第45話 プレゼントの行方
編み物なんて、二度とやるもんか――そう何度思ったかわからない。だけど、エレナの喜ぶ顔が脳裏にちらつくたび、指先が勝手に毛糸を探してしまう。気づけばもう二週間。俺は学期末テストの勉強と並行して、夜中にひっそりブランケットづくりを続けていた。
もちろん、テオとエマには絶対に秘密だ。
というより、あいつらの前で編み物してるところなんか見つかったら最後、からかわれる未来しか見えない。テオは「ハヤト、編み物初心者どころか赤ちゃんレベルだな!」とか言ってくるし、エマは「目が全部ズレてるわよ。医学的に言えば“重度の器用不器用症“」って冷静に傷をえぐってくるだろう。
……そんな地獄は御免だ。
でも問題はそこじゃない。
渡すタイミングを完全に逃した。
クリスマス本番の三日前。アカデミーの廊下はテスト前特有の殺気立った空気に満ちていて、恋人同士のロマンチックな雰囲気なんてどこにもない。
エレナは毎日オンライン授業で忙しそうだし、俺も実技科目が追い込みに入り、顔を合わせてもつい「大丈夫か?」「無理すんなよ」みたいな会話だけで終わってしまう。
そんな中――
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◆テオ、やらかす
「なぁハヤト!!」
朝から声がデカい。俺は心臓が止まりかけた。
「クリスマスといえば! 交換プレゼントだろ!? 今年は寮内でやるってことで話まとめてきた!」
「誰がまとめてきたんだよ。」
隣のエマがため息をついた。
「あなたでしょ。どうせノリだけで押し切ったんでしょう。年末のこのタイミングで、勉強する気ゼロね?」
「え? 俺って年中そんな感じじゃなかったっけ?」
誇らしげに言うな。
エマはこめかみを押さえた。
「はぁ……まあいいわ。ハヤト、エレナちゃんに何か買ったの?」
心臓が跳ねた。
隠し持っているブランケットの存在が脳裏をよぎる。
「いや、まぁ……その……」
「怪しい言い方! 絶対なんか作ってるわね!? テオ、これ絶対失敗作よ!」
「おい待てエマ。なんで即失敗扱いなんだよ。」
「だって今までのハヤトの工作物、全部途中で爆発したじゃない。」
「爆発してない! ほつれただけだ!」
テオは爆笑している。こいつ、あとで覚えてろ。
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◆焦る俺
放課後、ブランケットを入れた袋を抱えて、俺は寮の部屋で一人うろうろしていた。
渡さなきゃ。
でも、こんな出来で喜んでくれるのか?
編み目は歪んでるし、途中でミスったところはエマが見たら発狂するレベルだ。
けど、エレナは……きっと笑って受け取ってくれる。そう思いたい。
問題は渡す場所とタイミングだ。
テスト期間中に呼び出したら、迷惑じゃないだろうか。
でもクリスマス前日になって渡すってのも微妙だし……
考えすぎた結果――
結局、渡せないままその日が終わった。
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◆エレナの一言
その日の夜、エレナからメッセージが届いた。
『ハヤトにぃに、テスト頑張ってる? あまり無理しちゃダメだよ。わたし、クリスマス……ちょっと楽しみにしてる』
胸がズキッとなった。
――ああ、これはダメだ。
逃げてる場合じゃない。
俺は袋を持って立ち上がった。
今なら、オンラインの部屋に通話を繋げば話せる。
迷ってる暇なんてない。
「よし……行くか。」
俺は覚悟を決めて、エレナへ通話を繋いだ。
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◆そして……
しかし、俺がエレナに渡そうとしたその瞬間――
テオからまさかの全力着信が連続で入ってきた。
「ハヤト! 緊急事態だ!!」
「……は?」
「クリスマスパーティのプレゼント、俺のやつどっか行った!!」
「知らん!!」
エレナとの通話が中断され、俺のクリスマス計画は……またしても狂わされた。
果たして、俺は無事にプレゼントを渡せるのか……?




