第84話 あなたの弟子になりたい
「ト、トマークトゥスニャァッ!」
クロさんは、意識がハッキリしてくると、グレイさんを見て悲鳴を上げた。
ビックリして大きく跳び上がると、集落へ向かって逃げ出した。
このところずっとグレイさんと一緒にいるから、当たり前になっていたけど。
トマークトゥスは、猫の天敵だった。
イチモツの集落の猫たちは、グレイさんがぼくの友達だって知っているはずだけどね。
考えてみたら、天敵の見分けなんてつく訳ないか。
ぼくだって、グレイさんがグレイさんだから見分けられるだけだし。
とりあえずクロさんは、あれだけ走れるなら大丈夫だろう。
もうすぐ、イチモツの集落が見えてくる。
寂しいけれど、グレイさんとはここでお別れだ。
ぼくはグレイさんにギュッと抱き付いて、改めてお礼を言う。
「ここまで一緒に旅をしてくれて、ありがとうミャ。グレイさんがいてくれて、とっても楽しかったミャ」
『オレもシロちゃんと旅が出来て、楽しかったぞ。旅が終わっても、オレはシロちゃんの集落の側にいる。また、いつでも会いに来てくれ』
「うん、また会いに行くミャ。それじゃあ、またミャ」
『ああ、またな』
グレイさんは抱き返してくれて、にっこりと笑ってしっぽを振った。
ぼくとお父さんとお母さんがその場から離れると、グレイさんはいつまでも見送ってくれた。
離れていくにつれて、グレイさんの耳としっぽが垂れていく。
明らかにしょんぼりしていて、グレイさんの寂しさが見て取れた。
犬科の動物は、動きや表情が豊かだから、分かりやすいんだよね。
顔と耳としっぽを見れば、どんな気持ちなのかだいたい分かる。
可哀想だけど、グレイさんは猫の集落に入ることが出来ない。
前の長であるミケさんと、「集落に入らない」と約束をしている。
今の長の茶トラ先生も、「入っても良い」とは言わないだろう。
ぼくだってグレイさんと離れるのは、凄く寂しい。
名残惜しくて、何度も振り返ってしまう。
ぼくの中でイチモツの集落へ帰りたい気持ちと、グレイさんと離れたくない気持ちが揺れている。
大丈夫、グレイさんが何度も言っていたじゃないか。
絆は、永遠だって。
イチモツの集落の側にいるから、会いたいと思えばいつでも会いに行ける。
ひとことだけ、グレイさんの想いに応えよう。
ぼくは体ごと振り返ると、大きく手を振りながら声を張り上げる。
「グレイさん、ぼくもグレイさんが大好きミャーッ!」
『シロちゃん! オレも、大好きだーっ!』
グレイさんは落ち込んでいた顔から、一気に明るい笑顔に変わった。
グレイさんは、しっぽをぶんぶん振りながら駆け寄ってくる。
もう一度強く抱き締められて、顔をベロベロ舐められた。
舐められまくったので、全身にグレイさんの臭いが付いてしまった。
これでは、イチモツの集落へ帰れない。
仕方がないので、川でグレイさんの臭いを洗い流すことにした。
今日もとても暑いから、水浴びをしたら気持ち良さそうだ。
日向ぼっこをしたら、毛もすぐ乾くだろう。
せっかくだから、みんなも水浴びに誘ってみよう。
「みんなも一緒に、水浴びしないミャ? お水が冷たいから、水浴びしたらとっても気持ちが良いミャ」
「水は怖いから、水浴びはしたくないニャー」
「私たちは良いから、シロちゃんは水浴びしてらっしゃいニャ」
水が苦手なお父さんとお母さんには、あっさり断られてしまった。
一方、グレイさんは乗り気だ。
『おおっ、水浴びか! 水浴びは気持ちが良いから、大好きだぞっ!』
「じゃあ、グレイさん、一緒に水遊びしようミャ!」
ぼくとグレイさんは、川に飛び込んだ。
思った通り、川の水は冷たくて気持ちが良い。
ぼくとグレイさんは川の浅いところを走り回って、追いかけっこをした。
「グレイさん、捕まえてみろミャ~ッ」
『シロちゃんは、すばしっこいな。だが、絶対捕まえてみせるぞ』
水が苦手な猫と違って、水遊びが好きという犬は多い。
だけど犬も、初めて水遊びをする時は怖がる。
「水浴びは気持ちが良い」「水遊びは楽しい」ということが分かれば、犬は自分から水に飛び込むようになるらしい。
初めての水浴びで溺れたり怖い思いをしたりして、苦手意識を持ってしまうと犬も水を怖がるようになる。
ぼくたち2匹は思う存分、水遊びを楽しんだ。
冷たい水を浴びたら、すっかり涼しくなった。
川の水でしっかり体を洗ったから、グレイさんの臭いも取れた。
あとは日向ぼっこして、濡れた毛を乾かすだけだ。
毛を乾かそうと直射日光を浴びたら、焼けそうなくらい肌が痛い。
猫がいくら毛に覆われているといっても、日に焼けちゃう。
ぼくは急いで、風通しの良い涼しい場所へ逃げ込んだ。
ฅ^•ω•^ฅ
ようやく、イチモツの集落へ帰ってきた。
「みんな~! ただいまミャ~ッ!」
「シロちゃん、おかえりなさいニャ~」
「シロちゃん、無事に帰って来てくれて良かったニャア」
イチモツの集落の猫たちは、ぼくたちを見て集まって来た。
「おかえりニャー」と、笑顔で迎えてくれた。
顔馴染みの猫たちに「おかえり」と言ってもらえると、「帰って来た」という感じがして嬉しいよね。
ぼくたちが旅へ出ている間に産まれたのか、赤ちゃん猫が数匹いた。
「シロちゃんがいない間に、赤ちゃんが産まれたニャア」
サビネコのサビさんがニコニコしながら、赤ちゃん猫を見せてくれた。
赤ちゃん猫たちは、「みゃあみゃあ」と元気に鳴いている。
猫はいくつになっても可愛いけど、赤ちゃん猫は特に可愛いよね。
ちっちゃくておなかがぽんぽこりんで、歩き方もよちよちしている。
赤ちゃん猫は可愛すぎて、見ているだけで幸せになれる。
思わず猫吸いしてみると、ミルクの甘い匂いがした。
猫の発情期は、2~4月と6~8月の年2回。
猫の妊娠期間は、約63~66日。
ぼくたちが旅に出ていた期間は、4月中旬~7月下旬。
春の発情期から考えると、ちょうど赤ちゃん猫が生まれる頃なんだね。
赤ちゃん猫たちと遊んでいると、パステルミケネコに声を掛けられる。
「おかえりなさいにゃう。ずっと、あなたを待っていましたにゃう」
「ミャ?」
「ボクはイヌノフグリの集落から来た、キャリコにゃう。ボクも、あなたのようなお医者さんになりたいにゃう」
キャリコは何度も救ってくれたぼくに憧れて、自分もお医者さんになりたいと思ったそうだ。
今は、茶トラ先生の助手をしているらしい。
「あなたのようなお医者さんになりたい」なんて、初めて言われた。
嬉しいけど、ちょっと照れ臭い。
「茶トラ先生は優しくて、とても良い先生にゃう。ですがボクは、憧れのあなたの弟子になりたいにゃう。どうか、ボクをあなたの弟子にして下さいにゃう」
キャリコはぼくに抱き着いて、懸命に頼み込んできた。
う~む、困った。
憧れの師匠の弟子になりたいって、気持ちは分かるけど。
ぼくは弟子を取れるような、立派な猫じゃないんだけどなぁ……。
【猫も日焼けするの?】
猫が日焼けすると、耳や鼻や目の周りなどの皮膚が赤くなったり、全身からフケや脱毛が出やすくなったりする。
焼けた部分が痒くなって、掻きむしってしまうこともある。
こんな症状が出たら、「日光皮膚炎」という炎症を起こしている。
放っておくと、扁平上皮癌になる可能性がある。
「日光皮膚炎」になったら、早めにお医者さんへ連れて行ってあげてね。
【パステルミケネコとは?】
普通のミケネコは、ハッキリくっきりとした白と黒と茶色。
白と灰色と薄茶色のミケネコを、「パステルミケネコ」と呼ぶ。
別名「Dilute Calico」
「ダイリュート」は、「色や液体などを薄める」という意味。
「キャリコ」は、「三毛」
「ダイリュート遺伝子」により、三毛色が薄くなってパステルミケネコになる。




