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倒れないでくれ! ――限界と選択を描く医療ヒューマンドラマ――  作者: 東雲 明
三年生編:ゴールデントリオの絆

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第69話 そして、再び3人で歩き出す

 インフルエンザに倒れてから、どれだけの時間が過ぎただろう。

 ようやく熱も落ち着き、身体のだるさも少しずつ薄れてきた。


 窓を開けると、冬の冷たい風がふっと流れ込み、肺の奥まで澄んだ空気が入る。

 まだ喉は痛むが、それすらも「回復していく過程」だと感じられて、少しだけ嬉しかった。


 そんな時だった。寮の入り口で物音がした。


「ハヤトー! 開けるよー!」


 聞き慣れた元気な声。

 その直後、勢いよくドアが開いた。


「……もう少しノックしてから入れよ、テオ」


「ノックしたよ! たぶん!」


「たぶん、って言うな」


 笑いながらテオが入ってくる。その後ろに、エマが落ち着いた足取りで続いていた。


「無事に回復してきてるようで安心したわ。あなたが倒れた時は、こっちも本気で焦ったんだから」


「悪かったよ。俺が最初に倒れるなんて……情けないよな」


「当たり前でしょ。あなたって普段から無茶するし、勉強も詰め込みすぎ」


「エマ、エマ、そのあたりでやめてあげて。まだ本調子じゃないんだから」


 テオが慌ててエマの肩を軽く叩いた。

 そのやり取りに思わず笑う。


 二人とも、たった数日の現場経験で驚くほど表情が変わった。

 混乱の中で必死に患者を支え、泣きながら頑張った時間が、確かに彼らを強くした。


「でさ……今日は俺たちだけじゃないんだよね」


「え?」


 テオが意味ありげにニヤッと笑った瞬間、

 後ろから控えめな足音が響いた。


「ハヤト……少しだけ、お邪魔してもいい?」


 顔を上げると、エレナが小さな花束を抱えて立っていた。

 その姿だけで、息が止まりそうになった。


「エ、エレナ……なんで……」


 言いかけて、すぐに気づく。

 テオの仕業だ。


「いやー、俺がさ、ちょっと呼んだ!

 ほら、ハヤトももう元気になってきたし、お見舞い来てくれた方が嬉しいよなって!」


「勝手に呼ぶなよ……!」


 そう言いながらも胸の奥に広がっていく温かさは隠せなかった。


 エレナはベッドの横まで歩いてきて、花束をそっと置いた。

 香りがふわっと広がり、病室の空気が一気に明るくなる。


「心配で……ずっと来たかった。でも、うつしたら大変だし……迷惑になるかと思って」


「迷惑なんかじゃないよ。……本当に、ありがとう」


 その瞬間、テオがニヤニヤしながら俺の背中を肘でつついた。


「いやぁ〜、エレナちゃん、すっごい心配してたからさ。

 もうこのままハヤトと結婚するんじゃないかって、俺ちょっと思っちゃったけどねー!」


 ――


 空気が固まる。


「な、おまっ……! 何言って……!」


 顔が熱くなる。病気の熱よりずっと熱い。


 エレナも一瞬固まり、それから小さく目を丸くした。


「け、けっ……!?」


「ちょっとテオ、それはさすがに飛躍しすぎよ!」


 エマが即座に鋭いツッコミを入れ、テオの頭を軽く叩いた。


「えっ!? だってさ、心配して泣きそうになってたし、

 これはもう愛が深まってる流れだと思って……」


「勝手にドラマ作らないで! 医療現場での学びはどこへ行ったのよ!」


「いだだだっ! 耳引っ張らないでー!」


 テオが情けない声で叫び、エマが容赦なく引っ張る。

 その横で、俺とエレナは顔を真っ赤にしたまま、目を合わせられずにいた。


 ……だけど、不思議と嫌じゃなかった。

 むしろ、胸の奥が温かく満たされていく感じがした。


「……エレナ。心配かけて、ごめん」


「あ、ううん……。ハヤトが無事なら、それだけで……」


 エレナは小さく微笑む。

 その優しさに胸が締めつけられた。


 そんな空気をぶち壊すように、テオが叫んだ。


「でも! もし本当に二人が結婚する時は!

 俺が祝辞を読むからな!!」


「読ませるか!」


「やめなさいって言ってるでしょ!」


 エマがまたテオの背中を叩き、テオが飛び跳ねる。

 そのくだらないやり取りに、エレナがふっと笑った。


 その笑顔を見た時、心の底で思った。


 ――ああ、やっぱり俺はこの三人と一緒にいたい。


 たとえ倒れても、泣いても、不安になっても。

 支え合って、前へ進んでいける。

 そんな仲間がいることが、どれほど心強いか。


「なぁテオ、エマ」


「ん?」


「なに?」


「……ありがとう。二人が頑張ってる姿、ちゃんと見てたから」


 テオは照れくさそうに頭をかき、

 エマは少しだけ柔らかい笑顔を見せた。


「これからだよ、ハヤト。まだ山はいっぱいあるんだから」


「……ああ。三人で乗り越えよう」


 そう言って、俺は小さく息を吸った。


 インフルエンザの嵐はようやく過ぎ去った。

 でも――俺たちの未来は、ここからまた始まっていく。


 そしてその未来には、

 いつものように騒がしいテオと、頼れるエマと、

 そして――俺の隣に、エレナがいるのだろう。


 そんな予感が、胸の奥で静かに灯っていた。


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