第78話 初めての火傷
ぼくとグレイさんはGastornisを狩って、美味しく食べた。
食べ終わったところで、石のナイフで残った肉を適当な大きさに切っていく。
肉を切るぼくを見て、グレイさんは不思議そうに聞いてくる。
『お父さんとお母さんのお土産にするのか? 大きくて運ぶのが大変なら、オレが集落まで運ぼう』
「もちろん、お父さんとお母さんのお土産にするミャ。だけどそのままじゃなくて、焼き鳥にするミャ」
『焼き鳥とは、なんだ?』
「鳥のお肉を、焼くことミャ」
『焼く?』
火を知らないグレイさんは、不思議そうに首を傾げている。
見たことも聞いたこともないものは、言葉で説明するより実際にやって見せた方が早い。
「まぁ、見ててミャ」
火起こしも、3回目ともなれば慣れたものだ。
音を立てて燃え始めた火を見て、グレイさんが驚きの声を上げる。
初めて見る火が怖いらしく、火からかなり離れてしっぽを足の間に挟んで怯えている。
『うおっ? なんだこれはっ? もくもく、ゆらゆら、ぱちぱちしているぞっ? 光っているし、近付くと熱いっ! シロちゃんは、触って大丈夫なのかっ?』
「これは、火ミャ。ぼくだって、触ったら危ないミャ。これで、お肉を焼くミャ」
『これは、火というものなのか。シロちゃんが集落で何かやっていたのは、これだったんだな』
グレイさんはまだ怖いらしく、近付いて来ない。
そのうち見慣れるだろうと思い、ぼくは骨付き肉を火の回りに立てていく。
犬猫に焼き鳥を与える時は、味付けをする必要はない。
味付けをした方が、体に悪い。
普段は生で食べている肉が、焼いたらどんな味になるのか楽しみだな。
焼いているとジュウジュウと音を立てて肉汁が落ち、美味しそうな肉の匂いが漂い始める。
匂いに釣られたのか、グレイさんがしっぽを振りながら近付いて来る。
『なんだか、とても美味しそうな匂いがするな。さっき食べたばかりなのに、腹が減る匂いだ。これが、お肉を焼く匂いなのか』
「そうミャ、これが焼き鳥ミャ。きっと美味しいミャ」
『美味しそうだな、ひとつ食べて良いか?』
「しっかり中まで焼けるまで、食べちゃダメミャ」
『なんだ? まだ食べちゃダメなのか?』
グレイさんがしっぽを振り振りしながら、「まだか? まだか?」と何度も聞いてくる。
「待て」が出来ない犬みたいだ。
火加減をしながら、中まで火が通るように肉を回しながらじっくりと焼く。
しばらくすると、こんがり綺麗に焼けた。
めちゃくちゃ美味しそう。
焼きたての肉を、グレイさんに差し出す。
「はいどうぞ、召し上がれミャ」
『いただきま~すっ!』
グレイさんは大喜びで肉にかぶり付くが、焼きたて熱々の肉にビックリして「ギャンッ」と悲鳴を上げた。
あ、うっかり、冷ますのを忘れていた。
グレイさんは生まれて初めて熱いものを食べて、舌を火傷してしまったようだ。
「痛い痛い」と言うグレイさんの為に、大急ぎで川まで水を汲みに行った。
葉っぱのお皿に水を汲んで、グレイさんの前に差し出す。
「ごめんなさいミャ、グレイさん。このお水で、舌を冷やしてミャ」
『いったい、どういうことだ? 食べようとしたら、肉に舌を噛まれたぞ?』
グレイさんは混乱している様子で、水をガブガブと飲んだ。
そんなグレイさんを見て、めちゃくちゃ申し訳ない気持ちになる。
「焼いたばかりのお肉はとっても熱いから、火傷しちゃうミャ」
『火傷っていうのは、舌が痛むことか?』
「そうミャ。ちゃんと冷まして食べていれば、火傷しなかったはずミャ。それを教えなかった、ぼくが悪いミャ。ごめんなさいミャ……」
謝るぼくに、グレイさんは優しく言い聞かせてくる。
『大丈夫だ、少しずつ痛みが収まってきたから。それにオレは言われていても、待ちきれずに食べていたと思う。だから、そんなに謝らないでくれ』
「ありがとう、グレイさん……」
それから、ぼくとグレイさんは焼き鳥が冷めるまで待った。
触れるくらいの温度になったところで、ふたりで焼き鳥を味見する。
生肉は柔らかくて食べやすいけど、焼くと噛み応えが良い。
こんがり焼けた鳥の皮は、パリパリで香ばしい。
肉を食いちぎると、旨味たっぷりの肉汁があふれ出す。
グレイさんも焼き鳥を気に入ったらしく、「美味い美味い」と喜んで食べている。
『さっき食べた肉とは、全然違うぞっ!』
「これが、焼き鳥ミャ」
『うぅむ……、焼き鳥は美味いが火は熱くて怖いな』
グレイさんは怯えた顔で、火からかなり離れた場所にいる。
火に慣れるどころか、火を恐れるようになってしまった。
これは、ぼくの不注意によるものだ。
火の取り扱いには、十分に気を付けないとね。
肉を全部焼き終わった後、たくさんの土と水を掛けてしっかり消火した。
その後、グレイさんにお願いして穴を掘って埋めてもらった。
これで、良しと。
焼き上がった焼き鳥は、集落の入り口まで運び込んだ。
やることやったら急に疲れが襲ってきて、眠くなってきた。
ぼくが大きなあくびをすると、グレイさんも釣られてあくびをした。
ぼくとグレイさんは顔を見合わせて笑うと、身を寄せ合う。
「いっぱい頑張って、疲れたから寝るミャ。おやすみなさいミャ」
『ああ、お休み。シロちゃん』
そう言って、グレイさんはぼくを包み込むように抱き締めてくれた。
グレイさんのあったかい毛に包まれると、ストンと眠りに落ちた。
ฅ^•ω•^ฅ
翌朝。
集落へ戻ると、焼き鳥の山の周りに猫たちが集まっていた。
猫たちが焼き鳥の周りを、ウロウロしている。
「美味しそうな匂いがするけど、食べて大丈夫か?」と、どの猫も今すぐ食べたそうな顔をしている。
朝起きたら突然焼き鳥の山が出来ていたら、誰だってビックリするよね。
焼き鳥を怪しんでいる猫たちに向かって、話し掛ける。
「これは、ぼくが作った焼き鳥ですミャ。どうぞ、たくさん食べて下さいミャ」
「食べていいのナァ? いただきますナァ」
集落の長が恐る恐るといった感じで、焼き鳥に噛みつく。
ひと口食べたら、焼き鳥の美味しさが分かったらしい。
「美味しいナァ! みんなも食べるナァッ!」
美味しそうに食べる長を見て、他の猫たちも警戒を解いて一緒に食べ出した。
他の猫たちも「うみゃいうみゃい」と、喜んで食べている。
結果的に、集落の猫全員が焼き鳥を食べてくれた。
たくさんあった焼き鳥の山は、綺麗に骨だけになった。
みんな満足そうに、食後の顔を洗っている。
みんなが喜んで食べてくれて、良かった。
お父さんが、ニッコニコの笑顔で話し掛けてくる。
「シロちゃん、とっても美味しかったニャー。あれは、何のお肉ニャー?」
「ガストルニスミャ。昨日の夜、グレイさんと一緒に狩って焼いたミャ」
「ガストルニスニャー? いつも食べているお肉とは、全然違う味がしたニャー」
お父さんは、目を丸くして驚いた。
焼くと、全然違う味になるよね。
近付いてきたお母さんがぼくを見て、不思議そうな顔をする。
「にゃにゃ? シロちゃん、どうしたのニャ? 毛が、チリチリになっちゃっているニャ。それにシロちゃんの体から、さっきのお肉と似た匂いがするニャ」
毛がチリチリ?
どういうことかと思って、川へ行って水面に自分の姿を映してみた。
水面に映ったのは、全身が煤で汚れて灰色になった仔猫だった。
長い時間、火の側にいたから毛が焼けてしまったんだ。
焼けたといっても、ちょっと毛先がチリチリになっているくらい。
髭や眉毛も毛先がチリチリになって、少し短くなっている。
全身が汚れているのは、煙を浴びたり炭を触ったりしたから。
言われるまで、気付かなかった。
今日はあったかいから、水浴びをしてもすぐ乾くだろう。
ぼくは迷わず川に飛び込んで、汚れていた毛を洗い流した。
すっかり夏の日差しになり、暑いくらいだ。
この暑さなら、濡れた毛もすぐ乾く。
数匹の猫たちも、河原で涼んでいた。
いくら暑くても、水浴びをする猫はいないようだ。
「コイツ、マジか……」という顔で、水浴びをするぼくを見ていた。
猫はもともと砂漠の生き物だから、基本的に水が苦手。
たまに水が平気で、泳げる猫もいるけどね。
ぼくは水が平気な猫だけど、寒い日には出来るだけ水に入らないようにしている。
体を乾かす手段が、自然乾燥しかないからね。
寒い日に体を濡らしてしまうと、風邪を引いてしまう。
それに猫は綺麗好きで、こまめに毛づくろいをする。
よっぽど汚れている時以外は、水浴びをする必要なんてないんだ。
とりあえず濡れた毛が乾くまで、日向ぼっこしながらお昼寝しよう。




