ーSpare Time at Playー Part1
とある街のある宿での出来事…
「ねぇ」
「ん~?」
「ヒマ」
「ん~」
「ならご飯でも食べに行きません?」
「ん~」
「おいラルクちゃんと返事をしろ」
「ん~」
「だからちゃんと返事をしろぉ!!」
「のわぁっ!!」
アルトはベッドに仰向けに寝転ぶラルクをベッドから落とす
「ッテテ…しょうがねぇだろガルシア王からの連絡待ちで2、3日街から出られねぇんだから」
腰をさすりながらラルクは起き上がる
「そうじゃなくてもさぁ、今日雨で外出らんないから退屈だよねぇ…」
メリッサは窓越しに鉛色の不機嫌な空を眺める
こんな日は空だけでなく人も不機嫌なのか通りにもあまり人がいない
外での暇つぶしは期待出来なさそうだ
「そうですねぇ、湿気が多いから朝に髪の毛整えるの大変でした…」
「あ、セレン様ここ毛先がハネてますよ…」
アルトは荷物からブラシを出してセレンの艶やかな黒髪にかけ始める
「セレンの髪サラサラだねぇ」
メリッサもセレンの髪を指先で遊ばせながら女の子同士の会話に花を咲かせ始める
「んもぉダメよセレン、女の子なんだから身だしなみはちゃんとしとかないと!!」
ライカがクネクネとした動きでセレン達の会話に入って行く
「お前はこっちだろ!!」
ラルクに引っ張られる
見るに耐えない光景なので強制終了させた
「んもうラルクったらぁん!!」
ライカは指先を柔らかく使いながらラルクの肩を叩く
「その口調やめろ!」
寒気を感じラルクは身を引くとライカはため息をつく
「だぁってひまじゃんよ?!何か部屋の中で出来る事やろうぜ!!」
ライカの提案に真っ先に思案を巡らせたのはセレンだった
「ん~…あ、アルト!アレやりましょう!」
セレンは思いついたように言ったがアルトの顔が若干強張る
「アレ…ですか?しかしみんな見てますし…」
少し顔を紅くしながらラルク達を見回す
「え?何々?」
メリッサが強く興味を示す
「わかった、今からやるわ…」
すると、セレンは跪きセレンの膝の上にアルトが体を預けセレンに抱きかかえられる形になり
その次にアルトはセレンの腕の中で胸を抑えてうなだれる
そして一瞬の沈黙の後
「アルト!アルト!どうして?どうして私を庇ったりなんかしたの?!」
…なんかよく分からないが寸劇が始まった事だけは分かる
どうやらアルトは瀕死の設定で、察するに胸を抑えているのは傷を受けて血が流れている…という想定らしい
「フ…バカだなぁ…君には…婚約者がいるだろう…?僕のために悲しむ事は…無いじゃないか…」
アルトは手を震わせて息使いを荒くさせながらセレンの手に重ねる
どうやらアルトは男役でセレンを守る騎士のような役柄のようだ
「そんな事言わないで!!」
「僕の願いは…き、君と彼が…し、幸せになる…事だ…だから君は…死んじゃ…いけない…」
「でも…貴方がいないと!!」
セレンも必死に泣きそうな顔をつくるが既にラルク達との温度差がかなり開いている
「も、物わかりの悪い…姫様だ…さ、最期くらい僕の言う事聞いてくれよ…」
「いや!嫌よ!!だって…私は…私は…!」
2人の茶番が段々と熱を帯びてきてしまった
これはいつ終わるのだろうか?
「ハハ…な、泣き顔も…可愛いね…僕の…愛しの姫…さ…ま…」
アルトは右手をセレンの頬に伸ばすがその指先は彼女の頬に触れる事なく散っていった
「私も…愛してるの…アルト…アルトォー!!」
セレンはアルトの亡骸を抱きしめ彼の名を叫んだ
どうやらここでやっと終わりのようだ
「ながっ…」
思わず口から出てしまった
「えぇ?いいじゃん!今の切ないけど素敵なお話しだったよぉ!!」
メリッサには効果的面だったようだ
「乙女要素満載だったな…」
ライカも一応男だから今の寸劇はちょっと甘ったるく感じたようだ
「息ピッタリだったけどいつもこんな事王宮でやってたのか?」
「はい、お城の中での暇つぶしにアルト一緒にたまにこうして即興でやってました」
セレンはまるで長編の演劇の終焉を迎えた様なやりきった顔をしている
「甘いですね、後半のアルトの台詞はセレンに想いを伝えるのではなく想いを秘めたまま死ぬ方が切なさの余韻がより残るのでは?」
「やっとシルヴィアが喋ったと思ったら意外にも今の寸劇の批評かよ…」
ライカが呆れた顔で言う
「いや、シルヴィアはこう見えて演技が上手くて交渉の時に活躍したり前に何度か演劇の仕事が来たりした事もあるのよ」
「ふ~ん…じゃあさ今度はみんなで即興演劇やらない?」
メリッサが提案する
「いいですねやりましょう!」
どうやら乗り気なのはセレンとメリッサだけのようだ
だが、どうやら暇つぶしはこれ以外になさそうだ
仕方ないやってみるか