第83話 猫の熱中症
どうやらぼくだけじゃなく、みんなも疲れているようだ。
おなかが空いているから、疲れやすいのかもしれない。
今日は4匹とも飲まず食わずで、ここまで歩いてきた。
川が荒れているから、水も飲めない。
狩りをしようにも、獲物が見つからない。
獲物は洪水で流されてしまったか、どこかへ避難したのだろう。
おなかが空いたから、せめて草でも食べよう。
ちょうど目の前に、雨水で濡れた大きな緑色の草が生えている。
これって、食べられる草?
『対象:シソ目オオバコ科オオバコ』
『薬効:咳止め、下痢、消炎、むくみ、利尿、整腸作用、高血圧、糖尿病、慢性気管支炎、ダイエット、腫れ物、猫の毛球症』
『概要:柔らかい若葉は、犬も猫も食べられる』
食べられる草だと分かり、柔らかそうな葉を選んで食べた。
オオバコの若葉は、癖が少ないから食べやすい。
なんだか、小松菜の味に似ている気がする。
人間だった頃、ほうれんそうのシュウ酸の灰汁が苦手で、ほうれんそうを食べられなかった。
おばあちゃんが代わりに、小松菜をよく食べさせてくれたっけ。
ちなみに、犬も猫もほうれんそうを食べられる。
だけど、「シュウ酸カルシウム尿石症(尿道に石が出来る病気)」になりやすくなるから、あまり食べさせない方が良いよ。
オオバコを食べていると、お父さんとお母さんが不思議そうに声を掛けてくる。
「シロちゃん、何を食べているニャー?」
「これは、オオバコミャ。お父さんとお母さんにも、食べてミャ」
ふたりは顔を見合わせると、「シロちゃんがそう言うなら」と食べ始めた。
ひと口食べると、ふたりも気に入ったのかムシャムシャと食べている。
グレイさんにも勧めれば、一緒に美味しそうに食べてくれた。
オオバコの葉は雨水でしっとりと濡れていたから、一緒に水分補給も出来た。
やっぱり、飲まず食わずは良くない。
特に夏はたっぷり水分補給をしないと、熱中症になってしまう。
体調が悪かったのは、熱中症になりかけていたのかもしれない。
熱中症で倒れる前に、気付けて良かった。
オオバコを食べたら、おなかが膨れた感じがする。
だけどおなかは膨れても、気持ちが満たされない。
猫は肉食動物だから、体が肉を求めているのかもしれない。
だけど獲物が見つからなければ、肉は食べられない。
しばらくの間、肉は我慢するしかなさそうだ。
オオバコを食べてゆっくりとお昼寝をしたら、だいぶ元気を取り戻した。
夕方になって少し涼しくなってきたから、もう少し歩けそうだ。
暑い昼間より、涼しい夜の方が歩きやすい。
イチモツの集落まで、あと9kmくらい。
休んだ分、頑張って歩くぞ。
ฅ^•ω•^ฅ
このところ、雨が降らずに晴れが続いている。
どうやら、雨季(雨がたくさん降る季節)が終わったらしい。
地面も乾いてきて、ずいぶんと歩きやすくなった。
今までは泥に足が埋まって滑るから、歩くしかなかったけど。
地面が固まったおかげで、ようやく走れるようになった。
これでさらに、イチモツの集落への距離が縮まった。
体にまとわりついていた泥も、乾いて土へ戻った。
土を払って毛づくろいをすれば、綺麗な毛並みに元通り。
川の様子を見れば流れがゆるやかに戻り、水の色も透明に戻った。
これで、やっと川の水が飲める。
すっかり夏らしくなって、日差しが強く気温も高い。
水分補給しないと、また熱中症になる。
犬猫も毛皮を着ているようなものだから、熱がこもりやすい。
犬猫は、人間のように汗を掻いて体温を下げることが出来ない。
犬猫が汗を掻ける場所は、鼻と肉球だけ。
暑い時に犬猫が口を開けて、「ハッハッ」と息をすることがあるよね?
あれは、体にたまった熱を出す為にやっているんだよ。
へそ天(仰向けで、おなかを出す)も、熱を冷ましているんだ。
出来れば、涼しい河原に沿って歩きたいけど。
河原には、洪水で流されてきた木がたくさん転がっている。
土砂崩れを起こしているところもあった。
大雨の後は、気を付けないと危険がいっぱいだ。
最近は獲物が見つからなくて、狩りが出来ていない。
獲物は、どこへ行っちゃったんだろう?
みんな、洪水で流されちゃったのかもしれない。
仕方がないので最近は、蝉を捕って食べている。
蝉は、殻付きの海老みたいな味がする。
これはこれで美味しいけど、やっぱり肉が食べたい。
ฅ^•ω•^ฅ
イチモツの集落に近付いてきたところで、『走査』が発動した。
『対象:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』
『病名:熱中症』
『処置:涼しい場所へ移動させる。全身に水を掛けて、風を当てる。前頸部や腋窩部や鼠径部を、氷嚢(氷が入った袋)で冷却。飲水や点滴で、水分補給』
この近くに、熱中症の猫がいるらしい。
熱中症に効く、薬草ってあるのかな?
『対象:アオイ科ゼニアオイ属ウスベニアオイ』
『薬効:風邪、咳、気管支炎、消化不良、皮膚炎、胃炎、膀胱炎、下痢、抗酸化作用、抗菌作用、創傷治癒作用、抗炎症作用、肝臓保護』
『概要:花と若葉は、サラダやハーブティーとして食用可能《食べられる》』
『位置情報:右折2m、直進4m』
ありがとう、『走査』
言われた場所へ行くと、濃い緑色の草に紫色の大きな花が咲いていた。
試しに食べてみると、レタスみたいに苦味も癖もなくて美味しい。
よし、この花を熱中症の猫に食べさせよう。
ウスベニアオイの花を、アグチ先生からもらったカゴいっぱいに入れた。
大きな葉っぱでお皿を作って、川の水を汲んだ。
よし、これで準備が出来た。
熱中症の猫は、どこにいるの?
『位置情報:左折4m、直進10m先』
分かった、ありがとう。
指示された場所へ向かうと、ぐったりと倒れているクロネコがいた。
全身真っ黒のクロネコは熱をたくさん吸収するから、他の猫よりも熱中症になりやすい。
「大丈夫ですミャ?」
「ああ、シロちゃんニャァ……? 暑いニャァ、助けてニャァ……」
クロネコは苦しそうに荒い息を吐きながら、ぼくにすがった。
このクロネコは、イチモツの集落のクロさんだ。
こんな形で、再会することになるなんて思わなかった。
ここはイチモツの集落から、500mくらい離れた場所。
ちょうど、イチモツの集落の狩場の範囲内だ。
たぶん獲物を追っているうちに、熱中症になっちゃったんだろう。
クロさんを風通しの良い涼しい日陰に移動させて、水を飲ませた。
足先から体に向かって少しずつ水を掛けていくと、すぐに水が足りなくなった。
水を汲みに行こうとしたら、お父さんとお母さんとグレイさんが代わりに水を運んでくれた。
最後にウスベニアオイを食べさせて、様子を見ることにした。
【猫の熱中症に注意!】
猫も人間と同じように、熱中症になる。
全身毛に覆われている猫は、暑さにとっても弱い。
室内飼いの猫も熱中症になるから、温度と湿度には充分気を付けてね。
熱中症になりやすい状況は、以下の通り。
・気温が高くて湿度も高い場所に、長時間いる。
・暑い中で、運動や散歩のやりすぎ。
・長時間、水を飲まない。
【蝉とは?】
今から約2億年以上前から生息していると、いわれている昆虫。
卵から産まれ、幼虫の間の約3~17年は土の中で生活する。
成虫になると、土から出てくる。
日本だと夏くらいに出てきて、めっちゃ鳴く。
鳴くのはオスのみで、メスに求愛行動をしている。
メスの体には、発音器官がないので鳴くことが出来ない。
昔は成虫になると、1週間しか生きられないと信じられていた。
2000年以降に研究が進んで、1ヶ月くらい生きられることが分かった。
【大葉子とは?】
日本中、どこにでも生えている食べられる雑草。
人間に踏まれることで強くなり、踏まれないと弱る不思議な草。
「弱ったカエルをオオバコの葉の陰に置いておくと元気になる」とか、「死んだカエルをオオバコの葉で包むと生き返る」といった言い伝えがある。
別名、「カエルバ」「カエルッパ」「ゲーロッパ」など。
若葉を茹でて、水にさらすと食べられる。
乾燥させた葉は、オオバコ茶にして飲む。
種子の殻を粉にしたものが、「サイリウムパウダー」や「オオバコパウダー」として売られている。
水を含むとゼラチン状になり、糖質ゼロ・低カロリーなのでダイエット食品に良く使われる。
体重管理を目的とした、ペットフードにも使われている。
【薄紅葵とは?】
初夏~夏くらいに、6cmくらいの赤紫色の花が咲く植物。
日本では陽が当たる、水はけの良い場所に自生している。
花と若葉は、生でサラダ。
葉と根は、茹でると食べられる。
乾燥させた花は、「Blue Mallow」と呼ばれるハーブティーとして人気が高い。
お湯を注ぐと色素成分の植物性染料が溶け出して、綺麗な青いお茶が出来る。
レモン汁を入れると、化学変化が起こってピンク色に変わる。
これにより、「surprise tea」とも呼ばれる。




