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森の奥にある木の実

作者: 森崎桜菜

 世界には数多くの食べ物や飲み物がある。森の奥にある大きな木には甘くて、美味しい実がたくさんある。最も美味しく、貴重な食べ物があることを小さな村に住んでいる一人の少年も知っている。

 だけど、昔からその実を取ってはいけないことになっている。食べた者には罰が与えられる。


「やめなさいよ!」

 

 少年を止めようとしたのは同じ村に住んでいる幼馴染の少女。


「ああ?うるさいな、腹が減っているんだよ!」

「ここの実は食べたら、罰が与えられてしまうよ!」

「へえ?誰に?この木の妖精か?」

「そうよ!」


 それを聞いた少年は嘲笑った。過去に少年と同じように木の実を盗んで食べた男達がその後に不幸に苛まれ、最後には誰も彼らの姿を見なくなった。

 その話を少年も少女も知っているが、少年は昔話程度にしか考えていない。


「お前さ、ここの妖精を見たことがあるのか?」

「いいえ、ないわよ」

「だろうな、俺もない」

 

 実を片手に木から飛び降りると、一人の女性が二人の前に現れた。


「誰だ?おい、お前の知り合いか?」

「知らない。村の人ではないよね?」


 女性はゆっくりと少年の前まで歩き、手をまっすぐに伸ばした。


「駄目ですよ。ここの実を食べてはいけないことは知っていますよね?」

「はい!すみません!すぐに彼を連れて行きますから!」

「あっ!」


 木の実を少年から取り上げ、少女は女性に渡した。少年はすぐに奪い返そうとするが、少女に首根っこを捕まれたまま、ズルズル引きずられた。


「うぐっ、く、くるし・・・・・・」

「そのまま大人しくしていて!」


 結局、その日は何の収穫もなく、村に帰ることになった。


「ったく!おかしいだろ!」

「何が?」

「さっきの女だ!」


 少年は自分のことを注意してあそこから追い出し、誰もいなくなったことを確認してから、あの実を盗もうとしているのではないかと考えていた。


「そうは見えなかったわよ」

「絶対そうだって!」

「実を食べることができないから、私に怒っているの?」

「ふん!」


 村に帰ると、少年はりんごを齧っていた。

 少女の説教を聞き流しながら、またあの場所へ誰にも邪魔されないように行くことを考え続けた。


「夕食、食べられる?」

「りんご一個で満腹になるかよ!それより、そろそろ自分の家に帰ったらどうだ?日が暮れるぞ」

「おばさんに夕食、招待されたから」


 こうなったら早起きして、パンを買いに行くフリをして、あの森へ行くことにする。

 人間、やってはいけないことをなぜかやってしまいたくなる。それがいけないことだとわかっていても。


「ちなみにね、今日の夕食はパエリアだって!楽しみだね!」

「そうだな」


 少年は少女の話に合わせたが、実は少年はパエリアをあまり好んでいなかった。早く今日が終わらないか、少年はただそれだけ願っていた。


「そろそろ行くか」


 早朝に少年が森へ向かうと、うさぎが木の実をじっと見ていた。

 先客がいたことに舌打ちをするが、相手は人間ではないので、どうってことはなかった。


「そこをどけよ」

「駄目だよ。この実を盗む気だろ?」

「当たり前だろ?これは極上みたいだからな。味を確かめたいんだ」

「これは大切な実だ。自分だけ好き勝手な行動をしてはいけない。大切にするからこそ幸福が訪れる」

「黙れよ!」


 近くに落ちてある石をうさぎに目がけて投げつけ、次に木の実を落とすために木の枝を使って次々と木の実を落として、とうとうそれを口にした。


「すごく美味い!!」


 あまりの美味しさに木の実を食べ続けて、うさぎの存在を忘れていた。もっと食べたいので、少年が家にあるかごをここまで持ってこようと、立ち上がった。

 すると、それを邪魔したのはさっき、石で怪我を負ってしまったうさぎだった。


「もうチャンスを与えない」

「あ?何だよ?」


 うさぎは先日会ったあの女性に姿を変えて、少年を驚かせた。


「お前!何者だよ!?」

「この木の妖精です。何度も注意したのに、あなたには罰が必要ですね」


 目の前が強い光で目が潰れてしまいそうだった。しばらくしてから恐る恐る目を開けると、そこは自分の家の中だった。


「何だったんだ?あれは・・・・・・」


 喉が渇いたので、ぶどうジュースを飲んだ。すると、ジュースの味はなく、まるで水を飲んでいるようだった。


「どうして・・・・・・」


 家の中にある食べ物を片っ端から食べた。フライドポテトやシャーベット、ハーブサンドなどを食べたが、どれも味がしなくて訳がわからなくなった。

 木の妖精に会うために森へ行ったものの、会うことはなく、少年は食べることが日に日に嫌になっていった。


「どうしたの?そんなに不味そうに食べて・・・・・・」


 少女が遊びに来て、お菓子を持ってきてくれても、素直に喜ぶことができなくなった。


「何でもない・・・・・・」

「病気?」

「違う・・・・・・」

 

 食欲がなくなり、元気を失った少年は諦めずに森へ向かった。そこには三十代の男性二人組みがいて、少し前の自分のように木の実を取ろうとしている。

 彼らは斧を持っていて、木を倒して木の実を盗もうとしていることがわかり、少年は慌てて止めた。


「やめろよ!」

「何だ?このガキ」

「邪魔すんなよな!」


 追い払おうとしても、少年は腕にしがみついて離れないので、もう一人の男性が斧を使って脅そうとしたとき、彼らは突然悲鳴を上げて逃げて行った。少年が困惑していると、木の妖精が現れた。


「あいつらは・・・・・・」

「さっき、逃げた男があなたを斧で怪我を負わせようとしたので、幻覚を見せたのです」


 男性二人組みがどのようなものを見たのか知らないが、きっと恐ろしいものに違いないので、少年は知らないままで良かったと思っている。


「彼らに勇敢に立ち向かったので、罰から解放してあげます」

「本当か?」

「ただし、今後ここへ来るときはもう二度と実を盗もうとしないこと」

「わかった」


 それから少年は木の妖精と交わした約束を守りながら、悪さをしようとする者を追い払うようになりました。


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