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第7話 寮訳けの義

ルミエールアカデミーの白亜の建物は、上級生たちのワクワクした声で賑わっていた。陽光が大広間のステンドグラスをきらめかせ、新入生たちの期待を照らすが、俺の胸には影が差していた。遠くの蛇寮のテーブルから、かすかなざわめきが聞こえ、俺の名が呼ばれるのを待つ空気が、重く淀む。


校長先生の祝辞の後、4つの寮――獅子、鷲、鹿、蛇寮――に分ける選定式が始まった。選定は、副校長による魔法によって行われる。新入生が一人ずつ呼ばれ、杖の輝きで寮が決まる。空気が、静かに張り詰め、大広間の天井に響く足音さえ、緊張を煽る。


エマとテオは獅子寮、マルクスは蛇寮に選ばれ、いよいよ俺の番がやってきた。マルクスの視線が、遠くから俺を捉えるのが感じられた。冷たい棘のように、背筋を這い上がり、首筋に息苦しい重みを残す。蛇寮の生徒たちの低いつぶやきが、波のように広がり、俺の耳に届く。


俺は椅子に座り、緊張で体を固くして待った。蛇寮――マルクスがいるあの寮に選ばれることだけは、絶対に避けたかった。副校長が俺の頭上に杖を掲げ、魔法の光がゆっくりと広がるのを、息を潜めて見つめた。光が揺らぎ、赤、青、金、緑の色が交互に閃く。最初は獅子の赤が強く輝き、希望が胸をよぎるが、すぐに青と緑が混じり、蛇の影が忍び寄るように色が歪む。時間が、永遠のように引き延ばされる。額に冷たい汗がにじみ、指先が震え、椅子の肘掛けを握る手が白くなるほど力が入る。心臓の音が耳元で激しく鳴り響き、息が浅く途切れ途切れになる。――もし蛇寮なら、毎日のようにあの嘲笑に晒されるのか。授業の合間に、廊下で待ち伏せされるのか。エレナの夢が、闇に飲み込まれ、俺の光が消え失せるのか。マルクスの薄ら笑いが、視界の端でちらつき、俺の思考を蝕む。やがて――


「ハヤト・キサラギ! 獅子寮!」


瞬間、肩の力が抜け、俺は椅子からずり落ちそうになった。テオが慌てて支え、獅子寮のテーブルへ連れて行く。安堵の波が体を駆け巡るが、喜びの前に、わずかな警戒が残った。魔法の光が赤く安定し、温かな余熱が肌に残る。


「ハヤト・キサラギ、来た!」


他の生徒たちに迎え入れられ、ガッツポーズを取る者や、背中を軽く叩く者もいた。テオが嬉しそうに叫ぶ。


「やったな。俺たち、仲間だ。」


しかし、エマが静かに警告を口にする。


「ちょっと、マルクスが何か企んでるみたいよ。気をつけなさい。」


ちらりとマルクスを盗み見ると、確かに、薄ら笑いを浮かべてこちらを睨んでいる。その目が、暗い約束のように輝き、遠くからでも俺の安堵を嘲る。


明日から、本格的に授業が始まる。たとえ蛇寮の連中が何か罠を仕掛けてきても、俺は負けない。エレナとの約束を、果たすために。

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