ーthe Alonesー Part2
謁見の間を出てからレギオン王城の東側に位置する衛生師団棟にライカ達は向かった
ここは単にガルシア軍の衛生師団が駐在する場所でもあるが
レギオン王城の中でもこの棟に関しては入口に門番が配置されておらず一般解放されている診療所のような役割りがある
ライカ達はガルシア軍人専用の入口から中へ入っていった
「あら、確かあなたは新人の…?」
入るなりひとりの白衣を着た女性がライカを見た
「おっ?俺のこと覚えててくれた?」
実は入隊してすぐに女性が多い衛生師団にナンパしに飛んでいったというのは後ろにいるメリッサには内緒だ
「ライカよね?あら?かわいいこの子っ!!」
「メリッサって言うんだ」
早速彼女はライカの連れているメリッサに気付き跪いてメリッサに視線を合わせる
「ライカ、あなた子供いたのね?衛生師団の娘達が聞いたらみんなかがっかりするわよ?罪な男ねぇ~」
とメリッサを見ながら彼女は言うが当のメリッサは何のことやら小首をかしげている
「ちがうよ、ライカはライカだよ?」
「あら、そうよね。ライカは色んな人と噂が立つけど結局は誰とも一緒にならないっていう男よね」
「まだ会ってから数日しか経ってないのにそこまで見られてるのは怖いから…それにメリッサにそんなこと言ってもわかんねぇって…」
「しってるよー!ライカ、ヒモって言うんでしょー?」
メリッサは彼女の側に回ってライカを指差す
「バっ…メリッサお前そんな言葉どこで…!?」
「メリッサは物知りねぇ~」
彼女は隣ではしゃぐメリッサの頭をくしゃっと撫でる
撫でられたメリッサは嬉しそうに体をくねらせる
実は彼女はヘレナという名の衛生師団の師団長の1人で彼女自身既婚者であり子供もいる
女性が多い衛生師団の姉御的存在だ
だからメリッサを会ってすぐこのように手懐けてしまったのだ
「あのさ、1刻ぐらいの間メリッサ預かってくんないかな?」
「いいわよ。みんなも喜ぶだろうし」
ライカの予想通り快諾してくれた
入隊直後にナンパしに行った甲斐があったというものだ
「ありがとな、あねさん。そんじゃ大将のとこ行ってくるわ。メリッサ、ちょっと待っててくれな」
「ライカナンパしにいくのー?」
「ったく…マセガキだなお前は…」
ライカは人差し指でメリッサの広いおでこを小突いたがメリッサは悪戯な笑みを浮かべていた
「オルドネス様のとこに行くの?」
ヘレナがメリッサには見せない瞳でライカを見た
「あぁ、ちっとメリッサの事で相談に…」
ライカはメリッサに聞こえないように小声でヘレナに伝えた
「わかったわ…それじゃあメリッサ!ここのお姉さん達とおやつでも食べましょうか!」
「やったー!おやつー!」
ヘレナはメリッサに調子を合わせて彼女を連れていった
「すまない大将、遅くなっちまった…」
ライカは再び謁見の間に戻り扉を開けるとオルドネスは玉座の肘掛けに肘をつきながら頬杖をついて眠っていた
「おいガルシア王、こんなとこで眠ってたら危ねぇだろ…」
ライカは玉座への段差を登っていき彼の分厚い肩を揺する
筋肉隆々であるのが服の上からでも触っていて分かる
「そこは風邪引くぞ、であろう?それに、貴公が来るのは足音で気づいておったよ。足音を殺そうとしていたこともな?」
自分の歩く速さや足音の音程をあれだけの短い時間で気づいたというのは驚きだった
彼に接触する度にガルシアを統べる王としての偉大さを思い知らされる
「お~怖い怖い…」
ライカは思わず苦笑いを浮かべた
最も、その苦笑はこれ以上自身のことを探らせまいとするためだ
「して、メリッサのことについてだったな。貴公から何か提案があるのか?」
「あぁ、メリッサを孤児院に引き取ってもらうんじゃなくて俺に引き取らせてほしいってのはさっき話したよな?」
ライカがそれを口にすると数秒の間両者に沈黙が生まれた
沈黙が深まるにつれて緊張が高まっていく
「なぜだ?」
ライカを見つめるオルドネスの紅の瞳は饒舌なライカの舌をもつれさせた
「多分知ってるとは思うけどさ、孤児院ってあんまいい環境とは言えないだろ?だからだよ」
ライカはオルドネスから若干眼を逸らして応えた
「確かにそれは我が国のこれからの課題であるな…ライカ、貴公はもしや孤児院育ちか…?」
「まぁそんなもん」
ライカは玉座の段差を背を向けながら降りていく
「そういうわけだから、メリッサを俺が引き取りたいのよ」
ライカは念を押したがオルドネスは黙したままである
理由は既にライカに分かっていた
「しかしな…」
「あー言いたいことは分かってるよ、たったの15歳な上に軍に入ったばかりのガキにあんな幼い女の子任せらんねぇって話しだろ…」
ライカは再びオルドネスに背を向けて大仰に両手を広げてみせる
「けどさ…」
ライカは振り返って真っ直ぐにオルドネスを見上げた
窓から差す夕日がライカの金銀の瞳に反射して輝くのがオルドネスが彼に会ってからないほど真剣に見せた
「メリッサには信頼出来る奴が側にいないなんて思いはさせたくねんだ」
「なるほど、だからそこまで…」
オルドネスは何かライカについて思案を巡らせているようだった
「いや、今さら掘り返すことではないな………では、こうしたらどうだろうか。ライカ、貴公が真にメリッサと生きていくに相応しいかを見るために3日後に試練を与える。よいな?」
「あぁ、分かった。それまでメリッサを預かっててもいいか?」
「あぁ、そうしてやると良い」
このことについても試練を与えるのはガルシア王国ならではだろう
そして、本来ならまず認めてもらえる筈のないメリッサを孤児院でなくライカが引き取るというのを認めるための試練というのもガルシア王オルドネスの最大限の配慮だろう
「了解!そんじゃメリッサ迎えに行ってくるわ」
ライカは敬礼し扉へ向かって歩き出したが数歩進んで立ち止まってから振り返った
「あ、えっと…なんだ…?俺、今まで大人を信頼したことなかったんだ。けど、アンタ達のことは信頼できそうだよ。その…ありがと、な…?」
ライカはぶっきらぼうに言って扉から少し急いで出て行った
「フフ…若さというのは良いものだな」