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第46話 ハッピークリスマス?どころじゃねぇ!!

 テオの「緊急事態だ!!」コールのせいで、エレナにブランケットを渡すタイミングをまた逃した俺は、その夜ひたすら頭を抱えていた。


 ――だが翌日、ようやくチャンスが訪れた。


 朝一番、エレナから「今日、少しだけオンライン抜けられるかも」と連絡が来たのだ。

 テオのプレゼント紛失騒動は、結局ただのベッド下への転落だったらしく、エマが怒りながら救出して一件落着。二人とも朝練に行っていて部屋にいない。


 絶好のタイミングだった。



◆ついに対面


 俺は手に汗をかきながら、寮のロビーでエレナを待った。


 ドアが開き、小柄な少女が息を弾ませて駆けてくる。


 「ハヤトにぃに!」


 相変わらずだ。

 心臓に悪いくらい可愛い。


 「走るなよ。心臓に負担かかるって何度言えば……」


 「ごめん。でも、どうしても今日会いたくて!」


 その笑顔だけで、二週間の苦労が全部吹き飛ぶ気がした。


 「……実は、渡したいものがある。」


 俺は袋を差し出した。

 指先が微妙に震えていた。


 エレナはそっと袋を開け、中のブランケットを持ち上げる。

 目を丸くし、そして――すぐにふにゃっと頬が赤くなる。


 「これ……ハヤトにぃにが編んだの?」


 「……あぁ。形はちょっと歪んでるけど、まあ、防寒性能だけは保証する。」


 「ううん……すっごく、すっごく嬉しい!」


 その瞬間、エレナは迷いなく俺の胸に飛びついた。


 「わっ……!」


 柔らかい髪が俺の胸に触れ、指先がブランケットをぎゅっと掴んでいる。


 「ハヤトにぃにからのクリスマスプレゼント……宝物にするね。」


 危うく膝が抜けるところだった。

 よかった。渡せて。本当に。



◆しかし幸せは長く続かない


 エレナを見送って部屋へ戻ると――

 そこには俺を待ち構える悪夢があった。


 テオが机に突っ伏し、エマは青ざめた顔でプリントを広げている。


 「……なんだ、お前ら。」


 エマが震える声で言った。


 「ハヤト……試験、あと三日しかない。」


 「……知ってるけど?」


 テオが涙目で叫ぶ。


 「俺! このプリントの三割くらい、単語が読めねぇ!!」


 「待て、読めねぇって何だ!?」


 「だって“副甲状腺ホルモン“ってさ……“ふく、こう……なんだこれ!? 化け物の名前!?」」


 「医療学生が言っちゃいけない感想だろ!!」


 エマは頭を抱えた。


 「最悪よ……テオの成績、このままじゃ追試確定。いや、追試で済めば奇跡。もう地獄よ。」


 「エマ……それ励ましてるのか?」


 「現実を伝えてるの。」


 ブランケットを渡して、幸せいっぱいだった胸に、ズドンと重い現実が落ちてきた。


 試験まで、あと三日。


 「……よし。やるぞ。」


 俺が宣言すると、二人がビクッと顔を上げた。


 「テオ! まずは基礎だ! 副甲状腺ホルモンは“血中カルシウムを上げる”!」


 「えっ、そうなの!? てっきり“骨を強くするホルモン”的なやつかと……」


 「逆だ!! 真逆だ!!」


 「ひぃぃ!! ハヤト先生が怒ったぁ!!」


 怒ってねぇよ……と言いたかったが、時間がない。


 エマも気合いを入れ直す。


 「じゃあ私は薬理の再確認。テオの苦手な心血管系から全部叩き込むわ。」


 「お、お手柔らかにお願いします……」


 こうして俺たち三人は、恋だクリスマスだと言ってられない、

 地獄の追い込み勉強会に突入した。



◆最後に


 机に向かいながら、俺はふと思った。


 プレゼントは渡せた。

 エレナは笑ってくれた。


 本当ならそれだけで最高のクリスマスのはずなのに――


 横ではテオが「うわぁぁぁ! 副交感神経と交感神経どっちがどっちだっけぇ!!」と転げ回っていて、エマは冷静に角砂糖のような言葉を積み重ねてテオを追い詰めている。


 ……まあ、これはこれで悪くないか。


 俺たちらしいクリスマスだ。


 さあ、誰も倒れず新年を迎えられるように――もうひと踏ん張りだ。  

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