項目 あらすじ
項目 活動日誌のあらすじ
様々な音が響く校内。吹奏楽部の金管楽器の音色や、外から運動部らしい喧騒も聞こえる。
高校の放課後にはそれぞれの楽しみがある。彼氏彼女の関係で時間も忘れて喋り続ける人達、部活に勤しむ人達。
もちろん、ようやく終わったと下校するのも楽しみとも言える。どんな物であれ、充実した時間なんだろう。
そんな充実した時間。どんな形でも良いから、僕も何かを始めてみようと思っている。
小学、中学と何もしたくないわけじゃなかった。興味はあった。けど、突然僕が習い事に乱入して、
疎外感を感じないのかと不安に思い、結局何一つ顔を出す事はなかった。これは一歩踏み出せなかった僕が悪い。
反省するも後の祭りで、いつしか充実した時間は過ぎていってしまった。
しかし最近高校生になった僕には一歩踏み出す良い機会。このまま何もせずに10代を終えるのは忍びないらしい。
このまま僕が向かっている部活に、充実した時間を迎えられるかは不安だけれども。
どうしようか、やっぱりやめようかなどと考えている内に目的の部屋の前まで来てしまった。
悩みながら歩いていたのも目的の場所には遠すぎたからか。…そもそも入部届けを出しておいて今更感があるけど。
「倉庫、ね」
思わず苦笑いするしかない。悩みながら歩いて、ようやく辿り着いたのは倉庫だったからだ。
僕が入部すると決めた部活は相当地味なものだ。充実した時間を求めた挙句、こんな答えしか出なかった。
結局、楽を求めてしまった故の行動か。何一つ進歩出来なさそうだ。
だけど何もしないよりはマシ。いつしか、さっきまで悩んでいた物は目前にする事で吹っ飛んでしまった。
どうしよう、と思う前に僕は倉庫のドアを2回ノックし、間髪入れずに大きく息を吸った。
先手必勝だ。僕は自分の気持ちに打ち勝ったと思う。
「すいません、ここがオカルト研究会ですか?」
ふふん、と自分に威張りたくなるが、一人笑いは薄気味悪い事この上ない。
たかがノックして声を掛けるぐらいなら、職員室にでも行けば体験できるというのに。
僕の自慢できるポイントはかなり低めらしい。
「…?」
と、自己満足に浸るのはここまでにしておく。普通ならば誰かが対応してくれるものじゃないのだろうか。
いくらなんでも無視するのは勘弁してほしい。聞こえなかったのなら仕方ないのだろうけど。
妙な事にこの倉庫の中からは誰も出てこない。ましてや会話すら聞こえない。
それ以前に言えば人の気配がしない。尚更こんな廊下で待ってても仕方なかった。
一人倉庫の前に佇んでいる姿なんて見られたら、僕の存在の方がオカルトになりかねない。
そう考えたら僕は、恐る恐るドアノブを回して、倉庫の中に顔を潜らせていた…。
アルミラックに積まれたダンボールに、グッタリと伸びている着ぐるみ、隅に置かれた机や椅子。
本棚に無造作に置かれたファイル。果ては没収品と書かれた衣装ケースまで置いてあった。
不思議にも綿埃すら見えないのはそれなり掃除されているからか、倉庫の利用者数が多いからか。
目の前にある、大きな折り畳みの長テーブルは意外にも綺麗過ぎていた。
そんな喧騒しか聞こえないような倉庫内には、誰一人として姿を見つける事は出来ない。
部員総出で活動中なのか。じゃあ待っていれば誰かが来るだろう。
今日は“部活がない”という答えを、都合良く解消して僕はこの倉庫で待たせてもらう事にする。
いや、倉庫じゃなくて部室と言っておこうかな。
――――けど、今思えば、ここで帰っておけばよかったかも…しれない。
・・・・・・・・・。
それから、どれぐらいの時間を待っただろうか。待てども、待てども誰かが近付いてくるような気配すらない。
もしかしたら廃部にでもなったのか?有り得ない話ではないが、すれ違いだけは勘弁だ。
明日にまた来ればいいのだろうが、結局自分が弱気になり始める事に溜息が出る。
「部長くらい留守番してるもんじゃないのかな…」
思わず独り言になってしまう。いたずらに時間だけが過ぎていけばそんな気分にもなるさ。
やっぱり日を改めるべきか、と思った僕は鞄を手に椅子から立ち上がり…。
「オカルト研究会ってここね?」
諦めようとした時に声が聞こえる。僕が振り向いた先にはスーツを着用した女性。もとい入学式で
見た事がある女性教諭が、半開きのドアから全体を見せていた。
全く予想外だった為、ちょっと焦った。
「え、あ…はい。そうみたいです」
しどろもどろだが、そう答えるしかない。
すると先生はクリップボードの用紙を見る。
「うん、オカルト研究会。そして君は一年生ね」
一瞬だけ目線を落として、僕の上履きの色を確認していた。
僕がそうですと頷くと、先生は改めてクリップボードに目を移しているようだった。
特に悩みもしなかったのは入部する一年生が僕しかいなかったからだろうか。
「えーと、一年五組の新野流星君。三年間部長として頑張ってね」
どうやら当たりだったようだ。入部届けを出したのは僕だけみたいだ。
普通なら氏名を聞いてくるはずなのに、確認もせず僕の名前と学年と組すらピタリと当てた。
こんな校舎の外れにあるような場所だ。入部届けなんて出す日陰者は僕くらいだろう。
先生には、わかりましたとだけ返事をした。ここまで顔を出すくらいだ、おそらくこの先生が顧問なんだろうな。
好きでここまで歩いてくる先生なんて滅多にいないような気がする。お疲れ様ですなんて言える立場でもないが。
「顧問の斎藤です。基本は生徒に任せてるから、危なくない範囲で活動してね」
それじゃね~、と手をひらひらをさせてドアから姿を消した。
生徒に任せるからって、本当に自由なのか。これも、ある意味で充実した時間…だよね。
そうだ。結果はどうであれ、続けたという結末が大事なんだ。どんな活動であれ充実しているはず。
弱気になっても仕方ないじゃないか。言われた通り、三年間頑張らないと。
そう、三年間…。………ん、三年間?
「あれ?」
なんだか先生はさりげなく、とんでもない事を言った気がする。
先生の言った部分を復唱してみよう。
「三年間部長として頑張ってね…」
間違いなく、とんでもない事が聞こえる。
「三年間…部長として…頑張ってね」
今気付いた。その言葉の部分で一気に冷や汗が噴き出したからである。
「部長として…だって?!」