ーthe Alonesー Part6
次の日ライカはメリッサをまた衛生師団棟のヘレナに預けてからオルドネスの元に急いだ
メリッサと自らがこの先一緒に暮らしていけるかを決める重要な試練を受けるためだ
「来たか、待っていたぞ…」
謁見の間の扉が唸るような音をあげて開くとライカの姿が現れた
「早いとこその試練の内容を聞かせてくれよ、この3日間気が気じゃなかったぜ?」
戯けた態度を装ったが
玉座に座すオルドネスに近づくにつれて胸の鼓動が高鳴っていくのをなんとか鎮めようとする自分がいた
「ライカよ、その前に貴公に言わねばならぬことがある…」
オルドネスは縦に傷の走る額にシワを寄せた
「実は昨日、議会で貴公がメリッサを保護することを議論したのだ」
ライカは何か嫌な予感を感じた
「議論の結果、貴公はまだ幼い故メリッサをレギオンの孤児院に保護させることになった…」
「ふざけんなよ…!?」
一瞬時が止まったかのように感じたがライカは考えるよりも速く反論していた
「残念だが議会の決定だ、貴公には従ってもらうぞ」
オルドネスは迫るような紅の視線でライカを玉座から見下ろす
「じゃあメリッサの気持ちはどうなる?あいつ昨日の夜中、寂しくて独りで泣いてたんだぞ!?」
「じきにそれにも慣れるだろう。今は不安定な時期なのだ」
ライカは体の内側から怒りの焔が湧き上がってくるのを感じた
不信…裏切り…そういった単語がライカの頭の中に渦巻いていた
「従えるわけねぇだろうが…!!メリッサの未来が掛かってんだよっ!?」
ライカは叫ぶようにしてオルドネスに訴える
メリッサのあの涙…自分がここに至るまでに辿ってきた悲しみをメリッサに味わせたくないという一心だった
「逆らうか?ひとりの娘のためにガルシア最強の戦士と謳われ、王であるこの俺に…?」
ガルシア王はゆっくりと玉座から腰を上げると殺気が爆発するように迫ってくるのと同時に四肢が光を放ち始める
「んなことは関係ねぇ…!メリッサとの約束を破るわけにはいかねぇからなぁっ!!」
今までに味わったことのない迫り来る覇者の殺気に足がすくんだが引き下がるわけにはいかない
ライカは牙を向き内に湧き上がる焔を四肢の光に変えて使えるべき主に対峙する
謁見の間に殺気が満ちるまで互いに睨み合う
そして、殺気が満ちようとする時
「……………なるほど…合格だ!」
オルドネスは突然口を開き、四肢の輝きが失せていく
「は…?意味わかんねぇよ!」
ライカは状況を理解出来ずにオルドネスに再び吼えてしまう
「聞こえなかったか?合格だと言ったのだ」
再びオルドネスがそれを口にすると緊張の糸が切れてしまったようにライカの四肢の光が消えていく
「どういうことだ?」
「ひとりの大切な者を守るために強大な力にでさえも牙を剥いていく勇気、それを貫く意志の強さ、貴公にそれらがあるかを試したのだ」
オルドネスは再び玉座に腰をかけて口元を緩めた
「ってことは…これが、試練…?」
「そういうことだ。騙すような真似をして済まなかったな」
ライカは殺気と同時に体を覆う激昂の焔が消えていくのを感じた
「ってことは、メリッサと一緒にいてもいいのか…?」
「あぁ、彼女は俺と貴公の大切な仲間だ。メリッサを頼んだぞ!」
その言葉に両脚から力が抜けてライカはその場にへたれこんでしまった
いくら一時の感情の激昂とはいえ
一国の王、さしてはエデン全土にその名を轟かせるガルシア最強の戦士に挑んだからにはその落差は図り知れない
「あ〜あ…ったく、ガルシア王に挑むなんて俺も大それたこと考えたなぁ。お陰で足ガクガクだぜ…」
ライカは謁見の間であるにも関わらず大の字に四肢を投げ出した
「大切な者を守るには時にはそういうことも必要ということだ。そして、それは貴公らが強い絆で結ばれているという証しだ」
ライカは上体を起こしてオルドネスを見上げる
「へへっ…まぁ、責任があるからな…拭えるかどうかはわからんけどね」
ライカは苦笑いを浮かべた
「それはこれからの貴公ら次第だな。さぁ、メリッサを迎えに行ってやるといい」
「そうだな、じゃあ御前を失礼しますガルシア王!」
ライカは立ち上がりわざとらしさを交らせたお辞儀をして謁見の間を後にした
「貴公らなら、乗り越えられると信じておるぞ…」
オルドネスはそう言ってから大きなあくびの後に玉座に座り直してゆっくりと眼を閉じた