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第14話 罠の答案、闇の囁き

#### 試験前夜、迫り来る影


1週間後、ついに基礎医学の筆記試験の日が来た。学園中が緊張に包まれていた。元々は4寮合同で行う予定だったが、ルミエールの病の感染拡大防止のため、時間差実施に変更された。獅子寮は、皮肉にも蛇寮と同時間帯。エマの予言通りだった。昨夜、獅子寮の食堂で、エマが俺の肩に手を置き、静かに言った。


「この試験で、マルクスは絶対何か仕掛けてくるわよ。気をつけなさい」。


テオが隣で拳を握り、「俺が監視するぜ。奴の取り巻きが近づいたら、ぶっ飛ばす」。二人の視線が、心配と決意に満ちていた。


俺は微笑んで頷いたが、胸の奥でざわつきが止まなかった。エレナの病室での出来事が、まだ生々しく残る。


あの絶望の淵で、杖の力で蘇生させた代償――体が時折熱くなり、視界が揺らぐ。試練の炎が、俺の命を削っている気がする。マルクスは、すべてを知っているのか。ヴェルナー家の闇が、俺の弱点を狙っている。


試験前夜、自室でノートを睨み続ける。解剖図の細部、薬草の効能、診断のフローチャート。満点を取らなければならない。


エレナを救う高度な医学技術を手に入れるために。机の上のランタンが、ぱちぱちと音を立て、影が壁に踊る。


エレナの顔が、浮かぶ。あの病室で、メスを握った彼女の瞳。呪いの妄執に囚われた声。


「私がみんなを殺す」。 


里親の死が、彼女の心を蝕んでいる。俺は守る。愛で、証明する。だが、6歳の差が、愛を罪のように感じさせる。


――伝えるなら、いつだ。試験を終え、エレナが回復したら。胸の痛みが、決意を燃やす。窓から、夜風が吹き込み、カーテンを揺らす。外の森が、ざわめく。マルクスの嘲笑が、耳に残る。


「お前の答案を台無しにしてやる」。 


罠は、来る。だが、俺は負けない。


#### 試験の果て、仕掛けられた闇


試験会場は、大講堂だった。獅子寮と蛇寮の生徒が、机を並べ、静寂に包まれる。監督の教授が、厳しい視線を投げ、「2時間の試験。私語禁止。トイレ休憩や終了報告以外、一切の会話は認めん。ヴェルナー家の末裔といえど、好き勝手は許さん」。言葉が、マルクスを睨むように響く。マルクスは、端の席で薄ら笑いを浮かべ、俺に視線を投げる。あの青い目が、毒を孕む。 


俺は机に座り、答案用紙を受け取る。心臓が、速く鳴る。――集中しろ。エレナのためだ。問題が配られ、試験開始のベルが鳴る。


2時間の果てしない時間。筆記具の音だけが、講堂に響く。問題は、難しかった。解剖学の詳細な図、薬草の複合効能、診断のケーススタディ。だが、手応えがあった。試練の炎で焼かれた心が、集中力を研ぎ澄ます。


エレナの病床が、頭をよぎるたび、筆が速くなる。――満点を取る。君を救うために。汗が額を伝い、視界が少し揺らぐ。杖の代償か、体が熱い。


だが、止まらない。最後の問題を終え、答案を見直す。完璧だ。手応えを掴んだと思った。その瞬間――


「先生! ハヤト・キサラギがカンニングです!」


マルクスの声が、講堂を切り裂く。取り巻きの一人が、立ち上がり、俺の机を指差す。


「答案の端に、不正なメモが落ちていました!」。


講堂がざわつく。教授の視線が、俺に突き刺さる。


――罠だ。俺を陥れるための。心臓が、凍りつく。机の下に、落ちていた紙片。見たことのないメモ。薬草の効能が、俺の字ではない筆跡で書かれている。マルクスが、薄ら笑いを浮かべる。あの目が、勝利を確信する。


教授が、俺の机に近づき、メモを拾う。


「これは……確かに不正だ。キサラギ、説明しろ」。


俺は立ち上がり、声を絞り出す。


「違います! 俺はそんなもの、持っていません!」。


だが、証拠は目の前だ。講堂の視線が、俺を刺す。テオが立ち上がりかけるが、エマが止める。マルクスが、静かに笑う。


「英雄さんも、人間だったか」。


教授の声が、冷たく響く。


「私語禁止! ヴェルナー家の末裔といえど、俺は好き勝手する奴は許さん! キサラギの件については、精査する。結果が出るまでキサラギは出席停止だ! 試験は終了。皆、退室せよ」。


講堂が、ざわめきに包まれる。俺の答案が、没収される。満点のはずだったものが、闇に飲み込まれる。胸の奥で、怒りと絶望が爆発する。


――マルクス。お前か。エレナの病室での緊急事態も、お前の罠か。杖の代償で体が弱る俺を、狙ったのか。拳が震え、視界が熱くなる。テオが、俺の肩を掴む。


「ハヤト、落ち着け」。 


エマの目が、涙で濡れる。


「絶対に、証明するわ」。


#### 出席停止の闇、燃える決意


出席停止の通達が、すぐに届いた。自室に閉じ込められ、授業も試験の再試験も禁止。窓から、外の学園が見える。生徒たちが、試験の余韻で笑い合う。だが、俺の心は凍りついている。


机の上に、没収された答案のコピーがない。満点だったはずの努力が、無に帰す。エレナの病床が、頭をよぎる。あの絶望の淵で、杖の力で蘇生させた代償――体が熱く、視界が時折暗くなる。マルクスの罠が、俺の弱点を突いた。ヴェルナー家の権力で、証拠を捏造したのか。胸の奥で、怒りが燃える。――負けない。エレナを救うために、ここで終わるわけにはいかない。


ドアのノックが響く。テオとエマだ。


「ハヤト、開けてくれ」。


俺はドアを開け、二人が入る。テオが拳を握り、


「マルクスの野郎、絶対許さねえ」。


エマが薬瓶を差し出し、


「これ、活力剤。体調悪そうだから」。


二人の視線が、俺を支える。ゴールデントリオの絆が、闇を照らす。――ありがとう。こいつらがいれば、証明できる。罠を暴き、試験をやり直す。エレナの笑顔が、胸に灯る。「愛してる」の言葉を、いつか伝える日まで。


夕陽が、部屋を赤く染める。出席停止の闇が、俺を包むが、心の炎は消えない。マルクス、お前の罠を、粉砕してやる。エレナを救うために、俺は戦う。杖の力が、脈動する。試練は、まだ続く。



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