうも、植木鉢2です。
これを書き始めようと思い立ったのが25日の夜でしたので残念ながらクリスマス投稿はできませんでした。
まぁ、言い訳は多々あれどもし読んで下さる方がいらっしゃるのであれば、どうぞごゆっくり。
多少でも何か感じてくだされば幸いに御座います。
「はぁ・・・」
ため息をつく。
ため息をつくと幸せが逃げていくとはよく言われるけど、もし私に幸せが残っているなら是非今それを感じさせてほしいと切に願う。
具体的には恋人が欲しいです、神様。家族は上京した今、ぐちぐち言っても仕方ないことなので。
巷は一ヶ月も前くらいからクリスマスムードに包まれ始め、私の通う大学のそこかしこでも見せつけるようにカップルがいちゃついている。いや、当事者の彼ら彼女らにはそんな気は全くないのだろうけど。というかあったらしばく。
中学生くらいまでだろうか、サンタクロース|《親》にプレゼントを貰いクリスマスだー、と素直に暖かい気持ちになっていたのは。
高校にあがってからは、段々と大人っぽくなっていく周りや毎年クリスマスを独りで過ごす寂しさも相まって、私はクリスマスという祭日を無邪気には祝えなくなっていた。
そんなクリスマスもとうとう明日。
つまり今日はクリスマス・イブだ。憂鬱だ。大学の講義を終えて家路へつく脚が重い。
街中のイルミネーションは日も暮れはじめた薄闇を華やかに照らしている。
この春借り始めたばかりの家に帰ってもどうせ灯りがついている訳でもない。
そう思うと益々憂鬱になって、脚が重くなり、益体のないことを考え始める。あぁなんという悪循環。
横断歩道に近づくにつれ、つま先を見ていた目線を前に戻す。
横合いから自転車に乗るか走るかする中学生くらいの男女が騒ぎながら車道を駆けていく。
その純真さが懐かしくなり、私もあんな風に公園なんかで遊びまわったなぁと思いながら何とは無しにその集団を目で追う。
つ、と目で辿った先にはこじんまりとした公園があった。
彼らは何が楽しいのか満面の笑みを浮かべながら何事か叫びあい、その公園の逆の出口から去っていく。
彼らの走り去る先に願わくば私のような道がないことを。アーメン。
などと内心で一人巫山戯ていると信号が消えそうになっていることに気づく。
慌てて重い足を急かして渡りきる。ずっと講義で室内にいたせいもありたったこれだけのことで少し疲れてしまった。
「はぁ・・・はぁ・・・少し休むか」
幸いなことに公園もある。・・・ハッ!これがため息をついた私に残っているほんの少しの幸せか・・・。
身体も気分も落ち込ませながら、引きずるように公園に足を踏み入れる。
当然ながら人はいない。皆クリスマス・イブだから家族で過ごしたり、さっきみたいに友人と遊んだり、はたまた恋人と愛を囁き合っているのだろう。
あぁ・・・自分で言っててさらに虚しくなってきた。
改修工事でもしたのか、未だ新しさを感じさせるベンチに腰を下ろす。
脇に鞄を置き、背もたれに両肘をかけて、足を伸ばしつつ目を瞑り、顔を上に反らす。完全なる脱力体勢の完成である。
「ん~・・・あぁーーー。つかれたぁ・・・。」
ひとしきり誰もいない公園で伸びをしていると急に睡魔が襲ってきた。はて、夕食すら食べていないのにこんなに眠いとは一体どういう事だろう。
あぁ・・・せめて御馳走に近所の肉屋のチキンが食べたかった・・・。そんなことを朧気に考えながら私の意識は闇に飲まれていった・・・。
***
「・・・んぅ~・・・って、さむっ!」
ひとつ伸びをして起きる、と同時に肌に冬の寒さが突き刺さる。
思わず身震いして周りを見回すと、こじんまりとした公園と巨大な木の壁が目に入る。
「あれ・・・ここは・・・私は・・・なんで・・・・・・あぁ、そうか。寝ちゃったんだっけ・・・うぅ、さむっ。また『コレ』か・・・」
最近急に眠くなり、そのまま眠ってしまうと猫になっていることがあって困っている。まぁ人間の適応能力が高いのか、猫の順応性のせいなのか、既に慣れてしまって、『コレ』か、と言えるほどになってしまったのだが。
しかし今までは家でばかり猫になっていたので、今回は困った。荷物や洋服は寝てしまった時のまま私の脇にあるし、ここから家までは電車を乗り継いで行くほどの距離だ。
・・・いや、荷物を盗まれなかっただけで良しとしよう。今のこのご時世、例え猫が居ても荷物を放置していたことに変わりはないわけだし。
それにしても、ほんとうに、本当に寒い。雪もちらちらと降ってきた。
夜になり雪が降ってきたからか、それとも私が猫になって今まで着ていた防寒着を全て脱いでしまったからだろうか。いや、両方だろう。兎に角寒い。あぁ、このままここにいたら朝には私、冷たくなってるんだろうなぁ・・・。
なんて現実逃避をしつつ、どうしたものかと思案する。
思案してはみるが、そもそもこの寒さの中まともに物事を考えられず、頭が朦朧としてくる。
あ、これ不味い意識の失い方だ、と思いつつも私にはどうすることもできずそのまま再びベンチに倒れこんだのだった・・・。
***
どれくらい寝ていただろうか。
朦朧とした意識の中、不意に誰かに抱き上げられ気がした。触れられた部分からじんわりとした暖かさが身体に伝わってくる。
私はその暖かさに縋るように動こうとするが、寒さに凝り固まった身体にできたのは寝惚けた幼子のような弱々しい動きだけだった。
それでも、私を抱える者はその意図を汲んだのかさらに私を強く抱く。
今度はその暖かさに誘われるような、心地よい眠りに落ちていくのだった...。
***
随分と長い間、夢すら見ずに眠っていた気がする。
寝惚け眼を肉球で擦ると少し息苦しい程真っ赤な布に包まれているのが分かった。
体勢を変えようと足をもごもごさせていると赤い布が動き始め、程なく視界が鮮やかな赤から解放される。
息苦しさから解放されて起き抜けに欠伸でも、と思って口を開けた私の前には、わたがしを思わせるような髭を蓄えて此方を気遣わしげに見る真っ赤なサンタクロースがいたのだった。
「・・・夢?」
思わずそう呟いてしまったのも分かって頂けると思う。
気が付いたら猫になっていて、寒さに眠って目が覚めると目の前にはサンタクロース。
いっそ夢ならどんなにいいか。
残念ながら、肌を切り裂くような冷たさと時折幽かに感じる揺れが、この光景は現実だと如実に表している。
「・・・そうじゃな、夢だとどんなに良かっただろうか。」
私の呟きに何故か目の前のサンタの表情が一転し、悲壮ささえ感じられる諦めの笑みを浮かべ、何処かも知れぬ空の彼方を望んでいる。かと思えば急に掌で自らの顔を覆って腰を折って嘆いてしまう。
そのあまりに意気消沈とした雰囲気に当てられ、自分のことを尋ねるよりも先に、彼の老人の悲しみの理由を聞いてみることにした。
「おじいさん・・・いや、サンタさんは何故そこまで悲しんでいるのでしょう?」
「お主・・・今日が何日か、分かるか?」
「え、ええっと。私がさっき眠っちゃったのがイブでしたから、今は・・・25日のクリスマス当日ですか?」
「・・・違う、違うのじゃ。なんと今日は26日。それももうすぐ27日なろうとしておるのじゃ。」
サンタさんの話は多分に愚痴を含んでいて長かったので纏めると、こんな感じになった。
そもそも地球には、場所は言えないらしいがサンタの村なるものが存在するらしく、そこに届く子供たちの欲しいプレゼントを数多くのサンタが配る、というのがクリスマスの実態らしい。ただ近年は子供の数が増え手が足りなくなってしまい、その業務の多くを外部委託しているらしい。
そして外部委託以外の、サンタが直接配る地域だが毎年世界中の都市を順々に巡っていき、平等に配ろうとしているらしい。
しかし、その配る都市で毎年揉めるとのことでサンタ同士の既得権益を争点に、様々な利権争いが勃発し今年配る最後の町が、なんとクリスマスの数日前に日本のA県の一都市に決まったのだという。
サンタの中でもまだまだ下っ端だというこのおじいさんは、その決定がなされた直後、即ちクリスマスの数日前からやっと準備を始めることができたらしく、その仕事は正しく殺人的なものだったそうだ。
彼の瞳の下にもそれを証明するかのように黒々とした隈がある。
とにもかくにも、サンタさんは子供たちの夢が一気に台無しになりそうな世知辛い事情でもって決まった仕事であるプレゼントの配達をするためにこの日本にやってきたらしい。
しかし、そこでサンタさんは誰がどこに住んでいてどのようなプレゼントを配るかという所謂指令書に書いてある字が読めなかったのだという。
どうもその指令書はサンタクロース日本支部から受け取ったらしいのだが、寝不足でうっかりしていてサンタ謹製翻訳機を故郷のサンタ村に忘れてしまったのだそうだ。
そのため、日本語で書かれたその指令書が読めないのだという。日本支部に戻りなよ、と突っ込んではみたのだけれどこのサンタ、サンタの癖に方向音痴らしくふぉっふぉっふぉと笑うばかりでその部分に関しては真面目に話さなかった。
まったく、話す聞くはこんなにも完璧なのに読み書きはできないとは不思議な話だ。
サンタ曰く完璧なサンタよりもちょっとドジな方が親しみ湧くじゃろ?とのことだが、別に誰かが親しみを求めた訳じゃないと思う。
まぁそんな訳でサンタさんは苦肉の策として現地人の手を借りることにしたが、一般人に正体を知られることだけは絶対の禁忌らしくどうしようかと思案していたところに私がいたらしく、拾い上げてくれたのそうだ。
そして、どうか現地人の自分にプレゼント配りを手伝ってほしいとのことだった。
彼の話を聞き終わり最初に抱いた心情は”サンタ、マジぱねぇ・・・”といったものではあるが、それは置いておくにしても現実感に欠ける話であったように思う。
しかし、彼が低体温症で死にかけていた私の命の恩人であることに変わりはなく、その点を考えると彼の頼みを無碍にはできなかった。
まぁ勿論、サンタの仕事というものを見てみたいという興味本位も多分にあったが、兎も角猫になった私は今年、サンタの帽子に包まりながらサンタの助手をすることになったのだった。
これを、読んでみた貴方は見上げてみて欲しい。
もしかしたら、世知辛い世間事情に揉まれながら働くえらく現代的なサンタが猫を頭の帽子に入れてプレゼントを配っているかもしれない。
けれどもし、そこにサンタが居なくてもがっかりしないで欲しい。
きっと貴方も人の仔に夢を与える者の一人だから。
それになにより、冬の夜空は綺麗だから。
私自身がサンタのように世知辛い事情によって投稿が遅れたとかは内緒で(苦笑
ここまで読んで頂き有難う御座います。