第97話 ぼくが頑張らないと
いくら焼きキノコが美味しいからって、過剰摂取は体に毒。
なんでも、ほどほどが一番。
残りのヒラタケは、干しキノコにしよう。
焼きキノコを食べたら、みんなちょっと元気を取り戻したようだ。
美味しいものを食べると、元気になるよね。
だけどまだみんな具合が悪いらしく、キノコを食べ終わると再び眠ってしまった。
ぼくも体が熱っぽいし、とてもダルい。
出来ることなら、ぼくも寝たい。
でも狩りをしないと、何も食べられない。
ぼくが頑張らないと……、ぼくがやらないと。
何度も何度も自分に言い聞かせて、獲物を探してふらふらと歩く。
いつもだったら、狩りの獲物は自力で探すんだけど。
今はプライドより、命が大切。
お願い、『走査』
Paramys(体長約30cmのネズミ)を探して。
『対象:ネズミ目リス亜目パラミス属パラミス』
『位置情報:直進50m、左折20m』
ありがとう、『走査』
案内に従って歩いていくと、数匹のパラミスたちが群がって何かを食べていた。
パラミスたちは目の前のエサに夢中で、ぼくに気付いていない。
せめて、4匹は狩りたい。
グレイさんにはパラミス1匹じゃ足りないだろうけど、少しでもお肉を食べさせたい。
木の影から飛び出して、パラミスたちに襲い掛かった。
パラミスたちは驚いて、一斉に逃げ出す。
逃げて行くパラミスたちを、懸命に追いかける。
だけど、パラミスたちの足が早すぎて全然追い付けない。
いつもだったら狩れるのに、どうして?
違う、パラミスが早いんじゃない!
ぼくが遅いんだっ!
どうやら、自分が思っていた以上に体が弱っているらしい。
思うように走れなかったことが、めちゃくちゃショックだった。
ネズミ1匹狩れないんじゃ、猫失格だ。
なんだか疲れたな、ちょっとだけ休もう。
しっぽ巻き座りで休んでいると、こちらへ近付いて来る何かの足音が聞こえた。
ハッとして、体を起こす。
弱っている仔猫なんて、天敵にとって格好の獲物。
早く逃げないと、食べられてしまう。
慌てて逃げようとしたら、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
『シロちゃん! なかなか戻って来ないから、心配したぞっ!』
「グレイさん」
現れたのは、グレイさんだった。
グレイさんだって病気で具合が悪いはずなのに、ぼくを心配して探しに来てくれたらしい。
その優しさが嬉しくて、ひとりじゃ狩りも出来ない自分が情けなくてグレイさんに泣き付いた。
急に泣き出したぼくに、グレイさんはとても驚いている。
『シロちゃんっ? どうしたんだっ? 何かあったのかっ?』
「ぼく、猫失格ミャ……」
『大丈夫だ。シロちゃんにどんなことがあっても、オレはシロちゃんを愛している。ゆっくりで良いから、何があったか話してみろ』
「ミャ……」
泣きじゃくるぼくを、グレイさんが舐めて慰めてくれた。
ぼくは泣きながら、狩りが出来なかったことを話した。
話し終わると、グレイさんはぼくを抱き締めてスリスリしてくれた。
『シロちゃんは、なんでもかんでもひとりで頑張りすぎだ。もっと、オレを頼ってくれ。オレは、シロちゃんの助けになりたい』
「グレイさん、ありがとうミャ」
『そんなに無理をしたら、もっと病気が悪くなってしまうぞ。狩りなら、オレがやる。だから、シロちゃんはゆっくり寝ていてくれ』
グレイさんはぼくの首根っこを咥えて、巣穴まで運んでくれた。
巣穴に戻ると、心配そうな顔をしたお父さんとお母さんがぼくを抱き寄せた。
「シロちゃん、どこへ行っていたニャー? 心配したニャー」
「シロちゃん、とっても具合が悪そうニャ。さぁ、一緒に寝ましょうニャ」
「ミャ」
柔らかな猫毛に埋もれて、目を閉じる。
安心したからか、全身から力が抜けて動けなくなってしまった。
頭が痛くて、体が熱いような寒いような不思議な感覚。
これは、熱があるな。
目をつぶっているのに目が回っているみたいで、気持ちが悪い。
無理をしたせいで、病気が悪化したのかも。
頑張らなきゃいけないのに、こんなところで倒れちゃダメなのに。
ぼくが倒れたら、誰がみんなの看病をするんだ。
そう思っているのに、ちっとも体が動かない。
寝ちゃダメなのに、とても眠くて逆らえない。
どうあがいても、眠気には勝てない。
気を失うように寝落ちし、泥のように眠った。
ฅ^•ω•^ฅ
いったい、どのくらい眠っていたのか。
寝すぎたせいか、頭がぼんやりしている。
まだ熱は下がっていないのか、体が熱くてダルい。
起き上がると、グレイさんが心配そうにぼくの顔を覗き込む。
『シロちゃん、まだ寝ていろ』
「でも、お薬作らないとミャ……」
『お薬なら、お父さんとお母さんが作ってくれるから心配しなくて良い』
「ぼくじゃないと、分からない薬草だからミャ……」
無理して起き上がろうとするぼくに、グレイさんが泣きそうな顔で言い聞かせてくる。
『頑張り屋さんのシロちゃんはとても偉いけれど、これ以上無理をしたら死んでしまう。オレはもう二度と、シロちゃんを失いたくないんだ』
グレイさんが真剣に頼み込んでくるから、何も言えなくなってしまった。
グレイさんだけが、ぼくが死んだことを知っている。
グレイさんは、ぼくの為に悲しんで泣いてくれた。
あれから、グレイさんは過保護になった。
実際、グレイさんのおかげでとても助かっている。
イチモツの集落が、Hyaenodon(体長約120cmのハイエナっぽい天敵)に襲われた時も助けに来てくれた。
旅の間も、グレイさんがいるだけで天敵に襲われない。
もしグレイさんがいなかったら、ぼくはどこかで死んでいたと思う。
いつも感謝しているし、同時に申し訳ないとも思っている。
守られている分、ぼくも頑張らなきゃって思うんだ。
ぼくはついつい、頑張りすぎてしまう悪い癖がある。
無理をしていることは、自分でも分かっている。
でも助けを求めている猫がいたら、無理をしてでも助けたくなる。
助けたい気持ちが先走って、いつもいっぱいいっぱい。
気付いた時には限界を超えていて、倒れてしまう。
グレイさんには、命を削っているように見えるんだろうな。
少し考えたあと、グレイさんにお願いをする。
「ぼくが頑張りすぎていると思ったら、止めて欲しいミャ」
『もちろん、止めるに決まっている。愛するシロちゃんに、倒れられては困るからな。猫の集落にいる時は、近くにいてやれないが』
「集落にいる時は、お父さんとお母さんにお願いするミャ」
『シロちゃんの側にずっといられれば良いのだが、そうもいかんのが悔しい。オレが、猫だったら良かったのに……』
グレイさんは、とても残念そうに深いため息を吐いた。
落ち込むグレイさんに向かって、ぼくはニッコリと笑い掛ける。
「ぼくは、グレイさんがトマークトゥスで良かったと思っているミャ。グレイさんが猫だったら、きっとこんなに仲良くなれなかったミャ」
『そうか、オレはオレのままで良いのか。ありがとう、シロちゃん』
グレイさんはパッと明るい笑顔に変わって、ペロペロとぼくを舐め始めた。
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくの代わりに、お父さんとお母さんが薬を作ってくれるって言っていたけど。
ふたりには、ムラサキバレンギクの見分け方を教えていない。
ぼくが寝ていた間は、ヨモギの薬しか飲んでいないはずだ。
ヨモギにも、免疫力強化や抗菌作用、抗酸化作用などが含まれている。
マダニ感染症にも、効果はあると思う。
グレイさんが狩りに行ってくれたはずだから、肉は食べられたのかな?
いろいろなことが気になりすぎて、眠りたくても眠れない。
眠れないぼくを見て、グレイさんは呆れたため息を吐く。
『シロちゃんは、【頑張りすぎ】という病気だな。オレは、シロちゃんみたいに頑張りすぎる猫を見たことがないぞ。もっと、自分を大事にしてくれ』
言われてみれば、そうかもしれない。
起きている間は、何かしていないと落ち着かないんだ。
「頑張らないと」と、いつも考えている。
頑張れば、みんなに喜んでもらえた。
みんなから「立派なお医者さん」と、認められたかった。
ぼくしか分からない薬草があるから、ぼくがやらなきゃって思っていた。
ぼくしか出来ないことなら、やるしかないって。
みんなに認めて欲しくて、頑張っていたのかもしれない。
ぼくみたいな考え方を、「仕事依存症」とか「仕事中毒」とかいう病気らしい。
そうか、「仕事中毒」だったのか。
グレイさんに言われるまで、気付かなかったな。
『今はとにかく、病気を治すことだけ考えてゆっくり寝るんだ。寝れないなら、オレがずっと側にいて話をしてやる』
グレイさんに抱っこされて、寝かし付けられた。
【仕事中毒とは?】
仕事を頑張りすぎてしまう精神的な病気。
自分の生活や健康まで犠牲にして、倒れるまで仕事をしてしまう。
最悪の場合、過労死してしまうこともある。
英語だと、workaholicと言う。




