第79話 雷恐怖症
チリチリになってしまった毛は、冬毛に生え替わるまで待つしかない。
毛は良いとして、髭が短くなっちゃったのは困ったなぁ。
猫の髭は毛と同じで、半年に1回くらいの周期で生え替わる。
猫の髭は神経と繋がっていて、周りの情報を集めるセンサーのような役割をしている。
猫の視力は0.1~0.3しかないから、髭で視力を補っている。
耳では聞き取れないかすかな音の振動も、髭で感じ取れる。
髭があるおかげで、猫は安全に動き回ることが出来るんだ。
感情によっても、髭は動くんだよ。
普通の時の髭は、下に垂れている。
怒っている時は、横になる。
嬉しい時は、前に向かってピンと立つ。
髭がなくなったり切ったりすると、強いストレスを感じて病気になっちゃうことがあるんだ。
猫にとって髭は、物凄く大切な物なんだ。
だから、猫の髭は引っ張って抜いたり切ったりしちゃ絶対ダメ。
ちなみに自然に抜け落ちた髭は、お守りとして取っておくと良いことがあるらしいよ。
ぼくの髭も、早く生え替わると良いなぁ。
火を使う時は毛や髭が燃えてしまわないように、気を付けないといけないな。
それに夏の暑い時に、余計に暑くなる火は使いたくない。
次に火を使うのは、寒くなってからかな。
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくたちは、アグチ先生の集落の猫たちのお世話をした。
3日もすれば、サルモネラ腸炎で苦しむ猫はいなくなった。
病気でかなり体力を消耗しているから、あとは安静にするだけだ。
ぼくたちも看病疲れを癒す為に、しばらく集落でお世話になることにした。
ゆっくり過ごして疲れが取れたところで、集落から旅立つことにした。
旅立ちの日、集落の猫たち全員がお見送りに来てくれた。
長が、にっこり笑って握手を求めてくる。
「シロちゃん、たくさんお世話になったナァ。ありがとうナァ」
「これ、あたしが作った干しキノコにゃ~。良かったら、お土産に持って行ってにゃ~」
優しく微笑むアグチ先生が、植物の蔓を編んで作った籠をくれた。
籠の中には、たくさんの干しキノコが入っていた。
ぼくはありがたく、干しキノコの詰め合わせを受け取った。
「こちらこそ、お世話になりましたミャ。アグチ先生、干しキノコを下さって、ありがとうございますミャ。おふたりも集落の皆さんも、どうかお元気でミャ」
「シロちゃんも、元気でナァ」
「シロちゃん、本当にありがとうにゃ~。さようならにゃ~」
ぼくたちは猫たちに見送られて、アグチ先生の集落を後にした。
ฅ^•ω•^ฅ
集落を出ると、グレイさんがしっぽをブンブン振りながらおすわりをして待っていた。
『シロちゃん、待っていたぞ。また一緒に、旅が出来るんだな。嬉しいぞ』
「行こうミャ」
グレイさんは、ぼくが抱えている籠を見て首を傾げる。
『シロちゃん、それはなんだ?』
「これは、アグチ先生がくれた干しキノコミャ」
『キノコ? あの時、シロちゃんがくれた美味しいキノコか!』
グレイさんは焼きキノコの味を思い出したのか、舌なめずりをする。
「これは干しキノコだから、食べられないミャ」
『なんだ、食べられないキノコなのか……』
食べられないと聞いて、グレイさんは分かりやすくガッカリした。
色んなキノコが入っているけど、何があるんだろう?
教えて、『走査』
『対象:椎茸、占地、舞茸、榎茸、滑子、木耳』
どれも人間だった時から知っている、食用キノコばかりだ。
意外に思うかもしれないけど、実は猫はキノコが好きなんだよ。
猫も、キノコの「旨味」を感じることが出来る動物だから。
個体差があるから、キノコが嫌いな猫もいるけど。
猫はキノコをたくさん食べると、消化不良を起こす。
猫にキノコを与える時は柔らかくなるまで茹でて、細かく刻んだものを少しだけ与えてね。
アグチ先生の集落から旅立ったぼくたちは、イチモツの集落へ帰ることにした。
なんで急に、イチモツの集落へ帰ることになったのかというと。
ぼくが無性に、イチモツの集落が恋しくなったから。
ぼくが「イチモツの集落へ帰りたい」と言ったら、
お父さんとお母さんは「私たちも帰りたいと思っていた」とで受け入れてくれた。
グレイさんも「オレとシロちゃんは離れられない運命だ」と、頷いてくれた。
3匹には、いつもぼくのワガママに付き合わせてしまって申し訳なく思う。
イチモツの集落へ帰りたくなった理由は、いくつかある。
一番大きな理由は、Argentavis(巨大な鷹)に襲われたこと。
「もう死ぬ!」と思ったら、イチモツの集落の猫たちに会いたくなった。
それからここ最近、ふたつの集落で新しい発見があった。
アオキ先生からは、ハーブティーを教えてもらった。
アグチ先生からは、干しキノコを教えてもらった。
まだまだ学ぶべきことがたくさんあると、改めて気付かされた。
ハーブもキノコも、お日様に干すとビタミンやミネラルが増える。
紫外線で殺菌されると、保存が利くようになる。
ハーブティーも干しキノコも、作るのにめちゃくちゃ時間が掛かるんだけどね。
お日様に干して、乾燥させるのに数日。
水に浸して戻すのに、数時間。
干しキノコは水で戻したあと、焼かないと食べられない。
手間暇掛かる干しキノコは、旅の間は食べられない。
干しキノコは、イチモツの集落へのお土産にするしかなかった。
イチモツの集落へ帰ったら、茶トラ先生にもハーブティーや干しキノコの作り方を教えたい。
だけどぼくはこれからも今まで通り、生の薬草を使い続けると思う。
やっぱり、薬草が一番手軽に使えるんだよね。
ケガも病気も、待ってくれない。
症状によっては、自然治癒するものもあるけど。
どんなケガも病気も早期発見と早期治療が、最も重要なんだ。
ฅ^•ω•^ฅ
そんなこんなで、イチモツの集落へ向かって歩いていると。
空がだんだんと黒い雲に覆われていき、ゴロゴロと低い音が鳴り始めた。
マズい、雷だ!
きっともうすぐ、激しい雨も降り始めるはず。
せっかく、アグチ先生からもらった干しキノコが濡れてしまう。
「みんな! 雷と雨がしのげる場所を探してミャっ!」
『よしっ、オレに任せろ! お父さんとお母さんは、オレについて来てくれっ!』
グレイさんはぼくの首根っこを咥えて、どこかへ向かって走り出した。
周囲の匂いを嗅ぐと、雨の匂いが近付いているのを感じた。
ゴロゴロと、雷が鳴り続けている。
まだ落雷はしていないけど、黒い雲の中が時々白い光を放っている。
雷が近付いてくると、なんだかとても胸騒ぎがする。
どうしてこんなに、不安と恐怖を感じるんだろう。
早くどこか安全な場所に避難しなければと、気ばかりが焦る。
まもなく、ぽつりぽつりと、雨が降り始めた。
干しキノコの籠が少しでも濡れないように、ぎゅっと胸に抱える。
ぼくの首根っこを咥えたグレイさんは、丘の上まで走ってきた。
グレイさんはキョロキョロとあたりを見回した後、ぼくを地面に下ろす。
『シロちゃん、すぐにオレたちの愛の巣穴を掘るからちょっと待っててくれ』
ニッコリと笑ったグレイさんは、丘に横穴を掘り始めた。
雨が降っているから、少しでも早い方が良い。
本格的に雷が鳴り出したら、危険だ。
「ぼくも手伝うミャ!」
『ありがとう。では、ふたりの共同作業で、オレたちの愛の巣を作ろうっ!』
「シロちゃん、巣穴を掘るニャー?」
「私たちも、手伝うニャ」
ぼくとグレイさんが巣穴を掘っていると、お父さんとお母さんも手伝ってくれた。
4匹で急いで掘って、やっと4匹入れる巣穴が出来た。
「早く入るミャ!」
ぼくたちは出来たばかりの巣穴に入り、身を寄せ合う。
しばらくすると雨が強くなり、雷雲も近付いてきたのかゴロゴロという音が大きくなってきた。
そしてついに「ガラガラドカーンッ!」という爆発音のような恐ろしい音が、あたりに響き渡った。
出来るだけ雷の音を聞きたくなくて、グレイさんにしがみつく。
お父さんとお母さんも両前足で耳を塞いで、グレイさんの下に隠れた。
グレイさんも怖いらしく、伏せの状態でぼくをぎゅっと抱き締めている。
犬猫は耳が良いから、大きな音が苦手。
急に、ピカッと光るのも怖い。
雷が落ちた時の衝撃や、地面と空気の振動も怖い。
雷が鳴るとパニックになる、「雷恐怖症」の犬猫もいる。
恐怖によるストレスで、攻撃的になったり、ごはんが食べられなくなったり、おなかを壊してしまったり、過呼吸になったりすることがある。
ぼくは人間だった頃から雷が苦手だったし、今も苦手。
たまに「雷大好き♡」と言う人がいるけど、信じられない。
なんで、あんな恐ろしいものが好きなんだ?
『シロちゃん、怖いか? オレも怖いぞ。でも、側にいるから大丈夫だ』
怯えるぼくを、グレイさんが舐めて慰めてくれた。




