第76話 猫のキノコ
「この集落のお医者さんは、どなたですミャ?」
「そこの木の根元で寝ているのが、アグチ先生ナァ」
言われた場所を見ると、1匹のサビネコが寝そべっていた。
ぼくはさっそく、アグチ先生に話し掛ける。
「具合が悪くて、寝ているところをすみませんミャ。初めまして、ぼくはシロと言いますミャ」
「あらあらはいはい、はじめましてこんにちはにゃ~。どこの仔猫ちゃんにゃ~?」
アグチ先生は、上品なおばあちゃん猫だった。
おばあちゃん猫というだけで、ぼくは嬉しくなった。
「アグチ先生は、お医者さんだと聞きましたミャ。どんな治療をしているのか、教えてもらっても良いですミャ?」
「あたしはね、きのこを専門に扱っているお医者さんにゃ~」
「キノコですミャ?」
「お隣の集落では、薬草に詳しいお医者さんがいると聞いたことがあるにゃ~。でもあたしゃ、薬草はさっぱりでにゃ~。キノコくらいしか、見分けられないにゃ~」
そう言って、アグチ先生は恥ずかしそうに苦笑した。
薬になるキノコがあるのか。
キノコが薬になるなんて、今まで全然考えたこともなかったな。
人間が食べられるキノコは、猫も食べられたはず。
「いやいや、アグチ先生はとても凄いと思いますミャ。ぼくなんてキノコの見分け方なんて、さっぱり分かりませんミャ。どのキノコが薬になるのか、ぼくにも教えて下さいミャ」
「あたしもね、そんなにたくさんの種類は知らないにゃ~。一番使うのは、キクラゲにゃ~」
「キクラゲ?」
「どんなケガも病気も、キクラゲで治るにゃ~」
キクラゲって、どんなキノコなのか教えて『走査』
『対象:キクラゲ科キクラゲ属キクラゲ』
『効能:免疫力強化、抗ウイルス作用、疲労回復、乾燥肌、滋養強壮、便秘、貧血、口内炎、老化防止効果、大腸癌、脳梗塞、心筋梗塞、骨粗鬆症症の予防、コレステロールや血糖値や血圧を下げる、健康な皮膚や髪や爪などを作る』
うわっ、ビックリした。
本当に、万能薬だった。
キクラゲって、中華料理にたまに入っている黒いひらひらしたヤツだよね。
両手で数えられるくらいしか食べたことなかったけど、そんなに凄いキノコだったなんて全然知らなかった。
「キクラゲは、どこにあるんですミャ?」
「ちょうど今くらいの季節になると、あっちこっちで生えているにゃ~。でも、そのままでは食べられないにゃ~。生で食べると、おなかがいたいいたいになっちゃうにゃ~」
そのままでは、食べられない?
そういえば、生のキクラゲは見たことないな。
ぼくが食べたことがあるキクラゲは、中華料理として調理されたものだけだ。
「じゃあ、どうするんですミャ?」
「キノコはこの季節に採れるだけ採って、お日様に干すにゃ~。乾燥するとカチカチになって、保存が利くにゃ~」
ハーブティーの専門家のアオキ先生も、薬草は全部干して乾燥させて保存していたな。
キノコも、乾燥させるといいのか。
「乾燥させたキノコは、水で戻して使うんですミャ?」
「キノコを水で戻した汁を、飲む薬もあるけどにゃ~。水で戻しただけじゃ、キノコは食べられないにゃ~」
「水で戻しただけじゃ、食べられないんですミャ? だったら、どうするんですミャ?」
「暑い日に熱くなった石の上に、水で戻したキノコを乗せておくとジュージューするにゃ~。そのキノコを、食べるニャ~」
なるほど、夏の太陽光で熱くなった石で焼いて食べるのか。
焼きキノコか、美味しそう。
猫になってから、キノコなんて食べたことないから食べてみたい。
「それだと、真夏にしか食べれないですミャ?」
「ジュージューしたキノコを、また乾燥させて保存するにゃ~。乾燥させたキノコを石で叩いて粉にして、水と一緒に飲むにゃ~」
え? そこまでしないといけないの?
キノコって、薬にするまでが大変なのか。
旅をするぼくとしては、ちょっと不便すぎて使えないなぁ。
「そうにゃ~。ちょうどシイタケの戻し汁があるけど、飲んでみるにゃ~? シイタケの戻し汁を飲むと、元気になるにゃ~」
「ありがとうございます、いただきますミャ」
アグチ先生から、シイタケの戻し汁を飲ませてもらった。
シイタケの戻し汁は透明な茶色の液体でシイタケ臭いけど、味は意外とあっさりしていて飲みやすかった。
シイタケの匂いが苦手な人には、かなりキツいだろうな。
アグチ先生はニコニコしながら、ぼくの頭を撫でてくれた。
「全部飲めて、偉いにゃ~。シイタケの戻し汁は臭いが強いから、苦手な猫が多いにゃ~」
「戻したシイタケは、どうするんですミャ?」
「また、干して乾燥させるにゃ~」
「え? また干すんですミャ?」
「どのキノコも、生じゃ食べれないにゃ~。夏まで、お預けにゃ~」
う~ん、なんとも気の長い話だ。
火が使えたら焼きキノコが作れるけど、猫は火を使えないからなぁ。
いや、待てよ?
そういえば、「猫は火を恐れない動物」という話を聞いたことがある。
猫は熱さ寒さに敏感な動物で、火の危険性も理解しているらしい。
だったら、猫たちに火の起こし方を教えても大丈夫かもしれない。
火を起こす方法なら理科の授業で習ったから、いくつか知っている。
①よく乾燥させた木と木をこすり合わせて、摩擦熱で火を起こす。
②火打石や火打ち金を叩いて、火花を起こす。
③虫眼鏡で、お日様の光を一点に集める。
④スチールウールで、乾電池をショートさせて発火する。
②~④は、道具が手に入らないから無理だ。
木をこすり合わせて、摩擦熱で火を起こすことなら出来そうだ。
よし、物は試しだ!
さっそく、やってみようっ!
まずは、よく乾燥した枯れ草や枯れ枝や木の皮を探す。
松の葉や枝は、油を含んでいるので、燃えやすい。
木で火を起こす方法は、「きりもみ式」と「弓ぎり式」がある。
きりもみ式は木の枝をこするだけだけど、発火まで時間が掛かる。
弓ぎり式は手間はかかるけど、発火までの時間が早い。
今回は、弓ぎり式でやってみよう。
弓の部分となる、少し曲がった長い棒を1本用意する。
棒の両端っこに、丈夫な紐を結んで弓を作る。
紐は、引っ張っても簡単に切れない草や植物の蔓を使う。
弓の紐に、火を起こす用のよく乾燥した細い棒を1回巻き付ける。
よく乾燥した木の皮を地面に置いて、尖った石で5mmくらいの凹みを作る。
この凹みに、弓の紐を巻き付けた細い棒を立てる。
凹みの周りに枯草を置いて、燃えやすい状態を作る。
立てた棒の上に手のひらサイズの石を置いて、左手で上から押し付ける。
右手で弓を横にして持って、前後に動かす。
こうすると棒が素早く回転して、摩擦によって火が起こるんだ。
「よいしょよいしょ」と、根気よく弓を前後に動かし続ける。
しばらくすると摩擦によって、棒の先がだんだん黒く焦げてきた。
少しずつ細く白い煙が立ち始め、ついに枯草に小さなオレンジ色の火が着いた。
やったー! 火が起こせたぞーっ!
【アグチ毛とは?】
サビネコの毛並みのこと。
黒と茶が入り混じったまだら模様のことを、「アグチ毛」と呼ぶ。
名前の由来は、南アメリカの熱帯雨林に生息する「agutí」
アグーチは、黒と茶色のまだら模様の大きなネズミ。
ネズミにしてはかなり長生きで、寿命は20年くらい。
体長40~76cm
体重2~6kg
【木耳とは?】
「木に生えるクラゲみたいな食感のキノコ」だから、「キクラゲ」
生の時は薄茶色でぷよぷよしているが、乾燥させると黒くなってカチカチになる。
中華料理の定番食材。
中国では昔から「不老長寿の妙薬」として知られる。
ベトナムでは「猫のキノコ」を意味する「nấm mèo」と呼ぶ。
【椎茸とは?】
お店で買える、食用キノコ。
干しシイタケの戻し汁は、出汁として料理に使われる。
独特の臭いがするので、苦手な人が多い。
血圧やコレストロールを下げたり、健胃(胃を元気にする)、整腸作用、貧血、免疫強化、抗癌作用、肝機能保護作用などがある。




