第98話 秋の訪れ
いつの間にか、お父さんとお母さんとグレイさんの病気は治っていた。
3匹とも、すっかり元気になったようで何よりだ。
だけど何故かぼくだけ、いつまでも熱が下がらなかった。
無理をしたから、悪化したのかな?
ぼくは生まれつき体が弱いから、治りが遅いかもしれない。
お母さんはぼくの為に、ヨモギの薬を作って飲ませてくれた。
「シロちゃん、お薬を飲んだらゆっくり寝なさいニャ」
お母さんはぼくをそっと抱き寄せて、添い寝してくれた。
グレイさんとお父さんは、獲物を狩ってきてくれた。
「Gastornis(体重500kgの飛べない鳥)を狩って来たニャーッ!」
『シロちゃんの好きな鳥だぞ。食べられるか?』
ふたりのおかげで、久し振りに鳥肉が食べられた。
やっぱり、お肉は美味しい。
残った肉は焼き鳥にしたかったけど、起き上がることは許されなかった。
起き上がろうとしたら、グレイさんから『今は治すことだけ考えろ』と叱られた。
看病してもらってありがたいけど、申し訳ない気持ちが強かった。
ฅ^•ω•^ฅ
数日後、やっと熱が下がった。
暗い巣穴の中でずっと寝ていたから、何日経ったのか分からないけど。
ようやく、外へ出られるようになって嬉しい。
寝たきりだったせいで、体力と筋肉が落ちてしまったようだ。
久々に立ったら、産まれたての仔猫のように足がぷるぷるして歩けなくなっていた。
また、歩く練習をしなくちゃいけないな。
歩く練習をしていると、3匹が不思議そうな顔で首を傾げる。
「シロちゃん、何をしているニャー?」
「歩けなくなったから、歩く練習をしているミャ」
「ニャニャッ? シロちゃん、歩けなくなっちゃったニャーッ?」
「可哀想にニャ……」
『歩けなくなっても、オレが運んでやるから大丈夫だぞ』
3匹はとても驚いて、懸命に慰めてくれた。
そんなに驚くことかな?
長い間寝たきりだったら、歩けなくなるもんじゃない?
何日、寝たきり状態が続いたかにもよると思うけど。
「大丈夫ミャ。練習すれば、また歩けるようになるミャ」
「じゃあ、練習に付き合うニャー」
「歩けるようになったら、イチモツの集落へ帰りましょうニャ」
『早く歩けるようになろうと、焦らなくて良いからな』
それから、3匹にあたたかく見守られながら歩く練習をした。
しばらく練習したら歩けるようになったけど、体力と筋力が戻っていないから走れない。
走ろうとすると、足がもつれて転んでしまう。
走れるようになるまで、旅立ちは延期するしかなさそうだ。
ฅ^•ω•^ฅ
走る練習をすること、1週間。
ようやく、走り回ったり跳ねたり出来るようになった。
やっと、イチモツの集落へ帰れる。
これなら、冬を迎える前に集落に辿り着けそうだ。
マダニ感染症に罹ったせいで、ずいぶんと遅くなってしまった。
寝込まなければ、他の集落を回る余裕があったはずなのに……。
ここで何日、足止めさせられたか分からないけれど。
秋が深まってきていることは、周囲の変化でなんとなく分かる。
お日様が早く沈むようになって、暗くなるのが早くなった。
暑さが和らぎ、朝晩が肌寒くなってきた。
入道雲は見られなくなり、すじ雲や羊雲が見られるようになった。
いつの間にか、蝉の声が聞こえなくなっていた。
夜になると、鈴虫の合唱が聞こえるようになった。
秋に咲く花が、あちらこちらで見られるようになった。
空や風、虫や植物たちがぼくに秋の訪れを教えてくれる。
もうすっかり秋だなぁ。
秋といえば、食欲の秋。
秋は、美味しいものがたくさんある。
猫は肉食動物だから、食べられないものがあるけど。
秋といえば、栗だよね。
栗は、犬猫も食べられるんだよ。
火が使えるようになったから、今まで食べられなかった焼き栗が食べられる。
人間だった頃、秋になるとおばあちゃんがおやつに栗をよく買ってくれた。
焼く前に皮に切れ込みを入れておくと、弾けないんだって。
焚火には、毬栗ごと火に放り込んで丸焼きにすると良いらしい。
毬が燃料になって、良い感じに焼けるらしいよ。
栗を食べると、どんな効果があるの?
教えて、『走査』
『対象:ブナ科クリ属クリ』
『薬効:疲労回復、皮膚や粘膜の維持、解毒作用、免疫機能の促進、高血圧予防、便秘、心臓や筋肉の働きを調整する、代謝を上げる』
『注意事項:カロリーが高い為、食べ過ぎると肥満や尿路結石になる可能性がある』
栗も薬効成分があるのか。
美味しくて体に良いなら、一石二鳥。
栗は、食べ頃になると自然に落ちてくる。
木に成っている栗は、食べ頃じゃないからまだ食べられない。
落ちている栗はないかと探してみたんだけど、どこにも落ちていなかった。
栗の時季には、まだ早いみたいだな。
ฅ^•ω•^ฅ
ある日突然、グレイさんがやたらとくしゃみをするようになった。
鼻水を垂らし、痒そうに顔を掻いている。
もしかして、花粉症かな?
そういえば、グレイさんと出会ったのは冬だった。
春の花粉症の時季は、なんともなさそうだったけど。
グレイさんは、秋の花粉症かもしれない。
春は、スギ、ヒノキなど針葉樹の花粉が原因。
秋は、ヨモギ、ブタクサなどキク科の植物の花粉が原因。
春と秋の花粉症は、原因植物が違うんだ。
秋の花粉症に効く植物といえば、ローズヒップ。
ローズヒップは、イヌバラの実。
ぼくの肉球くらいの大きさで、赤くてつやつやしていて長細い楕円形をしている。
見た目は美味しそうなんだけど、食べるとめちゃくちゃ酸っぱい。
ローズヒップの果汁を水で薄めて、花粉症の猫たちに飲ませたけどめっちゃ不評だったな。
他に、花粉症に効く薬草ってあるのかな?
教えて、『走査』
『対象:イチョウ目イチョウ属銀杏』
『薬効:抗酸化作用を含む。肩こり、頭痛、動脈硬化、高血圧、老化予防、生活習慣病、認知症、脳梗塞、活性酸素除去、抗ヒスタミン作用がある為、アレルギーに効果がある』
『概要:葉を乾燥させて、イチョウ茶として飲用』
『警告:種子には、神経毒のギンコトキシンが含まれる為、犬猫は食用厳禁』
イチョウって、秋になると黄色に変わる三角形の葉っぱだよね。
イチョウの葉っぱがお茶になるって、なんだか意外。
でも、ギンナンは食べちゃダメなんだね。
秋になるとおばあちゃんが、よくギンナン拾いに行っていた。
「子供には毒だから、食べちゃダメ」と言われていたから、一度も食べたことがない。
だから、大人の食べ物なんだろうなって思っていた。
めちゃくちゃ臭かったから、食べたいとも思わなかった。
乾燥したイチョウの葉っぱを探して、お茶を作ってみよう。
冬が近付いて来ると、落葉樹の葉が降ってくる。
落葉樹は文字通り、葉っぱが落ちる木のこと。
落葉樹がたくさん生えている場所は、落ち葉で地面が見えなくなる。
だけど今は、イチョウの葉は緑色で落ちそうにない。
困ったな、イチョウ茶が作れないぞ。
『イチョウ茶の作り方:①7~8月頃に採取した葉を、水洗いする』
『②水気を拭いた葉を細かく刻み、2~3日ほど日干しする』
『③茶葉を良く揉み、小さじ1程度を熱湯に入れれば完成』
落葉じゃなくて、緑色の葉を使うのか。
教えてくれてありがとう、『走査』
でも鍋がないと、お湯なんて出来ないよ。
『熱が伝わりやすく燃えにくい素材であれば、代用可能』
熱が伝わりやすくて燃えにくい素材なんて、自然界にあるの?
『竹、木の皮、土器など』
『水の沸点は100℃。水が入っていれば、器の温度は100℃以上にはならない』
イチモツの森で、竹は見たことがない。
土器は粘土層を掘り出して、水でこねて焼いて作らなきゃいけない。
作るのが大変だし、作っても重いから持ち運べない。
一番手軽なのは、木の皮で鍋を作る方法だな。
イチョウの葉が乾くまで、待っている余裕はない。
火の熱で乾燥させれば、すぐに茶葉が出来るはずだ。
思い付いたら、やってみよう。
なんでもやってみなくちゃ、分からないからね。
【銀杏中毒とは?】
銀杏には、|Ginkgotoxinという微弱な神経毒が含まれる。
子供の場合は、5~7粒。
大人の場合は40~100粒くらい食べると、銀杏中毒を起こす。
中毒症状は、吐き気、痙攣、意識不明などのてんかんの発作を引き起こす。
銀杏は殻のまま紙袋に入れて、電子レンジで加熱すると食べられるようになるよ。
美味しくても、たくさん食べすぎないように注意してね。




