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ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話  作者: 橋元 宏平


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第85話 木登りは孤独な戦い

 ぼくはみんなが()(たた)えるほど、立派(りっぱ)なお医者さんじゃない。

 知らないことがたくさんあるし、いつもいっぱいいっぱいだ。

走査(そうさ)』に(たよ)りきりで、『走査(そうさ)』がなかったら何も出来ない。

 そうだ! キャリコも「成猫(おとな)儀式(ぎしき)」を受ければ良いんだっ!


「成猫の儀式」は、イチモツの巨木(きょぼく)に登って()を取ってくること。

 無事に()りてこられれば、立派な成猫として認められる。

 イチモツの集落に()む猫たちは、1歳になったらみんな受ける。

 イチモツの実を食べれば、猫神様から特別な力を(さず)かる。

 キャリコが本当にお医者さんになりたいと(のぞ)むなら、ぼくと同じ『走査(そうさ)』の力を(さず)かるはずだ。


 キャリコはイヌノフグリの集落から来た猫なんだけど、儀式(ぎしき)を受けられるのかな?

 (おさ)の茶トラ先生に、聞いてみよう。


 ぼくはキャリコを連れて、茶トラ先生に会いに行った。

 茶トラ先生は患者(かんじゃ)さんがいなくて、(ひま)そうに大きな欠伸(あくび)をしていた。

 ぼくとキャリコが近付いていくと、茶トラ先生はにっこりと笑い掛けてくる。


「おや、シロちゃんとキャリコちゃん。ふたりとも、どうしたニャ~?」

「茶トラ先生、ちょっと聞きたいことがあるんですミャ。キャリコさんは、成猫の儀式を受けられますミャ?」

「キャリコちゃんは、今、何歳ニャ~?」

「2歳ですにゃう」


 キャリコが答えると、茶トラ先生は笑顔で大きく(うなづ)く。


「だったら、キャリコちゃんも儀式を受けられるはずニャ~。でもなんで、儀式を受けたいのニャ~?」

「茶トラ先生は、キャリコさんがお医者さんになりたいことを知っていますよミャ?」

「もちろんニャ~。シロちゃんみたいな、立派なお医者さんになりたいらしいニャ~。キャリコちゃんは、とっても良い子ニャ~」

「キャリコさんもお医者さんになりたければ、きっとぼくと同じ力を授かると思うんですミャ」

「なるほどニャ~。キャリコちゃん、頑張ってニャ~」


 茶トラ先生はそう言って、キャリコの頭を()でた。

 キャリコは、不思議そうに首を(かし)げる。


「『成猫の儀式』って、なんですにゃう?」


 キャリコに、儀式の説明をし忘れていた。

 ぼくが儀式について説明すると、キャリコは興奮した顔で目を(かがや)かせる。


「その()を取ってくれば、シロ先生のようなお医者さんになれるってことですにゃうっ?」

「そうですミャ」

「分かりましたにゃう! ボク、登りますにゃうっ! ちゃんと実を取ってこれたら、あなたの弟子にしてもらえますにゃう?」

「だから、弟子を取る気はないってミャ」


 そういえば、ずっと気になっていたことがひとつあった。

 ぼくは、茶トラ先生に(たず)ねる。


「イチモツの集落に、洪水(こうずい)被害(ひがい)はありませんでしたミャ?」

「イチモツの集落は、台地(だいち)(地面から一段高く、台のように盛り上がっている場所)にあるから無事だったニャ~。でも、大雨(おおあめ)巣穴(すあな)水浸(みずびた)しになっちゃったニャ~」


 茶トラ先生は、ちょっと苦笑(にがわら)いしながら答えた。

 それを聞いて、ぼくは安心する。

 確かに(どろ)が流れ込んだ(あと)はないし、草木も流されていない。


 巣穴が水浸(みずびた)しになっちゃったのは、可哀想(かわいそう)だけど。

 猫の数は減るどころか、仔猫(こねこ)が数匹増えていた。

 イチモツの集落の猫たちが全員、無事で良かった。


 低地(ていち)にあった、他の集落は無事だろうか?

 洪水の後、イチモツの集落が心配で急いで帰って来た。

 他の集落には、ひとつも立ち()らなかった。

 だから、他の集落がどうなっているか全然知らない。

 

 もしかしたら、洪水で流されてしまった集落もあったかもしれない。

 次に旅へ出る時は、洪水の被害状況(ひがいじょうきょう)を確認して回ろう。

 茶トラ先生との話が終わったところで、キャリコが口を開く。

  

「それで『成猫の儀式』は、いつ受けられるんですにゃう?」 

「儀式は、受けたければいつでも受けられるニャ~」

「じゃあ今すぐ、受けたいですにゃうっ!」


 やる気満々(きまんまん)といった顔で、キャリコが身を乗り出してきた。

 そんなキャリコを見て、茶トラ先生が楽しそうに笑う。


「だったら、集落の猫を全員集めるニャ~」


 こうして、キャリコが成猫の儀式に(いど)むことになった。


 ฅ^•ω•^ฅ


 成猫の儀式は、集落の猫全員参加の一大(いちだい)イベント。

 儀式に挑む猫を、みんなで応援して見守るんだ。

 落ちてもケガをしないように、イチモツの木の下に柔らかい草がいっぱい()かれる。

 木から()りられなくなった時は、木登りが得意な猫が助けてくれる。

 ケガをしたらすぐ処置(しょち)出来るように、ぼくと茶トラ先生も待機(たいき)している。


 場合によっては、儀式を受ける猫がたくさんいることもあるけど。

 今日は、キャリコひとりだけ。

 集まった猫たちが、「頑張れニャー!」と大きな声援(せいえん)を送っている。


 キャリコはイチモツの木を見上げて、緊張している様子が見られる。


「やっぱり、とっても大きいにゃう……。シロ先生は、本当にこれを登ったにゃう? ボクに登れるにゃう……?」 


 いざ登るとなったら、怖気(おじけ)づいてしまったのかもしれない。

 ぼくはそんなキャリコを、応援することしか出来ない。

 ぼくも去年の今頃、成猫の儀式を受けた。


 あの時のことを思い出して、イチモツの木を見上げる。

 緑の葉が青々(あおあお)()(しげ)った、大きなイチモツの木。

 堂々(どうどう)力強(ちからづよ)く、天高(てんたか)くそびえたっている。


 太い(みき)には、猫たちの爪跡(つめあと)がいくつも残っている。

 いったいどれだけの猫たちが、この木に挑んだのだろう。

 一度で登り切れた猫もいれば、何度挑んでも登れなかった猫もいる。


 イチモツの木は、猫の神様が猫たちに(さず)けた木だと聞いている。

 イチモツの木は集落の守り(がみ)として、猫たちを見守っている。

 集落が洪水の被害(ひがい)を受けなかったのも、イチモツの木が守ってくれたからに違いない。


 ぼくはイチモツの木に向かって、両前足を合わせて感謝を伝える。

 イチモツの集落を守って下さって、ありがとうございました。

 これからも、猫たちを守って下さい。

 あと、キャリコが無事に()りて来られますように。

 

 (いの)ると、少し強い風が吹き抜けた。

 返事をするかのように、イチモツの木の葉がざわざわと音を立てた。


 ฅ^•ω•^ฅ


 木登りとは、自分自身との孤独(こどく)な戦いである。

 頼れるものは、自分だけ。 

 イチモツの木は、そう簡単に登らせてくれない。


 登り始めたら、ただひたすら登ることだけに集中して手足を動かす。

 次はどこに爪を立ててどう移動するかを、(つね)に考え続けなければならない。

 慎重(しんちょう)に爪を立てる場所を選ばないと、古い樹皮(じゅひ)()がれ落ちる。

 下手(へた)すれば足場(あしば)(うしな)って、樹皮と一緒に落ちてしまう。


 登る速さも、とても大切。

 時間を()け過ぎると、体力が持たない。

 早く登ろうとして急ぎすぎると、息が切れる。

 自分の体と相談しながら、自分のペース配分(はいぶん)で登るんだ。


 登る前日はたっぷり(ねむ)って、しっかりとごはんを食べて登る練習をして体力をつけることも大事。

 寝不足で体力がないと、途中(とちゅう)力尽ちからつきちゃうからね。


 キャリコはやる気は充分(じゅうぶん)だけど、木登りは得意なのかな?

 猫は高いところが好きで、よく木に登る。

 実は猫は登ることは得意だけど、降りることは苦手。

 猫は体の構造上(こうぞうじょう)、降りることが(むず)しいんだ。

 人間と違って、降りる時は頭を下にして降りていくんだけど。

 猫の爪は登る時は上手く引っ掛かるけど、降りる時は引っ掛かりにくい。


 猫がケガせずに無事に飛び降りられる高さは、約7m

 高いところが好きな猫も、飛び降りられない高さになると怖いらしい。

「登ったはいいけど、降りられなくなった」なんてことがよくある。


 キャリコも途中まで頑張って登っていたけど、あまりの高さに足がすくんじゃったみたいだ。

 パニックになって、必死に「ニャーニャー」鳴いて助けを求めている。

 こういう時の為に集まっていた、木登りが得意な猫たちが助けに行ってくれた。

 助けられたキャリコは恐怖で体をブルブル(ふる)わせながら、ぼくに抱き()いて泣いた。

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