第80話 キノコの粉薬
数分、十数分、それとも数時間か。
耐え難い雷の音が、いつまでも長く続いた。
雷の恐怖で、ぼくたちは眠れぬ夜を過ごした。
うとうとしても、雷のゴロゴロバリバリという音で目が覚める。
両前足で目を覆って、ごめん寝していても眠れない。
低気圧でめちゃくちゃ頭が痛いし、体も怠い。
グレイさんも具合が悪そうに、ぐったりとしている。
もしかして、犬科の動物も低気圧に弱いのかな?
「グレイさん、大丈夫ミャ?」
『大丈夫じゃない。頭が締め付けられるように、ズキズキ痛くて仕方がない。体もやけに重たくて、動きたくても動けん……』
グレイさんは、力なく「くぅん……」と小さく鳴いた。
グレイさんも低気圧による、気象病のようだ。
お父さんとお母さんも気象病で、ぐったりと横たわっている。
どうにか、みんなの症状を和らげられないかな?
そうだ! アグチ先生からもらった干しキノコがあるじゃないかっ!
アグチ先生は、キノコを専門に取り扱っているお医者さんだった。
ということは、キノコも薬になるはず。
教えて、『走査』!
『椎茸:リボフラビン(ビタミンB2)に、疲労回復や片頭痛を改善する効果あり』
『舞茸:MD‐fraction(組織)が、免疫力を高める。MX‐フラクションが、基礎代謝(生きる為に必要なエネルギー)を高める』
よし、水に浸けて戻そう。
『乾燥キノコは、乾燥粉末として利用可能』
そういえばアグチ先生が「乾燥させたキノコを石で叩いて粉にして、水と一緒に飲むにゃ~」と、言っていた。
アグチ先生、ありがとうございますっ!
さっそく粉薬を作ろうとグレイさんの腕の中から抜け出すと、不安げな顔でグレイさんが声を掛けてくる。
『シロちゃん? こんな雨の中、どこへ行くんだ?』
「グレイさんとお父さんとお母さんに、薬を作るミャ」
『そうか。ならば、オレも行こう』
「すぐ戻って来るから、大丈夫ミャ。グレイさんは、寝ててミャ」
起き上がろうとするグレイさんを断って、巣穴を飛び出した。
まずは粉薬を作る為に、濡れていない綺麗な石を拾う。
次に大きい葉っぱでお皿を作って、降ってくる雨水を溜めた。
よし、これで道具は揃ったぞ。
あとは、干し椎茸と干し舞茸を叩いて粉にするだけだ。
乾いた石と水が入った葉っぱのお皿を持って、巣穴へ戻って来た。
「ただいまミャ。今、薬を作るから待っててミャ」
『おかえり、シロちゃん。無事に帰って来てくれて、良かった』
戻って来たぼくを見て、グレイさんはホッとした笑顔を浮かべた。
ぼくは巣穴のすみに置いておいた籠から、椎茸と舞茸を選び出す。
平べったい石の上に置いて、手のひらサイズの石で叩く。
良く乾燥しているから、簡単にパキパキと割れた。
叩くと、椎茸と舞茸の美味しそうな匂いがに広がった。
石で叩きながら、『走査』に訊ねる。
キノコの粉薬の用量と用法って、どれくらい?
『用法用量:1日3回、1回5g』
5gって、ほんのちょっとだな。
乾燥した状態だから、椎茸1個分くらいかな。
舞茸なら、1/4株ってところか。
4匹で飲むから、椎茸4個と舞茸1株だね。
乾燥キノコは簡単に割れるけど、粉にするのはなかなか大変だった。
時間を掛けて叩き続ければ、ちょっと荒いけど粉っぽくなった。
椎茸と舞茸の粉をお皿に入れて、水に溶かせばば出来上がり。
「みんな~、お薬が出来たから飲んでミャ」
「ニャニャー? これは、何のお薬ニャー?」
「なんだか、美味しそうな匂いがするニャ。いただきますニャ」
『おお? なんだ、この水はっ? とっても美味しいぞっ!』
3匹とも「うみゃいうみゃい」と、喜んで飲んでいる。
「良薬、口に苦し(良い薬ほど苦い)」って、ことわざがあるけど。
出来れば、美味しい方がいいよね。
ぼくも、粉薬入りの水を飲んでみる。
ほんのり茶色になった水は椎茸と舞茸の匂いがして、スープみたいでとっても美味しかった。
こんなに美味しい薬なら、1日3回でも余裕で飲める。
みんなも満足そうな顔で、粉薬入りの水を飲み切った。
「シロちゃん、ありがとうニャー。とっても美味しかったニャー」
「飲んだら、なんだか元気が出てきた気がするニャ。こんなに美味しいお薬があるなんて、信じられないニャ」
『美味しかった! シロちゃん、おかわりはないのか?』
「お薬だから、おかわりはないミャ。たくさん飲んだら、おなかがいたいいたいになっちゃうミャ」
『そうか……。こんなに美味しいのに、これだけしか飲めないのか……』
グレイさんもお父さんもお母さんも、残念そうな顔で葉っぱのお皿を舐めている。
「でも、1日3回飲めるミャ。もう少し時間が経ったら、また作るミャ」
『なに? あと2回も飲めるのか! じゃあ、早く作ってくれっ!』
グレイさんは、さっそくおかわりをおねだりしてきた。
「まだダメ」と、グレイさんの鼻に連続猫パンチを繰り出した。
猫パンチを受けたグレイさんは、なんだかとても嬉しそうだった。
猫パンチは、愛猫家にとってはご褒美だよね。
ฅ^•ω•^ฅ
連日の雨で、空気がひんやりと冷え切っている。
このところ雨で狩りに行けなくて、4匹とも何も食べていない。
口にしているのは、干しキノコの粉薬入りの水だけだ。
籠いっぱいに入っていた干しキノコも、もうすぐなくなりそうだ。
そろそろ狩りをしなければ、おなかが空いて死んでしまう。
濡れたくないからといって、いつまでも巣穴に籠もっている訳にもいかない。
だけどこんな寒い日に雨に濡れたら、体を冷やしてしまう。
そうだ! こんな時こそ、火を起こしたらいいんじゃないかっ!
濡れた体を乾かせるし、冷えた体をあっためることも出来る。
狩りをすれば、焼肉が食べられる。
ついでにキノコ狩りもすれば、焼きキノコも食べられる。
焼肉と焼きキノコ……。
想像したら、おなかが鳴った。
具合が悪いから動きたくないなんて、言っている場合じゃない。
お医者さんのぼくが、みんなの健康を守らなくちゃ。
そうと決まれば、やることがいっぱいあるぞ。
まずは、巣穴を広げて、火が使える場所を作ろう。
ぼくが巣穴の壁を掘り始めると、グレイさんが声を掛けてくる。
『シロちゃん、急にどうしたんだ?』
「焼きキノコを焼く場所を、作っているミャ」
『なに? 焼きキノコだと? また、あの美味しいのが食べられるのか? よし、だったらオレも手伝おう』
「ありがとうミャ」
焼きキノコと聞いて、グレイさんが張り切って穴を広げてくれた。
グレイさんが頑張ってくれたおかげで、巣穴はかなり広くなった。
天井にも、煙を逃がす空気穴を開けた。
空気穴を作らないと、巣穴の中が煙でいっぱいになっちゃうからね。
これで、火を使える場所が出来たぞ。
次は火を起こす道具を集めて、キノコと肉を狩りに行こう。
ぼくが巣穴の外へ向かうと、グレイさんがついて来る。
『シロちゃん、どこへ行くんだ?』
「おなかが空いたから、狩りに行くミャ」
『そうだな、オレも腹がペコペコだ。オレも一緒に行こう』
「じゃあ、ぼくはキノコを狩ってくるミャ。狩りは、お願いしても良いミャ?」
『分かった、任せてくれ』
「お父さん、お母さん。行ってきますミャ」
巣穴のお留守番をお父さんとお母さんにお願いして、ぼくとグレイさんは狩りに出掛けた。
木の根元を探すと、色んなキノコが生えていた。
ただし、素人判断でキノコ狩りをしてはいけない。
キノコの見分け方は、とっても難しい。
キノコ狩りをする時は、キノコの専門家にお願いしよう。
ぼくは、『走査』に頼んで、食べられるキノコを探してもらった。
『走査』のおかげで、美味しそうなキノコがたくさん採れた。
【舞茸とは?】
野菜売り場で、手軽に買えるキノコ。
スーパーで売られている舞茸は工場栽培だから、値段が安定していてお財布に優しい。
天然物は探すのが難しいので、めちゃくちゃ高い。
手で適当に割いて火を通せば食べられるので、包丁もいらない。
「MD‐フラクション」と「MX‐フラクション」は、舞茸のみに含まれる栄養素。
「MD‐フラクション」は、「ナチュラルキラー細胞(ウィルスや癌と戦う免疫細胞)」を活性化したり、腸内環境を整える効果などがある。
「MX‐フラクション」は、血糖値やコレストロールを抑える効果がある。
ちなみに「M」は、舞茸の「M」




