第81話 降り続く雨
困ったことになった。
長雨のせいで、枯れ枝や枯れ葉が湿っている。
良く乾燥した木じゃないと、火を起こせない。
火が起こせないと、雨で濡れた毛を乾かすことが出来ない。
体が濡れたままだと、風邪を引いちゃう。
それに、焼きキノコが作れない。
グレイさんが焼きキノコを食べられると、楽しみにしていたのに。
グレイさんに風邪を引かせたくないし、ガッカリさせたくない。
どうにかして、火を起こしたい。
お願い、『走査』
良く乾燥した木や葉っぱは、この近くにないかな?
『位置情報:右折3m、直進10m』
え? あるの?
案内通りに歩いてみると、大きな木があった。
木には、鳥の巣穴らしき穴が開いている。
なるほど、鳥の巣か。
鳥は雨風を避けられる、安全な場所に巣を作る。
それに、巣の材料は枝や葉だ。
野鳥の繁殖期は、春~初夏。
今頃雛は巣立っていて、巣には誰もいないはずだ。
爪を立てて木によじ登り、巣穴に入る。
思った通り、巣穴には細い枝や枯れ草で作られた巣があった。
触ってみると、鳥の巣は良く乾燥している。
これなら、火を起こせそうだ。
ごめんね、名前も知らない鳥さん。
この巣は、もらっていくね。
あと火起こし用の木の板と、燃料も欲しいな。
木の内側を引っ掻いて、木の薄い部分を剥がした。
爪がちょっと欠けちゃったけど、猫の爪はすぐ伸びるから大丈夫。
よし、これで火が起こせるぞ。
鳥の巣が濡れないように、大きな葉っぱを傘代わりに差す。
出来るだけ巣を濡らさないように気を付けながら、持ち帰った。
巣穴に戻ると、お父さんとお母さんとグレイさんがParamys(体長約30~60cmのネズミ)を食べていた。
「ただいまミャ」
『ああ、おかえり。近くで、ネズミの巣穴を見つけてな。たくさん捕れたから、食べてくれ』
見れば、グレイさんの毛がびっしょりと濡れている。
犬科の動物は、体をブルブルして水を吹き飛ばすはずだけど。
ブルブルしただけじゃ、乾かない。
早く火を起こして、乾かしてあげないと。
今回は木の棒と木の板をこすり合わせて、きりもみ式で火を起こしてみよう。
きりもみ式火起こしのやりかたは、とてもシンプル。
木の板に石で軽く穴を掘って、凹みを作る。
あとは凹みに木の棒を立てて、素早く回転させるだけ。
なんだけど……。
これがめちゃくちゃ大変で、全然火が着かないっ!
弓きり式なら、すぐ火が着くのに。
どんなに頑張っても、火が着かなかった。
きりもみ式は、初心者には難しすぎる。
仕方がないので、弓を作れる太い枝と引っぱっても切れにくい丈夫な草を探すことにした。
弓ぎり式火起こしの弓は、湿っていても構わない。
丈夫な枝と草を拾ってくると、水気を切って弓を作った。
あとはいつものように弓を素早く前後に動かして、火起こし棒を回転させる。
弓ぎり式だったら、ちゃんと火が着いた。
なんできりもみ式は、あんなに難しいんだろう?
やっぱり、コツがあるのかな?
火種が出来たので、鳥の巣に火を移す。
乾燥した枝や草で作られた鳥の巣は、良く燃えた。
火を絶やさないように、薪を火にくべていく。
濡れた枝や葉も火で乾かして、薪にする。
火が大きくなってくると、巣穴の中があったかくなってきた。
ぼくとグレイさんは火に当たって、濡れた体を乾かす。
お父さんとお母さんもあったかさを求めて、一緒に火を囲む。
枝で作った串にキノコを刺して、火の回りの地面に立てていく。
ついでに、パラミスも焼肉にしてみた。
ぼくたちは猫舌で焼きたては食べられないから、少し冷ます。
触れるくらいの温度になったら、串から外してみんなに差し出す。
「焼きキノコと焼肉が出来たから、食べてミャ」
「パラミスも焼いたら、味が変わったニャー。不思議だニャー」
「シロちゃん、美味しいニャ。ありがとうニャ」
『やはり、焼きキノコは美味しいな。ネズミも、焼いた方が美味しいぞ。シロちゃんも、食べてみろ』
みんな、喜んでくれて良かった。
ぼくも、焼きキノコと焼きパラミスを食べてみた。
キノコは焼くとジューシーで、とっても美味しい。
パラミスは皮がこんがりパリパリで香ばしく、焼き鳥みたいな味でとても美味しかった。
久しぶりにおなかいっぱい食べられて、大満足。
火は取り扱いさえ間違えなければ、とても便利。
食べものは美味しいし、冷えた体もあったかくなった。
ただ心配なことは、毛や髭が燃えていないかだけ。
今回は、気を付けていたから大丈夫なはず……。
グレイさんもお父さんもお母さんも、ある程度火から離れていたから、毛も髭も無事だ。
ぼくは焼きキノコや焼きパラミスを作る為に、火の近くにいた。
また、毛がチリチリになっていたらどうしよう。
自分の姿が見れないから、確認出来ない。
どうしても気になって、グレイさんに聞いてみる。
「グレイさん、ぼくの毛や髭はどうなっているミャ?」
『ちょっと毛先が、チリチリになっているな。だが、心配しなくとも、そんなシロちゃんも可愛いぞ』
やっぱり!
どうにかして、毛や髭を焦がさない方法はないのだろうか……。
ฅ^•ω•^ฅ
この世界にも、雨季(雨がたくさん降る季節)がある。
だけど去年は、こんなに降らなかった気がする。
今年は、降る日数も降る量も多いようだ。
何日も何日もずっと、雨が降り続けている。
このところずっと、お日様を見ていない。
この時季のお日様は、日差しが強いけど。
そろそろ、お日様が恋しい。
ぼくたちがいる巣穴は、グレイさんが小高い丘の上に掘ってくれたから安全だけど。
長雨で近くの川が溢れて、洪水を起こしている。
低い場所は、茶色い湖のようになっていた。
雨が止んでも、洪水の水が引くまで旅立てない。
早くイチモツの集落へ帰りたいのに、これではどこにも行けない。
集落の猫たちは、無事だろうか。
みんな、洪水の被害に遭っていないと良いけど。
お父さんとお母さんは、気象病でずっと寝ている。
ぼくも頭痛が酷いし、古傷がズキズキと痛む。
気象病は低気圧が原因だから、雨が止まないと治らない。
いつになったら、止むのかなぁ……。
深々とため息を吐くと、火が大きく揺らめいた。
バシャバシャという水音と共に、狩りに行っていたグレイさんが帰ってきた。
『シロちゃん、ただいま!』
「グレイさん、おかえりなさいミャ」
『魚がいっぱい流れてきたから、拾って来たぞ』
グレイさんは、30cmくらいの大きな魚を持って帰ってきた。
猫は、魚を食べられないんじゃなかったっけ?
これ、なんていう魚?
教えて、『走査』
『対象:サケ目サケ科タイヘイヨウサケ属アマゴ』
『概要:高蛋白低カロリーの白身魚。犬も猫も食べられる』
『チアミン欠乏症の原因となるチアミナーゼは、加熱すれば不活性化する』
『アニサキスは熱に弱い為、加熱すれば死滅する』
そっか、焼けば犬も猫も魚を食べられるんだ。
火を良く通せば、アニサキス食中毒も防げる。
そういえばサケは、キャットフードにも良く使われている。
やったー! 猫になって初めて魚が食べられるぞっ!
【似嘉魚とは?】
3~9月の間だけ釣ることが出来る川魚。
渓流ルアーフィッシングで人気。
同じ魚でも、川から海へ行くものは皐月鱒と呼ばれる。
海へ行かず、ずっと川にいるものはアマゴと呼ばれる。
【チアミン欠乏症とは?】
青魚には、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などの不飽和脂肪酸が豊富に含まれている。
人間が不飽和脂肪酸を食べると、脳や神経組織の機能を活性化させる作用がある。
しかし、不飽和脂肪酸は猫の体には良くない。
黄色脂肪症になる恐れがある。
黄色脂肪症は、おなかに脂肪の塊が出来る病気。
発熱、腹痛、食欲低下、元気がなくなるなどの症状が現れる。
【アニサキス食中毒とは?】
Anisakisは、魚に棲みつく寄生虫。
生きたままのアニサキスが、体に入ってくると感染する。
感染すると、激しい腹痛と嘔吐などの症状が現れる。




