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プロローグ

明日、私達は死ぬ。


五年前に始まったこの戦争は、山に囲まれた小国の資源を大国が欲しがって起きた、至ってくだらない理由のものだった。結果は予想出来るだろう。大陸の端で細々とやってきた我が国はあっという間にボロボロになり、ついには人員不足のために十四歳の私が大尉になるまで追い詰められた。ここにいる部下達は全員、目元に皺があったり頭部が薄くなっていたりする壮年の者達で、他の若い男や軍人の家族、残った国民なんかはとっくに他国へ避難したか亡命してるかのどちらかだ。

そんな者達と私は今、ささやかな宴会を開いていた。地下倉庫から葡萄酒なんかを持ち出してきて、木を削ったコップに次々と注ぎ込んでいる。皆、穏やかな表情だ。人間瀬戸際に立たされればもっと取り乱すものだと思っていたが、何事にも例外はあるのだと思える。

「ほれエルア大尉殿。いや、大隊長と言うべきかな?」

目の前で手渡しされたコップを手に取って、私はそいつの顔を見上げる

「どちらでも良いよ少尉殿。いや、小隊長?ありがとう」

「どーいたしまして。」

ニカリと少尉は笑うと、私の背中を強めに叩いた

「ほれ、一番階級の高い奴が乾杯の音頭をするのが相場だ。ビシッと泣かせるような、それでいて短い演説を頼むよ」

「注文が多いなぁ、おい」

苦笑しながら椅子の上に立ち、皆を見下ろす。裸電球のオレンジ色の熱が近い。ざわめきが引いて、視線が私一箇所に集まった

「皆、今日までよく頑張ってくれた。もう休んでも良い時間だが、もう一仕事あるので頑張っていただきたい。それが終われば待っているのは天国(ヴァルハラ)だ。」

一区切りをつけて、息を吸い込む

「私のような若輩が大尉に着いてしまうほど人が少なくなった。残ったのは青い雰囲気を纏った若衆ではなく、私と同年代の女子に嫌われる男共ばかりだ」

「おいおい、そりゃ無いぜ“軍神”殿ー?」

「こちとら娘の見送りの言葉は『普段から臭いんだから、これ以上臭くならないよう早く帰って来てよね』なんだぞー“軍神”殿!」

毒舌へのやり返しか、私が普段嫌がるあだ名で野次が飛ぶ。

「“軍神”て呼ぶなと何度言えば…まぁいい。貴君らの愛国心とこれまでの武功に敬意を表する。今宵は無礼講だ」

杯を高らかに掲げ、今となっては皮肉以外の何ものでも無い言葉を叫んだ

「“我が祖国(アリストテレア)に栄光を”!!」

『“我が祖国(アリストテレア)に栄光を”!!!』

ぐいと中身を一気に呷ると口の中に僅かな酸味と葡萄の香り、そしてそれを上回る雑味とエグ味渋味に黴臭さが広がり、思わず咽せる

「おいおい、締まらねぇなぁ大隊長」

「…ゔるざい。私は十四だぞ、酒なんて今日が初めてだ」

「確かに、こりゃひでぇ酒だな。」

「おっかしいなぁ、地下で熟成されてそれなりに飲めるかと思ったんだが」

「お前、ここがどこか覚えてるか?最前線の隙間風だらけの駐屯所だぞ。んなとこの地下室で熟成なんざしても不味い酒がクソ不味いに変わるだけだろ」

「ひでぇ言いようだな」

「事実だがな。」

どっと笑いが起こり、室内に賑やかさが戻る。初めての酒で散々な目に遭った私は椅子から降りようとしてよろけた

「おっと、大丈夫か?」

側にいた少尉が肩を支えて受け止めてくれた

「初めての酒がこんな不味いだなんて……恨むぞ少尉」

「恨むならカビだらけの地下室を恨んでくれや大尉」

恨み言を言っても口の中の不快感は消えない。この酒のアルコールが強いのか私が下戸なだけなのか分からないが、とにかく頭がふわふわして目が回るし力が入りづらい

「本当に大丈夫かー?目が座ってるぞ」

「んぁ…目が回る……眠い……」

本当に眠気が強いし、目眩が強過ぎて最早世界が回っているようにさえ思える。まるで眠薬を飲んだ時の副作用みたいだ

――――あれ?

「…………おい。」

誰かに呼びかける少尉の声が聞こえた。私は肩を支えられたままだ。

「……………しょう、い……」

呂律が回らなくなって来た。鉛より重い目蓋をなんとかこじ開けて、無精髭だらけの痩せた顔を睨む

「………なに、を……のませた……!」

一瞬、少尉の顔がもし申し訳なさそうに歪んだ。それでもすぐに見る者を安心させる笑顔に変えて語りかける

「すまないエルア大尉。俺は……俺たちは、アンタに生きて欲しいんだ。」

「なに、をーーーーー」

そこで、視界は暗転した。

























がたん


地面が揺れた気がした。実際振動が全身に伝わってくる。


がたん


周りを確認したいけど、目蓋を開けることも、身じろぎ一つさえ億劫で


がたん


脳裏に少尉の申し訳なさそうな顔が浮かぶ

なんで、騙したの

「…………しょぅ……い……」

声が漏れた

肩に、何かが優しく触れた

「まだ着かない。もう少し、寝ているといい」

聞き馴染みのある声だ

でも、誰かがすぐに分からない

また、どろりとした眠気が脳を覆う

肩を、優しい力と一定のリズムで叩かれる

「………うん…」

言われた言葉に素直に甘えて、揺れと睡魔に身を任せる


がたん


また揺れた。

しかし、少女は目覚めなかった。




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