来たよ、僕らのお姫様(?)
今、柴玲高校の前に立つ少女が一人。
「遂に……遂に来たわよ……」
不気味な笑顔を浮かべて彼女――花道由紀乃は言った。
「私の時代が!!」
――
由紀乃は、少し錆の目立つ校門を押し開け、少し長い校舎への道を歩き出す。
編入と言うこともあり、皆より少し早めに登校してきたはずが、もうグラウンドの方からは部活の朝練と思しき掛け声が聞こえる。
騒がしいのが少し苦手な由紀乃は、愛用の小型音楽プレーヤーのスイッチを入れる。
青色のイヤホンコードが秋の風に靡いて揺れた。
親の都合でこの辺りに越してきたのが三日前。この学校に編入したのは由紀乃の意思だった。
理由はホントに簡単。
“有名な不良校だったから”
馬鹿げていると言うのなら言って頂いて結構だ。
そう。彼女が狙っていたのはただひとつ――私だけのハーレムを作ろうじゃないか!ということだけだったのだ。
軽く説明も済んだところで、やっと生徒玄関につく。
まだ専用の下駄箱は作られていない為、名札の無い靴箱に適当に靴を突っ込むと、予め調べておいた職員室へ向かって再度歩き始める。
だが、数歩歩いたところで誰かとぶつかってしまった。
かなりの衝撃だったのか二人とも床に倒れ込む。イヤホンも廊下の隅へ滑っていく。
「わっ!」
「うおっ!?」
校則遵守で歩いていたはずだったのに、なんてついて無いんだ……という愚痴は心の中に止めておいて、ぶつかった相手に謝ろうとその顔を見る。
……あ、イケメンキタコレ
黒いストレートの髪は手入れが行き届いているのか、窓から入ってくる風に揺られて煌めいている。ぶつかった衝撃で打ったのか、手の甲をさすりながらも痛みに耐えている姿もサマになっていた。
暫く彼に見惚れていると、何も話さない由紀乃を心配してか、痛むであろう手も気にせず、尻餅をついたままの由紀乃を起こす。
「だ、大丈夫でしたか?」
目の前で心配そうに顔を覗き込まれて初めて今まで自分の置かれていた状況を思い出す由紀乃は、ハッとして起してくれたまま握っていた手を握り返すと、
「私は全然大丈夫なので貴方のお名前を教えていただけませんか!?」
と迫った。
彼の方は少し戸惑った表情を見せたが、すぐにこっと笑って整った唇を動かす。
「僕の名前は神崎春哉、僕なんかの名前を聞くなんて、不思議な子だね」
神崎春哉……
「私、花道由紀乃。よろしく、春哉君!」
久しぶりに大声を出したかもしれない……。
秋の風が……イヤホンコードをただただ揺らし、赤く染まった葉を散らすだけだった秋の風が……この恋の始まりを祝福しているような気がして、どうしようもなく頬を熱くさせるのだ。