王道?なにそれ美味しいの?~由紀乃side~
「あの……良かったら職員室まで案内してくれないかな……?」
いや、勿論把握済みだけれども。
これも会話を繋ぐためだ。せっかくの出会いは大切にしないといけないとかなんとか昔に中学の時の国語の教師が言ってた。卒業後も教えを守るなんて生徒の鑑だね。
「全然大丈夫だけど……転校生だったんだ」
にこにこ顔は崩さず私の頼みを快く承諾してくれる彼。正に王道恋愛のヒーロー!
一人で勝手に舞い上がっていると、前方から二人、男が歩いてきた。
一人は生徒、もう一人は教師のようだ。
「だから!お前はそろそろ住所を決めろ!」
「ハァ?なんでお前にンな事指図されなきゃなんねぇんだよ!お前は黙って栞仲でも蹴ってろ!」
「栞仲とお前は関係無いだろ!」
暫くすると、だんだん会話も聞こえ始めた。
どうやら喧嘩をしているようで、大声で怒鳴りあっている。今すぐにでもイヤホンをしたくなったが、さっきぶつかったときに隅へ飛んでいったまま行方が分からなくなった。
この短時間で誰かが気づかれないように盗むなんてことができるはずないので後でこの辺を探してみようと思う。
「あ!蓮架にスギちゃんセンセ!」
すると、隣の春哉君が二人に向かって叫ぶ。
「え、春哉君あの二人と知り合い?」
まさか春哉君があんな大声で喧嘩するような子供っぽい人たちと友達なんて……とは思いつつそう問えば、
「うん、友達!」
なんて言葉が返ってきたので唖然とする。
う、うん、きっと誰とでも仲良くなれる子なんだ!
私の中での春哉君へのイメージは、このくらいのことではまだまだ壊れはしなかった。