第77話 初めて火を起こした猫
せっかく着いた小さな火種を消さないように、枯れ草を追加してふーっふーっと息を吹き込む。
枯れ草に燃え移って少しずつ火が大きくなってきたところで、上に枯れ枝で漢字の「井」を作って何段も重ねていく。
枯れ枝に火が燃え広がって、焚火が出来た。
火を起こすまでかなり時間が掛かったし、思ったよりもずっと難しくて大変だった。
でも、頑張ってやれば出来るもんだね。
好奇心旺盛な集落の猫たちが「なんニャなんニャ?」と、不思議そうな顔で集まって来た。
アグチ先生が興味津々の顔で、ぼくに声を掛けてくる。
「仔猫ちゃん、これはなんにゃ~?」
「アグチ先生は、火を見たことがありませんミャ? 火があれば、寒い日もあったかく過ごせますミャ。夏まで待たなくても、これでキノコをジュージュー出来ますミャ」
「にゃんとっ? 確かに、近付くと熱いにゃ~。これで、キノコがジュージュー出来るのにゃ~? だったらさっそく、キノコを持って来るにゃ~」
アグチ先生はそう言うと、どこかへ向かって歩いて行った。
ぼくも一緒に、キノコを採りについて行きたかったけど。
火の番をしなきゃいけないから、焚火から離れられない。
今日は風が冷たくて肌寒いから、あったかさを求めて猫たちが焚火の周りに集まってきた。
猫が火を恐れないというのは、本当らしい。
猫たちは焚火から適度な距離を保って、火に当たっている。
「なんだか分かんないけど、あったかいにゃー」
「これ、なんニャ?」
どの猫も、火が何か分かっていないようだ。
みんな、火を見たことがないからだ。
火を使う動物は、人間だけだからな。
と言っても、人間だって最初から火を使えた訳じゃない。
火山の噴火や落雷による山火事が、人類が一番最初に見た火だったらしい。
火を発見した人類は、火を使うことを覚えた。
火が使いこなせるようになると、今まで食べられなかったものが食べられるようになった。
その代表となる物が、キノコや木の実や動物の肉。
火を使えば夜も行動出来るようになり、冬の寒さをしのぐことが出来た。
しかし使うことは出来ても、火の起こし方は誰も知らなかった。
長い年月を掛けて、火の起こし方を会得したと言われている。
火を使えるようになってから、人類は大きく進化していった。
もしかしたらぼくは、初めて火を起こした猫になったのかもしれない。
ฅ^•ω•^ฅ
しばらくすると、アグチ先生がニコニコ笑いながらたくさんのキノコを抱えて戻って来た。
「みんな、キノコをジュージューして食べるにゃ~」
やったー! これで焼きキノコが食べられるぞっ!
どんな味がするのか、とっても楽しみだなっ!
バーベキューみたいにキノコを細い枝に刺して、串焼きにしてみた。
ぼくが串焼きを作っているのを見て、アグチ先生や他の猫たちも真似をする。
パチパチと火が燃える匂いと、キノコが焼ける美味しそうな匂いが辺りに広がる。
しばらくすると、キノコがこんがりと焼き上がった。
焼き立てを食べたいところだけど、猫は熱いものが食べられない。
食べられる温度になるまで、待つしかない。
もともと、猫は熱いものを食べない。
猫は熱いものを食べる必要がないから、猫舌になるんだ。
猫も人間と同じように赤ちゃんの頃からあったかいキャットフードを食べさせていたら、猫舌にならなかったという面白い実験結果がある。
猫を猫舌にしていたのは、人間だったという話もある。
だけど猫が熱いものを食べられるようになっても、良いことはない。
むしろ、熱いものを食べられるようになった方が危ない。
熱いものを食べると、舌や喉を火傷してしまう。
火傷は、炎症を起こしている状態と同じ。
熱い物を食べるのが好きな人は、口腔癌、咽頭癌、食道癌になりやすいと言われている。
食べられそうな温度まで冷めたところで、キノコに噛みついた。
美味しい!
ふっくらジューシーで、焦げたところはカリカリで香ばしい。
焼きキノコって、こんなに美味しいのか。
そういえば人間だった頃も、焼きキノコは食べたことがなかった気がする。
初めて食べた、焼きキノコの美味しさに感動した。
こんなに美味しい焼きキノコが食べられるなら、頑張って火を起こして良かったと思える。
集落の猫たちも、お父さんもお母さんも「うみゃいうみゃい」と喜んで食べている。
グレイさんにも、食べさせてあげたい。
焼きキノコを食べたアグチ先生がニコニコしながら、ぼくに話し掛けてくる。
「火があれば夏まで待たなくても、いつでも焼きキノコを食べられるにゃ~。ぜひとも、火の作り方を教えて欲しいにゃ~」
「もちろんですミャ」
ぼくは美味しい焼きキノコを食べさせてもらったお礼に、アグチ先生に火の起こし方と火の消し方を教えた。
火の起こし方と消し方は、必ず両方教えなければいけない。
消し方を知らないと、火事になっちゃうからね。
火の消し方は、簡単だ。
上から土を掛けて、埋めてしまえば良い。
その後、たくさんの水を掛ければ完璧。
あと、火を起こしたら絶対に離れないこと。
最後まできちんと責任を持って、火の始末をすること。
これが、「正しく火を使いこなす」ということなんだ。
ฅ^•ω•^ฅ
お日様が沈んで暗くなり、猫たちが寝静まった頃。
焼きキノコを抱えて、こっそりと集落を出た。
『走査』に案内してもらって、グレイさんへと駆けて寄って行く。
「グレイさん。見張り、お疲れ様ミャ」
『おおっ、シロちゃん、会いたかったぞ!』
声を掛けると、グレイさんは嬉しそうに笑ってしっぽをブンブン振り出した。
ぼくが抱えている焼きキノコを見て、不思議そうに首を傾げる。
『それはなんだ? それに今日は何やら、いつもと違って変わったことをしていたな。あれは、何をしていたんだ?』
「焼きキノコを作っていたんだミャ。グレイさんにも、お土産ミャ」
『これは、焼きキノコというのか。なんだかとても美味しそうな匂いがするな。さっそく、いただこう』
焼きキノコを差し出すとグレイさんは初めて見る食べ物だからか、しばらく匂いを嗅いで様子を伺っていた。
パクリと口に入れてもぐもぐと噛んだ後、パッと笑顔を浮かべる。
『美味い! こんなに美味いものは、初めて食べたぞっ! シロちゃんがオレの為に愛を込めて作ってくれたから、美味いのだな』
グレイさんも、焼きキノコを美味しく食べてくれて良かった。
グレイさんは、ぼくが持って来た焼きキノコをあっという間に食べ切った。
焼きキノコがなくなったのを見て、グレイさんはしょぼんとする。
『ああ、もうなくなってしまった……。何故、美味しいものはすぐなくなってしまうのだろう? 余計に、腹が減ってしまったぞ』
ぼくより5倍以上も体が大きなグレイさんには、全然足りなかったようだ。
しょんぼりするグレイさんに、ぼくは笑い掛ける。
「じゃあ、一緒に狩りをして美味しいお肉を食べようミャ」
『そうだな。集落の猫たちに、お土産はいるか?』
「集落の猫たちは、おなかを壊しているからお肉を食べられないミャ」
『ここの猫たちも、食べられないのか……。可哀想にな』
グレイさんは集落の猫たちを悲しそうな目で見た後、ぼくに笑顔を向ける。
『では、狩りをしよう。シロちゃん、何が食べたい?』
「すぐ狩れるものが良いミャ」
『だったら、近くに鳥がいるからソイツを狩ろう』
グレイさんはそう言って、スキップするような軽い足取りで走り出した。
グレイさんの後ろについていきながら、思い付く。
そうだ! 火を使えるようになったから、焼き鳥が作れるじゃないかっ!
猫に生まれ変わってから生肉を食べられるようになったけど、焼き鳥も食べてみたい。
近くにいる鳥がGastornis(体重500kgの飛べない鳥)みたいな大きな鳥だったら、ふたりじゃ食べきれない。
焼き鳥にして、お父さんとお母さんへのお土産にしよう。




