第87話 ふたりかくれんぼ
イチモツの集落に戻ると、キャリコと一緒に採ってきた薬草を仕分けていく。
蓬、紫蘇、大葉子、犬薄荷、狗尾草――
そこで、『走査』が発動した。
『警告』
『対象:セリ科ドクゼリ属ドクゼリ』
『概要:全草有毒。毒成分のCicutoxinとCicutinを含む。5g以上の摂取で、致死的中毒の可能性がある猛毒。皮膚からも、吸収されやすい性質を持つ。誤食すると、嘔吐、精神錯乱、呼吸困難などを起こして、死に至る』
毒っ?
どれがドクゼリか、教えて『走査』!
『走査』に教えてもらって、ドクゼリを取り除いた。
他の薬草にもドクゼリの汁が付いているといけないので、全ての薬草を川で洗った。
どうやら、間違えて毒草を採ってしまったようだ。
危うく、毒入りハーブティーを作るところだった。
教えてくれたおかげで助かったよ、ありがとう『走査』
洗った薬草の水気を切ったら、仕分け直して長い草で束ねる。
長い植物の蔓を洗濯用ロープ代わりにして、風通しが良い高い木と木の間に張る。
洗濯ロープに、束ねた薬草を干す。
あとはカラカラになるまで、お日様と風が乾かしてくれるのを待つだけ。
集落の猫たちは風に揺れる薬草を、物珍しそうな顔で見上げている。
猫の習性なのか、気になってソワソワしているようだ。
早くも、じゃれようといる猫もいる。
ぼくはみんなに、「これは薬草ですから、絶対にじゃれて遊ばないように」と注意しておいた。
ฅ^•ω•^ฅ
夏の強い日差しで、薬草はすぐに乾いた。
ハーブティーを作って、みんなに飲ませたい。
だけど現在、イチモツの集落の猫は30匹以上いる。
集落のみんなにハーブティーを飲んでもらおうとしたら、大きな器が必要だな。
アオキ先生は、大きな木の器でハーブティーを作っていた。
ぼくもアオキ先生にならって、大きな木の器を作ってみよう。
集落へ帰って来たら、作ってみたいと思っていたんだよね。
竹があったら切るだけで簡単に器が出来るんだけど、イチモツの集落の近くに竹はない。
旅の間も、竹は1本も見つからなかったんだよね。
ぼくが知らないだけで、どこかに竹林はあるのかもしれない。
アオキ先生によると、木の器の材料は倒れた大木を使うらしい。
だけどそんな都合良く、大木は倒れていない。
そうだ! 洪水で河原に流れ着いた流木があるじゃないかっ!
流木から、木の器を作ってみよう。
流木は流されていくうちに樹皮が剥がれ落ちて、表面がツルツルになっている。
このところ晴れが続いているから、しっかりと乾いている。
これなら、加工しやすそうだ。
失敗しても流木ならたくさんあるし、とりあえず作ってみよう。
まずは、器が作れそうな太い木を選ぶ。
大きめの尖った石で、木を適当な大きさに叩き伐る。
これは旧石器時代の「石斧」
石を手で握って使う場合は、「握斧」という。
社会の授業で習った時は、「こんなこと勉強したところで……」と思っていたけど。
意外なところで、役に立ったな。
めちゃくちゃ大変だったけど、少しずつ叩いていけばどうにか必要な大きさに伐れた。
次に手のひらサイズの石を研いで、石のナイフを作る。
石のナイフで少しずつ木を彫って、形を整えていく。
時間を掛けて彫り続ければ、器っぽいものが出来た。
だいたい紙のA4サイズくらいで、深さは10cmくらいかな?
本当はもっと大きい器が作りたかったけど、今はこれが精一杯。
めちゃくちゃ重労働で疲れたし、時間もめちゃくちゃ掛かった。
太陽が一番真上頃から始めたのに、今はもう夕方だ。
夜になる前に、完成して良かった。
ぼくはぶきっちょだから見た目は悪いけど、水が漏れなければ良いや。
彫っているうちにだんだんコツが掴めてきたから、次作る時はもっと上手く作れると思う。
木屑を払い落して、水漏れしないか確認。
うん、大丈夫そう。
って重いっ!
器そのものはそんなに重くないんだけど、水を入れたら全然持ち上がらない。
困ったぞ、これじゃ運べない。
いや、待てよ?
別に、運ぶ必要はないんじゃないか?
この川は、イチモツの集落の水飲み場。
ここでハーブティーを作って、みんなに飲みに来てもらえば良いんだ。
だったら、さっそくハーブティーを作ろう。
さて、どのハーブティーにしようかな?
どれも、美味しいから迷っちゃう。
ハーブティーを初めて飲むイチモツの集落の猫たちには、ヨモギが良いかな?
イチモツの集落の猫たちは、みんな一度はヨモギの薬を飲んでいる。
茶トラ先生は、どんなケガも病気も全部ヨモギで治ると信じているからね。
普段から飲み慣れているヨモギなら、抵抗がないと思う。
ということで、ヨモギ茶を作ってみよう。
ヨモギ茶は、アオキ先生に飲ませてもらったことがある。
ヨモギのとっても良い匂いがして、さっぱりとしていてほんのり苦い。
水出しハーブティーの作り方は、とっても簡単。
茶葉を水に浸したら、あとは待つだけ。
『走査』によると、水出しの方が熱湯で淹れるより苦味が少なくて飲みやすいそうだ。
ただし、お茶の成分が水に溶け出るまでとても時間が掛かる。
ヨモギ茶は、何時間掛かるの? 『走査』
『水出しヨモギ茶の作り方:200mℓの水を沸騰させ、ヨモギ粉末を5g投入する。5分ほど蒸らし、800mℓの水を注ぎ、ひと晩置く』
ヨモギ茶は、粉末にすると良いのか。
確かに粉末にすれば、お茶を出した後の出涸らしが出ない。
ヨモギの栄養も、まるごと摂れる。
さっそくヨモギの茶葉を、石でゴリゴリ潰して粉にした。
木の器を作った時に出た木屑で、火を起こしてお湯を沸かす。
出来たヨモギの粉を、お湯に入れて5分蒸らす。
ヨモギ茶の原液を、木の器に移し替える。
水をたっぷりと足して、木の棒でグルグルかき混ぜた。
しばらくすると、ヨモギの粉は底へ沈んだ。
あとは、明日の朝まで置いておくだけ。
ずっとここにいるのも暇だし、グレイさんのところへ遊びに行こう。
ฅ^•ω•^ฅ
お日様が沈んだ頃、集落をこっそりと抜け出した。
グレイさんは、イチモツの集落の番犬に認められているけれど。
猫たちは、天敵のトマークトゥスのグレイさんを良く思っていない。
だからグレイさんに会う時は、ひとりで行くことにしている。
野生のオオカミは、夜行性なんだよ。
昼間は巣穴で寝ていて、お日様が沈んだ頃に起きてくるんだ。
オオカミの睡眠時間は約12~15時間で、猫と同じくらい寝る。
オオカミの子孫である犬が「昼行性」になったのは、飼い主さんの生活に合わせているからなんだよ。
猫も夜行性だと思われているけど、実は薄明性。
薄明性は、早朝と夕暮れの薄暗い時間に活動すること。
野生の猫は、獲物の行動時間に合わせて狩りをするからなんだ。
室内飼いの猫は、飼い主さんの生活に合わせて昼行性になることがあるらしいよ。
『走査』の案内に従って、グレイさんの元へ走っていく。
「グレイさ~ん!」
『おお、シロちゃん。ちょうど鳥を狩ったところだから、一緒に食べないか?』
「ありがとうミャ、いただきますミャ」
グレイさんの足元に倒れていたのは、 |Ornimegalonyx(体長約1m、体重約9kgの足長フクロウ)だった。
オルニメガロニクスは、猫の天敵である猛禽類(ワシやタカの仲間)。
フクロウも、夜行性の動物。
フクロウは空を飛ぶ鳥なので体のほとんどが羽根で、食べられる肉の部分はとても少ない。
フクロウは肉食動物だからか、臭みが強くてあまり美味しいと思えなかった。
だけど、せっかくグレイさんが狩ってくれたから我慢して食べた。
食べ終わったところで、ぼくはグレイさんに話し掛ける。
「ぼくとキャリコが薬草狩りをしていた時、見ていたミャ?」
『ああ、気付いてくれて嬉しかったぞ。一緒にいた猫も、なかなか可愛かった。もちろん、オレのシロちゃんの方がずっと可愛いけどな』
「キャリコは気付かなかったみたいだけど、ぼく以外の猫はグレイさんを見たら怖がっちゃうから、見つからないように気を付けてミャ」
『すまない。集落から猫が出てくると、可愛くてつい見たくなってしまうんだ』
「じゃあ上手に隠れられるように、かくれんぼしようミャ」
『かくれんぼとは、なんだ?』
ぼくは、グレイさんにかくれんぼの遊び方を教えた。
かくれんぼのルールはとても簡単なので、すぐに覚えてくれた。
今回は隠れる練習なので、ぼくが鬼でグレイさんが隠れる方。
ぼくとグレイさんはひと晩中、かくれんぼをして遊んだ。
練習したおかげで、グレイさんは隠れるのがずいぶんと上手になった。
【毒芹とは?】
日本三大有毒植物のひとつ。
食用の芹に、よく似ている。
しかも芹と同じようなところに生えるので、めちゃくちゃまぎらわしい。
山菜狩りをして、間違えて食べて中毒を起こす人が多い。




