第94話 猫は自分の可愛さを理解している
水遊びの後、お日様と風で毛を乾かした。
毛が乾いたところで、レッドとブルーの傷口にヨモギの薬を塗った。
これで良しと。
手当が終わったところで、レッドとブルーに話し掛ける。
「この集落に、お医者さんはいますミャ?」
「なんにゃ? お医者さんごっこは、もう終わりにゃ?」
「本物のお医者さんは、この集落にはいないナァ」
レッドとブルーは、ふたり揃って首を傾げた。
この集落にも、お医者さんはいないのか。
お医者さんがいる集落の方が、少ないもんなぁ。
これまで訪れた集落で、お医者さんがいた集落は数えるほどしかなかった。
だったら、この集落の猫たちにも薬草を教えないと。
レッドとブルーには、このままお医者さんごっこに付き合ってもらうか。
「次は薬草摘みをして、お薬を作りますミャ。薬草の見分け方を教えますから、手伝ってくれませんミャ」
「さっき、兄ちゃんたちに塗ってくれたお薬は、薬草だったのにゃ?」
「仔猫ちゃんは、本物のお医者さんみたいだナァ」
みたいじゃなくて、本物のお医者さんなんだけどね。
レッドとブルーは楽しそうに、ぼくのあとをついて来てくれた。
ふたりに薬草の見分け方を教えていると、フォーンが興味津々で寄って来る。
「何しているニィー?」
「「フォーンちゃんっ!」」
フォーンを見て、レッドとブルーは嬉しそうな笑みを浮かべる。
「仔猫ちゃんと一緒に、お医者さんごっこをしているところにゃ」
「フォーンちゃんも、一緒にどうかナァ?」
「面白そうニィー。仔猫ちゃん、お姉さんもご一緒しても良いニィー?」
「もちろん良いミャ!」
「ありがとうニィー。ワタシは、フォーンお姉さんって呼んでニィー」
フォーンは優しく微笑んで、ぼくの頭を撫でてくれた。
近くで見ると、フォーンは見惚れるほど美猫さんだった。
小さい顔に対して、大きい綺麗な緑色の目と大きな耳。
筋肉質で無駄のない引き締まった体と、美しい毛並み。
レッドとブルーが、奪い合いのケンカをするのも分かる気がした。
さっそくぼくは、3匹の猫たちに薬草の見分け方を教えた。
3匹は物覚えが早くて、頭が良かった。
薬草の名前と特徴を、すぐに覚えてくれた。
これだけ覚えが早いと、教えがいがある。
「これは、何に使う薬草ニィー?」
「これは、ヨモギですミャ。ほとんどのケガや病気に使える、万能薬ですミャ」
「仔猫ちゃんは、小さいのにとってもおりこうさんニィー。お姉さんはあなたみたいな賢い子、大好きニィー」
フォーンはぼくを抱き上げて、大好きのスリスリをしてくれた。
美猫なお姉さんにこんなことされたら、好きになっちゃうだろっ!
もしかして、フォーンは魔性の女(男を惹き付ける魅力的な女)かな?
「フォーンちゃんにスリスリしてもらえるなんて、羨ましいにゃっ!」
「フォーンちゃん! オレたちにも、スリスリしてナァッ!」
ぼくに嫉妬したらしく、レッドとブルーはフォーンに詰め寄った。
フォーンはぼくを抱っこしたまま、からかうようにクスクスと笑う。
「こんなちっちゃな仔猫ちゃんに、嫉妬ニィー? ふたりとも、しょうがないニィー」
フォーンは呆れた顔をしながらも、レッドとブルーにもスリスリする。
スリスリされると、ふたりはデレデレの良い笑顔になった。
猫は、「自分が可愛いと分かっている」という説がある。
人間から「可愛い可愛い」と愛されていれば、猫も愛される幸せを理解して愛してくれるらしい。
フォーンもたぶん自分が可愛いと分かっていて、こういう行動している。
美猫さんだから、悪女が良く似合う。
自分の美しさを武器にする、悪い女だ。
ぼくだって、美猫さんにスリスリされたら嬉しい。
猫は可愛さだけで、生きている価値がある。
猫は可愛さだけで、生存競争に勝ち抜いている。
猫は愛される為だけに、存在していると思う。
猫の可愛さで、救われる命がここにある。
つまり、可愛いは正義っ!
おっと、いけない。
猫が可愛すぎるあまり、また猫愛が爆発してしまった。
熱くなりすぎた猫愛は、一旦鎮めよう。
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくは「お医者さんごっこ」で、3匹に薬の作り方と使い方を教えることが出来た。
たくさん教えても覚えられないと思うから、ヨモギだけ。
以前、他の集落でも猫たちにいろんな種類の薬草を教えたんだけど、覚えられなかったんだよね。
ぼくだって全部は覚えきれていないし、使いこなせていない。
キノコなんか今でも全然見分けられないから、完全に『走査』任せ。
何の知識もない猫たちに、ケガや病気に合わせて必要な薬草を使い分けろっていうのも無理な話。
だったら、万能薬のヨモギだけでも覚えておいてもらおう。
猫はノミやダニや寄生虫などに寄生されやすいから、ニガヨモギも教えた方が良いんだけど。
名前通り苦いから、誰も飲まない。
ぼくも駆虫薬として、2週間に1回、苦さを我慢しながら飲んでいる。
あの苦さは、何度飲んでも慣れることはない。
大きく口を開けさせて、舌に触らないように喉の奥へ入れるくらいしないと、飲ませられないんだよね。
集落の被害状況も確認出来たし、レッドとブルーとフォーンにヨモギを教えることも出来た。
3匹が集落の猫たちにも、ヨモギの使い方を伝えてくれるそうだ。
やることはやったので、集落を旅立とうと思ったんだけど。
日が暮れてしまったので、レッドとブルーに引き留められた。
「暗くなったら集落の外には、怖ぁ~い動物たちがウロウロしているにゃ」
「ちっちゃい仔猫なんか、パクッと食べられちゃうナァ」
ふたりはぼくが仔猫だと思って、わざと怖がらせるようなことを言って脅かしてくる。
すかさずフォーンがぼくを抱きかかえて、ふたりを叱り付ける。
「仔猫ちゃんにそんなこと言って、怖がらせちゃダメニィー! 怖くて寝れなくなったら、どうするニィーッ!」
「「ごめんなさい……」」
フォーンに叱られたふたりは、しょんぼりした。
ぼくはもうすでに立派な成猫だし、夜もひとりで外を出歩けるんだけどな。
ぼくに何かあったら、グレイさんがすぐに駆け付けてくれるし。
今だってきっと、どこかから見守ってくれているはずだ。
だけど3匹は、そんなことは知らない。
フォーンは優しい笑顔で、スリスリしてくれる。
「悪いお兄さんたちで、ごめんなさいニィー。今夜は、フォーンお姉さんと一緒に寝ましょうニィー。そうしたら、怖くないニィー」
「フォーンちゃんの添い寝! 羨ましいにゃっ!」
「だったら、みんなでねこねこだんごになって寝るナァ」
そんなこんなで、3匹とねこねこだんごになって寝ることになった。
そこへお父さんとお母さんがやって来て、3匹に挨拶をする。
「うちのシロちゃんと遊んでくれて、ありがとうございますニャー」
「私たちは、その仔猫の親猫ですニャ。よろしければ、ご一緒させて下さいニャ」
お父さんとお母さんも加わって、ねこねこだんごは6匹になった。
ฅ^•ω•^ฅ
深夜に目を覚ますと、5匹がぐっすり眠っているのを確認してねこねこだんごからそっと抜け出す。
ねこねこだんごは、とっても寝心地が良いけれど。
グレイさんを、ひとりぼっちにしておくのは可哀想だからね。
『走査』で、グレイさんを探して会いに行く。
「グレイさん、今日も見張りお疲れ様ミャ」
ぼくが声を掛けると、グレイさんはしっぽを振って楽しそうに話し出す。
『今夜は、この集落でお泊りなのか。ねこねこだんごになっているシロちゃん、とっても可愛かったぞ。オレも猫になって、ねこねこだんごに混ざりたかった』
「グレイさんだって旅の間はいつも、ぼくとお父さんとお母さんと一緒にねこねこだんごをしているミャ」
『ねこねこだんごは可愛いし、あったかくて気持ちが良くて癒される! ねこねこだんごは、最高だっ!』
「ぼくも、グレイさんが言う通り、ねこねこだんごは最高だと思うミャ」
ぼくたちはねこねこだんごの良さを語り合いながら、夜のお散歩を楽しんだ。




