第96話 闘病の日々
猫は、花も食べる。
猫が食べられる花は、カモミールやガーベラなどのキク科、薔薇、蘭など。
薔薇の花弁を好んで食べる、優雅な猫もいるんだって。
猫が花を食べる理由は、猫草を食べる理由と同じ。
花の匂いに誘われて好奇心で食べてみたり、花弁の食感や味が好きだったり、胃腸が悪かったり、毛球症予防だったりする。
おさんぽの犬も、たまに草花を食べることがある。
犬が草花を食べる理由は、おなかの調子が悪い時。
道路脇に生えている野生の草花は、農薬が掛かっていることが多いから要注意。
犬も猫も食べられない花の方が多いから、食べないように気を付けてあげてね。
さっそく、採ってきたムラサキバレンギクを食べてみよう。
頭状花の部分を食べるのはちょっと怖いので、花弁だけを食べてみる。
花弁は、柔らかくて食べやすかった。
これで、抗生物質になるのかな?
頭状花の部分も、食べた方が良いのかな?
頭状花も必要なら、取っておいて乾燥させてハーブティーにしよう。
根っこは雨水で土を洗い流してから、石で叩き潰して薬を作る。
マダニに咬まれた跡は、痛くも痒くもないから自分じゃどこか分からない。
人間だったら咬まれた部分が赤くなるから、見ればすぐ分かるんだけど。
猫は全身を毛で覆われているから、毛を掻き分けないと肌が見えない。
『走査』に傷口の場所を教えてもらって、お父さんとお母さんとグレイさんにも薬を塗った。
みんなにも、花弁を食べさせた。
これで、良しと。
あとは、雨が止むまで巣穴の中で待つだけだ。
長時間雨に打たれていると、夏でも低体温症になる。
低体温症は、脳や心臓などの深部体温(内臓の温度)が35℃以下になった状態。
深部体温は、健康な状態だと37℃に保たれている。
たかが、低体温症と軽く見てはいけない。
深部体温が28℃以下になると、死んでしまう。
犬猫が低体温症になったら、体をタオルや毛布で包んで湯たんぽやヒーターなどでゆっくりとあっためる。
火を起こしても良いけど、巣穴は小さいから焚火を出来る場所がない。
それにこの大雨じゃ、枯れ木も枯れ草も濡れて使えない。
今はみんなで体を寄せ合って、ねこねこだんごで温め合うしかない。
グレイさんは、ねこねこだんごで幸せそうな笑みを浮かべている。
狭い巣穴は、4匹分の体温ですぐにあったかくなった。
これなら、低体温症になることはなさそうだ。
免疫力強化といえば、干しマイタケがあった。
イチモツの集落で作った干しキノコを、携帯薬として持って来た。
干しキノコは、軽くて持ち運びにも便利。
水で戻して焼けば、非常食にもなる。
アグチ先生がくれた籠に背負い紐と蓋を付けて、背負い籠に改造して入れて来たんだ。
籠からマイタケとシイタケとシメジを取り出して、石で叩いて粉にする。
葉っぱのお皿に綺麗な雨水を溜めて、干しキノコの粉を溶かす。
干しキノコは戻すのにひと晩掛かるけど、粉なら戻す必要がない。
シイタケとシメジを混ぜたのは、旨味が増えて美味しくなるから。
シイタケもシメジも、栄養素がたっぷりと含まれている。
生のキノコより天日干ししたキノコの方が、栄養価が高いんだよ。
これで、即席キノコ汁の完成だ。
「みんな、キノコのお薬が出来たから飲んでミャ」
「キノコのお薬は、とっても美味しいから大好きニャー」
「シロちゃん、いつもありがとうニャ」
『これは、前にも作ってくれた美味しい水だな? ずっと飲みたかったから、嬉しいぞ。もっとくれ』
「おなかがいたいいたいになっちゃうから、飲み過ぎはダメミャ」
3匹とも喜んで、全部残さず飲んでくれた。
犬も猫も旨味を感じることが出来るから、キノコが好きなんだ。
ぼくもキノコ汁は美味しいから、大好きなんだよね。
グレイさんはいつもおかわりを欲しがるけど、飲み過ぎは良くない。
これでマダニ感染症を、少しでも和らげられると良いんだけど。
ฅ^•ω•^ฅ
嵐が来ているのか、雨風が激しくなってきた。
出入り口から雨が吹き込むので、巣穴をさらに深く掘って奥に潜り込む。
バケツをひっくり返したような雨で、これでは外へ出られない。
『走査』に、マダニに咬まれたと教えてもらってから3日後。
だんだんと、具合が悪くなってきた。
低気圧による頭痛に加えて、関節痛、倦怠感、発熱、悪寒などの症状が出てきた。
これが、マダニ感染症の症状か。
『走査』から、聞いていた通りだな。
お父さんとお母さんとグレイさんも、同じ症状に襲われているのかぐったりとしている。
触れ合っている体が熱い。
ムラサキバレンギクとキノコ汁は、毎日欠かさず飲んでいる。
それでも、発病は抑えられなかったみたいだ。
あとは、ひたすら寝て治すしかない。
いつになったら治るのか、不安で胸がいっぱいだ。
ฅ^•ω•^ฅ
マダニ感染症を発病してから、ずっと寝込んでいたから何日経ったか分からない。
症状が治る前に、干しキノコがなくなってしまった。
何か食べないと体が弱っていく一方だし、このままだと飢えて死んでしまう。
体力を付けるには、お肉を食べないと。
お肉を食べるには、狩りをしなければ。
獲物を狩るついでに、キノコ狩りもしよう。
火を起こして、焼きキノコも作ろう。
でも、乾燥した枯れ木や枯れ葉は見つかるかな?
グレイさんが来てくれたら、大きな獲物が狩れるんだろうけど。
グレイさんも病気で寝込んでいるから、無理はさせられない。
ぼくも、全身が痛いし熱もあって辛いけど。
ぼくが頑張らないと、みんな死んじゃう。
小さくても良いから、ネズミや鳥を狩ろう。
狩りが無理そうなら、せめてキノコを採ってこよう。
それにはまずは、火を起こす材料とキノコを探すか。
みんな、待っててね。
ぼくは重い体を無理矢理起こして、巣穴から這い出した。
暗い巣穴から出ると、外は晴れていた。
ぼくたちが寝込んでいる間に、嵐は過ぎ去っていたらしい。
久し振りに外へ出ると、日差しはまだ強いけど風が涼しくて気持ち良い。
どうやら、季節はもうすっかり秋のようだ。
この世界の秋は短い。
早く帰らないと、イチモツの集落へ着く前に冬が来てしまう。
マダニ感染症は、いつになったら治るのかな?
教えて、『走査』
『通常、完治まで2~4週間程度かかる』
え? そんなにっ?
もうすぐ冬が来るのに、4週間も待てないよ。
もう他の集落に立ち寄っている余裕はない。
症状が軽くなったら、少しずつでもイチモツの集落へ帰り始めないと間に合わないぞ。
まずは、火を起こす為の枯れ木と枯れ葉を集めよう。
日陰に落ちているものは、湿っている。
日当たりの良い場所に落ちているものは、乾いていた。
よし、これなら使えそうだ。
巣穴の前まで戻り、籠をひっくり返して枯れ木と枯れ葉を出す。
からっぽになった籠を再び背負って、次はキノコ狩り。
キノコ類は、梅雨明けから翌年の3月まで収獲出来るらしい。
だけど冬は、食べられるキノコがとても少ないそうだ。
食べられるキノコは、秋が一番元気に育つんだって。
冬が来る前にイチモツの集落へ帰って、たくさんキノコを採って干しキノコを作り置きしたい。
とりあえず今は、籠に入る分だけでいいかな。
足りなければ、また採りに行けば良い。
本当は肉を食べたいけど、獲物を追えるほどの元気がない。
キノコを食べて、少しでも元気を取り戻すのが先だ。
今回は、ヒラタケがたくさん採れた。
『走査』によるとヒラタケは食物繊維が豊富で、便秘、貧血、皮膚の炎症、塩分の過剰摂取の排出、善玉コレステロールを増やす、骨や歯の発育などに効果があるらしい。
ヒラタケは、似たような形の「ツキヨダケ」という毒キノコがあるから要注意。
『走査』が教えてくれなかったら、間違えて採るところだった。
危ない危ない。
巣穴の外で、弓ぎり式火起こしで火を起こす。
焚火が出来たところで、串に刺したヒラタケを焼く。
しばらくすると、美味しそうな匂いがし始める。
匂いに釣られて、お父さんとお母さんとグレイさんが起きてきた。
そろそろ起こそうと思っていたから、ちょうど良い。
「美味しそうな匂いがするニャー」
「おなかが空いたニャ」
『この匂いは焼きキノコだな? 早く食べさせてくれ』
「冷ますから、ちょっと待ってミャ」
みんな猫舌だから、焼きたては食べられない。
少し冷ましてから3匹の前に差し出すと、みんなスゴい勢いで食べてくれた。
みんな、よっぽどおなかが空いていたんだね。
病気で食欲がないかと心配していたけど、食べてくれて良かった。
【月夜茸とは?】
日本三大毒キノコのひとつ。
シイタケやヒラタケと似ていて、見間違えやすい。
暗いところでうすぼんやりと、蛍光緑色で光ることが名前の由来。
発光成分の「|Lampteroflavin」が含まれているから光る。
このランプテロフラビンが、毒成分。
食後30~3時間あたりから、嘔吐、下痢、腹痛、痙攣、脱水症状、幻覚症状などが起こる。




