かみさまの箱庭
「神様ってさ。」
何の前置きもなく。
大のお気に入りである”天使の食べ物”というなのドでかいケーキを飲み込んだ途端、カノジョは僕に切り出した。
「いるにはいるんだろうけど、多分見てるだけなんだよね。」
唐突に始まるカノジョ特有の論理展開。
それは時に僕の常識を軽々と飛び越え、時に僕を困惑させるだけに終わるけれど、カノジョのこういった独特の思考というか、視点を言葉で耳にするのは嫌いじゃない。
むしろそれは、カノジョを好きになった要素のひとつ。
だから僕は、いつものように黙って頷く。
聞いてるよ、という意思表示と、先を促す意味をこめて。
カノジョは少し上目遣いに僕を見ると、すっかり原型を失った、天使の食べ物をフォークでつつきながら言った。
「神様ってさ、たぶん自分が創ったこの世界とか、人間とか、そういう生き物をどうにかしようとは考えてないんじゃないかと思って。」
たまに気まぐれで、”奇跡”と呼ばれる何かをしたりするけれど。
基本的には自分の作品が、どういう風になるのか見ているだけの傍観者。
「だからさ。祈りとか、願いとかは届いてるんだろうけど、滅多に叶えてはもらえないのよ。」
確かに、カノジョの言うとおり。
神様ってやつは、どこか遠い場所で僕達の行動を見てるだけで、気が向いたら、その存在を知らしめるだけのそういうモノ。
だから”奇跡”は滅多なことでは起こらない。
いや、起こった現象が”奇跡”なんじゃなく、それを起こそうとした行動自体が”奇跡”なんだ、と。
そんな事を思いながら、ちょっと拗ねたようにとがらせた唇の端っこについたクリームを、当然のように拭い去りながら僕は笑う。
「それじゃあ僕は、その貴重な”奇跡”の恩恵を受けた、貴重な人間なのかもしれないな。」
だって僕は、あの時確かに願ったんだ。
君が、僕の恋人になってくれますようにって。
そんな事を口にしたら、照れたカノジョはしばらく口を利いてくれなくなりそうだから。
不思議そうなに見つめてくるカノジョの顔をまっすぐ見ながら、僕はただ黙って、指についたクリームを舐めた。
初めての投稿作品で、拙い部分も多々ありますが、微妙な甘さを感じていただけたら幸いです。