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項目 手引き



とんでもない事になってしまった。充実した時間を求めた結果なのに。

別にここまで充実してくれなくても良かった。


 「お前が部長?なんか知らない内に成長したなぁ」


頭を抱えている僕の目の前にいる古くからの友人。

紙パックのアップルジュースを飲みながら感慨に浸っていた。ま、どうでもいいが、そこは君の席じゃない。


 「何度も言ってるだろ?なりたくてなったわけじゃないよ…」


朝早くなのに億劫だ。部活をやるのはいいけど、まさかいきなり一年生なのに部長とは。

そんな部活が、日本のどこに存在すると言うのか。多分どこを探してもここくらいだろうけど。

ズズズとジューズを最後まで飲み終えた友人の顔は、どこか笑顔だった。


 「それにしたって引き受けたんだろ。いいねぇ、まさか高校デビュー失敗かと思ってたお前がね」


 「引き受けるしかなかったんだ。あんな風に頼まれたら直人なおとだって引き受けてたよ」


 「頼まれたら…って、部活の先輩に会えたのか?」


興味深々な二つの目が僕を見ている。部活に入るまでは僕もその目をしていたんだろうな。

会えたら、というより伝言だけど、と僕も苦笑いするしかない話である。

おそらく直人の頭の中では、いきなり部長を任せる先輩がいるのか、という疑問でいっぱいだろう。


どう言えば上手く伝わるかと僕が考えていると。


 「…まぁいいや。俺が興味持ってるのはそこじゃねえしな」


違うのか。ちょっと話してスッキリしたかったのだが。これも直人の性分故に仕方ないか。

じゃあ何、とぶっきらぼうに僕は答える。


 「珍しくお前が行動した事に興味持ってんのさ。お前は今まで悲観的に加えて気弱だったろ?

それが部活をやってみたい、なんてな。雪降りながら雷でもなるんじゃねえかって思ってよ」


直人の笑顔はこれだろうか。何をするにも楽観的の直人と何をするにも悲観的な僕。

それは幼稚園の頃から続いたもので、ほとんど直人に背中を押されて行動してきた。

自発的に動こうと思っても、すぐに自虐して勝手に堕落していく。悪い癖なのは僕が分かってるよ。


そんな性格が羨ましいと思ったから、今になって充実した時間を求めたわけなんだけどね。

君を見返す為だなんて口が裂けても言えそうにないかな。言える日が来る事を望みたい。


 「何かやってみたかっただけだよ」


それを聞いて直人は笑いながら、僕の肩を強く叩いた。結構痛い。


 「いいねぇ!その内、顔出してやるから部長頑張れよ!」


そうだ、僕は部長だった。嫌な事を思い出してしまった。

推薦されて部長になったのなら僕だって頑張る気にもなるさ。でも方法がおかしいよ。

昨日の放課後の会話。あれを復唱したくなる。





………。


 「せ、先生!ちょっと待ってください!」


これまでにない速度が出たと思う。階段を下りていこうとする斎藤先生に追いついていた。

廊下は走るなという目だったが、それどころじゃなかった。先生は僕の慌てようと驚いているようで。


 「何?新野君」


 「あ、あの僕一年生ですよ!入部早々に部長ってどういう事ですか?!」


今思えば急にまくし立てるのも無礼な話だ。が、それでも先生は困る様子もなく一言僕に伝えた。

それも笑顔で。


 「詳しくは元部長の北条ほうじょう君に聞いてね」


……。




長い会話を期待し、説得するつもりだった僕は拍子抜けだった。なんで顧問なのに何も知らないんだ。

と言いたかったが、気弱な自分が前に出てきてしまい、そうなんですかと納得してしまった。

つくづく自分がグズなのに腹立たしい。この話の流れを言ってしまえば、断らないお前が悪いと言われて終わり。

実際そうなので、だから直人に上手く伝える事が出来なかったんだと思う。


 「おーい、やかましいぞー!ホームルーム始めるから席につけーっ!」


担任の先生がきた。一斉に皆が自分の席に戻っていく。

はぁ…億劫だ。このままさっさと授業を受けてうやむやにしてしまおうか。






鐘が鳴り響き、午前の授業が終わり、昼休みを迎えて“三年生”の階に向かう。

元部長というだけあって部活を辞めたと言えば、二年生の聞こえだが、三年生で元部長という事は

オカルト研究会として続けてきたんじゃないか?…いや、これも都合のいい解釈だ。考えるのは止めとく。


僕なりにかなり葛藤していたが、やっぱり部長をやるかやらないかで言えば、やりたくない。

行動したての僕に部長をやらせるなど自殺行為も同然だ。周囲に醜態を晒してしまうじゃないか。

冗談じゃない。こればっかりは怖い先輩が来ても抗わせてもらう。…でも、できれば普通の先輩でいてください。


話を聞かない以上、アホなので、教室目前で帰るなんてお断りだよ。

まずは声掛けから。


 「あ、あのー…」


入口近くにいた真面目そうな先輩に声を掛ける。人は気弱だ気弱だ言うけど、これは仕方ないだろう。

呼び掛けに応じてくれないのは僕の声量が足りないからか。こんなにガヤガヤ賑わっている場所で、

蚊の鳴くような声を出されても、返事はおろか気付いてさえもらえない。


日を改めるべきか。


 「三年生の教室が珍しいかい?」


とか何とかやっている内に、背後から声を掛けられた。

これは悪い事をした、僕は入口を塞ぐように室内を見ていたのだろうか。

内心ドキドキだが、応じないわけにはいかない。


 「す、すいません、ちょっと人を探してまして」


振り返ると、サッパリしてそうな三年生男子がいた。見た感じサッパリなのでこの表現だ。

不機嫌そうでもなく、面倒見の良さそうな笑顔を目立たせていた。

それでも一瞬だけハッとしたような顔をしたのを僕は見逃さなかった。


 「俺で良ければ、呼んであげるよ?」


一瞬の表情は何なのか、なんて不必要な思考はやめておく。

損得なしに声をかけてくれたのだから、これにあやからせてもらおう。


 「北条先輩を探してるんですが…」


するとその先輩は腕組みをして、悩むように頭を捻った。

え、何か聞いちゃいけない事だったんだろうか。まさか今回のオカルト研究会で事故があった、とかか。

だから元部長なのか?だとしたら何でこんな危ない部活を容認してるのだ。頭がおかしいのか。

顧問の斎藤先生も危なくない範囲で活動してね、と言ってた。つまり、そういう事なのか?


と、いらぬ予想を一人でして盛り上がってるわけだ。実際は頭の上にクエスチョンマークを浮かべる程度だ。

しかもその答えは至ってシンプルなものである。


 「ん、えーっと…北条なら今は休んでるよ?」


あぁ、やっぱり。


 「体調不良ですか?」


 「あぁ、いやぁ、北条はもう将来も確定してるから、あまり学校に来ないんだよ」


将来も確定してるって、どんな生徒だよ。まだ新学期が始まって間もないというのに。

そんな生徒から言伝を預かってる先生も先生だが。


どんな形であれ、今学校にいないんじゃ仕方ない。住所とか聞いて押しかけるか、電話するか、かな。

じゃあ、このドキドキする三年生という空間から脱出できる。僕はありがとうございました、と頭を下げた。


 「待った待った。北条を探しに来たって事は…もしかして君がオカ研の部長かい?」


 「え?…あ、はい。僕が部長みたいです」


だと思ったと呟いた先輩は、笑顔を見せて教室の中に走って行った。

もしかして今のはからかわれたんだろうか。そこまで一年生が部長を始めた、というのが有名なんだろう。逆に笑われた方が心地良かったのだが、何か含みのある言い方だったのは僕の気のせいか。


今日はもういいや、と僕は教室を去ろうとした時。


 「部長くん。これ北条から預かってたんだ」


笑顔で差し出された先輩の手には、真っ赤な封筒が握られていた。

まさか受け取った瞬間、カミソリの刃でも突き出してくるんじゃないかと思ったが、それはなかった。

けど、いきなりこんな手紙を渡されたんじゃドン引きするレベルなんて物事じゃない。

一体北条という部長はどんな人なんだろうか。そう思いながら封筒を眺めていると。


 「元部長から部長へのラブレターかな?」


さわやかな笑顔をしながら、中々センスのあるジョークの言う先輩だ。

苦笑いを見せた僕は、とりあえず読んでみる事にした。もしかしたら真意がそこに書いてあるかもしれない。伝えたい事があるからこんな訳の分からない会話を試みているかもしれない。


むしろそんな内容であって欲しかった。

真っ赤な封筒の割には、中の便箋は無地。

真意が書かれてある事を期待していた僕にとってはさらに意味がわからなかった。





 『 部長就任おめでとう一年生くん。オカ研を頼んだよ。


    手始めにこの不二宮ふじみや高等学校の新七不思議を解明せよ。


    報告は南華みなかあやに。                      

                                       北 条   』





北条先輩、僕は貴方を恨みますよ。




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